普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【東方Project】編
072 ある日、山の中 その2
SIDE 藤原 妹紅
――「じゃあ、まずは自己紹介からだな。……そうだな、取り敢えず〝シン〟と呼んでくれ。しがない修行者かなんかだと思っておいてくれ」
「妹紅。藤原 妹紅。呼び方は任せる。私は…」
……言葉に詰まる。なんて言えば良いのか判らない。……よもや〝不老不死者〟と、何も誤魔化しや偽りなく答える訳にもいかない。……少なくとも今の私は〝死んでも死にきれない〟──妖怪以上の〝化け物〟なのだから。
――「……言いたく無いなら構わないさ」
「あ、あの──」
――ゴキュルキュルキュル
――「……猪肉と山菜やらの、簡単な味噌汁が有るから出てくると良い。出口はその──布の切れ間を掻き分ける様にすれば出られるから」
私を助けてくれた理由をシンに訊ねようとした時、間の抜けた音が鳴った。……云うまでも無く、鳴ったのは私のお腹だった。きっと〝安堵〟したのか、私の身体が空腹だった事を思い出したのだろう。……シンはそれを聞かなかった事にしてくれた。
「……良い匂い…」
――ゴキュルキュルキュル
先ほどのシンの指示通りに、布の切れ間から掻き分ける様に顔を出して、そう呟いたとたん羞恥の二の舞である。シンも、私も何も言わない。……何も言えなかった。
「………」
「………」
パチパチパチパチ〟と、本来なら気にならないはずの薪が焼ける音が、嫌に五月蝿く感じる。……またやってしまった。顔がこんな──嘘の様に熱くなっているのはきっと、焚き火の所為だけでは無いだろう
(……焚き火を挟んでの対面で良かった…)
じゃなかったら、お嫁に行けなかった。……もう既に嫁に行ける身でないが…。
「……ほれ、味噌汁は逃げないからこっちに来たらいい。かなり熱いと思うから、ゆっくりと冷ましながら飲むと良い」
またまた暗鬱とした気分になっていると、シンはそんな私の様子を察したかは知らないが、木製のお椀に汁をよそって私に渡して来た。……お腹と背中がくっつきそうなほど空腹だったので、シンの忠告を即刻忘れて汁に口をつける。……それが拙かったのだろう──
「あづっ?!」
「あーあ、言わんこっちゃねぇ。……ほれ、よく冷えた水だ」
「んくんく…ぷはぁ~。……ありがとう」
そんな事をすれば〝味〟よりも〝熱〟が私の舌を襲う事になるのは幼子でも判る事だった。シンから差し出された鉄の杯を引ったくり、1も2も無く直ぐに口内を冷やす。……もちろん、シンに礼を言うのを忘れてない。
「汁の方も多少冷めたはずだ」
「うん…」
今度は、先ほどより幾分か冷めているお椀を渡してくる。……多少はしたないが背に腹は変えられないのでそのまま口を付けながら掻き込む。
「……普通だけど、美味しい…」
「うるさいよ。……て、泣くほどか?」
味は普通だけれど、食べる人の事が考えられている──そんな冷めてても〝暖かみ〟のある味だった。その味がじんじんと心に沁みていくのが判る。……シンの言葉に頬を指でなぞると、わずかばかり水気を感じる。どうやら、知らず知らずのうちに涙を流していたらしい。
(私は独りじゃない…っ!)
涙なんて既に枯れてると思った。……だが悲しいと云う理由でこの涙を流しているわけではなく…。間違いなく嬉し涙で、その事──誰かと一緒に居られるのが、何よりも嬉しかった。
「……この辺の安全は確保してあるし、ちょっくら1刻ほど席を外そうか──」
「ここに居て」
腰を上げようとしながら呟くシンを、そう矢継ぎ早に引き留める。……今はこの幸福感を噛み締めたかったから。
SIDE END
SIDE 升田 真人
なんか少女に懐かれた。……どうにも、この輝夜と同じ様な存在の少女の名前は藤原 妹紅云うらしい。妹紅は焚き火を挟んで向かい合っていたが、いつの間にやら俺の隣を陣取っていた。……少しでも俺が動こうものならそれに追随するような始末。
(余程〝孤独〟が堪えたか…)
然もありなん。どういう経緯で“蓬莱の薬”を飲む事になったのかは判らないが、年の頃13~15ほどの少女がこんな山中にいるのは贔屓目に言っても異常だし、人肌に飢えるのも判る。
(……まぁ、なるようになるか)
ちょうどその頃、夜の帳落ちてきたので、妹紅たっての望みで、妹紅と一緒にテントに入るのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……ぬ? ……ですよねぇ」
「すぅ…すぅ…」
圧迫感に目を醒ませば、目の前には妹紅の頭。……やはりと云うべきか抱き付かれていた。身動きを取ろうにも取れないので、なんとなしに妹紅のつむじを観察していると、妹紅がもぞもぞと動きだす。目覚めも近いらしい。
「……むぅ…。……ん、なに、これぇ~?」
俺の予想通り、程無くして妹紅は俺の背中を擦りながら目を醒ます。妹紅は周囲を確認するためなのか、辺りをキョロキョロしだし──やがて俺と目が合う。……そしてこの状況を──〝妹紅が俺に抱きついている〟と云う状態を察したのか、妹紅の顔は首の方から熟したリンゴの様な色に成っていき…
「……~~~~~~~っ!?」
声にならない悲鳴──それを妹紅は顔を赤くしながら実演し、今度は口を金魚の様にパクパクとさせる。……間違いなく妹紅はパニックに陥っている。
「変態だーーーーーっ!?!」
「……取り敢えずちょっと待て。俺は別にIQ──知能指数は179も無いぞ」
妹紅から開口一番のセリフである。妹紅のあんまりな言葉に思わずネタが飛び出したのも仕方が無い。……いつだって世界は理不尽である。
………。
……。
…。
「ごめんなさいっ! 私から抱き付いてたのに…っ!」
「何、気にする事は無い」
「あの、シン──さんは修行の為に山籠りしてるんですよね?」
「ん? ああ、そうだな。……あぁ、それと呼びにくいなら敬称は良いし敬語も無くて構わない」
「……判った」
どことなくチグハグな敬語に、そう断りを入れ、俺の提案を妹紅は了承した。。……パニックに陥っていた妹紅も5分もの間をあたふたとすれば落ち着き、今度は──〝妹紅〟から抱き付いてきての醜態を謝罪してくる。妹紅にどこぞの空気王の様なノリで返せば、今度は何やら思い詰めた様な表情に何やら既視感めいたものを覚える。
(あっ、シホの時と同じなのか)
「私を強くして!」
そう頭を下げた妹紅を見た瞬間、既視感が現実のものとなった。……しかし、シホの時とは違う事もある。それはひとえに、鍛えるメリットが薄い──否、それどころか皆無と云っていい。シホの時とは違って、妹紅に知られたら拙い情報を握られているわけでも無い。
……升田 真人──俺の所在地をバラす…? 妹紅には偽名しか教えてあるので、〝シン(おれ)〟が〝升田 真人〟である事を、妹紅の独力では気付けない──或いは気付けたとしても、そこ至るまでには多大な労力が必要とされるだろう。
閑話休題。
「……どうしても殺したいやつが居るの」
妹紅を〝鍛えなければいけない理由〟が無いので返答に困っていると、妹紅がいきなり寝耳に水な事を言い出す。……その真意を問い質そうと、妹紅の目を覗き見てみる。妹紅の目の中には──
(おぉう、本気…?)
じっ、と妹紅の目を見てみるが、妹紅は目を逸らさず目を見返してくる。幼さを残す顔立ちだが、瞳には明確な殺意──と云うよりは〝怒気〟の様なものが妹紅の瞳から感じ取れた。
……しかし、忘れてはならない事が有る。ここは、〝妖怪が跳梁跋扈している世界の富士山の中。そこで睨み合う青年(?)な俺と妹紅(少女)…〟。……そう俯瞰してみると、中々にシュールな光景である。
「〝殺したいやつ〟──って、またまた穏やかじゃないな。……とりあえず、話を聞かせてくれ」
「……判った」
そうシュールな光景を取り払うかの様に訊ねると、妹紅はぽつぽつと語りだした。
………。
……。
…。
妹紅が口を噤んだところ──“蓬莱の薬”を飲んで〝死ねなく〟なったことを誘導して、妹紅が話しやすい様にしながら妹紅の話を聞いている内に妹紅の語りは終わった。……実は、妹紅は輝夜に求婚していた5人の皇子の1人──車持皇子の娘だったらしい。
……〝だった〟と過去形なのは、妹紅の父親──車持皇子は妹紅の話では死んでいるらしいからだ。……死因は部下達の謀反だが、〝輝夜に惑わされた部下達が車持皇子(父上)を殺した〟と云う。〝輝夜に~~〟云々は違うとして、“アンドバリの指輪”で操ったのは俺だったりする。
(……げに恐ろしきは女の勘か…)
他人から見れば妹紅の馬鹿馬鹿しい妄想なのだが、強ち間違っていないので〝女の勘〟とやらに戦慄する。……それで輝夜を──或いは、妹紅は知らないだろうが升田 真人(俺)を殺したいらしい。
(……仕方ない…)
妹紅の人生が狂ってしまったのは俺にも非が有るので、弟子入りを認める事にした。
「それで〝殺したい〟、なのか…。……話は判ったが──と云うよりは側に要るのは構わないが、俺の元に居ても強くなれるかは判らないぞ?」
「そんなこと承知しているよ。……でもシンに弟子入りしたら、強くなれる気がしたんだよね」
そう注釈を付けて、左手で頭を掻きながら右手を差し出す。妹紅は俺の右手を一も二も無く取る。……この瞬間から俺と妹紅の奇妙な師弟関係が始まるのだった。
SIDE END
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