普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【東方Project】編
071 ある日、山の中 その1
SIDE 升田 真人
輝夜が残した書き置きに書かれていた事に従って、帝に“蓬莱の薬”の〝オリジナル〟を送った。……〝バックアップ〟を取っておいたのはコレクター魂に火をつけられたからであり、飲む気は輝夜からの〝有難いお言葉〟も有り、“蓬莱の薬”を俺が飲む気は全く無い。……〝原典〟通りなら“蓬莱の薬”は、その辺──帝の方は基本的にノータッチだったので、恐らくだが富士山に運ばれる事になっているだろう。
それはさておき、事実上失恋した俺はと云うと…
『BoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』
「……怖いか? それがお前が今まで与えてきたモノだ。それに最終通告も無視したしな。……と云うわけで…ぶっ飛べっ!」
「ぐべらっ?!」
“赤龍皇帝の鎧(ブーステッド・ディバイディング・ツインギア・スケイルメイル)”──〝鎧〟を纏っての、6回の倍加──64倍に倍増された膂力での顎への一撃は対峙していた天狗っぽい妖怪の顎を砕く。〝グシャリ〟と云う聞こえてはいけない様な音が聞こえていたので、まず間違いなく顎の骨は砕けている事だろう。
妖怪Aは垂直に5メートル程浮き上がり、ニュートンが発見したリンゴよろしく──そのまま万有引力の法則に逆らわず、今度は〝ドサリ〟と落ちてきた。……運が良かったのか──それとも悪かったのかは判らないが、ピクピクと動いているのが確認出来るので、辛うじてだが死んではいない。
(……まぁ、殺すんだがな)
取り敢えず〝鎧〟を解いて──保険として〝双籠手〟は顕現させたままで、〝雷〟で小さめの投擲槍を編み、未だにピクピクと動いている名も知らぬ妖怪Aに投擲する。……妖怪Aは刺された瞬間に一瞬だけ身体を〝ビクンッ〟と跳ねさせるが、直ぐにその運動を止めた。……残酷かもしれないが、ハルケギニアでの生活は禍根を残すと、後々面倒な事が起こるだろうと云う事を学ばせてくれた。
……これもさておき、事実上輝夜に振られた俺は〝少々〟荒れていた。……云うまでも無く〝今回のこれ〟はただの八つ当たりで、妖怪──今回たまたま違ったが、主に鬼に〝襲わせて〟は、こうして鬱憤を晴らしていた。
……ちなみに──と云うよりかはもちろんの事ながらシホの様な──〝話しが通じる〟相手の事も慮していて、今回の様に殺してしまっても──まだ塵やら埃ばかりに残っている良心が痛まないほどの〝話しの通じない〟相手を標的にしている。……まぁ、どんな存在であろうが〝生命〟を奪っている事には変わりないので、自己満足に変わりは無いのだが…。
閑話休題。
「さて、サンキュー。ドライグ」
<相棒のおかげで、アルビオンとの永きに亘る闘争を制する事が出来たんだ。こうして相棒のおかげで〝力〟を奮える事も多いからな。好きに使ってくれて構わないさ。……それに、この際乗り掛かった舟だ。相棒の往く〝道〟の末も気にならないと言ったら嘘になるからな>
「それでも、だよ」
そんな感じでドライグに礼を言いながら〝鎧〟に続いて今度は〝双籠手〟を解く。……これはとある、曇天で月が雲に隠れている──特に何でも無い十六夜の事である。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
失恋のショックからも立ち直り始めたある日。
ちなみに【満足亭】は既に畳んでいて、店を構えていた村からは出立していた。……輝夜が居なくなった途端、客足が冷やかし混じりなのか──逆に増えたが、輝夜も居ないので店を開く意味が無くなったからだ。……俺は輝夜との仲の所為で悪目立ちをしていたのもある。
「さてさて、さーて。いっその事ほとぼりが冷めるまで山にでも籠るかね。……ミナさんよ、そこんところどう思う?」
『……人はそれを〝ひきこもり〟と云うんです。それに〝さん〟付けをマスターにされると背中がむずむずするので止めて下さい』
「さてさて、さーて。いっその事ほとぼりが冷めるまで山にでも籠るかね」
“アギトの証”を装着していない俺を想ってくれているのか、霊体化しているミナから俺へと放たれた口撃が予想以上に俺の心の臓へと深く突き刺さったので、ミナ言葉は聞こえなかった事にしてテイク2。……そんな俺を見ているミナの呆れ顔も見えなかった事にしておく。
(……そのうち魔法力(MP)についてはどうにかしないとな…)
……そんなこれからの──わりと切実なる課題について考えながらも、ミナは俺の言葉を尊重してくれたのか、結局のところ──俺の冗談半分の提案通り、山に行く事になった。目指すは霊峰・富士。……がしかし、この時の俺は──輝夜と暮らしていたと云うのに、〝富士〟に行くと云う意味を失念していた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「そういえばドライグ。……富士山と云えば、山梨県VS静岡県の〝第n次富士山論争〟を思い付くよな。……もう随分と昔の事の様に思えるが」
<いきなり何を言い出すかと思えば…>
富士山に入山して開口一番ドライグに話し掛ける。ドライグは呆れた口調で溜め息を吐く。……ぶっちゃけ、後は“腑罪証明”で数十年ほど未来に転移すれば良いだけなので、富士山に入った時点でわりと俺の本懐は遂げられていたりする。
〝輝夜に振られた俺──升田 真人は、自暴自棄となり富士山に入った〟…。シナリオとしてはこんなところなのだが、〝富士山に入った俺〟を周知させれば良いだけなので、前述した通り後は“腑罪証明”で数十年ほど未来に転移すれば良いだけだ。
「さて──」
――「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
予定も大方定まり、〝転移しますかね〟と呟こうとした時。絹を裂く様な叫び声が聞こえる。
「……行きますか」
……〝無視する〟と云う選択肢も一瞬頭に過ったが、この声の主──恐らくは年端もいってないであろう少女が、無為に死んで逝くのをスルーするのも寝覚めが悪い為、助ける事に。目指すは声が聞こえてきた方向。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……間に合わなかったか…」
〝正しい〟状況を観察するため仙術で気配を薄くしながらも、俺の出来る限りの速度で駆け付けてみれば、ナニかに集まる3匹の狼。〝ぐちゃぐちゃ〟と嫌悪感を抱かせる様な嫌な音が聞こえるから〝間違いなく喰われている〟──そんな嫌な想像をさせられるのも仕方が無かった。
「……100万V…“ゲイボルグ”」
<<<ぎゃいんっ!?!>>>
弔い合戦と云う訳では無いが──見ていて気持ちの良いモノでもないので、未だ俺の存在に気付いていない3匹を纏めて100万Vもの電圧を擁した“ゲイボルグ”で刺殺(?)──または熱殺(?)する。
「墓でも造るか──」
その場に、ハルケギニア式の魔法で簡素な墓穴でも掘ろうと杖──が埋め込まれている腕を振ろうとした時だった。
「……んん?」
杖を振ろうとした時、名も知らない少女の亡骸が、まるでビデオの逆再生を体現しているかの様に〝元に〟戻っていくのを見た。……やがて狼達につけられたであろう傷跡も綺麗さっぱりに無くなり、少女は血まみれになって規則正しく息をし始めた。
(……取り敢えずは、だ。間違いなく心臓は止まっていた)
〝取り敢えず〟と、あまりの出来事に、そう思考しながら心にゆとりを持たせる。……先ほどまでの惨状故に、一縷の望みに懸けて〝見聞色〟で聴力を上昇させて心音を確認したが、間違いなく止まっていた。……つまり、間違いなく死んでいた。それは確認している。
(他に考えられる事は──)
「不老不死。……まさかとは思うが、輝夜が帝に送った“蓬莱の薬”を飲んだのか? ……まぁ、詳しい話はこの娘が起きてからだな」
荒唐無稽な説だが、何故だか外れていない気がする。……日が良い感じに傾いてきた事だし、この──輝夜と同じような存在となったであろう少女を介抱するため、テントセットを〝倉庫〟から引っ張り出すのだった。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE □□ □□
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!! ……って、あれ?」
私は絶叫と共にその場で跳ね起きる。……と、同時に〝跳ね起きれる〟事に気が付く。
(……また、死ねなかった…)
〝後〟に〝悔いる〟で、〝後悔〟。……よく上手い事云えたものである。
今に思えば、ほんの気の迷いだった。……時を遡れるのなら、間違いなくあの憎き仇敵である輝夜が残したと云う“蓬莱の薬”を飲む前の私を殺してでも止めているだろう。……〝死ねない〟なんて〝最悪〟以外何物でも無い。私はそれを身をもって知っている。
「あれ…? ……ここは…?」
暗鬱としていた思考が快復し、漸く辺りの異変に気付く。……四方を見渡すと、取り敢えず判る事も有った。……どうにも、起きた形のそのまま前方の〝布の切れ間から光が漏れている箇所〟以外は布で覆われている小部屋に放り込まれているらしい。
――「起きたか?」
「っ!?」
まじまじと私が放り込まれている小部屋を観察していると、この小部屋の外から声が掛けられ、思わず身体が反応してしまう。
――「あー、びっくりさせたか? ……じゃあそのままで良いから、聞いてくれ。……あ、返事はしてくれると有難いかな」
「……判った」
そう短く返事をする。私を気遣ってくれる様子で、取り敢えず〝よからぬ事〟を考えている様な輩では無いようなので、1つ安心出来る。……それでもやはり、〝取り敢えず〟なのだが…。
……これが〝死んでも死にきれない不老不死者〟と、〝人外もどき〟と奇妙な出会いだった。
SIDE END
後書き
明日もう一話投稿します。
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