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元虐められっ子の学園生活

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祭りの必要事項

失敗とは、誰もが経験することである。
人はその失敗を糧に、過去、現在と、進化を遂げてきたのだろう。
しかし、そうならなかった者も存在することを忘れてはいけない。
失敗を認めず、そのまま我を通す輩は軈て腐り、自滅への道を辿るのだ。
大まかに言うのなら、大したこともしていないのに名前だけ載っている歴史上の人物だとか、成功者に嫉妬して影に隠れて挫折した人間もいると言うことなのだ。
失敗とは、成功の母であるとはよく言ったもので、失敗を繰り返す内に成功への方法や道が見えてくると言った例えだ。
人生を成功させた人物達は、諦めると言った結論を持ち出さず、挫折や失念を払いのけ、軈ては成功へと昇華したのである。
逆に言えば失敗し続ける人間は大した考えを持たずに繰り返し、軈て挫折して時間を無駄にしてしまうのだ。
当然ながらその後悔は嫉妬に成り下がり、成功者へ向けられる矛となる。
成功者は言うだろう。
「何故その嫉妬を次の希望に生かさないのか」と。
失敗者は反論するだろう。
「自分には向いていないのだ」と。
何時の世も、こう言った平行線の口論が世界の何処かで行われているのだと思うと、悲しくなるのは何故なのだろうか?









「―――それでは、定例ミーティングを始めます。じゃあ宣伝広報、お願いします!」

翌日、平塚先生からの依頼通り会議室へと赴いた俺は、いち早く気づいた比企谷の隣に座って会議を受けることにした。
比企谷は俺がここにいる理由を察したのか、何も聞いて来なかった。
雪ノ下には驚かれた後に蔑んだ目で見られたが…。

ともあれ開始早々にやる気の欠片も感じないあの女の声を聞くとやる気がドン底に陥った気がしてならない。

「掲示予定ポスターも、大体半分くらいは終わってます」

「そうですかぁ!良い感じですね!」

「いいえ少し遅い」

「―――え?」

女の言葉を遮って雪ノ下が正論を投げ掛けた。

「掲示箇所の交渉、ホームページへのアップは既に済んでいますか?」

「ま、まだです…」

「急いでください。
社会人ならともかく、受験志望の中学生やその保護者はホームページを結構古満目にチェックしてますから」

実にその通りである。
どれだけ大きな祭りをするにしても、広告や宣伝が行き届かなければ忠の自己満足で終わってしまう。
祭りとは来る人間が楽しむべき物でなくてはならないのだ。

「は、はい!」

良い返事だ。
この分ならこの生徒には期待できる。

「相模さん、次」

「あ、あうん。
えっと、融資統制お願いします」

「はい。融資参加団体は現在10団体」

「増えたね~地域賞のお陰かなぁ?」

少ねぇよ。
どれだけ小規模なんだよ。スケール小さい処か極小じゃねぇか。

「じゃあ次は…」

「それは校内のみですか?
地域の方々への打診は?例年、地域との繋がりと言う例を掲げている以上、参加団体の削減は避けないと。それから、ステージの割り振り、開演のスタッフ打ち合わせなど、タイムテーブルを一覧にして提出してください」

「わ、わかりました」

流石だ。
ここまでわかっている人間が上にいるだけでやるべきことも指摘できる。
更には急いでほしいと言う言葉も巧みに表現して伝えている。
回りからも雪ノ下を称賛する声がちらほらと聞こえてくる。

「では、次に記録雑務ですが、当日のタイムスケジュールと機材の打ち合わせなど、作業のタイムテーブルを出しておくように」

「……」

周囲の鼓舞は上場…しかしあの女の影が薄まってきている。
何かしらの企てとか考えそうで不安要素が浮上するな…手を打っておくか。










―――更に翌日。
まだクラスにいた俺は、同様に未だにいるあの女、相模に目線を向ける。
取り巻きのような二人と楽しそうに会話しており、黒板の前で打ち合わせなどしている海老名達など目もくれていない。

先ほども由比ヶ浜が委員会に行くように言ったのだが、普通に断っていた。
俺は溢れ出る殺意を押し込めながら、海老名の方へと歩いて行く。

「海老名。聞きたいことがある」

「何?ハヤハチの成り行き?」

何でこの女はここまでオープンなのだろうか?
だからと言って嫌になるわけではないが。

「済まないが真剣な話だ。
今日やる予定だったスケジュールを教えてくれ。
今やっていることの前に行ったことと、今日これからすることも」

「どしたの急に?別に良いけど。えっと――――――」

「――――――そうか。
時間を取らせて悪かった。
一応先生から聞いていると思うが、俺はクラスに手伝いに行ける状態では無くなりそうなんだ。
埋め合わせはするつもりだが、その場合なるべく安易な用件にしてもらいたい」

「ホント!じゃあ考えとく~……ぐへへ」

本当に安易な用件であることを祈る……。
俺はニヤニヤする海老名を後ろに、会議室へと向かうのだった。




「ごめんね~…私が頼んだんだ~…融資団体足りないってことだったから…」

会議室に到着するなり、少数の人だかりが出来ていた。
中からは生徒会長、城廻先輩の謝るような声が聞こえる。

「すまん、通してくれ」

人混みを別けて中へと入ればそこには訝しげな目で対象を見る雪ノ下と笑顔で余裕そうにする対象者である雪ノ下の姉がいた。

「……」

俺は無言で自分の席へと歩いて座る。
確かに険悪なムードではあるものの、あれは雪ノ下の身内の問題。俺の出る幕はないし、出たくもない。
何よりあの姉の方と話がしたくない。

「―――そうなの?委員長やってると思ったのに」

「すみませーん。クラスの方に顔を出してたら遅れちゃいました~」

「あ、この子ですよ。今年の委員長は―――」

「嘘ついてんじゃねぇよ。
教室で談笑してたら遅れたの間違いだろ」

相模が入ってきて早々に嘘を吐き出す。
その言葉と態度に若干ながらイラッと来た俺は、無意識の内にそう言ってしまっていた。

「……別に嘘じゃないんだけど」

相模は苦い顔をしながらそう言った。
こうなればこいつの印象を落とすしかない。

「なら、クラスの今日やる予定を言ってみろよ。
そしてお前が手伝っていた内容もだ」

「えっ……出し物決め?」

「バカかお前は。
そんなものとっくの昔に決められてんだよ。バカじゃねぇのか?
嘘つくならもっとまともなこと言えよ」

「な、何よ!アンタだって何もしてないくせに!」

「俺の場合は教師公認だ。クラスの奴等も了承した上でここにいる。
それよりも、遅れた理由に嘘をついたことはどうなんだ?ぶっちゃけやる気ないんじゃねぇのか?」

俺の言葉に会議室全体の目線が相模に注がれる。

「……ごめんなさい。次からは気を付けます…」

相模はそう言って黙ってしまった。

「委員長がこんな調子で大丈夫かねぇ…?」

俺はそうつぶやいて俺に回ってきた雑務に取りかかった。

「ま、次からは気を付けなよ~?
ところで、私も委員会に出ても良いかな?
私も融資団体として出たいんだよね!でも雪乃ちゃんに渋られちゃってぇ~…」

殺伐とした空気の中、何もなかったかのようにそう切り出した雪ノ下姉。
相模は雪ノ下を流し見てからニヤリと笑って答えた。

「良いですよぉ。融資団体足りないしぃ~」

こいつ絶対反省してねぇだろ。
どうせ雪ノ下より優位に立ちたいからとかそんな理由で了承したんだろうが、選択を過ったな。
どんな形であれその女がどれだけ巨大な存在か理解してない。
格上の者を使役するにはそれに見あった代償が必要になるとも知らずに…自滅の道を辿るだろうな。

「地域との繋がりも、これでクリアでしょぉ?」

こいつアホなんじゃねぇのか?
お前にとって地域=雪ノ下姉なのかよ。どれだけ世間狭いんだよ。
人口溢れ帰るぞ。

「あれ?比企谷君だ。ひゃっはろ~。
でもちょっと意外だなぁ。比企谷君はこう言うこと参加しない子だと思ってたよ」

比企谷が入室し、それに気づいた雪ノ下姉は手を振って近づいた。
何だ?知り合いか………いや、恐らく雪ノ下に近寄る人間がどの様な者なのか確認するために接触したんだろう。危険と判断できるものは即刻排除できるように。

「みなさーん!ちょっといいですかー?」

ふと、先程謝罪を入れた筈の相模が会議室中央へと躍り出て全員の注目を集める。
その顔にはやはり反省の色は見えず、浮き足立っているようにも見える。

「ちょっと考えたんですけど、実行委員はちゃんと文化祭を楽しんでこそかなーって。
自分達が楽しまないと、人を楽しませられないかなって」

確かに一理あるだろう。
人を楽しむことに自分が楽しめなくては意味がないのだから。
しかしこいつが言うとそんな内容も真逆の方向へと向けられているようでならない。

「予定も順調にクリアしてるし、クラスの方も大事だと思うので少し仕事のペースを落とすって言うのはどうですか?」

……は?

「相模さん。それは検討違いだわ。
バッファを持たせるための前倒し―――」

「私の時も、皆クラスの方で盛り上がってたな~」

「雪ノ下さぁん。お姉さんと何があったか知らないけど、前人の知恵に学ぶって言うかさ?
私情を挟まないで皆の事も考えようよぉ」

雪ノ下は何も言えない。
相模の目はそれこそに優越に浸っている。

「てめえ、今の現状の何処に人員を減らす余裕がある」

「……あるでしょ?雪ノ下さんのお姉さんも参加してくれたし、楽になるでしょ?」

「それの何処に余裕がある?
まさか一人増えただけで超楽になります―――なんて考えじゃねぇだろうな?」

「は?聞いてなかったの?
前回の学園祭委員長が手伝ってくれるんだよ?余裕が出ない訳じゃないじゃん」

「前回の文化祭がうまくいって、今回はその立役者がいるから大丈夫だと……。
お前前回の委員会の作業内容がどんなものかしってんのか?」

「それこそ問題ないでしょ?
今回の学園祭だってやることは前回と変わらないわけだし、前回の復唱なんだから関係ないじゃない」

「前回の復唱…ね?
ならば今回の出展内容やステージの割り振り、人員の確保、タイムスケジュールやテーブルは前回と同様の内容で、更にはこの実行委員の人間も、前回と同じ人間が揃っている、と?」

「……は?」

「わからないか?前回と同じ内容で取り組むのであれば同じ内容でやることも流れるようにできるだろ。
だが今回の物は前回と全く違う。ここにいる人員も、学園祭の内容も、出店の数や配置も。
全てが違うこの文化祭で、果てしてうまくいくのか?たかが一人人間が増えたぐらいで?」

「……くっ」

「おかしいよな?
ただでさえ前倒しでギリギリのタイムテーブルなのに、作業ペースを落とす。
これがどれだけ愚かな指示なのか…わからない訳じゃないだろ」

室内は静まり返る。
俺と相模の討論に全員の注目を集め、不穏な空気を漂わせている。

「知ってるか?上に立つ人間は全ての責任を取らなくてはならない。
万が一お前の指示に賛同し、学園祭当日までに作業が間に合わず、中止をせざるを得ない状況に陥ったとき、お前はその責任をどう果たしてくれるのかねぇ?」

「そ、そんなの…」

「ま、部下は上司の指示に従う。
端的に言えば上司の命令は部下の行動。部下の失敗は上司の責任になるわけだ。
当然、『作業ペースを落とす』と言う指示の結果がどのようになろうとも、責任は上司であるお前がとることになるんだよな」

俺は見下すように相模を見る。
相模は苦虫を噛み潰したような顔をして悔しそうにする。

「私は相模ちゃんの意見に賛成かなぁ?
委員会も大事だけどクラスの方も大事なんだし」

この(アマ)……!

「そ、そうですよね!
ほら、お姉さんもこう言ってることだし!クラスの方もちゃんと参加するべきなんだよ!」

味方を得たつもりか?
残念だがその女はお前の味方には見えないぞ?
言ってみればお前を蹴落とすための布石うちにしか見えない。

「それじゃ、今日は解散としまーす」

そうして委員会は終わりとなった。
結果的には相模の意見が通ってしまったようだ。
『作業ペースを落とし、クラスの方に顔を出せ』。
サボる事を肯定してしまうこの指示がどの様な結果をもたらすのかなど、一目瞭然であるが…残った人間に負担が来ることは間違いがないのだ。

「……ちっ」

何かを探るように俺を見てくる雪ノ下とニヤニヤする雪ノ下姉。
俺はその視線に耐えられず、任された仕事を鞄に積めて教室から出るのだった。




3日ほど経った日の放課後、会議室には昨日まで溢れるようにいた人員も、50から15人へと減少を辿っていた。

「……ちっ」

この状況の元凶である相模は当たり前のように出席しておらず、雪ノ下姉でさえも来ていない。

「私も…相模さんの意見に反対しとけば良かったなぁ……」

ふと顔を上げれば城廻先輩がたっており、苦笑いで俺を見ていた。

「ごめんね?あんなに意見してたのに賛同してなくて…」

「人って言うのは無意識の内に回りに合わせてしまおうとする。
問題なのはその空気が間違いであるかどうかに気づくかどうかです。お気に為さらず」

「うん。ありがとう」

しかし作業は追い付かない。
俺一人でも3人分は埋めているはずなのだが、やはりと言うか遅れる一方である。

「こ、これ……お願いします…」

「了解した。それと、俺が怖いのは分かるが、今は無礼講とでも思って気軽に接してくれ」

「あ、うん」

しかしこの学校に出回った噂はどんなものなのだろうか?
まさか不良と言うだけで怯えられているのであろうか?だとすれば外見で判断するのはいけないことであると議論する必要がある。

「………」

そんなことを考えながらも作業を続け、気づけば外は暗くなっていた。
このペースで大丈夫なのだろうか、と。会議室にいる俺達は満場一致でそう思うのだった。 
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