元虐められっ子の学園生活
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戻る日常と新たな依頼
代表とは、全ての責任を負う者の総称と言えるものである。
故に代表者が言うこと、行うことは絶対であり、覆しにくい物なのだ。
逆説的に代表ではない者達は、代表者の意見に著しく従い、ストレスや鬱憤を溜め込むのだろう。
社会的における上下関係もまた、このような柵を多く製造し、間違った社会通念を作り上げている。
仮に代表者が失敗したとして、誰かがその事を攻めることはないだろう。
精々影で批判する声が上がるだけである。何故なら失敗の責任が自分に負わされることを恐れているからだ。
過去、絶対制度なる物があり、やがては革命などの反乱が起きた。
耐えきれなくなった民たちが、自信における環境や扱いの改善を求めた結果である。
ストライキ等もこれに順する結果と言えよう。何故なら全ては代表者の責任だからである。
結論付けるのならば、代表者とは人額のあるものこそが請け負うべきである。
「……………」
「……………」
「……………」
最近、奉仕部内の空気が悪い。
先日は花火大会等があり、俺も近所の付き合いなどで出店を出すなどしていたのだが、あの楽しい雰囲気などはこの部室に来てきれいサッパリ吹き飛んでしまった。
朝一の職員室訪問でもおとがめ無しの一報を貰い、教室に行けば葉山どもに睨まれる。
海老名は逆の意味で危なそうなオーラを沸きだたせ、部室に来ればこの様だ。
「なぁ、お前ら何かあったのか?」
「…………別に」
「………何もないわ」
「………」
素っ気ないにも程がある。
こんな調子で居るのなら、俺は貝にでもなりたい気分である。
「なん………だと!」
二時限眼の開始時、比企谷八幡は黒板を前に戦慄していた。
黒板には
文化祭実行委員 比企谷
と書かれており、明らかに平塚先生の思念が入り交じっているように思えた。
「説明が必要かね?
もう次の授業が始まると言うのに委員を決めるのにまだぐだぐだとやっていたのでな。
私がお前に決めておいた」
やったよ私!見たいな顔で比企谷の肩に手をおく平塚先生。
殴りたい。そのどや顔!などと比企谷は思っているだろうが、俺の方がもっとひどい。
保留 鳴滝
何だよ保留って……こんなの何時何を頼まれるかわかったものじゃないだろうに…!
「さあ、授業を始める」
「えー、では文化祭実行委員の女子を決めたいと思います」
LHR。別名帰りの会。
全員揃ったこの教室で、犠牲になった比企谷の道連れを決める会議が行われた。
言い方が悪いと思うが、俺は思っていない。クラスの雰囲気がそう言っているのだ。
「えーっと、やりたい人は挙手を」
そんなやり方で手をあげるやつがいたら見てみたいわ!
バカじゃねぇのか委員長!つーかお前が女装してでろや!
「……はぁ」
等とは言わず、机に俯せ、聞き耳だけを立てる。
大方俺は雑用でもさせられるんだろうが、こんな幼稚な祭り事など、作業の内にも入らんだろう。
何故なら本場の祭りで準備作業員のリーダーだからなっ!………まぁ、一番若いからって事で任されてるだけだけど。
「それって大変なの?」
由比ヶ浜か。
まぁ確かに実行委員ともなれば大変さは目に見えているだろう。
だがそれは後の事を考えずにやった結果が大変になるからだ。普通にやれば余裕だろう。
「普通にやれば大変じゃ無いけど……結果的に女子の方は大変になっちゃうかもしれない」
比企谷をチラッとみてそう言った委員長。
「おい委員長」
「な、何かな…鳴滝君…」
「比企谷がそんなに無能そうに見えるのであれば、お前が変わってやれよ。
その方が女子もやり易いだろうからな」
「で、でも決まったことをやり直すのは…」
「だったら人のやる気を削ぐような言い方するんじゃねぇよ。
嫌みにしか聞こえなかったぞ」
「わ、悪かったよ……」
全く…成績からすれば比企谷の方が断然上だと言うのにこのメガネは…。
「と、取り合えず誰か居ないかな…?
正直、由比ヶ浜さんがやってくれると助かるんだけど…人望あるし、適任だと思うんだけど」
「いやあたしそういうんじゃ…」
「へぇ~結衣ちゃんやるんだぁ~」
そういう訳じゃない。
そう言おうとした由比ヶ浜を制して、後方からの声に振り向く。
見ればこれまた嫌味垂らした顔の女子が頬杖をしながら由比ヶ浜を見ていた。
「そう言うのいいよね。
仲良いもの同士でやるイベントとか超盛り上がりそう!」
その言葉に、その女子を囲う複数の女子がクスクスと笑う。
「つーかさ、結衣はあーしと客呼び込む係なんだから無理っしょ」
「そ、そうなんだ~…そうだよね、呼び込みも大事だよね~…」
何だこいつ。
しかし三浦は由比ヶ浜をかばったか。
少しだけ見直そう。ホント、少しだけ。
「つまり、人望もあってリーダーシップを発揮できる人材が、って事で良いのかな?」
葉山が立ち上がってそんなことを言った。
まぁ確かにリーダーシップは大切だ。
人員を導き、より良い方向へと持っていく。そんな人材がいたらの話なんだが…。
「お~、じゃあ相模さんじゃね?」
お前の目は節穴か?
「そうだな。相模さん、ちゃんとやってくれそうだし」
お前の目は節穴だったな。
「えぇ~ウチ~?絶対無理だって~」
………こいつ、全然嫌がっていない。
目を見れば分かる。こいつは今、『嬉々』と『傲慢』と『余裕』を抱いている。
大方クラス内で人気の高い葉山に指名されて舞い上がり、尚且つ自分がやるのは当たり前であり、どうせならもっといってほしいなどと思っていることだろう。
こう言うのはあざといとでも言うのだろうか?
「そこを何とか…お願いできる?」
「あぅ…他にやる人がいないならしょうがないけど……でもウチかぁ~」
一刻も早くこの教室から出ていきたい。
そんな衝動に刈られながら過ごすLHRだった。
「―――でも、ゆきのんが委員会とかやるのって以外だね」
放課後、第一回実行委員会議が終わった比企谷と雪ノ下に由比ヶ浜が労うようにそう言った。
「そうかしら?いえ、そうね。
私としては、比企谷君が実行委員にいた方が意外だったのだけど」
「あ、だよね!超似合わない…」
「おい、俺は半ば強制何だよ」
「そう……」
会話終了。
静寂が訪れ、小説のページを捲る音だけが唯一のBGM。
「い、委員会ってこれから毎日だよね…。
私もこれからクラスの方手伝ったりしなきゃだし…」
「ああ、俺も実行委員あるから暫くこれねぇわ」
やっぱりそうなるか…。
正直ここでの時間は居心地よく感じるようになってきたんだがなぁ…。
「そう。ちょうど良いわ。
私も今日、その話をしようと思っていたから。
取り合えず、文化祭が終わるまでの間、部活は中止しようと思うのだけど」
「まぁ、妥当だな」
「そう、だよね…」
「………鳴滝君は?」
「……そうだな。
個人的には残念に―――」
ガラッ
残念に思う。
そう良いかけたところでノックもなしに扉が開かれる。
入ってきたのは今日のぶりっこ女。後ろに女子二人を従えて入室してきた。
「しっつれいしまぁーす。
平塚先生に聞いてきたんだけどぉ、奉仕部って、雪ノ下さん達の部活なんだぁ~」
「何かご用かしら?」
クスクスと笑う三人に、少し強めに言葉を発した雪ノ下。
「ウチ、実行委員長やることになったんだけどさぁ、こう…自信がないっていうか。
だからさ、助けてほしいんだ」
………は?
今なんて言った?
この女が実行委員長だと?
やる気もなく、ただただ目立ちたいと目で表記するこの女が委員長だと?
「…自身の成長、と言う貴女が掲げた目標と大分外れているように思うけれど」
「そうなんだけどぉ、やっぱり皆に迷惑かけるのが一番マズイって言うかぁ…
失敗したく無いじゃない?それに、皆で成し遂げることも成長に繋がると思うし!」
終わったな…今年の文化祭。
この女が人を率いるなど出来る筈がない…。
大方雪ノ下に頼むだけ頼んで自分は高みの見物を決め込む気でいるのだろう。
「話を要約すると、貴女の補佐をすると言うことで構わないかしら?」
「うん!そうそう!」
「まて!受ける気か!?この依頼を!」
今まで座っていた俺は勢いよく立ち上がって雪ノ下を見た。
雪ノ下は瞬間に目をつむり、俺に心情を悟らせまいとした。
「……これは私個人の依頼よ。貴方には関係がないわ。
それに、この手の依頼は私一人でやった方が効率が良いわ」
効率だと…?
「それじゃ、明日から宜しくね!」
そう言い残して出ていった三人。
残された俺たちは雪ノ下を注視する。
「……どういうつもりだ雪ノ下。
文化祭終了まで部活は中止すると言っていただろうに」
「言った通りよ。
今回の依頼は私が一人で請け負うの。
貴方達は各自の仕事をしてちょうだい」
そう言って逃げるように部室を後にする雪ノ下。
「………比企谷。
一体何があった?最近に関わらず、今日のアイツはおかしすぎる」
「………分からん。
いや、分かってはいる。だが、言うことは出来ん」
「ヒッキー……ごめん、あたしも」
「…………そうか。
すまん、今日は帰る…また明日な」
「……おう」「うん…」
心にもやもやしたものを抱え、その日は解散となった。
雪ノ下の様子の不審さに、その日の夜、俺はあまり寝付けずにいた。
――――――職員室。
翌日、俺は平塚先生に呼び出され、職員室内にある相談室へと訪れていた。
「単刀直入に言う。
鳴滝九十九に私からの依頼だ」
「………文化祭終了まで部活は中止になっています。
他でもない、雪ノ下が言い出したことです」
「それは承知している。
私は奉仕部の君ではなく、鳴滝九十九に依頼するのだよ」
初めてになるであろう平塚先生の依頼。
果てしなく不安が過る中、ふと、ピースが当てはまったような感覚に陥った。
「……文化祭実行委員ですか?」
「話が早くて助かる。
私の勘では今年の文化祭は荒れるだろう」
「そうでしょうね。荒れるついでにぶっ壊れるでしょう。
あの女が実行委員長なんですから」
「知っていたか…。
私からの依頼は実行委員の補佐として回ってもらいたい。
クラスには私から言っておく。生活もあるだろうがどうか容赦してほしい」
何だよそれ…。
何で俺が文化祭実行委員の手伝いをしなくてはならない?
それに生活だと?この期間中バイトを休めって言いたいのか?
やめてくれよ…今のところ余裕があるから大丈夫だろうが、油断すればすぐにでも破産できる自信がある状態なんだぞ…。
「嫌ですよ…俺にとってバイトは将来に安定した生活を送るための貯金目的なんです。
文化祭当日まで何日あると思ってるんですか?貴方は俺の将来をぶち壊すつもりですか?」
「すまないと思っている。
だが、君にしか頼めない事項なんだ…。大変なことになる前に、早めに手を打っておきたい」
……雪ノ下は何らかの思考の下、文実の補佐に回った。
比企谷は半ば強制であるにしても、カバーに回れるほどには動けないだろう…。
だが、他の連中はどうだろうか?
いや、そんなことならこうして頼んできたりもしないだろう…。
「……やり方は全て俺に一任するんでしすか?」
「ああ。好きにしてくれて良い。
その結果、どうなってしまおうが、私が全て責任を負う」
やはりこういった人間が世の中に必要なのではないだろうか?
「……わかりました。
その依頼、承ります」
「ありがとう」
その後、全てのバイト先へ連絡し、明日から文化祭終了までの期間中、シフトを外して貰った。
何かあったのかと心配されたが、結果的に全て了承してくれたのは、そこに信頼関係があったのだろうと有り難みを感じる他ない。
「ツクモン!」
「由比ヶ浜か…どうした?」
下校中、校門前で待ち伏せていた由比ヶ浜。
その顔色はあまりよろしくなく、何かを思い詰めているように感じられた。
「あのね、ツクモン。
私にはゆきのんのこと、どうにも出来ないから…ヒッキー一人じゃ荷が重いだろうし…」
言いたいことは分かる。
だからこそ俺はその次に出てくる言葉が聞きたい。
俺達があの奉仕部で培った何かが崩れることを阻止したいと思っている俺がいる。
だから―――
「あの二人を、ゆきのんとヒッキーを助けてあげて!」
「任せろ…!」
覚悟しろよお前ら。
やる気になった俺はもう止まらないぞ!
俺の生活の一部になっているあの時間は、絶対に無くさせたりはしないからな!
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