戦国異伝
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第二百一話 酒と茶その三
「酒が過ぎる様ならばな」
「控えよと」
「御主だけの身体ではないのじゃ」
だからだというのだ。
「酒は飲んでもよいが」
「好きなだけ飲もうとも」
「控えることもな」
それも、というのだ。
「心得てもらいたい」
「天下の為には」
「酒は百薬の長と言われておるが」
「それも過ぎると」
「毒にもなる」
百薬の長転じて百薬の毒となるというのだ。
「だからよいな」
「ですな、ではこれよりは」
「酒を楽しみな」
「天下も楽しむことにします」
「そうせよ、ではこれから頼むぞ」
「畏まりました」
酒を飲みつつだ、謙信は笑顔で応えた。程なくして上杉家は正式に織田家に降ることとなり織田家は上杉家の領地の全ても手に入れた。
上杉家の石高は百万石にまで減らされそのうえで上杉本家は四十万石とされ後は二十五将に分けられた、そしてそのうえで。
信長は兼続を召し出した、そうして彼にはこう言った。
「御主は幸村と同じくな」
「織田家の直臣としてですか」
「そうじゃ、来てもらいたい。そしてじゃ」
さらに言う信長だった。
「石高は三十万になるか」
「ははは、それがしが三十万石ですか」
「足りぬか」
「過ぎたものです」
逆だった、足りないのではなく。
「殿は四十万石になりましたな」
「そうじゃ」
「それでそれがしが三十万石なぞ」
「恐れ多いか」
「とても。それがしは領地は然程いりませぬ」
「ではどれ位じゃ」
「その十分の一でも多い位です」
やはり笑って言う兼続だった。
「それがしにはとても」
「三万石でもか」
「そう考えています」
「それはまた言い過ぎじゃな」
「それがしはそう思ってはおりませぬ、しかし」
「しかしか」
「それがしも欲しているものはあります」
信長に対してだ、兼続は不敵な笑顔で返した。
「しかも強く」
「それは何じゃ」
「笑みです」
こう答えるのだった。
「それを欲しております」
「民の笑みじゃな」
「天下のどの者も泰平の中で楽しく暮らし」
そして、というのだ。
「笑みになることが」
「左様か。ではな」
「それがしの欲、どう思われますか」
「欲にも様々なものがある」913
ここから答えた信長だった。
「そして御主の欲はな」
「はい」
「よい欲じゃ、しかしどの様な欲もな」
「それもですな」
「そうじゃ、過ぎればよくない」
そのよき欲もだというのだ。
「それはな」
「左様ですか」
「欲にとらわれるとその欲は妖怪となる」
「そしてその妖怪にさらにとらわれ」
「妖怪に操られ狂う」
「それ故に」
「欲は過ぎればよくない、しかしな」
「それがしはですか」
「そこまで強くない」
その欲がというのだ。
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