戦国異伝
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第二百一話 酒と茶その一
第二百一話 酒と茶
謙信は兼続と共に後詰を務めていた。その戦ぶりには織田家が誇る将帥達も唖然とするばかりだった。
「わかっておったがこれ程までとは」
「ここでは特に強いではないか」
「信玄公と同じかそれ以上か」
「まさに鬼神じゃ」
「毘沙門天そのものと言っていいわ」
謙信の強さはそこまでだった、それにだった。
彼と共に戦う兼続、彼もだった。
「直江兼続もじゃ」
「二刀流もさることながらな」
「見事な采配よ」
「幸村殿と互角の戦を繰り広げたというが」
「さもあらん」
「そこまでの腕じゃ」
個人の武勇も采配もというのだ。
「強いわ」
「全くじゃ」
「これは抜けぬか」
「上杉の後詰も」
「これでは」
謙信と兼続のあまりもの強さに彼等も攻めあぐねていた、その彼等のところにだ。
信長が来た、彼は己の家臣達に笑ってこう言った。
「ではじゃ」
「殿がですか」
「この度もですか」
「うむ、話をする」
長篠の時と同じく、というのだ。
「そうしてな」
「この戦を収められますか」
「そうされますか」
「うむ、ここはな」
こう言ってだ、そしてだった。
信長は自ら自軍の前に出てだった、そのうえで謙信に対して言った。
「おるか」
「尾張の蛟龍ですか」
「うむ、その戦ぶり見事じゃ」
「そしてここに来た理由は」
「他でもない、最早勝敗は決した」
それ故にというのだ。
「降れ」
「貴殿に」
「そうじゃ、織田家に降りじゃ」
そして、というのだ。
「天下の柱の一つとなれ」
「そう言いますか、わたくしに」
「貴殿だけでなく上杉家全体に言う」
降りそして、というのだ。
「天下の柱となるのじゃ」
「勝敗が決したからこそ」
「そうじゃ、降りな」
そうしてとだ、信長は謙信に言うのだった。
「二十五将もそこにいる直江兼続もな」
「それがしのことをご存知か」
「無論じゃ」
確かな顔で笑ってだ、信長は兼続にも言った。
「上杉のことはよく知っておるつもりじゃ」
「さすれば」
「それで返事を聞きたい」
信長はあらためて謙信に問うた。
「降るか、わしは御主を失うつもりはない」
「貴殿の家臣にする為に」
「違う、天下の柱になってもらう為じゃ」
「そして天下泰平を磐石にし長き泰平にする為」
「そうじゃ、上杉の力を借りたいのじゃ」
是非に、というのだ。
「よいか」
「そうですか、貴殿の為ではなく」
「天下の為じゃ、無論わしもじゃ」
「天下泰平の為に」
「働いておる、それに偽りがあると見れば」
「その時は」
「遠慮なくわしを斬れ」
こうまで言うのだった。
「そうせよ、御主がわしが天下泰平という大義に背いておると見た時はな」
「遠慮なくですか」
「そうじゃ、では返事を聞きたい」
「わかりました」
ここまで聞いてだ、そのうえでだった。
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