真ゲッターロボ・地球最凶の日 第一部「滅亡への夜明け!」
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燃えよ!ゲッター篇第六話「燃え上がれ!帝都・前篇」
前書き
更新ずい分遅くなりました。前篇です。
「……」
目の前には立派な武家屋敷とその門構えが俺を出迎えていた……と、いうよりも待ち構えていた。どうしてこんなことになってしまったのかは俺にもわからない。ただ、無言でいるよりほかなかった。
「……どうしてこうなった?」
俺はつぶやいて、これまでの経緯を回想した。
*
俺たち三人は新たに誕生した帝都支部のゲッターチームとして、ゲットマシンによるゲッターロボの合体訓練に追われる日々を送っていた。
「うあぁ……ゲッターのGって、けっこう肩がこるぜ?」
パイロットスーツを着ていてもなお、やはりゲットマシンにかかるGは戦術機よりも上らしい。そのせいか、訓練前にドカ食いしていた赤城は食った中身を出しちまったようで、今朝方から二日酔いの疾風も同様に吐いちまったようだ……
「こっちはそれどころじゃねぇよ……」
と、衣越しの赤城が隣でそう愚痴っていた。こいつは、普段着はいつも寺の衣を着ている。まぁ、坊さんだからどこは否定しないが。
「う、うぅ~……!」
赤城よりひどいのは、疾風だ。昨夜帝都の飲み屋で酒を浴びるほど飲んだらしくて、朝起きたら頭がガンガンして痛いと訴えてきた。もちろん、爺は容赦なく無理やり疾風をジャガー号のコックピットへ押し込んだという。
「トイレまで我慢しろよ?疾風」
今、ここで出されちまったらたまったもんじゃない。だが、それも既に限界のようだ。
「うぇぷっ!」
……と、どさくさに紛れて疾風の衣の裾をゲロ袋代わりにして吐き出した。
「うげぇ!な、何するんだよ!?」
「だぁ!赤城こっち来んな!俺にも臭いがうつる!!」
「やめろ疾風……や、やめてくれぇ~!!」
「くっせぇー!!!」
ま……午前はそんなこんなでいろいろとひどい目に会ったわけだ。
だが、昼にて俺たちは飯を食った後に爺の元へ呼び出されることになった。別になにも悪いことはしていねぇが、何かあったのか?
「うむ、三人ともそろったようじゃな?」
爺は机に片足を乗っけて水虫の薬を足の指のあいさに塗りたくっている。
「爺、何のようだ?」
俺は恐る恐る尋ねた。
「お前たちに来てもらったのはほかでもない。実は……今日からお前たちにBETAと、その戦術に関する講義を受けるため斯衛軍育成学校へ出向いて期間内の間は学徒として学んでもらう」
「は、はあぁ!?」
冗談じゃないと俺は否定する。あそこには嫌な思い出しかない。まさか……今から行くところも同じ女学校なのか?
「爺!まさか、今から行くとここって俺が行った……?」
「さよう、近くといったらそこしかあるまい?」
「でも、女の子たちが通う訓練校だぜ?大の男三人が行って大丈夫かよ?」
と、赤城も疑問を言う。確かに、俺たちは自慢じゃないがある意味普通じゃない。
「教官は男がやっておるぞ?」
「そういう問題じゃねぇ!」
俺はバン!と机をたたいてさらに抗議する。
「俺たちは民間人だ!軍の犬共とお勉強なんざしたって相性が合うわけでもねぇし、ゲッターの訓練はどうなんだよ?」
「平行してやればよい。ゲッターの訓練も訓練校の敷地内で行う。今まで非公開じゃったが、ようやく軍の豚共にわしの力を見せびらかすことができて疼きがおさまらんわい!」
爺だけは楽しみのようだが、俺たちはたまったもんじゃない!
「爺さん……考え直しちゃくれねぇか?」
疾風も同じことを言いだした。
「疾風までも何を言うか?」
何時もは物静かな疾風が、めずらしく爺に抗議したので俺たちにとっても珍しかった。
「俺は……斯衛兵にはちょっとした借りがあんだ。だから、連中と戯れることはしたかねぇ」
そう、疾風は当初仲間を装った斯衛兵に戦術機で仲間を惨殺されたことが切っ掛けで、あれ以来戦術機とそれを扱う軍人らを軽蔑し、嫌うようになった。一見こんな狂人染みた危ない男でも、仲間を思うほどの感情があるようだ。
「しかし……今後、奴らと戦うに当たっては戦術に関して学んでおいたほうがよい。ゲッターだけの力では周囲を巻き込んでしまいかねない。そうならないためにも様々な戦術策を会得するのも重要じゃ。疾風、お前さんの気持ちはわかるが、今は互いにいがみ合っている暇はない。今我々人類にできることはいかにあの俗物のゴミ共を地球上から……いや、この宇宙から抹殺することじゃ」
「……」
爺の説得に疾風は返すことができず、諦めたようだ。珍しくまともなことを言う爺の態度に赤城も共感しだした。しかし、俺だけはどうも嫌だった……
結局、俺達は爺の言われるままに嫌々軍学校へ行く羽目となった。ああ……気がめいるぜ。
「ああ、あんとき覗きなんざやらなきゃよかったぜ……」
あの時やったことを後悔しながら渋々と学校の敷地へ入った。やはり、学徒の女子たちは俺たちを見て物珍しそうな視線を向ける。
「な、なんだか恥ずかしいな?」
赤城も違和感を感じているようだ。
「ッ……!」クワッ
疾風は周囲の視線を振り払うかのようにあたりを睨み付けて追い払っている。
俺たちは、配属となるクラスの教室へ向かい、そこで目の前の女学徒たちへ自己紹介をする。っていうか!この教室って俺が前回来た場所じゃんか!?先公だってあの眼帯野郎だし。
「ほうっ……貴様、あのときの若僧か?」
「あんときの先公!まだ生きてやがったのか?」
ジリジリと俺と先公との間に火花が散る。
まぁ、そんなこんなで俺たちはしぶしぶと指定された席へ座ることになった。周囲の視線を気にしながら……
「……では、改めて講義をつづける」
眼帯は、気を取り直して授業を再開した。しかし、やっぱ言っていることはチンプンカンプンで俺には分からない。疾風は、まぁ理解しているようだが、くだらないという顔だ。赤城は……居眠りかよ?鼻チョウチン膨らませながら堂々と居眠りとは大した度胸だぜ?
「コラァ!そこの生くそ坊主!?」
眼帯の投げるチョークが赤城の丸刈り頭に当たるが、それでも構わずに鼾をかきながら寝続けている。
「黒銀!あの坊主を起こさんか!?」
と、眼帯。ケッ!誰がテメェなんかの指図を受けるかってんだ!!
「俺でも手が付けられないでありまーす」
棒読みで返した。
「神威!貴様が……」
「指図すんじゃねぇ、軍の犬が……」
神威も断固否定、仕方なしに俺はアドバイスする。
「……赤城の隣にるアンタ?」
「え?」
赤城の隣に座る小柄なボーイッシュの少女が俺に呼ばれて振り向いた。
「そいつの鼻チョウチン割ったら起きるんじゃね?」
「えっと……これか?」
すると、学徒は手に持つシャーペンの先で恐る恐る赤城の鼻チョウチンを突っつつくと。
「っ!?」
パチン!と、チョウチンが割れる音ともに赤城がびっくりして目を覚ました。
「な、なんだ!?」
席から立ちあがって周りを見る赤城の一部始終を見て周囲の生徒たちがどっと笑う。
「あり……?」
何があったのか、わからず赤城はそのまま席に座りなおした。
その後、午前の講義は終わって俺たちは屋上で飯を食っていた。研究所から支給された携帯食だけだけど、
「ああ……これっぽっちじゃ腹持ちわりぃや?」
ウジウジ文句を言う赤城に、俺も同意だった。
「まったくだ!ああ、てんこ盛りのどんぶり飯が食いてぇぜ?」
「量の大きさが問題じゃない。用は栄養を付けることだ」
と、疾風は文句を言わずにモクモクと携帯食をかじった。
「いいよなぁ……学生共はよ?」
俺は、敷地の日陰で弁当を広げて雑談し合っている女学徒たちを見下ろした。この斯衛軍育成学校に通っている学徒たちは、皆武家が多い。別に斯衛兵になるには身分関係なく一般人でも入隊することはできるものの、戦術機を操るためそれ相応の高い技量が求められる。よって、武家でも入るには難しいのだ。
ちなみに、彼らが後に乗る戦術機はそのパイロットの身分に沿って搭乗機のカラーリングの塗装が異なっている。そこにも差別的なものがあると俺は感じた。
いや、それ以前にこの世界の日本には俺の住んでいた世界とは違って武家の継続や古来から続く征夷大将軍の存在、東京へ首都の遷都がないことなどと先の戦時中やら異なった場面が多く存在する。もちろん、武士から農民までの身分制度の名残なども……
俺は、そんな世界が好きになれずにいた。むしろ、嫌っていた。
「ま、アイツらもこの先どれくらい生きられるかもわからねぇんだ。楽しめる時にしっかりと学園生活を送らないとな?」
赤城が一口で携帯食を完食して、腹をさすりながらそう言った。
「おそらく、最後まで生き残るのは難しいだろう……」
疾風も、縁起でもないことを口にする。俺だってそう思うが、やはりあえて口にしたくはないものだ。
「と、ところでさ?お前らは、あのJKの中で可愛い娘とか見つけたか?」
話題を変えて、俺は二人へ尋ねた。
「そうだな……特に」
と、赤城。
「ケツの青っ白いガキなんざ興味ねぇ……」
疾風は予想道理の返答をした。
「俺は……あの娘かな?」
俺は、ちょうど日陰で友達と弁当を広げて雑談を交わしている一人の少女へ指をさした。
確か……篁唯衣っていう俺の苦手な武家の人間だ。
しかし、いくら武家とはいえども下品な俺なんかに優しくしてくれるし威張ってもいない。正真正銘の大和撫子であった。現に先ほど廊下で会った時も声をかけてくれたのも彼女だ。
「お、あの娘って……名門篁家の娘じゃねぇか?」
赤城は驚いて指をさす。そんなに、凄い上物なのか?
「ああ、そこそこ名の知れた軍の名門家でよく家族の方々がウチの寺に来てくれたぞ?」
「へぇ?で……やっぱ、娘さんのほうは性格とかいいのか?」
俺はそんな唯衣に興味がわいて、彼女に詳しい赤城へ尋ねた。
「優しいってもんじゃないぜ?純粋で清らかな菩薩様のような存在だぜ?」
「菩薩……」
俺は目を凝らして彼女を見つめる。確かに、あの可愛い笑顔は天使というよりもそれ以上に美しい観音菩薩の微笑みだ……要は、大変美しいということ。
「いいなぁ……あんな可愛い子ちゃんと仲良くなりたいな?せめてもっと話だけでも」
そんな俺の願望を疾風が吹き飛ばした。
「やめとけ……俺たちとは身分の差が違うんだ。そもそも、俺たちは嫌われ役のゲッターチームだぞ?」
ま、それは否定できない。ここの大半は皆俺たちを税金泥棒みたいに嫌な目で見てきやがる。あの眼帯の先公だって、俺らをロクデナシ以下に思っているに違いない。
それから昼休憩は終わり、俺たちは午後の授業も午前同様適当に聞き流していた。疾風お赤城に続いて居眠りについたので俺以外の二人は完全に講義をサボっていた。
先公も、二人の行為に呆れて思わず無視をした。そして、六限目の講義が終えて学徒たちが帰りだすころ、俺のもとへある一人の少女が歩み寄ってきた。
「少し、よろしくて?」
「あん……?」
肩まで長い髪を伸ばしたそれなりに可愛い娘であった。こんな娘が俺に何の用だ?
「今日一日あなた方の授業態度を見ておりましたが、さすがに講義を受ける態度ではないようですわね?」
「だから?なに?」
学級委員のように鬱陶しい奴だと、俺は適当に返答でもする。
「真面目に講義を受ける気があるのかと聞いておりますの」
「あっそ……」
というと、俺は机にふせ始めた。その態度が、彼女を益々挑発させる。
「ちょっと!人の話を聞いておりますの!?」
「聞いてるよ?少し五月蠅いけど」
「あ、あなたって人は……!」
ドン!と、机を叩く彼女を見る限り、どうやら怒りに触れてしまったようだ。それほど真面目な娘なんだろう?そういえば、元の世界にいた時にはよく委員長の榊をいじっていたときがあったな?
「あ、便所行ってもいい?」
俺は、榊を思い出すと余計にこいつをいじりたくなった。
「話をお聞きさない!」
「あ、ウンコだから」
「あ、あ、あなたって人はぁ!?」
顔を赤くして火が付いたように怒り出す彼女。俺はニヤけながら面白がった。
「あの……黒銀様?」
「お……?」
もう一人の声に振り向くと、そこにはあの唯衣が居た。俺は先ほどの下品な自分とは裏肌に背筋をピシッと伸ばして、声を太くして言い変えた。
「何だい?篁さん」
「放課後に黒銀様の宿泊先へご案内致しますね?」
宿泊先?つまり俺は別の場所から学校へ通うというわけか?
「宿泊先……」
「もし、よろしければ今から行かれますか?」
「あ、はい!勿論!!」
俺は立ち上がると、唯衣についていく。後ろで絡んできた少女がギャーギャー煩くわめいているが、俺は無視した。
「篁さん!この方を引き留めてはいただけませんこと!?」
「ごめんなさい、山城さん。同居人になる黒銀様の方を優先しなければいけないので、また後日お願いいたしますね?」
と、苦笑いして唯衣は彼女こと山城に謝罪して俺を学校から連れ出した。
「あの……俺以外のツレはどうするんですか?」
俺は、あとの二人のことを尋ねた。俺が下宿人になるのなら俺以外の赤城や疾風はどうなる?
「さぁ?私は、黒銀様だけをお連れすることしか……」
「……?」
つまり……特別に俺しか招待されていないということか!?
にやにやが止まらず、俺は下宿先がどんな場所なのかと待ち遠しくなった。
「こちらでございます」
付いたころには、すでに夕暮れ時であった。目の前の光景は立派な武家屋敷が佇んでいる。まさか……今日からここが俺の下宿先!?
「す、すげぇ……!」
「私の自宅ですが、お気楽にお過ごしくださいませ?」
と、唯衣は俺に一礼して誰かを呼びに門へ入ると、俺はその場でしばしの間待たされた。
一人になったところで、俺は興奮が止まらなくなる。ここは……唯衣の家!!
*
……と、ここまでが俺の回想だ。そして、今こうして門前で誰かが来るのを待っている最中だ。
「……」
門の向こうをチラホラ除きながら落ち着かない様子であった。まさか、こんな立派な屋敷にしばらくの間厄介になるなんて……
しかし!俺はこの家に入るような作法なんて全く知るはずがない。最低限、玄関で「お邪魔します」といった後靴をそろえて上がることぐらいしか……?
「どうしよう……」
小学生のころ、悪友たちの家には何度か上がったことがあったが、今の状況はそんなレベルとはケタが違う!緊張と冷や汗にみまわれ、俺は少し心臓の鼓動が荒くなった。
「お待たせしました!」
「ひゃ、はい!」
急に背後から唯衣が出てきたから、変な返事をしてしまった。
「え、黒銀様……?」
首を傾げる唯衣に、俺は苦笑いをしながら彼女に連れられて恐る恐る門をくぐった……
そして、連れてこられたのは立派な園庭である。鯉が泳ぐ池に燈籠の数々……さすがは名門家のことだけある!やべぇ、緊張して何故か腹痛がぁ!
「巌谷のおじ様、黒銀様をお連れいたしました」
と、目の前で一人の綺麗なご婦人と雑談をしている男、それも軍人へそう言うと、男は俺のもとへ振り返った。その顔は、いつしか見覚えのある顔付であった。
……確か、バイクで陸軍省へ送った軍人のオッサン!?
「あ!あのときのオッサン!?」
俺は、つい声に出てしまったことで、あわてて口を押えた。
「いやぁ、久しぶりだね?この前は本当にありがとう!」
「い、いえ……」
俺は赤くなる。
「私と早乙女博士はちょっとした朋輩でね?私から君の預かり手をと思って行ったことだったのだが……ご迷惑だったかな?」
と、苦笑いしながオッサンは俺に尋ねるが、俺はそんなこと毛頭思ってはいなあった。
「い、いいえ!そんなことはこれっぽっちも……」
「う、うむ……本当にそう思っているのなら、いいのだが……」
そうオッサンは俺から目をそらして苦笑いをつづける。なんだか怪しいな?
「黒銀君、こちらがこの家の女将さんで篁栴納さんだ」
オッサンの隣に立つ綺麗な女性が俺にお辞儀したが、どうも歓迎していないような目つきである。
「ど、どうも……」
俺は苦笑いをしてお辞儀した。
「ゆ、唯衣?黒銀君を彼の下宿部屋に案内してくれ?」
オッサンは唯衣にそう言って、俺は唯衣に連れられて屋敷の裏側に連れてこられた。あれ?屋敷へ上がらないのか?
「あの……大変申し訳ないのですが、こちらになります」
唯衣が手を指した場所は……
「何だ、これ……?」
俺はあんぐりを口を開けて呆然とした。目の前には小さな小屋があった……
「あれ、俺って……?」
「も、申し訳ありません……実は、母が黒銀様の同居にはどうも消極的でありまして」
つまり、俺は完全に歓迎されていないというわけだな?
「歓迎せれていねぇのかよ?」
「本当に申し訳ありません。巌谷のおじ様が進めてこられて……」
「だったら、断ればいいじゃねぇか?」
確かに、巌谷のオッサンは他人なんだし別にいいじゃねぇか?
「巌谷のおじ様は、父ととても仲の良い御親友の方でして、母も断りづらかったのでしょう。生活費などの出費はこちら側が負担させていただきますが、そのかわりあの小屋で宿泊することを条件に同居を決めたらしいです」
と、苦笑いする唯衣。俺は何やら複雑な気持ちになっていた。
俺は、しぶしぶと小屋に入って持ってきた荷物を片隅に放り投げて大の字になって横たわった。
「ったく、俺は客じゃねぇのかよ?」
だったら研究所の固いベッドで寝た方がまだマシすぎる。
大の字になりながら、俺はのんびりと妄想を膨らませた。
「唯衣って、何カップあんだろ?」
ああ見えて結構巨乳に見えた。こりゃあ大人になったら物凄い美人とさらにグラマーな胸を持つかもしれない……
「はっ……けど、唯衣なんてどうせ俺にすら振り向いてはくれないだろうな?」
今日声をかけて俺を自宅まで連れてきてくれたけど、それはただ単に巌谷のオッサンに言われてそうしたまでだろう?それに、ああいう可愛くて人気な娘なんてものは、全てにおいて「ただの友達」としか認識していない。俺なんてむしろ友達以下、知り合いか同じクラスの男子としか見ていないのかもな……
「けっ!来るんじゃなかったぜ……」
勝手にいじけた俺は、与えられた小屋の中でゴロンと横たわって適当に寛いでいた。
「黒銀坊ちゃん、お夕飯をお持ちしましたよ?」
と、和食をお盆に乗せて使用人の婆さんが入ってきた。
「あ、どうも」
「そこに置いておきますからお食べなさいな?」
「……あっちでみんなと食っちゃいけねぇのか?」
普通、同居人でも一様食卓へ招きはしなのか?
「申し訳ございません。何せ、御武家の家庭ですから……」
「ちぇっ……また武家かよ?」
いい加減、時代劇のような身分制度にはうんざりしていた。
「お気に召しませんか?」
「あったりめぇだろ?この国に民主主義はねぇのかよ」
「帝国は民主主義に基づいてはおられますが、やはり過去の名残が強いのでございますね?」
「名残ねぇ……」
「では、ごゆっくりと」
そう言って婆さんは出ていった。まったく、俺はこじきの様にしか思われていないのだろうか?気に入らないことだ。
「そっちがそのつもりなら……」
なら、いっそ吹っ切れて自分なりに行動してみるのもいいかもしれないな?
俺は、その晩に飛び出して早乙女研究所へと向かった。
*
翌日、篁家宅にて。
「行ってまいります」
小鳥たちのさえずりと共に玄関から唯衣が出てくる。しかしそれと同時に何かの騒音が早朝に響き渡った。
「な、なに!?」
慌てて門まで出てみたら、そこにはバイクに跨った黒銀の姿があった。バイクは昨日の晩に研究所から持ってきたものの一つである。
「く、黒銀さま!?」
「よう!そっちもこれから登校か?」
「は、はい……」
「ふぅん?乗ってくか!」
「い、いいえ!お構いなく……」
しかし、唯衣の目は好奇心に満ち溢れていた。今まで見たことしかない中型二輪車をこんな間近で見られるのだから、いけないはずなのに手に触れてみたいとも思った。
「あ、あの……」
「ん?」
「……お触れになっても、よろしいですか?」
「ああ、構わねぇぜ?」
俺の了解も得たことで唯衣はバイクに触った。
「とても振動の伝わる乗り物ですね?」
「一様、男の乗り物だ!そうだ、もしよかったら学校まで一緒に乗ってくか?こんなこともあろうかと(計画的に)ヘルメットも用意しておいたんだ」
「えっ?」
その後、唯衣の栴納が長刀片手に外へ飛び出してきたころには、すでに二人の姿はどこにもいなかったのである。
「くぅ……遅すぎたか!」
栴納は、弱虫をかみしめていた。
「やっぱバイクはいつ乗ってもいいぜ!」
通学路の路上を俺と、後ろでチョコンと横座りして俺の背にしがみつく唯衣の二人がバイクで突っ走っていた。
「く、黒銀様!もう少し安全運転を……」
「お!あそこのリムジンは……」
俺は、唯衣に構わず隣を走っているとあるリムジンの後部席に座るシルエットを目に隣へついた。
コンコン……
そして、その車の後部席の窓へ突っついて乗っている奴を振り向かせた。当然驚くが、俺の後ろに唯衣が載っていたことの方がさらに仰天したようだ。
それもそのはず、だってリムジンに乗っていたのはあの上城とかいう唯衣の同級生で彼女のライバルてき存在らしい。ちなみに俺を毛嫌いしている。
リムジンを追い越して、俺達は学校へ一番に到着した。
「とても気持ちよかったです!」
バイクから降りた唯衣はさぞかし爽快な気分だったろう。
「これがバイクの魅力さ?」
俺は、バイクを裏手の駐車場(職員専用)へ隠すようにおいて今日の授業を受けた。しかし、当然のこと上城のやつはご立腹のようすであったな?
午前の講義が終わり、午後は戦術機による模擬演習とゲッターによる初の公開演習を行った。演習時には爺が来て学徒や先公たちにゲッターを自慢するかのように解説していた。
「これが新たな人類反逆の剣となるスーパーロボット、「ゲッタロボ」である!後にこのスーパーロボットシリーズはわしの朋輩たちを通して次々と生み出されることじゃろう?」
とか、なんとか言いながら自分の作った発明品を褒めたおすことばかりをいうので周囲は疲れ切っている。
「では……さっそくゲッターロボの分子合体をご披露しよう?お前たち!出番じゃ!!」
無線に叫ぶ爺の合図に俺たち三人はゲットマシンで上空を飛び交い、そしていつものようにゲッター1から3までのロボットへ変形合体をしてみせた。
当然今の化学力では実現不可能な現象を目の前で見せられれば周囲は目を丸くするなり仰天するだろう。
「ゲッター1は、空中戦を得意とする強襲用ゲッターロボである。ゲッター2は地上戦に特化した光速機動を用いた突撃戦用ゲッターロボ、そしてゲッター3は水中戦に特化した局地戦用ゲッターロボである。この三体の形態で多目的汎用戦術への移行が可能である。まぁ、空を飛びながら鉄砲玉をばら撒いたりデッかい出刃包丁を振り回したりするようなどっかのモヤシとはちがって、ゲッターさえあれば単機で攻略は可能じゃがの?」
そんな挑発的な解説を耳に先公がぶち切れ層になる寸前である。
「お言葉ですが早乙女博士?あのゲッターとやらの装甲はいかなる素材で構成されているのでしょうか?あのように図体が大型すぎてはレーザー級の餌食にされるのでは?」
と、眼帯の先公が問うも、早乙女は不気味な笑みでこう言い返す。
「おろかな……ゲッターの装甲をただの格安生産金属素材だと思っていたのか?ゲッターの動力源はゲッター線という未知の地球外エネルギーじゃ。そのエネルギーを物質化して構成されたゲッターの装甲は奴らのレーザーをも吸収してしまい、それどころかゲッターの攻撃エネルギーへと変換してしまう。奴らのレーザー攻撃はゲッターに餌をやるようなものよ?」
「……?」
しかし、そんな馬鹿げたチートだらけの話にさすがの先公は疑って呆れていた。やはり、爺の技術力はとてつもなく非常識すぎたのだ。
「まぁ……いずれ実戦がきたらお見せしよう?本当ならゲッタービームの砲撃を披露してやりたかったのだが、下手したら帝都が半壊しまいかねないため今日のところは遠慮しておこう」
「ゲッターロボ……」
唯衣は、目の前の分子合体ロボを見上げて怪訝な表情になった。それは、周囲の学徒たちも同じであった。
放課後、俺はバイクに跨り下校する唯衣と友人ら数名を見かけた。
「よう!唯衣?」
隣へバイクで近寄る俺に唯衣と友人らが振り向いた。
「あ、黒銀様?」
「今から帰るところか?」
「ええ、そうですけど?」
「乗っていくか?」
「お気持ちはありがたいのですが、今度こそ母に見つかったら大目玉を食らいますもの」
「あ……そうか、そうだったな?」
確かに栴納さんは怒ったら怖そうなご婦人だ。これ以上無茶をするのはよそう。
「ねぇ唯衣?この人が唯衣と同居している黒銀さん?」
そんな中、唯衣の友人の一人が彼女に問う。
「ち、違うよ!その……同居人の人なの」
「へぇ?同居人か……」
と、もう一人の友人……コイツ、たしか昨日赤城の鼻チョウチンをわったチビスケじゃねぇか?
「……」
そいつは、俺にアップで様ってジロジロと宥めてきた。
「な、何だよ……?」
すると、彼女はニッと笑って、
「人相が悪そうだけど、なかなかカッコいいじゃん!唯衣にピッタシ♪」
「ち、ちがいます!私と黒銀様は……ただの御友人で」
「う、うん……友人ね?」
俺も苦笑いして頷いた。
俺は、一足先にバイクで篁宅へ帰り単車は光学迷彩のカバーにかぶせた。これも、昨日研究所から持ってきたものの一つである。
バイクを隠し終えると、早々に小屋へ戻って大の字になった。大抵ここへ帰ってきてやることといったら大の字になってうたた寝することしかすることがない。
……あ、そういえば最近風呂に入ってねぇな?この世界に来てからは研究所のシャワー室をつかってきたが、風呂に入ったことはない。下町とかに行きゃあ銭湯の一つや二つぐらいあるだろう?
俺は、再び光学迷彩シートをバイクから外して下町へ向かい、そこへお馴染み長煙突の銭湯を見つけ、そこで一っ風呂浴びてから小屋で寝た。
*
時を同じくして、御三家煌武院家宅にて
「夜分、お呼び出し申し訳ございません……」
悠陽の目の前には陸軍技術部門の岩田中佐と、女性将校の二名が日米共同計画「XFJ計画」についての申請を申しだしていた。
「これが、今回日米共同で行われるXFJ計画の……」
と、巌谷が悠陽へ計画書を手渡そうとした矢先、
「待てぃ!!」
と、障子を蹴り破って一人の白衣を着た老人が飛び出してきた。
「さ、早乙女博士!?」
巌谷は目を丸くして自分同様に悠陽へ計画書を渡す早乙女を見た。
「まぁ……早乙女の御爺様?」
突然の乱入に悠陽も目を見開いた。ちなみに、彼女にとって早乙女は祖父のような親しい存在で、早乙女も彼女を孫娘のように可愛がっている。
「大きくなったなぁ?あ……先日、黒銀のドアホが悠陽にエロいことしたようでわるかったのう?その後わしがあ奴にブレーンバスターをお見舞いしてやった(逆にやられた)」
「いえ、あの夜はとても面白くございました。また、あの素敵な殿方とお会いしたいですわ?」
「ははは……ま、話しはさておき……」
「博士!殿下は今、私共と取り込み中なのですよ!?」
強引に割り込んだ早乙女に、いくら朋輩ともこれは譲れない巌谷であった。しかし、早乙女も巌谷と同じである。
「たわけぃ!あんなモヤシよりも、ゲッターが最優先じゃい!!」
と、悠陽にゲッターの計画書を手渡した。
「今後、アラスカのユー何たらっちゅう基地で行う新型のゲッターロボによる試験運用計画じゃ」
「新型のゲッター?従来のプロトタイプとは違い何か特徴でも?」
「従来のゲッタータイプはゲッター線を約100%以上しか引き出すことができずにいたが、今回の新型ゲッターロボ「真ゲッター」に関してはゲッター線をなんと500%に……いや、本気を出せば1000%以上も引き出すことができる。まさに、BETAのインベーダー共の天敵となりうる存在となる。いや、それ以上の存在となるじゃろうて?」
「それは頼もしき味方ですこと?して……パイロットは?」
「真ゲッター1を黒銀紅牙、続いて2を神威疾風、そして3を紫電赤城が担当する」
「く、黒銀さまを!?」
悠陽は、黒銀を聞いて立ち上がった。そこには、いつもの華やかな御三家の皇女とはちがう別の悠陽であった。
「む?どうした?」
「……紅牙様も、行かれるのですか?」
「そうじゃが、あの若造に何か?」
「い、いえ……何でもございません」
「……」
早乙女は、わかっていた。彼女が、悠陽が紅牙に一目惚れしていることが。
「大丈夫じゃ!あ奴はああ見えてタブじゃ?おぬしも見たであろう?あ奴が素手で戦術機を倒すシーンを……」
「せ、戦術機を素手で!?」
続いて立ち上がったのは巌谷達の方であった。あの、江戸っ子の若僧がまさか素手で戦術機を倒してしまうほどの人間だったのは思ってもみなかっただろう?
後に、双方の計画は無事の申請の許可を得られ、早乙女と巌谷の双方はよき?ライバルとなったのだ……
「紅牙様……」
縁側から月を眺める悠陽は、ふと思いを寄せるあの青年の姿を思い浮かべた。
*
それから数か月間、俺は唯衣の家から訓練校へ通った。神威のやつも最初は否定的だったが徐々にここの学徒たちを受け入れていき、赤城も学徒の女子たちからマスコット的に親しまれていった。しかし、彼女はゲッターだけは毛嫌いしていたようである。ま、無理もない。
「くっそ!帰りが雨なんて……」
「予報が、外れてしまいましたね?」
とある日、唯衣をバイクに乗せて帰宅中のところ、帰りに激しい雷雨に見舞われてしまい、俺たちは無人のバス停によってしばしの間雨宿りをしていた。
「今日は、本当についていないぜ?山城のやつにしつこく説教されるわ、真田の眼帯先公にどやしあげられるわ、そして帰りがこの雨かよ?こいつぁ、栴納さんに大目玉くらいそうだ……」
「怒られるなら、私もご一緒ですよ?」
そう苦笑いして唯衣が慰めた。
「ま、早いとこ帰らねぇとな?門限は五時だったか?」
「はい……あ、もう遅いかも?」
唯衣が腕時計に目を通すが、すでに針がさす場所は五時を過ぎていた。
「すまねぇ……バイクに乗せたはいいが、こんなことで」
自分が唯衣をバイクに乗せて帰れば間に合うと思ったからした行動だった。しかし、こんな悪天候に見舞われてしまえば、むしろ逆効果だ。
「いいえ?最近は天気の移り変わりが激しいので黒銀さまの責任ではございませんよ?」
「へへ、そうかい?」
照れくさそうに俺はそっぽを向いた……刹那。
突如激しい雷鳴と稲光が二人を襲い、唯衣はそれに驚いて俺の胸に飛び込んでいた。
「いぃ!?」
真っ赤になる俺は、長ランの黒い上着の胸元付近に顔をうずめる唯衣を見上げていた。
「ゆ、唯衣……ちゃん?」
「はっ……も、申し訳ございません!私としたことが、何てはしたないこと……」
唯衣も顔を真っ赤に染めてそっぽを向いた。何だ、ああ見えて雷が怖いとかっていう女の子らしい可愛い部分もあるんだ。学校じゃ文武両道っつう俺の大嫌いなタイプだけど、こういう一面もあるっていうなら嫌いじゃないな?
「でぇじょうぶだ。屋根あるところにいる限り落雷に当たるこたぁねぇよ?」
「そ、そうですね……えへへ」
そのあと、雨は止んで気付いたころには夕方の六時だった。当然俺たちは栴納さんに大目玉をくらった。もちろん唯衣も同様に。しかし、天候の悪化のためという理由もあってから、今晩の夕飯は抜きの刑は免れることができた。
そして、それからというもの唯衣と俺の距離は徐々に縮まっていった。こうして俺たちはやく半年を過ごした。しかし、訓練の最中戦術機の不具合が発生し、滑走路への墜落事故が起こった。当然パイロットの学徒は事故死である。さらに訓練のつらさに耐えきれずにここを出て行く仲間もいた。
「いいのかよ?」
屋上で、校門を出て迎えのリムジンに乗る学徒を見届ける俺が、ほかの二人に尋ねた。
「これから地獄が始まるんだ。だったら、ここでやめさせてやった方がむしろ親切だ」
と、疾風。
「そうだな?それにやめたらやめたでそれがあの娘の人生だ。俺たちがどうこう言う権利はないよ?」
赤城の言うことももっともだ。
そして、来る日がやってきた……
とある嵐に夜に、学校の学食の部屋で一人の学徒、和泉が泣き崩れていた。話によると、九州で防衛にはいっていた彼氏がBETAの襲撃を受けて戦死したという。そんな悲しむ学徒の足元にはいつも肌身離さず首にかけていた彼氏と本人が映る写真の入ったペンダントを俺は拾い上げた。
「ん?コイツ、どっかで見たような……」
ペンダントの写真に写る彼氏のツラ、確か九州支部の研究所へ二人と見学に行ったときに疾風と同じゲッター2の担当をしていた……?
*
そして六月、俺達はついにBETAとの実戦へとゲッターともに投入されることとなる。俺達ゲッターチームは、嵐山中隊と共に帝都の防衛戦を担当するとのことだ。未だゲッターは軍に過小評価されているらしく各地でゲッターの出撃要請は無いに等しかった。
九州地方がBETAに占領されたのもそのせいだ。一様その支部の研究所とゲッターは健在なのが幸いだった。
ま、俺らのところは爺が軍の連中を脅してでも強制的に出撃をさせてくれたらしい。
「いいか!まだ、訓練もまともに終えてもいない貴様らは実戦へ出ても足手まといに過ぎん!」
赤い塗装機に乗るらしい女隊長がそう言い張っていた。塗装が赤というのなら、おそらく上級の武家だろう?
「テメェらが足手まといなんだよ……」
と、そこへ疾風が割って出てきた。自分たちも足手まといなのかと思ってキレたのだろう?
「何を?貴様……確かあのゲッターチームの一人か?フン、九州の占領事態は貴様達が早期に出撃をしなくても状況は変わらなかったはずだ」
「あんなモヤシにのって何ができる?軍の雌豚が……」
「き、貴様ぁ!」
隊長は疾風に拳を振るうが、それを軽々と交わして逆に疾風が殴り返した。
「隊長っつうなら、拳の一発やそこら軽くかわして見せろ?」
そういうと、疾風は俺たちの元へ戻っていった。本来なら独房行きの行為だが、爺の口止めで始末書ですむことだ。
そして……嵐山補給基地から複数の戦術機の編隊と三つのゲットマシンが飛び立っていった。
これが、俺の最初の戦いでこれから続く長い地獄の始まりであった……
後書き
選ばれし三人の獣が、ゲッターを駆りBETAを狩る。三匹よ、理由なき侵略者を殲滅せよ!!
次回、「燃え上がれ!帝都・後編」
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