野原で
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2部分:第二章
第二章
「今はな。生きていられるだけでもな」
「そうだべな。考えてみれば」
おゆりも彼の言葉に頷くしかなかった。頷くしかできなかった。
「今はな」
「だから。食べられるものがあるだけでもよしとするだ」
「おら達も子供達もだべな」
「飢え死にするよりはずっといいだ」
「そっだな。それであんた」
「今度は何だべ」
「野原の草だけんども」
彼女はここで村の外れにあるその野原の草のことを話してきた。
「あれ、使えるらしいべ」
「使える?食えるだべか」
「流石にそれは無理だけんども」
「そっか」
食べられないと聞いてまずは落胆した唐兵衛だった。しかしおゆりの話はまだ続いた。
「んだどもな」
「んだども?」
「火には使えるらしいべ」
こう言うのだった。
「どやら。使えるらしいべ」
「そういえばそっだか」
唐兵衛は火に使えるということには納得した顔で頷いた。実は今は薪すらも少なくなってきているのだった。食べるものに窮すれば自然と他のものにも及ぶのだろうか。
「そっだらちょっと」
「んだ。火に使わせてもらいに行くだべか」
「そっだな。おらちょっと今から言って来るべ」
こう女房に告げた。
「それで採れるだけ採って来るだ」
「いや、あんただけじゃなくておらも行くだ」
ところがおゆりはここで自分も行くと言ってきた。
「おらも。それでええだべな」
「御前も行くだべか」
「火に使えるのは多い方がいいだべ?」
「確かにそうだべが」
「だったら。おらも行くだ」
一人より二人ということだった。
「だから。二人でな」
「わかっただ。それにひょっとしたら何か食べるもんが見つかるかも知れないだな」
「そうだべな。何か見つかればそれでいいだべ」
これはあまり期待してはいなかったがそれでも言わずにはいられなかった。
「そんでな」
「じゃあ。二人でな」
「行くべ」
そんな話をしてから鎌と縄、それに背負う為の籠まで持って二人でその野原に向かうのだった。村の外はもう暗くなっていて月さえ見える。その月も白く朧で弱々しいものに見える。
だが二人はその月は今は見ずに。ただその野原に向かった。野原では草が生い茂り他には何もなかった。唐兵衛はその草達を見たうえで隣にいる女房に声をかけた。
「んだらこの草をだな」
「そうだべ。刈り取ってな」
「火に使うとするだ」
こう話したうえで鎌を手に取ってそのうえで草を刈り縄でまとめていく。そうして幾束か作ったところで。不意に唐兵衛は声をあげたのであった。
「何だべこれは」
「どうしただか?あんた」
「いや、これは」
足元にあるものを見つけたのだった。それは。
おゆりも彼のところに来て彼の足元を見た。見ればそれは骸骨だった。しゃれこうべが一つそこに転がっていたのであった。
二人はそれを見て首を傾げた。村で死んだ人間は村の墓に埋められるからだ。それはこの野原とは正反対の方角だ。こんな場所にしゃれこうべが転がっている筈がないのだ。
だからこそ首を傾げさせてしまい。そのうえで言うのだった。
「なしてこんなところに?」
「さあ」
おゆりも夫の言葉に首を捻るばかりであった。
「なしてだろうね。これは」
「とりあえずどうすっだ?」
唐兵衛はそのしゃれこうべを見下ろしながら女房に問うた。
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