遊戯王GX-音速の機械戦士-
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―封印されし―
エドに亮がオブライエンと合流した時、異世界のとある洞窟では。眼鏡をつけた理知的な青年がマント姿で佇んでいた。
彼の名はアモン・ガラム。先のプロフェッサー・コブラのデスデュエルの騒ぎや、砂の異世界におけるデュエルゾンビの騒ぎの時にも裏で暗躍を果たし、今最もこの一連の事件に詳しい人物だった。しかし、彼は事件の収拾などにはまるで興味はなく、彼自らの目的で異世界をさまよっていた。
「ようやく見つけたぞ……」
その洞窟の奥には祠があった。何かが祀られているような、それとも何かが封じられているような、とにかく神格化されたような何かが潜んでいるような。アモンの目的はこの祠の発見であり、ようやく見つけたその祠にアモンはそう独り言を呟いた。そしてデュエルディスクから五枚のカードを取り出すと、その祠に向かってかざしだした。
「長き封印から目覚めよ! 《エクゾディア》!」
……祠にかざした五枚のカードとは、かの伝説のカード群《エクゾディア》。砂の異世界において加納マルタンに取り憑いたユベルが、アモンへと託した――いや、必要がなくなったから置いていった、か――カードたちだ。カードたちは言わば封印を解除するカードキーであり、それをかざされた封印の祭壇から地響きが鳴り響いていく。
――その祭壇に祀られていたのは、まさしく《エクゾディア》そのものだった。
「うっ……」
一瞬。その洞窟全体に、目も開けてられないほど光が瞬いたかと思えば、アモンが持っていたカードが五枚から増えていた。エクゾディアパーツしかなかった筈の五枚から、二枚増えた七枚のカードへと。
「……ふ、ふはははは! やったぞ!」
その七枚のカードを見ると、柄にもなくアモンは誰もいない洞窟で高笑いを響かせる。エクゾディアを解放する儀式は成功したのだと、そう確信しながら。
「…………ん?」
アモンは思うさま高笑いした後、洞窟に自分以外の誰かが入ってくる気配を感じた。つい数秒前の自分を自省しながら、アモンは侵入者の正体を見破るべく洞窟の出口を伺った。
「お前は……」
さて、覇王軍か原住民か。覇王軍ならばエクゾディアの供物にするのも悪くはない――と考えていたアモンにとって、そこにいた人物は予想外の人物だった。マントのようにも見える、青い制服姿の青年――
「……黒崎遊矢、だと?」
――黒崎遊矢だった。アモンは少しだけ首を傾げた後、ニヤリと笑って遊矢へと話しかけた。もはやデュエル・アカデミア本校で被っていたような、優等生という名の仮面も必要ない。
「どうした? 君も仲間を救う為にでも、エクゾディアの力を得に来たのか?」
黒崎遊矢の身に降りかかった出来事を、アモンは大体のことは把握していた。いや、遊矢のことだけではなく、十代たちのことでさえも。エクゾディアの為の情報収集をする傍ら、嫌でも異世界から来た人間たちの情報が入ってきたからだ。
「いや、違うな」
デュエル・アカデミアで一度デュエルをした際とは、まるで雰囲気の違う遊矢の言葉にアモンは少し驚いたが、その後の遊矢の行動で気を引き締めざるを得なかった。何故なら遊矢は、アモンの前でデュエルディスクを構えたからだ。
「お前からエクゾディアの力を……奪いに来た」
「……身の程知らずが」
そう言いながらデュエルディスクを構える遊矢に、侮蔑の意味を込めてアモンはそう吐き捨てる。それでも、調子にのった者をエクゾディアの供物にせんと、アモンもまたデュエルディスクを構え直す。彼にも、せっかく手に入れたエクゾディアの力を試したい、という思いもあったからだ。
『デュエル!』
遊矢LP4000
アモンLP4000
「僕の先攻」
デュエルディスクの選択によって、先攻を手に入れたのはアモン。そのデッキは以前まで使用していた【雲魔物】ではなく、先程解放したエクゾディアの力を活用するデッキとなっていた。
「僕はモンスターをセット。カードを二枚伏せ、ターンを終了する」
「俺のターン、ドロー」
しかしてアモンはあまり動くことはせず、モンスターと伏せカード、合計三枚のカードをセットしてターンを終了する。そして遊矢のターンへと移行すると、遊矢は一枚の魔法カードをデュエルディスクにセットする。
「俺は儀式魔法《高等儀式術》を発動」
「……何?」
さて、どんな下級モンスターかそれともシンクロか。そう考えていたアモンの予想は裏切られ、発動したカードは儀式魔法《高等儀式術》。デッキから選ばれた二枚の通常モンスターを触媒に、儀式モンスターがフィールドへと降臨する。
「なんだ、機械戦士は捨てたのか?」
「……降臨せよ、《破滅の女神ルイン》!」
――アモンの問いに答えることはなく、遊矢は《破滅の女神ルイン》を儀式召喚させていた。
「バトル! 《破滅の女神ルイン》でセットモンスターを攻撃!」
「セットモンスターは《エア・サーキュレーター》だ。破壊された時、カードを一枚ドローする」
《破滅の女神ルイン》が持つ杖から発せられた光が、アモンのフィールドにセットされていた裏側モンスターを照らし出す。そして、そのまま破壊には成功するものの、《エア・サーキュレーター》の効果が発動される。裏側守備表示での召喚だったため、第一の手札交換効果は活用出来なかったが、破壊時のカードをドローする効果は発動する。
「だが《破滅の女神ルイン》が戦闘で相手モンスターを破壊した時、もう一度だけ続けて攻撃出来る! ダイレクトアタック!」
「リバースカード、《ガード・ブロック》を発動! 戦闘ダメージを0にし、その後カードを一枚ドローする」
負けじと遊矢も《破滅の女神ルイン》の効果、戦闘破壊時の連続攻撃効果を活用するものの、アモンの伏せていた罠カード《ガード・ブロック》に防がれてしまう。しかもただ防がれただけではなく、アモンにカードをドローさせるという結果までもついてきて。
「ターンエンド」
「ふん……僕のターン、ドロー!」
結局、遊矢のターンはアモンの手札交換を手助けするだけに終わる。アモンのデッキは先に戦った【雲魔物】ではないことは明白であり、状況から見て恐らく【エクゾディア】。このまま手札を交換させてしまっていては、遊矢は怒りの業火によって無条件に敗北する。
「僕は《終末の騎士》を召喚する」
手札交換によって潤沢な手札から召喚されたのは、闇属性を司る《終末の騎士》。赤いマントをたなびかせながら、《破滅の女神ルイン》へと剣を向ける。
「《終末の騎士》が召喚された時、デッキの闇属性モンスターを墓地に送る。僕が墓地に送るのは……《封印されしエクゾディア》!」
「なに!?」
伝説のエクゾディアパーツの一角。それがあっさりと墓地に送られる。しかし闇属性で低ステータス、という要素からサルベージも容易であり、完成まで一歩近づいたと言える。
――だがアモンの戦術は、遊矢の想像を越えていた。
「さらに僕はフィールド魔法《霧の王城》を発動し、《終末の騎士》で攻撃する!」
「……迎撃しろ、ルイン!」
アモンの背後に、まるで蜃気楼のように揺らめく城が現れたのを警戒する間もなく、《終末の騎士》が《破滅の女神ルイン》へと攻撃を仕掛けた。いくら《破滅の女神ルイン》の攻撃力が低めと言えども、流石に下級モンスターである《終末の騎士》程度には破壊されない。
ルインの光があっさりと終末の騎士を破壊すると――《霧の王城》を象っていた霧が、その騎士としての姿を復活させていき、いつしかフィールドに《終末の騎士》がそのままの姿で特殊召喚されていた。
「《霧の王城》の効果。僕のモンスターが破壊された時、他のモンスターゾーンを一つ使用不能にすることで、そのモンスターを特殊召喚する」
「……っ! だが戦闘ダメージは……」
そこまで言いかけておいて遊矢は気づく。アモンのライフがダメージを受けるどころか、ただ回復しているということを。
「さらに僕は《レインボー・ライフ》を発動していた。手札を一枚捨てることで、このターン受けるダメージを全て回復に変換する。さらに《終末の騎士》の効果を発動!」
アモンLP4000→4900
《破滅の女神ルイン》との戦闘ダメージ分、アモンは初期値からライフを回復させていき、さらに特殊召喚に成功した為に《終末の騎士》の効果が発動する。その効果で墓地に送るカードはもちろん――
「――《封印されし者の右腕》を墓地に送らせてもらう」
「くっ……!」
アモンの墓地に、2枚目のエクゾディアパーツが墓地に送られる。それを遊矢に止める方法はなく、ただそれを黙って見ていることしか出来ない。もちろん《レインボー・ライフ》を使ってる上に、アモンがここで止める理由は何もない。
「もう一度だ。《終末の騎士》で攻撃!」
――それは《霧の王城》の効果で、アモンのモンスターゾーンが使用不能になるまで続いた。エクゾディアパーツは全て墓地に送られ、《レインボー・ライフ》の効果によって、アモンのライフは着々と回復していく。……《破滅の女神ルイン》の攻撃力が低かったのが幸いか。
「最後に《シャドール・ビースト》を墓地に送る。このモンスターが墓地に送られた時、カードを一枚ドローする」
アモンLP4900→7600
最後に、墓地に送られた際にカードを一枚ドローする効果を持つモンスター、《シャドール・ビースト》を墓地に送って《終末の騎士》は復活を止める。本来ならばモンスターがいるはずのアモンのフィールドは、《終末の騎士》がいた証明のように五つの火が灯っていた。
「カードを一枚伏せ、ターンを終了する」
「……俺のターン、ドロー!」
《霧の王城》の効果によりモンスターゾーンは埋まり、アモンのフィールドを守っているのは、だったの伏せカード一枚のみ。もちろんエクゾディアパーツを全て墓地に送っただけ、などということがあるわけもない。その証拠といっては何だが、意味ありげにアモンのモンスターゾーンには火が灯されている。
「俺は《高等儀式術》を発動!」
デッキから二枚の通常モンスターを墓地に送り、遊矢は《破滅の女神ルイン》に続き新たな儀式モンスターを降臨させる。この状況を好転させるためのキーカードを。
「降臨せよ、《終焉の王デミス》!」
《破滅の女神ルイン》と対をなす儀式モンスター、終わりの意味を持つ《終焉の王デミス》が降臨する。ルインがその威光で正面から敵を制圧するならば、デミスは圧倒的な能力で敵を戦うまでもなく制圧する。
「《終焉の王デミス》の効果を発動! 2000ポイントのライフを払い、全てのフィールド上のカードを破壊する!」
「ほう……」
遊矢LP4000→2000
《霧の王城》やアモンの狙いなどは分からないが、こうなれば全て吹き飛ばすのみ。デミスは相棒たる存在のルインを含め、フィールドの全てのカードを破壊していく。《霧の王城》にアモンの伏せカード――《補充要員》――もだ。
「さらにデミスでダイレクトアタック!」
「墓地から《ネクロ・ガードナー》を除外することで、その戦闘を無効にする」
《レインボー・ライフ》の効果で墓地に送っていたか――というあたりを遊矢はつける。《ネクロ・ガードナー》によってデミスの攻撃は防がれ、何もなくなったフィールドでデミスは1人たたずんだ。
「カードを一枚伏せ、ターンエンド」
「僕のターン、ドロー」
遊矢のライフは2000にアモンのライフは7600と、そのライフポイントは雲泥の差であるものの、遊矢のフィールドには《終焉の王デミス》がいる。《霧の王城》が破壊されたため、アモンのフィールドは再び使用可能になったものの、エクゾディアデッキにデミスを破壊する手段はない。
その状況でアモンは――静かに笑っていた。
「君で実験させてもらおうか……エクゾディアの力を。僕は儀式魔法《エクゾディアの契約》を発動!」
アモンが発動したのは、遊矢の《高等儀式術》と同様のカテゴリーを持つ儀式魔法。《エクゾディアの契約》と呼ばれるそのカードは、禍々しい殺気を孕んでいた。
「この儀式魔法は少し変わっていてね。モンスターをリリースするのではなく、ライフを2000ポイント供物とする」
アモンLP7600→5600
皮肉にも遊矢の《終焉の王デミス》と同様に、アモンの儀式魔法の発動条件は2000ポイントのライフを支払うこと。その違いは《レインボー・ライフ》によるライフの違いか、アモンはそれだけの供物を支払おうが、未だに初期ライフにすら劣っていない。
「死を司る封印されし王よ。今こそその力を解放し、刃向かう者を平伏せ! 降臨せよ、《エクゾディア・ネクロス》!」
――それは伝説の魔神の裏側の姿。死した魔神がその力によって蘇り、封印されし能力をフィールドにて振るう。洞窟全体を覆うような殺気がフィールドに満ち、《終焉の王デミス》をまるで子供のように睥睨する。
「エクゾディア……!」
その攻撃力は僅か1800と下級モンスタークラスだったが、そのステータスのみで判断出来るほど、遊矢は楽観的ではない。
「バトルだ、《エクゾディア・ネクロス》! エクゾディア・クラッシュ!」
「デミス!」
《破滅の女神ルイン》と《終末の騎士》との戦闘の時のように、「迎撃しろ」などと言うことは出来なかった。ステータスが劣っているにもかかわらず、それだけの迫力があの《エクゾディア・ネクロス》にはあり、その迫力は実際の驚異となって遊矢を襲う。
「《エクゾディア・ネクロス》には、墓地に眠る5つのエクゾディアパーツに秘められた5つの効果が備わっている。《封印されし右腕》の効果により、戦闘時にその攻撃力を1000ポイントアップさせる!」
《終末の騎士》と《霧の王城》によって、エクゾディアパーツを墓地に送っていたのはこのため。サルベージによる決着を狙うのではなく、アモンはエクゾディアの力を最大限に使うため、このデュエルを実験台に仕立て上げていたのだ。
「ぐっ……!」
遊矢LP2000→1600
《エクゾディア・ネクロス》はその攻撃力を2800ポイントに上げ、右腕で《終焉の王デミス》を軽々と握り潰す。その余波で遊矢の身体に衝撃波が飛ぶが、なんとかその場に留まった。
「フッ……そう簡単に倒れないでくれよ? ターンエンドだ」
「……俺のターン、ドロー!」
アモンのフィールドに現れた《エクゾディア・ネクロス》により、フィールドの状況は完全にアモンの優勢に移行する。遊矢が勝っているものと言えば、リバースカードの枚数ぐらいか。……それも僅か一枚だが。
「俺は《闇の量産工場》を発動! 墓地から通常モンスターを二枚、手札に加える」
それでも遊矢とて、《エクゾディア・ネクロス》にただ蹂躙されるだけではない。通常モンスターを二枚サルベージするカード、《闇の量産工場》によって二枚の通常モンスター――《高等儀式術》によって墓地に送られていたカードだ――を手札に加え、さらにそのモンスターをアモンに向かってかざす。
まるで魔法カードを発動するかのように。
「俺は……スケール7の《イグナイト・ドラグノフ》と、スケール2の《イグナイト・マスケット》でペンデュラムスケールをセッティング!」
「ペンデュラムだと……!?」
遊矢が発動した二枚のカードは、異世界の技術であるペンデュラムモンスター。重火器を持った炎の戦士たちがペンデュラムスケールを構築していくのを見ると、流石のアモンもその光景に驚きを隠せていなかった。
「異世界の悪魔にでも魂を売ったか……?」
「ペンデュラム召喚! 現れろ、モンスターたち!」
左右の赤と青の光の柱が延びていき、その上に現れた魔法陣から二体のモンスターがペンデュラム召喚された。一体は左のスケールに配置されたモンスターと同じく、狙撃銃を持った炎の戦士《イグナイト・ドラグノフ》。もう一体は幸運を呼ぶ青い鳥のような姿をした鳥獣族、《スピリチューアル・ウィスパー》。どちらもレベル4のモンスターだった。
「《スピリチューアル・ウィスパー》がペンデュラム召喚に成功した時、デッキから儀式モンスター、または儀式魔法を手札に加えることが出来る。俺はデッキから、《破滅の魔王ガーランドルフ》を手札に加える」
ペンデュラム召喚に成功した時、儀式モンスターか儀式魔法をサーチする。その《スピリチューアル・ウィスパー》の効果が発動し、幸運を呼ぶ青い鳥はその逸話通りにカードを運ぶ。
「儀式魔法《破滅の儀式》を発動! フィールドのレベル4モンスター二体を素材に降臨せよ! 《破滅の魔王ガーランドルフ》!」
フィールドの二体のモンスターを素材に、さらなる儀式モンスター《破滅の魔王ガーランドルフ》を儀式召喚する。先の《終焉の王デミス》とは違う、また違った雰囲気を纏った破壊神。
「《破滅の魔王ガーランドルフ》が儀式召喚に成功した時、その攻撃力以下の守備力を持つモンスターを全て破壊する!」
その効果は《終焉の王デミス》と同様の全体破壊効果。問答無用で全てを破壊するあちらに対し、多少の使いづらさはあるものの、いずれにせよ全体破壊効果は強力なもの。戦闘を介するごとに、無限に攻撃力を上げていく《エクゾディア・ネクロス》だったが、その守備力は僅かどころか0。
《破滅の魔王ガーランドルフ》を封じ込めていた鎖が解き放たれ、封印が解除されたことにより放たれた、その両腕から高出力の光線が《エクゾディア・ネクロス》を焼き切る勢いで発射される。
「『王』にその程度の力は通用しない……」
アモンが静かにそう言った通りに。ガーランドルフが渾身の力を込めて放った一撃は、《エクゾディア・ネクロス》にとって何の意味もなさない一撃だった。まるで人間が蚊に刺された時のような、その程度の俗事にしか過ぎない。
「墓地の《封印されし者の左腕》による効果。このカードはモンスター効果では破壊されない」
「……ターン終了だ……」
アモンの言をそのまま信じるのならば、《エクゾディア・ネクロス》は、墓地に眠る5つのエクゾディアパーツに秘められた5つの効果が備わっている。右腕が攻撃力を上げていく効果、左腕がモンスター効果への耐性。そうなれば、自ずと他の三つのパーツの効果も見えてくるというものだが、それが分かっただけでは何の意味もなさない。
大事なのは効果の予測をすることではなく、そのモンスターの効果を突破すること。もっとも簡単な突破法は、墓地のエクゾディアパーツを除外することだが、除外デッキでない限りいつでもそんなカードはデッキに入っていない。墓地のモンスターを除外する儀式モンスターがいない以上、遊矢には墓地へ介入する手段はなかった。
「僕のターン、ドロー。フフ……打つ手なしか?」
アモンの挑発に遊矢は、何も言うことはないとばかりに無言で返す。そんな遊矢の態度をつまらなさそうに鼻で笑うと、アモンは遊矢のフィールドに残る一枚の伏せカードを警戒せず、あっさりとエクゾディア・ネクロスに攻撃を命じる。
「《エクゾディア・ネクロス》で《破滅の魔王ガーランドルフ》に攻撃! エクゾディア・クラッシュ!」
「伏せてあった《ガード・ブロック》を発動! 戦闘ダメージを0にする!」
アモンも初期のターンに使っていた汎用罠カード、《ガード・ブロック》によって生じたカードたちが遊矢への戦闘ダメージを防ぎ、そのうちの一枚が遊矢の手札へと加わる。ただし攻撃力をさらに1000ポイント加え、攻撃力3800となった《エクゾディア・ネクロス》に対し、《破滅の魔王ガーランドルフ》は見るも無残な状態で破壊されていた。
「せいぜいそのまま足掻いてみせるんだな。カードを一枚伏せ、ターンを終了する」
「俺のターン、ドロー! ……魔法カード《貪欲な壺》を発動し、デッキに五枚のモンスターを戻して二枚ドロー!」
ガーランドルフが破壊されたことに何ら感情を見せることはせず、遊矢は墓地に溜まっていた儀式モンスターをデッキに戻し、《貪欲な壺》によりカードを二枚ドローする。遊矢のフィールドには、ペンデュラムゾーンに二体のモンスターが配置されており、今の状態ならばレベル3から6のモンスターが同時に召喚可能。ただし、儀式モンスターをペンデュラム召喚することは不可能だが。
対するアモンは攻撃力3800の《エクゾディア・ネクロス》に、一枚のリバースカード。さらに5000を超えるライフポイントとまさに磐石。その表情は余裕を崩そうとしないながらも、油断なく遊矢の一挙手一投足を観察していた。
すると、遊矢の背後にあった赤と青の光の柱と魔法陣が光輝く。……ペンデュラム召喚の準備だ。
「再びモンスターをペンデュラム召喚!」
先の召喚と同じく、遊矢のフィールドに二体のモンスターが特殊召喚される。一度フィールドに整えてしまえば、あとはいくらでも発現するのがペンデュラム召喚の強みである。
「エクストラデッキから《イグナイト・ドラグノフ》! 手札から《スピリチューアル・ウィスパー》!」
先のターンと全く同じ布陣。違うところを挙げるとすれば、《イグナイト・ドラグノフ》がエクストラデッキから現れた、というところか。エクストラデッキから半永久的に現れることにより、儀式召喚の触媒が常に用意出来る。さらに《スピリチューアル・ウィスパー》がペンデュラム召喚に成功したため、儀式モンスターまたは儀式魔法のサーチを可能とする。
「《スピリチューアル・ウィスパー》により《大邪神の儀式》を手札に加え、そのまま発動する!」
《スピリチューアル・ウィスパー》が運んできた儀式魔法を発動すると、やはりフィールドの二体のモンスターを素材にし、新たな儀式モンスターを降臨させる。
「守備表示にて降臨せよ、《大邪神レシェフ》!」
まるで巨大な機械のようなモンスターが降臨したものの、《エクゾディア・ネクロス》を恐れるように守備表示の体勢を取る。もちろん、ただ壁にするために儀式召喚をしたわけではなく、その邪神としての効果を発揮する。
「《大邪神レシェフ》の効果を発動! 手札の魔法カードを捨てることで、相手モンスターのコントロールを奪う!」
「なにっ……!?」
遊矢の取った手段はコントロールの奪取。幾つもの効果を持つ《エクゾディア・ネクロス》と言えども、モンスター奪取効果を防ぐことは出来ないと考えたからだ。その予想はまさしく正しく、モンスター効果による破壊への耐性を持った《エクゾディア・ネクロス》もコントロール奪取への耐性はなく、自分のフィールドならばどうにでもなる――のを、アモンが対策していない筈もない。
「リバースカード、オープン! 《スキル・プリズナー》!」
アモンのフィールドに伏せられていたリバースカード。それが表側表示を見せると、《エクゾディア・ネクロス》の前に光のバリアのようなものが張られ、《大邪神レシェフ》の効果を完全に防ぎきる。
「《スキル・プリズナー》は、モンスター一体を対象にした効果を無効にする!」
「つまり《大邪神レシェフ》の効果は……」
「無効となる」
《大邪神レシェフ》の効果が防がれた上に、遊矢にとって驚異なのはそれだけではない。《大邪神レシェフ》を守備表示で召喚したように、遊矢にとってコントロール奪取効果をアモンが対策してくることは想定内だった。問題なのは、その対策に使われたのが《スキル・プリズナー》――墓地で再発動が可能な罠カードだということ。
もう一度《大邪神レシェフ》の効果を使おうと、《スキル・プリズナー》が墓地にいてはまた無効にされるのみだ。
「……ターン、終了」
「僕のターン、ドロー。……《大邪神レシェフ》を蹴散らせ、エクゾディア・クラッシュ!」
アモンはドローしたカードを見て手札に加えると、即座に《エクゾディア・ネクロス》へと攻撃を命じる。その攻撃力は《大邪神レシェフ》への攻撃で、《封印されし者の右腕》の効果により4800にまで達する。
「墓地から《祝祷の聖歌》を除外することで、儀式モンスターの破壊を無効にする!」
遊矢のフィールドにはもう伏せカードすらなかったが、《大邪神レシェフ》の効果が対策された時のための次善策として、効果コストとして墓地に送っていた《祝祷の聖歌》が効果を発揮する。儀式モンスターが破壊される際、そのカードを除外することでその破壊を無効にするという効果を持つ。
「なかなかしぶとい……エクゾディアの力は分かった、そろそろトドメを刺してやる。カードを一枚伏せ、ターンエンド」
汎用の儀式モンスター程度で抵抗する遊矢に、アモンは少し苛立ちながらターンエンドを宣言する。まだエクゾディアの力を手に入れたばかりで、デッキがアモンの手足になっていない以上――それでもこれだけ扱ってみせるのだから大したものだが――ある程度の遊矢の抵抗は予想出来ていたが、それでも遊矢の抵抗が過ぎる。
「俺のターン……ドロー!」
……まるでエクゾディアの力が、真に解放されていないかのように。
「俺は《アドバンスドロー》を発動! レベル8モンスターをリリースし、さらに二枚ドローする!」
アモンの思考を打ち切ったのは、遊矢の取った魔法カード《アドバンスドロー》。フィールドのレベル8モンスターをリリースすることで、それを二枚のドローに変換するドローソース。《大邪神レシェフ》の姿が消えるとともに、そこに二枚のカードが現れる。
「《大邪神レシェフ》の発動トリガーにでも……!?」
《スキル・プリズナー》がある以上、《大邪神レシェフ》の効果を発動しようが意味はない。それが分かった上でのアモンの挑発が、最後まで発せられることはなかった。
「貴様……そのカードは……!?」
遊矢が《アドバンスドロー》で引いたカードに、アモンは底知れない恐怖と忌避感を感じた。カードという枠を越えたカード。そう、まるで自身が持つエクゾディアのカードのような――
「……俺は《神縛りの塚》を発動!」
遊矢は《アドバンスドロー》で見たカードを眺め、一旦深呼吸をした後に覚悟したような表情を見せると、フィールド魔法《神縛りの塚》を発動する。遊矢の背後に巨大な祭壇が浮かび上がり、さらにもう一枚のカードをデュエルディスクをかざす。
洞窟が崩落するかのような地響きが発生し、アモンが背にしているエクゾディアを封じていた祭壇が破裂する。そしてアモンは悟る――遊矢が召喚しようとしているモンスターの正体を。
アモンがその考えを確信に至らしめるのと同時に、遊矢はかざしていたカードをデュエルディスクにセットする。『お前からエクゾディアの力を奪いに来た』――デュエルを開始する直前、遊矢はそう言っていた……笑えない冗談だ。
「エクゾディア……!」
――既に奴は力を持っている――
「その力を解放し降臨せよ、封印されし王を統べる神! ――《究極封印神 エクゾディオス》!」
遊矢のフィールドに召喚されたのは、紛れもなく伝説の巨人『エクゾディア』。アモンのフィールドにいるものと同じ――いや、細部が違う。《究極封印神 エクゾディオス》と呼ばれたそのモンスターは、遊矢の指示を待たずに暴れだそうとしたものの、《神縛りの塚》の祭壇からの鎖に捕縛され、その身動きが封じ込められる。
「エクゾディア……何故貴様がエクゾディアの力を!」
アモンは驚愕しながらも、鎖に繋がれた《究極封印神 エクゾディオス》のステータスを確認すると、そのステータスは攻撃力守備力ともに0。しかし《神縛りの塚》からの呪縛から逃れようと、目に見えるもの全てを破壊せんと暴れる姿は、全くそのステータスだとは感じられない。
「《究極封印神 エクゾディオス》は、墓地のモンスター全てをデッキに戻すことで、特殊召喚出来る。さらに通常魔法《ネクロマンシー》を発動!」
さらに遊矢の行動は続いていき、新たな魔法カードの発動とともにアモンのフィールドに変化が訪れる。《エクゾディア・ネクロス》に特化しすぎているため、その一体の切り札のみだけしかいなかったフィールドに、新たなモンスターが特殊召喚されたのだ。デュエル序盤に《霧の王城》がフィールドを使用不能にしたのとは対照的に、アモンのフィールドが五体のモンスターで埋まる。
「これは……!」
「《ネクロマンシー》は相手モンスターが一体の時のみ、相手の墓地からランダムに四体のモンスターを特殊召喚する!」
ランダムとはいえ、相手モンスターを墓地から可能な限り特殊召喚する、と、一見して相手にのみ有利な効果。だが、それも遊矢にとっては狙い通りだった――アモンのフィールドには、頭を除くエクゾディアパーツがフィールドに揃っていた。
「これでは《エクゾディア・ネクロス》の効果が……!」
再びその言葉を借りるならば、《エクゾディア・ネクロス》には、墓地に眠る5つのエクゾディアパーツに秘められた5つの効果が備わっている。よって、エクゾディアパーツがフィールドに特殊召喚された今、《エクゾディア・ネクロス》に残された効果は頭部による効果のみ。
「だが、《封印されしエクゾディア》によって得る効果は戦闘破壊耐性。残念だがお前には《エクゾディア・ネクロス》を破壊できない!」
ランダムで頭部がフィールドに現れなかった以上、戦闘破壊耐性はそのままであり、《エクゾディア・ネクロス》は破壊出来ない。アモンはそう虚勢を張り上げたものの、《封印されし右腕》がフィールドから離れた今、《エクゾディア・ネクロス》の攻撃力は1800まで戻っている。その上、遊矢が操る《究極封印神 エクゾディオス》の力は、同じエクゾディアの力を得たアモンだからこそ、まだ未知数だという以上のことが分かる。
「これで最後だ。《究極封印神 エクゾディオス》を対象に、《拡散する波動》を発動!」
遊矢LP1600→600
これで最後、という言葉通りに、遊矢の最後の手札が姿を見せる。1000ポイントのライフをコストに、レベル8以上の魔法使い族モンスターに全体攻撃を付与する《拡散する波動》の発動に、《究極封印神 エクゾディオス》がその両掌に波動エネルギーを溜めていく。それは、もはや攻撃力0などとおくびにも口に出せず、カードゲームという枠組を超えて現実世界にも作用していく。
「バトル! 《究極封印神 エクゾディオス》で、《封印されし右腕》を攻撃! 天上の雷火 エクゾード・ブラスト!」
《神縛りの塚》によって封じ込められていなければ、四方三里を全て焼き尽くすかのような雷火がアモンに発せられる。エクゾディアパーツがいくら下級モンスターだろうと、攻撃力0のモンスターに負ける訳ではないが、その雷火に《封印されし右腕》は消滅する。
「《究極封印神 エクゾディオス》が攻撃する時、デッキからモンスターを一体墓地に送る。さらに墓地の通常モンスターの数×1000ポイント、攻撃力をアップする」
《高等儀式術》のようにデッキに眠る通常モンスターを墓地に送ることで、その攻撃力を1000ポイントアップさせる。《エクゾディア・ネクロス》に似た効果により、その攻撃力は1000となり《封印されし右腕》を破壊すると、その雷火はアモンへと向かう。
「《神縛りの塚》の効果。レベル10以上のモンスターが相手モンスターを破壊した時、相手に1000ポイントのダメージを与える!」
「くっ……ぐあっ!」
アモンLP5600→4600
その瞬間、1000ポイントとは思えぬダメージがアモンを襲った。同じエクゾディアの力をアモンを覆っているにもかかわらず、その身を焼く雷火にアモンは思わず身をすくめた。
「さらにエクゾディアパーツに攻撃する!」
《究極封印神 エクゾディオス》はさらに攻撃を進めていき、その度にアモンの身とライフは焼かれていく。残った一枚のリバースカードは、自分のモンスターに貫通効果を与える《メテオ・レイン》。最後にトドメを刺すためのカードであり、《究極封印神 エクゾディオス》の攻撃を防ぐカードではない。
「ぐああっ……ぐぅ!」
アモンLP4600→600
エクゾディアパーツは全て守備表示なものの、《神縛りの塚》の効果によってアモンにバーンダメージを与えていく。一撃が致命傷となるような一撃を受け続け、遂には倒れながらも、アモンは薄れいく意識の中に鎖に繋がれた《究極封印神 エクゾディオス》を見る。
《ネクロマンシー》はその効果によって特殊召喚されたモンスターが破壊された時、フィールドのモンスターの攻撃力を600ポイント下げる効果がある。その効果において《エクゾディア・ネクロス》は力を失いアモンと同じく地に倒れ伏し、そこに繋がれた鎖を破壊しながら、エクゾディオスが見下すように立つ。
「あの力だ……僕が王になるためのちか」
――アモンが最後まで言葉を発することはなく。《エクゾディア・ネクロス》ごと、アモンは跡形もなくエクゾディオスに踏み潰された。
「王になるなんて興味はない……」
踏み潰されたアモンだったものがあった場所から、五枚のエクゾディアパーツが遊矢の手へと集まっていく。雄叫びをあげながら消えていく《究極封印神 エクゾディオス》も未だ完全体ではなく、遊矢は手に入れたエクゾディアパーツを乱雑にデッキに投入する。
「……ただ、元に戻りたいだけだ」
そう小さく呟きながら、アモンが消えていった場所を少しの間眺め、遊矢はその洞窟を後にした。そろそろか……と思いながら、その歩みは覇王の待つ城へと進んでいった。
――偶然か、それを時と同じくして。レジスタンスの前線基地にいるオブライエンたちは、明朝に覇王軍の城を奇襲する計画を実行に移していたのだった。
後書き
今回のデュエルは、もうちょっと上手く書けたなぁ、と不完全燃焼
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