片目の老人
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2部分:第二章
第二章
「ケチじゃないが出せないものは出せないからな」
「いやいや、そうではない」
「そうではないって?」
「あんたのその気前のよさは必ず幸福をもたらす」
こう彼に言う老人だった。
「それは保障しよう」
「保障ねえ」
「その通り。それではな」
「ああ、行こうか」
老人の言葉を察してだ。また言うシグナルだった。
「舟に乗ってな」
「うむ、それではな」
こうしてだ。二人は舟に乗ったのだった。
そしてそのうえで向こう岸に向かう。その中でだ。
青い水の上をゆっくりと進む。周りには山々が見える。老人はそういったものを見ながらだ。向かい側に座って漕いでいるシグナルに話すのだった。
「それでだ」
「ああ、それで?」
「戦いのことだが」
老人が言うのはこのことだった。
「どういったものなのだ。その戦いは」
「大したものじゃないさ」
こう答えるシグナルだった。
「よくある戦いでな」
「よくあるか」
「部族と部族のな」
「ふむ。では御主は一方の部族のか」
「ああ、そうだ」
まさにだ。その通りだというのである。
「その部族の戦士でな」
「それで今回戦いに向かうか」
「正直分は悪いな」
シグナルの顔はここでは曇った。
「数は向こうの方が多いからな」
「それで敗れそうか」
「戦う前から言うものじゃないけれどな」
それでもだとだ。シグナルは今は今一つ浮かない顔で話す。
「ちょっとな。今はな」
「そうか、話はわかった」
「まああれだ。戦うからには勝ちたい」
まさにだ。偽らざる本音であった。
「だから俺は必死に戦うつもりだがな」
「いいことだな。それは」
「神々の加護があらんことを」
自然とだ。彼はこうも言った。
「戦いの神オーディンに」
「オーディンか」
老人はその名前にふと反応を見せた。
「その神の名前を言うのだな」
「ああ、俺は戦士だ」
戦士ならばだ。どうかともいうのだ。
「だからな。信じる神はな」
「やはりそうなるか」
「そうだ。ではな」
「行くのだな」
戦場にと話すのだった。そしてだ。
そのうえでだ。シグナルは戦場に向かうのだった。
戦場となるべき場所にはだ。既に彼の部族の者達が集まっていた。彼等はシグナルの姿を認めてだ。こう話をするのであった。
「よし、来たな」
「逃げはしなかったか」
「ここに来たか」
「俺は逃げることはしない」
シグナルはだ。同胞達に不敵な笑みを浮かべて言った。
「戦いからはな」
「そうだな。我が部族はな」
「何があろうと逃げはしない」
「そして戦う」
「勝つな」
「そうしなければならないからな」
また言うシグナルだった。そうしてだった。
敵を待ち受ける。敵はだ。
数は彼等よりも多い。倍はいた。その彼等がシグナルの部族に問うのであった。
「いいのか?数は我等の方が多いのだぞ」
「逃げないのか?」
「逃げれば命だけは助けてやる」
「多くのものを奪うことはしない」
「それでも戦うというのか」
「そうだ」
部族の長がだ。彼等に返すのだった。長は部族の先頭に出てだ。そのうえで彼等に答えたのだ。
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