ルドガーinD×D (改)
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四十四話:守るべき大切な者
前書き
今回は短めです。まあ、大体、七千字です。
それでは本文をどうぞ。
借金の返済に明け暮れるルドガーにある時、ヴェルから連絡が入った。その内容は拘束されていたユリウスがカナンの道標を奪って逃走したというものだ。ルドガーはその内容を受けてすぐさま仲間に協力を要請して、先にユリウスの追跡を行っている、リドウの追跡隊と合流するためにイラート海停に急ぐ。
『やっときたか』
合流したリドウは何故か普段は着けていないサングラスを着用しており、さらに怪しい人相に様変わりしていた。その事を不思議に思ったエルがイバルに小声で理由を尋ねると、ユリウスが逃走の際にどうやったのかは分からないがリドウの顔を踏んづけたために、顔に足跡が残ってしまい、それを隠すためにサングラスを着けているのだと言う。
その事にルドガーは内心で兄さん良い仕事をしたなと思っているが、勿論顔には出さない。因みに黒歌達も同様の事を思っていたのはご愛嬌と言ったところだろう。
『ちっ、捜索を始めるぞ!』
苛立ちながらリドウがルドガー達にユリウス捜索を命じる。情報によるとユリウスの痕跡はここで途絶えたらしいので、ルドガーはこの辺りを重点的に探すことに決め、二手に分かれることにする。その結果、ルドガーはエル、エリーゼとティポ、そしてミラと共にハ・ミルに行くことになった。
ルドガーがハ・ミルに着くといきなり村人の悲鳴を聞くことになる。その事に驚いてルドガーが悲鳴の聞こえた方角を向くとそこには羽を生やし、宙に浮いた見覚えのある女性がいた。
『ミュゼーだー!』
『村の人をいじめてるんですか!?』
『そんなことしてません』
どういうわけか騒ぎを引き起こしたのはかつてルドガーも少しだけあったことのある大精霊のミュゼであった。エリーゼは村人がミュゼを見て悲鳴を上げていることからいじめているのかと聞くがミュゼはそれを否定する。そして、そんなミュゼの姿に一番驚いたのはミラであった。
『姉さん!』
『ミラ!?』
お互いがお互いともに似た顔の人物を知っているために見間違えて叫んでしまうが、ミュゼの方はすぐに自分の知るミラではないと理解し、この中で一番事情を知っていそうなルドガーに訳を尋ねた。ルドガーも何か分史世界やカナンの地について知っていることがないか聞くが結局目新しい情報を得ることは出来なかった。そしてそんな話をしているルドガー達に村人の一人がミュゼに詰め寄って来る。
『見つけたよ! このパレンジ泥棒!』
『…………は?』
その言葉に開いた口がふさがらなくなるルドガー。ミュゼに確認してみると気分的にお腹が減って、パレンジが食べたくなったので食べただけと悪気なく言うのでルドガーは頭を抱えてしまう。そんなところにルドガーのGHSが鳴り響く。
『ユリウス前室長と思われるエージェントの分史世界進入を探知しました。当該分史世界は、道標の存在確率“高”です』
ヴェルから知らされた内容にエリーゼがユリウスを追いかけるために分史世界に入ろうと発言する。カナンの道標がある以上、遅かれ早かれ、その分史世界には進入しなくてはならないのだがそこにも一つの不安点がある。
『注意した方がいいわ。そのユリウスって人、誘ってるみたい』
そう、ユリウスがわざとルドガーが自分の元に来るように差し向けているように感じられるのだ。今までの行動から考えみて、ユリウスがルドガーに多大なる危害を加える可能性は低いだろうが、ユリウスの真の目的が分からない以上、楽観視はできない。
『だからって、逃げるわけにはいかないでしょう』
『ああ……ミラの言う通りだ』
『……ねぇ、ルドガー。私も連れて行ってくれない?』
ミラの言葉に同意を示し頷くルドガー。そんなルドガー達の様子に何か思うところがあったのかミュゼが動向を申し出る。それに対して快く受け入れるルドガーだったがどういう理由かと不思議に思って尋ねる。するとミュゼはミラの元に移動し微笑みながら答える。
『この子が心配だから。危なっかしいところはミラとそっくり』
『お、大きなお世話よ』
頬を絡めながらそう言うミラであったが全く説得力がなかった。純粋に心配して貰えてうれしいと言えばいいのにとルドガーは思うが、それもミラの性格かと思い直し、微笑ましそうに二人を見つめる。
『な、なに笑ってるのよ!』
『おふっ!?』
そんなルドガーに気づいたミラが鋭いパンチを正確にルドガーの顎に繰り出す。それを受けたルドガーは脳が揺れてなすすべなく崩れ落ち膝をつくがまだ不幸は終わらなかった。
『あんた、連れなら、パレンジの代金払っておくれ!』
『俺が払わないといけないのか……二千万の借金を背負っている俺が…っ!』
この中で最もミュゼのとの親交が少ない上に多額の借金を負っているにも関わらずに自分がパレンジの代金を払うことの理不尽さに打ちのめされながら泣く泣く財布から100ガルドを取り出すルドガーであった。
そして分史世界に行く前にみんなで少しミュゼと話をしていると、エリーゼとティポが昔のミュゼは険しかったという話をし始めたのでルドガーは良く分からないものの女子だらけで会話に加わりづらい空気を変えるためになんとか話に割り込む。
『昔は知らないけど、今のミュゼはいいと思うな』
『まあ……ルドガー、それって―――告白?』
『コクハクー!?』
顔を赤らめたミュゼの言葉に騒然とするルドガー達。言った本人であるルドガーもかなり動揺して顔を赤らめているためにミュゼとルドガーだけを見れば本当に告白したように見えるかもしれない。そのせいで―――
「告白? こくはく? Kokuhaku? 誰が、誰に? ……潰すにゃ!」
黒歌からどす黒いオーラが出ていたことをルドガーが知るはずもない。この後、結局冗談だとミュゼ自身が言ったのでルドガーの身の安全は確保された……はずである。そこで場面は再び変わる。
『あっ、変なキレーな貝!』
分史世界に進入し、キジル海瀑にユリウスとカナンの道標を探しに来たルドガー達は、綺麗な砂浜で珍しい貝を見つけてはしゃぐエルの為に一時足を止めて休憩することにする。その時、エリーゼは海岸に近づくと危ないと忠告したがエルはそれを聞くことなく貝の元にルルと一緒に走って行ってしまった。
『あんな子どもを連れ歩く気が知れないわ』
ルドガーに皮肉を口にするミラ。若干過保護なルドガーも出来ればエルには安全な場所に居て欲しいのだがエルとルドガーはタイトーなアイボーであるためにそのような危険な場所にでも一緒に行って一緒に乗り越えようと約束したのだ。勿論、どんなことがあってもエルは守るとルドガーはそう決めている。
『人間って、守るものがある方が強いんじゃないかしら?』
『あなたもそうだった?』
『さぁ? 私は人間じゃないから』
『……そうよね』
ミュゼが守るものがある方が強いと言い、ミラが若干何かを期待しているかのように聞く。それに対して少し微笑みながらミュゼはわからないと答える。その答えに少しばかり気を落としながらもそうよねと短く返すミラ。
『でも、ひとりぼっちは、もう嫌』
『そう……よね』
ミュゼのひとりぼっちはもう嫌だと言う本心にミラは現在の、世界を壊され、帰る場所もなく、ひとりぼっちになった自分を重ね合わせて寂しそうに肯定する。そんな様子にギャスパーなどの孤独を知る者は願わくば、ミラが孤独から抜け出せるようにと過去と分かっていても祈ってしまう。
『はっ! ……兄さんの歌が聞こえる』
「これって……証の歌かにゃ?」
ミラとミュゼの会話を、罪悪感を持ちながら黙って聞いていたルドガーの耳に聞きなれた歌が入って来た。それを聞いたルドガーは居ても立っても居られなくなり歌の聞こえる方へと一人歩きだしていく。黒歌は以前にその歌が何の歌かを聞いていたためにその名を口にする。他の者もいつもルドガーが歌っていたために聞き覚えがある歌なので反応を示す。
『ちょ、あなたまで!? もう、エルとそっくり』
『何だかんだ言ってついて来てくれる、ミラって優しいよな』
『べ、別にあなたが心配だからついて行くわけじゃないわよ。ただ、あなたが迷子になったら探すのが面倒だからついて行ってあげるだけ!』
ルドガーを追っていくミラにルドガーが優しいと言う。それに対して頬を赤らめて顔を逸らしながらルドガーにそう言うミラだったが仕草と表情から照れ隠しにしか見えない。その様子に笑うルドガーに気づき歩きながらも文句を言い続けるミラだったが向かった先に岩場に腰掛け鼻歌を歌うユリウスを発見して文句を言うのをやめる。
『余裕ね。追われているのに鼻歌なんか歌って』
『クセなんだよ。我が家に伝わる古い歌でね。会いたくて仕方ない相手への想いが込められた“証の歌”と言うらしいが……本当に、会いたい人が来た』
まるで口説き文句の様な台詞をすらすらと口にしながらルドガーを優しいまなざしで見つめる。しかし、相手がユリウスファンクラブの女性なら嬉しさで卒倒してしまうようなセリフと行動にもルドガーはこんなセリフは日常茶飯事だとばかりに平然と受け止める。
『兄さんは、その歌好きだよな』
『それは、お前の方だろ』
ユリウスは懐かしそうに笑いながらルドガーの知られざる過去話を暴露していく。
『赤ん坊の頃から、これを歌ってやるとすぐ機嫌がなおった』
赤ん坊の頃の話を聞かされて、なおかつそれをミラに聞かれてしまった事に、思わず顔を赤らめて恥ずかしがるルドガー。ミラはそんなルドガーに先程の仕返しとばかりに意地悪気な顔でルドガーに笑いかけてルドガーの羞恥心をさらに煽る。おまけにこの事を未来の仲間にも知られたことを彼はどう思うだろうか。
そんな恥ずかしい過去話だが、実は赤ん坊の頃にはユリウスとは会ったことすらなかったことをルドガーは知らない。いや、正確には記憶にふたをしているのだがそれが思い出されることは恐らくはこれからもないだろう。そしてユリウスがなぜこのような嘘をついたのかは謎だ。
ただ単に五歳のルドガーを赤ん坊と言い表したのか、ルドガーに辛い記憶を呼び覚まさせないための配慮なのか、それとも自分自身がどこにでもいる兄弟だとそう信じていたかったのか……答えはユリウス自身にも分からないのかもしれない。
『覚えているか? 子供の頃、キャンプに行った山で、二人そろって迷子になったこと。雷はなるわ、熊は出るわ、大変だったな。……けど、俺がこれを歌うと、お前は泣きたいのを我慢して歩き続けた。俺がおぶってやるって言っても、自分で歩くって意地はってな。一晩中歩いて麓の村に戻った時には、足も喉も、ボロボロだったけ』
そんな昔話にルドガーは懐かしそうに思いをはせる。そしてそんな様子を見ていた小猫はずっと自分を子ども扱いしていたルドガーが子供らしかったことに親近感を覚え、全部終わったらこれをネタにいじってやろうと考えた。
『そんな話がしたいわけじゃないんでしょ?』
『もちろん要件は別にある』
岩から飛び降り、優しげな雰囲気を漂わせていた顔を一変させ厳しいものにするユリウス。そんな様子にルドガーとミラは身構える。
『もう時計の問題じゃない。あの娘……エルを俺に渡してくれ』
『危ない趣味ね』
ミラがそんなことを言うがユリウスが漂わせる雰囲気から勿論そんな理由でないことは分かっている。ルドガーはユリウスが求めているのはエルの力であるクルスニクの鍵の事だと判断する。
『拒否すれば、力づくで奪う』
鋭い眼光でそう言い放つユリウスからは強烈な殺気が放たれている。そのことに怯みそうになるルドガーだったが覚悟を決め、双剣を構える。
『ルドガー……なぜ、あの娘にこだわる?』
『約束したんだ。一緒にカナンの地に行くって』
『やめろっ! 誰にとっても不幸な結果になるぞ!』
ルドガーがカナンの地に行くと伝えると冷静だった口調を荒げてそれを止めようとするユリウス。そのあまりの変わりようにユリウスはルドガーの知らないカナンの地の真実を知っているのではないかとミラと第三者であるリアスは考える。
『何を知っているの、あなた?』
『オリジンの審判の非情さを、だ……わかってくれ、ルドガー! 俺はお前を―――』
必死でルドガーが未だ知ることのない何かから遠ざけようとするユリウス。その様子からは彼が弟をその何かから守ろうとしているように見える。そして最後の説得の言葉を続けていた時だった。
『きゃあああああっ!』
『この声は、エル!?』
突如としてエルの悲鳴が響き渡る。ルドガー達がすぐさまエルの元に駆けつけると海岸には禍々しい姿をした時歪の因子の魔物ともがき苦しむエルを必死に治療するエリーゼがいた。
魔物はルドガー達に攻撃を仕掛けた後、姿を透明に変えその場から消えてしまった。ミュゼはエルの容体を一目見て呪霊術という生き物の命を腐らせる精霊術がエルにかけられたのだと見抜く。さらにその術を解くには術者である魔物、時歪の因子である海瀑幻魔を倒すしかないとないと言う情報もルドガーに告げる。
『正史世界では絶滅した変異種。姿を隠して呪霊術で獲物を襲い、動かなくなった後、その血をすする魔物よ』
その魔物にこれからエルが殺されてしまうのかとゾッとするルドガー。そしてだんだんと虫の息になっていくエルを見ながら必死に状況を打破する解決策を考え続けていく。そして、ついにその解決策を思いつく。
『俺があいつを誘き出す!』
『はぁ、どうやって?』
『こうする!』
剣を取り出し、自らの左腕に当て戸惑いなくその身を切り裂くルドガー。その突然の自虐行為にエリーゼが声を上げ、黒歌達も一つ間違えれば命に危険を及ぼすほどの滴り落ちる血の量に息をのむ。そしてイッセーは思い出す、ルドガーという男は誰かを守る為なら自分が傷つくことを一切戸惑わなかったことを。そして黒歌は以前ルドガーと一緒に風呂に入った時に見た傷の正体をここで知り、どういった目的で腕を切ったのかを理解する。
『まさか……血の臭いで幻魔を誘き出す気!?』
『お前、そこまで……』
『大切な子なのね』
ミラがいち早くルドガーの行動の意図を察し、ユリウスは弟の覚悟の強さを知り、ミュゼはルドガーにとってのエルの大切さを知る。黒歌達も改めてルドガーの大切な者を守るという意志の強さを理解する。
『きたわよ!』
ルドガーへ不可視の攻撃が来たのをミュゼが知らせる。それに対して腕の痛みからか回避や防御が遅れるルドガーだったがユリウスが剣投げ幻魔の触手による攻撃を阻止する。そして生まれた幻魔の隙にユリウスはルドガーに近づき、ある物を渡す。それはユリウスがクランスピア社からの逃走の際に奪ったカナンの道標だった。
『……大切なら守り抜け。何にかえても!』
それだけを言い残してユリウスは再び襲い掛かって来た触手からルドガーを庇い、吹き飛ばされて海へと消えていく。この言葉こそ、ルドガーの信念となる言葉で以前イッセーがルドガーから言われたルドガーの憧れの人の言葉である。その事に気づいたイッセーはユリウスの意志も無駄にしないようにもっと強くなろうと心に決めるのだった。
そして幻魔との戦いはエルを守るという、ルドガーの強い意志に反応した骸殻がクォーターからハーフに進化したことで手に入れた大精霊にも匹敵する力で幻魔に止めを刺して終了した。分史世界から戻るとエルにかけられていた呪霊術も解かれており全てがいい結果に終わっていた。ただ、一つの事を除いて。
『お兄さんのこと、心配?』
そう、幻魔に吹き飛ばされたユリウスのことだ。そんなユリウスを思いやるばかりに思いつめていたルドガーにミュゼが声を掛けたのだ。
『俺の兄さんなら大丈夫だ。絶対にな』
『信じてるのね。羨ましいな』
兄に対して絶対の信頼を寄せるルドガーにミュゼはミラが無事かどうかを心配で不安でしょうがない自分と比較してか羨ましいと滅多に言わない本音を口にする。そんな言葉を聞きながらルドガーは元気になったエルを見つめる。ミラも元気になったエルを見てよかったと口にする。
『ふーん……頼りないと思ってたけど、あなた、そこそこやるじゃない』
『ミラ?』
突如、褒められたことに困惑してミラを見つめるルドガー。
すると、その視線に恥ずかしくなったのかミラは顔を赤らめてそっぽを向く。
そんな様子にますます困惑して続きの言葉を待つルドガー。
『別に、ただ単に少しだけ、本当に少しだけ見直したってだけよ』
『見直すって……俺の評価って最初から下なのか』
『人の世界を騙して壊した嫌な男から、人の世界を壊した男に上がっただけよ』
『…………』
それだけ言い残して、振り返りもせずにエル達の元に行くミラの背中をルドガーは何も言えずにただ寂しげに見つめる事しか出来なかった。そんな様子を見ていたイッセー達もミラが悪いのではなくルドガーが全面的に悪いために酷く複雑な思いで見つめる事しか出来なかった。ただ一人黒歌を除いては。
「……何だか微妙に良い雰囲気が流れたのが気に入らないにゃ」
彼女は二人の関係に嫉妬すると同時に警戒していた。
後書き
ミラとのイチャイチャを書きたい(迫真)
残り少ない時間の中で……。
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