mechanized infantryman ~魔を討つ機兵~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
姫の恋慕
勇者歴1286年1月15日、約1ヶ月の遠征からジャバウォック隊が首都に帰還する日だ。
数多の戦果を挙げ、今やガーランド帝国国民たちの英雄になったジャバウォック隊、その帰還を心待ちにしている人間は多い。
そんな中、ジャバウォック隊隊長[フィーリウス少佐]の帰還を心待ちにしている者が1人、城の中にいた。
(やっと…この日がきました。今度こそは彼に想いを!)
リーサ=ガーランドは決心する。彼女はフィーリウス=ラインハード陸軍少佐に想いを寄せていた。
ガーランド帝国の皇族、貴族の結婚はほとんどが恋愛結婚によるものであり、現皇帝のフレッドも下級貴族の娘と結婚していた。その娘はフレッドの幼馴染みの1人であった。
リーサがフィーリウスに想いを寄せている要因は2人の出逢いに遡る。
フィーリウスが士官学校に入学する4ヵ月前、彼は愛用のアサルトライフルを持って趣味の鹿狩りに出ていた。
獲物の鹿を探して森を探索していた時、お忍びで遊びに出ていたリーサが熊に襲われていたところに彼は出くわした。その時にフィーリウスはアサルトライフルで熊を殺しリーサを救った。
これが出逢いだった。
それから士官学校を卒業し、陸軍のMI部隊の隊長に就任した彼は当時陸軍にいたフレッドとの付き合いでよくリーサに会うようになった。付き合いを重ねていく内にリーサはフィーリウスに少しずつ惹かれていった。
そして今に至る。
(早く帰ってきてほしいですわね)
フィーリウスの帰還が待ち遠しい、そんな彼女だった。
2時間後
「姫様、ジャバウォック隊の、フィーリウス少佐のご帰還です」
彼女のもとに使用人が報告に来る。
「今行きます」
――――――――――――――――
城内、皇帝の間に皇帝フレッドとジャバウォック隊隊長フィーリウス、王女リーサ、陸軍元帥エルドラード、少数の貴族と議員が集まっていた。ジャバウォック隊の戦果の報告のためだ。
「ジャバウォック隊、フィーリウス=ラインハード以下90名、帰還致しました」
「ご苦労だった、フィーリウス少佐。戦果と被害の報告を頼む」
そう言ったのはフレッドだ。
「まず戦果から。我々が討伐したのは30m級ドラゴン45体、サイクロプス12体、魔神型36体、小型種累計528体と新種の90m級ドラゴン2体です」
ザワザワ
場がよどめきたつ。新種の、強力なドラゴンが現れたという報告からだろう。
「少佐、90m級ドラゴンの詳細を頼めるか?」
そう言ったのはエルドラードだ。
「はっ。90m級はその体格に見合わない小さい前肢と巨大な1対の翼、筋肉の塊のような後肢、刺の生えた長大な尻尾が特徴的な二足歩行のドラゴンで攻撃手段は30m級と同様の火炎ブレスと尻尾振り回し、噛み付きの他、独自の攻撃として冷気のブレスを吐いてきました。討伐後は調査班に遺骸を引き渡したので報告が上がるのを待っていただくことになるでしょう」
「了解した。続いて被害の報告を頼む」
「殉職者0名、負傷者0名ですが整備兵が4名ほど食中毒で治療を受けています。機体に関しては特に損失はありません」
「ふむ…。よし、下がっていいぞ」
「それでは失礼致します」
フィーリウスは皇帝の間を退室した。
――――――――――――――
フィーリウスが兵舎に戻ろうとしていた時、後ろから追いかけて来る者がいた。
「フィーリウス少佐、待ってください」
フィーリウスが振り向くと、そこにはリーサがいた。
「どうされました?」
「少し、お時間をいただけませんか?」
「はあ…、まぁいいですが」
フィーリウスは少し困惑している。
「では私の寝室までご同行願います」
―――――――――――――――
フィーリウスはリーサに寝室まで連れてこられた。
「姫、何かご用ですか?」
フィーリウスが尋ねる。
「その…フィーリウス様はお付き合いなさっている方はおられますか?」
「いえ、いませんが…」
フィーリウスにはその手の経験は一切ない。大多数がそういう経験をするであろう時期を、実質的な男子校だった陸軍士官学校で過ごしたのだ。特にフィーリウスはエリートクラスの人間で、ほぼ全てを勉学や訓練に費やしていたので、女性と接する機会は全くと言っていいほどなかった。
軍に入ってからは女性士官や部隊員と関わることもそこそこあったものの、そういう関係になる相手はいなかった。
別にフィーリウスはホモでもEDでもなく、性欲も人並みにはある。だが彼の好みに合うような女性は現れなかった。
そういうわけで、フィーリウスは年齢=彼女いない歴をしているのだ。
「フィーリウス様、貴方にとって私はどういう相手ですか?」
「元上官の妹…が適当でしょうか?」
「そう…ですか」
ちなみにフィーリウスはリーサのことは嫌いではなく、むしろ好意を抱いてる相手であるが、自身の軍人といういつ死ぬかもわからない立場から身を引こうと考えていた。
実際、彼がもっと階級が低かった頃、恋人や伴侶を残して逝った同僚を何人も見てきた。いくら強力な兵器があっても人間、死ぬ時は死ぬものだ。
「すみません、フィーリウス様。こんなことにお時間をいただいて…」
「いえ、今日明日は休日なので大丈夫ですよ。それでは失礼いたします」
そう言ってフィーリウスはリーサの寝室を去る。
(振られて…しまいましたね)
そしてリーサは彼の去った部屋で声を殺して泣いた。
後書き
フィーリウスはリーサの好意には気付いています。
ページ上へ戻る