人の心
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5部分:第五章
第五章
「こうして親子で半分ずつ仲良く食べられて」
「だから寂しくないんだよ」
「だからか」
「おっとうのその気持ちがあるから」
見ればちよもまた。目を細めさせてそのとても甘い柿を食べながら忠信に答えていました。やはり忠信と同じ柿を口の中に入れながら。
「寂しくないんだよ」
「ふむふむ」
その言葉を聞いてしきりに頷く忠信でした。
「左様か」
「そうだよ。じゃあこれを食べ終わったらね」
「うむ」
「寝よう」
楽しく笑ってまたおとうに言ってきました。
「お布団敷くから」
「布団かあ」
「二つだよ」
「いつもはやっぱり一つじゃよな」
「まあね」
忠信の問いに少し寂しげな顔になっていました。
「けれど今は違うから」
「わしがおるからか」
「だから。早く寝よう」
また忠信に言ってきました。
「お布団の中でも。色々とお話しようね」
「いやいや、少し待つのじゃ」
「んっ!?どうしたの?」
「歯は磨いたかのう」
このことをちよに尋ねる忠信でした。ここではおとうになった言葉でした。
「ちゃんと磨いておかないと虫歯になるぞ」
「あっ、そうだったね」
言われてそのことに気付くちよでした。
「それ忘れたらやっぱり」
「今はよくても後が怖いぞ」
優しく笑いながら伝えるその顔もおとうのものになっていました。
「じゃから。そこはしっかりとな」
「うん、わかったよ」
「それからじゃ。寝るのは」
また伝える忠信でした。
「よいな」
「うん」
こうして歯を磨いてから仲良く寝た忠信とちよ。並んで敷かれたお布団の中にそれぞれ寝て楽しくお話をしてから寝ました。朝になって朝御飯を食べて家を出る時に。家の扉を開けて山に行こうという姿勢を見せている彼に対してちよが後ろから声をかけてきました。
「ねえ」
「んっ!?」
「もう行くんだよね」
こう忠信に声をかけてきています。
「もう山に行くんだよね」
「ああ、そうじゃ」
その問いに笑いながら答える忠信でした。まだおとうのつもりです。
「それがどうかしたか?」
「行ってらっしゃい」
笑顔で言うちよでした。
「頑張ってね」
「うむ」
「それでね」
ここでちよは。ふとしたように忠信に言うのでした。
「また来てね」
「!?それは一体」
「おとうじゃないでしょ」
そしてこう彼に言ってきました。
「おとうはまだ山で薪取ってるよね」
「いや、それは」
「わかるよ」
何か言おうとする忠信の機先を制するようにしてまた言うのでした。
「だって。あたしおとうの娘だよ」
「おとうの娘」
「狐さんの娘じゃないもの」
「何故わかったのじゃ」
迂闊にも自分からばらしてしまった忠信でした。
「何故わしが狐じゃとわかったのじゃ?」
「目よ」
「目か」
「そう、目」
目のことを指摘するちよでした。
「目でわかるのよ」
「わしの目でか」
「おとうの目は垂れてるのよ」
「むむっ」
「けれど狐さんの目は吊り上がってるからね」
「わかるというのか」
今はじめて気付いたことでした。狐の目が吊り上がっているのは誰でも知っていることです。忠信は化ける時にそれをうっかりと消し忘れていたのです。
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