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ルドガーinD×D (改)

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四十二話:“みんな”と分史世界

 
前書き
今回も少しオリジナルを加えています。
それでは本文どうぞ。

 

 

まだ若いのにも関わらず高額負債者となったルドガーは『カナンの地』と言われる古い伝承に出てくる何でも願いを叶えてくれるという伝説の地へ行くと懸命に言うエルをなだめすかせて取りあえず自分の家であるトリグラフのマンションに戻るためにドヴォール駅に行くが。

そこで借金を一定の額を返さなければ移動制限が解かれないという自身の現状を改めて知らされて『まだ若いのに人生詰んでいるな』などの言葉を投げかけられながらも必死にクエストをこなしていき、そこで得た報酬で借金を返して自宅のマンションに着くことが出来た。しかし、まだルドガーには試練が残っていた。


『ここがルルのお家?』

『……俺の家だよ。居候だけど』

『知ってる! イソーロってニートのことでしょ!』

『グハッ!?』


「やめるにゃ! ルドガーのライフはもうゼロにゃ!」


純粋故に一切の遠慮のない子供の言葉にルドガーの心は容赦なく引き裂かれ、その場で胸を押さえて倒れ伏してしまう。そのことに驚いたジュードが苦笑いを浮かべながらルドガーを助け起こすがルドガーの心の傷は深かったらしく絶対に就職してやるとブツブツと言いながら起き上がる。そんなルドガーの様子を黒歌は涙ながらに見つめる。

しかし、ルドガーの心を深く傷つけた張本人であるエルは無邪気にルルと一緒にお腹が空いたと訴える。そんな様子にルドガーは子供って怖いと戦慄しながらも自分も空腹だと思い、食事をとることにした。


『あ! エル、トマト苦手!』


キッチンで一般家庭ではなかなか見られない量のトマトを入れたザルからトマトを取りだそうとしたルドガーにエルがとっさに反応し拒絶の意志を見せた。そのことにルドガーの前でトマトを否定した人間がどうなるかを、身をもって知っている美候は体を震え上がらせるがルドガーのとった行動は一同の想像を簡単に裏切った。


『わかった。トマトは入れないよ』

『まったく、パパとか大人は、なんでトマトなんかが好きかなー?』


「「「「ル、ルドガーが……トマトを使わない…だと!?」」」」


黒歌達はルドガーがあっさりとトマトを使わないと言う選択をしたことに驚愕の表情を浮かべて茫然と立ち尽くす。なぜ、ルドガーがトマトを使わないと言う選択をしたのかを真剣に黒歌は考え始め、エルに頼まれたというところである結論に達する。


「まさか……本当にロリコンなのかにゃ!?」

「そう言えばやけにエルに気を使っているわね」

「……姉様という人が居ながら…最低です」


黒歌の言葉にリアスがそう言えばと言い、小猫がルドガーに対して軽蔑の意志を示す。何故か深まるロリコン疑惑にこの場に現在のルドガーが居れば『俺はロリコンじゃない! エルコンだ!』と叫んだであろうが残念ながら今ここにはいない。

この時のルドガーとしてはそこまでトマトに拘りがあるわけではなく、自分を励ましてくれたこの少女に恩を感じているために好き嫌いくらいは、子供の内はいいだろうと思っているだけなのだが黒歌達にはそんな思いは伝わらない。

黒歌達がルドガーのロリコン疑惑について話し合っている間にルドガーがスープを作り上げてエル達の前に並べていく。そしてルドガーの料理を食べたエルは大満足の表情を浮かべて声を上げる。同時にジュードも彼の料理を絶賛する。しかしジュードは迂闊にも地雷を踏んでしまう。


『プロ並みの味だよ、ルドガー。コックをやってみたらどうかな?』

『ああ、そうだな。それでまた初出勤の日にテロに巻き込まれて無職に戻るんだな』

『あ…その…ごめん……』

『いいんだ。俺が自分から飛び込んだんだから気にするな』


口ではそう言いながらも再び崩れ落ちて床にのの字を書き続けるルドガーにジュードは慌てながら元気づけようとするが全くその効果はみられない。そんな様子を見ながらエルはルルに話しかける。


『ルル、ルドガーってタマにめんどうくさいね』

『ナァ~』


それからしばらくしてからルドガーが復活したところで改めてエルにどうして『カナンの地』を目指しているのかを聞くと自分を逃がすために悪い奴らに襲われた父親を助けて欲しいと願うために目指しているという事だった。

三人と一匹がそんな話をしている所で普通であればこんな民家には訪れないであろう人物、ビズリーが現れて突如天井からサングラスを着けた男をルドガーにけし掛けさせる。ルドガーはその男に蹴り飛ばされてしまうが、ジュードはその男と顔見知りということもあり、あっさりと後ろに回り込んで押さえつけてしまう。


『イバル……』


「変わった奴だな……」


ジュードの発言により名前の分かったイバルに対してイッセーが変な奴だと胡散臭そうな目線を向けるが、ビズリーはイバルの様子が面白かったらしく笑いながら彼を雑務エージェントに任命した。イバルは複雑そうな顔を浮かべながらもビズリーに礼を言う。

そんなビズリー達にジュードが食って掛かるが、ビズリーに状況を確認するように言われてヴェルがつけたテレビを見て、そこでユリウスが今回の列車テロの首謀者として全国に指名手配されたことを知ると同時にイバルから全く似ていないユリウスの手配書を見せられて愕然とする。


『違います! ユリウスさんは―――』

『あの状況で斬りかかった男が無実だというのかね?』

『警察は複数の共犯者がいるとみて、関係各所を検索中です』

『当然、君は最重要参考人だ、ルドガー君』


イバルが今度はもう片方の手に、相も変わらず似ていないルドガーの手配書も取り出す。そんなビズリーの言い草にエルがルドガーも自分も関係ないと庇い立てするが、ビズリーが子供の意見などを相手にするはずもなく事実を並べ立てて自らの言葉の正当性を示唆する。それに対してルドガーは反論することが出来ずに悔しそうな顔をするが、そこでビズリーからある提案が出される。


『事実なら証明してみせろ。ユリウスを捕まえれば、真実は明らかになるだろう』

『っ!? でも……兄さんは、俺が―――』

『あの男は生きている』

『数時間前、社長のGHSに連絡が入りました』


ビズリーとヴェルから聞かされたユリウスの生存報告に思わずホッとして息を吐き出すルドガー。それと同時に自分が殺したのはやっぱり兄さんではなかったのだと罪の意識もなくなり大分気が楽になる。しかし、無事なら無事でどうして自分に連絡をくれなかったのかと不満も残る。


『ユリウスは我が社のクラウンエージェントだ。警察如きに捕まえられるたまじゃない……が、“身内”になら隙を見せることもあるだろう。どうだ? やるというのなら、警察は私の力で抑えよう』


若干、身内という部分を強調しながらルドガーにそう提案するビズリー。しかし、提案という形ではあるがルドガーにはビズリーの申し出を断るという選択の余地が無い。なぜならこの提案に従わなければルドガーは間違いなく警察に逮捕される事になるからだ。

そんな酷な選択を迫られたルドガーを小猫は複雑な心境で見つめ、もし、自分が同じように姉を捕まえる様に迫られていたらどうしていただろうと考える。そんな小猫の様子に気づき黒歌は若干申し訳なさそうな顔をする。


『わかった。兄さんを捕まえる』

『迷いがないな。いい判断だ』


ルドガーは結局ビズリーの提案を飲むことにし了承の返事をする。そんなルドガーにビズリーは満足そうに頷き、ヴェルからユリウスの場所の情報を与える。その情報はヘリオボーグのバランという研究者がユリウスと交流があったというもの。そしてマクスバードで執拗にユリウスについて探る人物が目撃されているというものだった。

ルドガーはマクスバードに行ってユリウスについて探る人物と会って協力した方が早く見つかると判断して先にマクスバードに行くことを決め、移動制限解除の借金返済の為にクエストを受けに行くのだった。


「それにしてもあのビズリーという人のやり方はルドガー君を無理にでもこの件に関わらせようとしているように見えるのは気のせいでしょうか?」

「そうね……確かに怪しいわね」


朱乃の疑問にリアスも同意を示すがビズリーの真意に気づけるものはこの中にはまだ居なかった。そして再び場面は移り変わる。





『なんか変な人がいるー!』

『ははは……』


ルドガー達がマクスバードに到着してすぐに港の貨物置き場でエルが指差して言う通りに変な人物を発見する。その人物は黒いキャスケットを被り茶色の髪をした女性で貨物の間の隙間に居座るネコを外に出そうと懸命に話しかけており、ジュードはその人物に激しく見覚えがあるので乾いた笑い声を漏らしていた。

そんな女性にルドガーとエルは勇気を持って近づくが、近づいたところでルドガーは、そんな女性の姿はエルの教育上よろしくないかも知れないと考え、話しかけるべきかどうかを女性の後ろで真剣に悩む。しかし、人の気配に気づいたのか女性は二人に気づいて慌てて立ち上がり口を開く。


『あ! 怪しい者じゃないですよ!』

『エル、俺の後ろに下がっていろ。子供は見ちゃダメだ』

『エルはこどもじゃないですー! だから変な人もみれるんですー!』

『だから、怪しい者じゃないですって!』


始めは手を大きく振りながら怪しい者じゃないと言う女性だったが、ルドガーとエルのあまりの言い草に最後は若干涙目になりながら訴えかけて来る。そんな女性の姿に知人であるジュードは憐みを覚えて助け舟を出してあげることにした。


『……何しているの、レイア?』

『ジュード!? よかった、私が変な人じゃないって二人に教えてよ!』


ジュードの出現に救世主が現れたとばかりに駆け寄る女性ことレイア・ロランド。レイアはリーゼ・マクシア人でジュードの幼馴染みだ。そして現在は新聞記者として毎日忙しく働いているはずなのだが何故だか猫と戯れているのだ。

その理由を聞くと取りあえず、あの猫を捕まえなければならないという、何かしらの事情があるらしいのだ。それを聞いたルドガーはレイアを怪しくない人間と改め、エルは猫と遊んでいた人と認識を改めた。そしてルドガーはレイアが猫を捕まえようとしているのに協力することにした。


『猫を捕まえるコツを教えてやるよ』


そう言ってルドガーはスッと懐からある物を取り出す。それを見てルルが驚きの声を上げる。ルドガーが取り出した物、それは―――


『ロイヤル猫缶だ!』

『『『餌でつるの!?』』』

『猫まっしぐらの異名は伊達じゃない。以前、兄さんが隠していた物を没収したのが役に立つときが来たな……ルル、これはお前のものじゃないぞ』

『ナ、ナァ!?』


ドヤ顔で言い放つルドガーに対して三人がツッコミを入れるがルドガーは冷静に返事をする。そんなルドガーの足元でルルがそれをくれと必死に足に縋り付いてアピールをするがルドガーは心を鬼にしてそれを断り、未だに貨物の間の隙間から出て来ない猫の前に缶を開けて置く。すると―――


『フッ』

『『『『は、鼻で笑った!?』』』』

『ナゥ!?』


この猫は鼻でロイヤル猫缶を笑ったのである。ルドガーはこの時まだ知らなかった事なのだがこの猫はかなりのお金持ちの家で暮らしているためにこの程度の餌は食べなれているのだ。その事に気づいたルルはそんな猫に対抗心を燃やしルドガーにある提案をする。


『ナ、ナゥ、ナァー!』

『何? 俺があの世間知らずを連れ出すからそれが終わったらロイヤル猫缶をくれだと? 考えたな、ルル。……よし、それならいいぞ。行って来い、ルル!』

『ナァー!!』

『ルドガー、すごーい! ルルとお話できるんだ! エルにも教えて!』

『いや、今のはルルの方から語り掛けて来たような感じだな。基本的にはわからない』


ルルとの会話を成立させたルドガーにエルがキラキラとした目で教えてと言ってくるが何となくノリで当てたためにルドガーは答えることが出来ずに申し訳なさそうに頭をかく。そんな間にルルは隠れていた猫をあっさりと連れ出すことに成功する。

隠れていた猫も抵抗しようとしたのだが後に猫皇帝(エンペラー)の異名をつけられることになるルルの敵ではなかった。そしてルルは猫をレイアに引き渡すと褒美のロイヤル猫缶をうまそうに頬張り始める。


『ユリウス、ゲットー!』

『ユリウス!?』

『そ。この子の名前。ユリウス・ニャンスタンティン三世』


レイアから聞かされた猫の名前にルドガーは悟る。レイアは、ユリウスはユリウスでも猫のユリウスを探し回っていたのだ。そこで今までのことは全部無駄だったことにルドガーはガックリと肩を落とす。

しかし、人の縁とは不思議なもので新聞記者であるレイアはユリウスの情報は知らなかったものの知り合いの情報屋なら知っているかもしれないとユリウスの捜査に協力してくれることになったのである。ユリウスの情報は手に入らなかったが当初の目的である協力者は得られたのでルドガーは満足をしてレイアの知り合いの情報屋に会うためにドヴォールへと向かう事にした。


『……あれ? さっきのネコさんは?』

『しまった、逃げられたぁぁーっ! 折角捕まえたのにぃ~!』


結局、ユリウス・ニャンスタンティン三世は逃げ出してしまったが元気なレイアはへこまずにすぐに切り替えて歩み始めるのだった。そんな姿にルドガーもなんとなく元気づけられ、若干軽くなった足で歩き出すのだった。


「白音もあの猫ユリウスみたいに知らない人から食べ物を貰っても食べちゃダメよ」

「……だから姉様は私を何だと思っているんですか? ……大体そう言う姉様はどうなんですか?」

「私? 私だったら食べ物なんかなくてもルドガーの胸に飛び込むにゃ」

「……聞いた私が馬鹿でした」


こんな会話が未来で行われていることも知らずに。




ドヴォールに向かう途中、猫ユリウスと話していたイバルからハンマーを手に入れたルドガーはレイアの知り合いの情報屋であるジョウからブラートという民間自治組織がアルクノアに源霊匣(オリジン)の素材を流しているという情報と、路地裏に“魔人”が出るという情報を得ることに成功した。ルドガーはもしかしたら魔人の正体はユリウスかもしれないと考え、路地裏へと向かった。しかし、そこにいたのは―――


『動くな、Dr・マティス』

『ジュード!?』

『アルクノアからあんたの身柄確保も依頼されているんだ』


魔人ではなく拳銃をジュードの背中に押し付けてきたブラートのメンバーだった。ジュードが反抗しようと声を上げた所で他のブラードのメンバーが現れルドガー達は袋小路に追い込まれてしまう。

ルドガーはこのままではジュードは連れ去られ自分達は殺されてしまうと判断してブラート達の意識を逸らすためにルルの尻尾を踏みつけて叫び声を上げさせる。ルルの叫び声に驚いたブラートの注意が逸れた一瞬の隙を見逃さずにジュードは銃を突きつけていた男を突き飛ばす。しかし、その弾みで男は拳銃の引き金を引いてしまう。


『きゃああっ!』


裏路地に響き渡る銃声にエルが驚いて悲鳴を上げる。その瞬間あたりの景色が何かに飲み込まれるかのように歪んでいく。黒歌達はこの光景と同じものを列車でも目撃していたので今度はそこまで動揺せずにどこか雰囲気の変わった裏路地を歩くルドガー達について行く。

すると先程のようにブラートのメンバーが近づいて来てジュードの背中に拳銃を突きつけようとするが今度は事前に察知していたのでジュードは素早く相手を拘束し相手の自由を奪う。


『あなた達やアルクノアが、僕を憎む気持ちはわかります……でも、源霊匣(オリジン)は信じてください! あと一歩で実用化できるんです!』


拘束していた相手を開放しながら必死に説得するジュードであったが、その必死の説得は通じずに、再び先程と同じように袋小路に追い込まれてしまう。しかし、万事休すかと思われた矢先に突如として空から短剣が三本程降ってきて光の線を結んでブラートのメンバーの動きを封じる。


『危ない所でしたね』

『ローエン!』


ジュードとレイアはかつて共に旅をした白髪の老人の姿にもう大丈夫だとホッと胸を撫で下ろす。そしてエルの誰? という質問に対して何でも知っている頼りになる人と答えるとエルは『カナンの地』を知っているかもしれないと期待を込めてローエンに聞く。その言葉にブラートのメンバーはリーゼ・マクシア人を皆殺しにしてやりたいなどと叫び、ジュード達に改めて人と人が分かり合う難しさを教える。そんな時―――


『……同感です』

『ぎゃあああっ!?』

『ローエン、何を!?』


ローエンが精霊術を行使してブラートのメンバーを焼き殺してしまったのだ。その事にローエンをよく知るジュードとレイアは驚いて叫び、ルドガーはエルに残酷な光景を見せない為にエルを引き寄せるが、ローエンはそれに対して皆の仇を討つためにエレンピオス人を皆殺しにすると言い、エレンピオス人であるルドガーとエルにサーベルの切っ先を向ける。その瞬間ローエンの姿は以前列車の中でユリウスが変化したのと同じ黒い禍々しい姿へと変化を遂げる。


『違うこの人は……』

『ローエンじゃない!』


その後、ルドガーとジュードとレイアでローエンを退け、戦いの終盤で突如、ルドガーの意志に関係なく発動した骸殻で止めを刺す。すると列車で見たのと同じように槍の先には歯車らしきものが付いており、それが砕けると同じように世界も砕けていった。

ルドガー達が、気がつくと元の場所に戻っており、ローエンに殺されたはずのブラートのメンバーがルドガー達を血眼になって探している最中だった。そしてルドガー達を見つけると先程のルドガー達が消えるという不可解な現象を精霊術と決めつけ、若干尻ごみをしながらもルドガー達に銃を突きつけて来る。

そんな様子に戦わないことは出来ないと、覚悟を決めてルドガーはエルを庇うように前に出る。そんな時だった―――


『そこまでだ』


裏路地に良く通る、威厳に満ちた声が響き渡り、ブラートのメンバーの後ろから黒いコートに身を包んだ赤い眼の男がローエンと共に現れた。


「ま、また死んだ人が出て来たですうぅぅぅっ!」

「でも、幽霊の類じゃありませんわね。あの人達はきちんと生きていますわ」


先程から連続して死んだ人間が出てくることに恐れをなして叫ぶギャスパーの頭を朱乃が撫でて宥めるが朱乃自身も不可思議な現象に首を傾げるばかりである。


『なんだ、貴様ら―――』


ローエン達に気づいてブラートのメンバーが拳銃を向けるがその拳銃は男が長刀を使い、瞬く間に器用にも相手を傷つけないようにしながら吹き飛ばしてしまった。そんな様子にゼノヴィアは同じ剣士として手合わせしてみたいと思うが、ここは記憶の中だと気づき肩を落とす。

そんな間に男はブラートの一人に長刀の切っ先を首に突き付けてアルクノアがなぜ、源霊匣(オリジン)の素材を集めているのかを聞き出し、それが終わると刀を納めてブラートのメンバーを逃がした。


『一朝一夕にはいかんな』

『この街は、リーゼ・マクシア人への反発が特に根強いようですね』


二人は逃げるブラートのメンバーの背中を見ながら、これから解決していかなければならない問題の難しさを実感していた。そんな時、ルドガーの後ろに隠れながら恐る恐るといった感じでエルが二人に話しかける。


『カナンの地に願えば、うまくいくかも……』

『カナンの地?』

『お願いを叶えてくれるふしぎなところ……です』


先程、のローエンに言った時はエレンピオス人を皆殺しにしたいという答えが返って来たので若干警戒して丁寧な口調で答えるエル。そんなエルを守る為に何があっていいように身構えるルドガーだったが、すぐにその構えは意味をなさないものになる。


『ほっほっほ、夢のあるお話ですね。でも人の心を変える力があるとしたら恐ろしいことです』

『人が人である理由がなくなるのだからな』


ローエンの返事はとても優しい物で先程の“ローエン”とは似ても似つかないものだった。そしてそんなローエンの言葉に同調する男も敵意を一切発していないのでホッとするエルとルドガー。そんな二人にジュードが本物のローエンだと言ってからレイアがローエン達にお礼を言う。


『ありがとう、ローエン。ガイアス』

『……アーストだ。今の俺は一介の市井の男。ゆえにアーストと呼んでもらおう』

『エレンピオスの民衆の声を知るために、お忍びで行動されているのです』


アーストとしっかりとレイアに訂正させるガイアスにローエンがそう付け加える。そんなガイアスにジュードが心配そうに話しかける。


『でも、いいのかな? リーゼ・マクシアの王様なのに?』

『王様!? エル、王様って初めて見た!』


ガイアスの正体がリーゼ・マクシアの王様だと分かると目を輝かせるエル。この時期の子どもにとっては王様とは白馬の王子様の様な絵本で登場しない憧れの存在なのだ。その為にエルはこうも興奮しているのである。

そんなエルの姿にリアスは魔王である自分の兄もこのような子供の純粋な憧れの存在であるのだからせめて人前では普段のシスコンを抑えて欲しいと何となしに思ってしまう。


『ありがとう、アースト』

『……それでいい』

『意外と、子供っぽいこだわりがあるようで』

『なにか言ったか?』

『いえいえ』


ルドガーがガイアスに言うとアーストと呼ばれたことに満足そうに頷くガイアス。そんなガイアスにローエンが茶化すように言葉を挟むがガイアスの鋭い眼光に睨まれて笑いながら引き下がる。ローエンは宰相であるので本来であれば王にこのような口をきくことはご法度なのだが、それが許されるのもローエンの人徳なのかもしれない。

その後、ルドガー達は“魔人”の正体はアーストだったという事に気づき、その後、ルドガーの身の回りに起こる不可解な出来事に興味をもったローエンと共に次の情報地である、ヘリオボーグに向かう事になったのである。


『また、お金返さないとね、ルドガー』

『はあ……』


まずは借金の返済が先の話なのだが。





場面は移り変わり、ヘリオボーグ研究所の前にルドガー達は居たのだが何やら様子が可笑しい、研究所の敷地の広場にはエレンピオス兵と研究員が慌ただしく動いて、騒然としている様子が黒歌達の目に入った。


『ダメだ。完全に警備システムを抑えられてる。俺一人じゃどーにもならな―――』

『アルヴィン!』

『おっと、こりゃまた、いいタイミングで』


ジュードが一体ここで何が起きているかを知り合いの研究員に尋ねている時に聞き覚えのある声を聞いて振り返ると案の定、知っている人物だったために驚きの声を上げる。アルヴィンもまた、かつてジュードと旅をした仲間の一人であるのだ。

本来であれば再会を喜ぶところなのだがそんな暇はなくジュードとアルヴィンは研究員から詳しい話を聞く。現在ヘリオボーグの研究所はアルクノアに制圧されており、施設の中には、ユリウスと親交があるというバランとリーゼ・マクシアの親善団体が取り残されているらしい。それを聞いたルドガーはすぐさまに救出に向かおうとするがアルヴィンに呼び止められる。


『ルドガーだっけ? これはアルクノアのテロだ。俺、元アルクノアなんだけど、信用してくれるか?』


その事実に驚く、黒歌達。蛇の道は蛇というので心強い助っ人であることには変わらないのだが信用できるかと言われると悩むところだ。しかし、今までルドガーと過ごしてきた黒歌達はルドガーが何と答えるかは既に分かっていた。


『信用するよ』


あっさりと信用するルドガーに面食らうアルヴィン。しかし、黒歌達はルドガーの反応に驚くことは無かった。特に黒歌はルドガーという人物はテロリストだろうが犯罪者だろうが関係なく信用してくれることを、身をもって知っている。


『なるほど、ジュードの友達って感じだな』

『エル、こういうのをツンデレっていうんだぞ』

『ツンデレ? よくわかんないけど、アルヴィンがおかしいのはわかった』

『おたくら、緊張感なさすぎ!』


少し皮肉気味に返すアルヴィンに対してルドガーは特に意にかえさずにエルとおしゃべりをする。そんな二人にアルヴィンが思わずツッコミを入れるとルドガーは思わずニヤリと笑う。そんなルドガーにアルヴィンはしてやられたなという顔をする。

今のはルドガーがアルヴィンに自然体で接して貰う為にワザとふざけてみせたのだ。この時のアルヴィンは嘘をつきたくないが為に不器用な発言をしてしまっただけなのだが、それに何となく気づいたルドガーなりの気づかいである……というのは建前で元々こんな性格のルドガーなのだ。


『状況を確認しよう。バランさんと見学者が閉じ込められているのは?』

『開発棟の屋上付近かと』

『警備システムの制御室は?』

『研究棟の最上階にあります』


ルドガーとアルヴィンが話している間に作戦を決め、二手に分かれることにしたジュード達。バラン達を救出しに向かうのがルドガーとジュードとアルヴィンに決まり、アルクノア兵と対人兵器が飛び道具で攻撃してくるのに若干苦戦しながら開発棟の屋上を目指して向かっていた時だった。


『バンバン撃ってきやがって……こっちも、もっと飛び道具が欲しいな』

『ふっ、いいところに来てしまったようだな』

『また、この人!』


アルヴィンがそう呟いたとき、何やらカッコづけた台詞を言いながらイバルが上空から降りてきてエルに少し呆れられながら指差される。何はともあれ、イバルが持ってきてくれた双銃をルドガーは受け取り、少しイバルで試し撃ちをしてから、先程よりもスムーズに開発棟の屋上を目指し始めたのだった。……ルドガーに撃たれた肩を抑えるイバルを無視して。

そして、しばらくそのまま進んでいると機械兵器が現れたので身構えるルドガー達だったが突如として通路脇から精霊術が飛んできてその機械兵器を簡単に撃破してしまった。そのことにルドガーが驚いていると奇妙なぬいぐるみを従えた少女がルドガーの前に現れた。


『エリーゼとティポだよ』


ルドガーとエルに、これまた自分と旅をした仲間だと紹介するジュード。彼女の名前はエリーゼ・ルタスで、リーゼ・マクシアの親善使節としてヘリオボーグの研究所の見学に来ていた所に今回のテロに巻き込まれたのである。


「なんでしょうか、あの浮いている不思議な物は?」

「気持ち悪いような……でも、つのは可愛いような」


ティポに対してアーシアとルフェイが興味を持つがやはりと言うべきかしっかりと気持ち悪いと言われ、耳をつのと間違われているのは仕方のないことだろう。


『かわいい子だな』

『そんなことないです……』


ルドガーの可愛いという褒め言葉に顔を赤らめて答えるエリーゼ。ルドガーにとっては思った事を素直に言っただけに過ぎず、可愛いといっても異性としてではなく子供を見て可愛いと思う感情なのだがそれを聞いたエルの感想は違った。


『ルドガー、チャラ男……』


ジト目で睨んでくるエルに訳が分からず、頭をかくルドガー。
この時はこの程度で済んでいたのだが―――


「私、以外の女にかわいいなんて……にゃははは………戻ったら覚悟するにゃ!」

「やっぱり、ロリコンなのかルドガーは?」


何やらどす黒いオーラを出して戻ってきたら覚悟をしろという黒歌にロリコン疑惑をさらに深めるイッセー。ルドガーは未来へと問題を後回しにしたに過ぎなかったのだ。この記憶が終わった時、ルドガーがどんな運命を送るのかはまだ誰も知らない。

エリーゼと合流したところで事件の事情を確認し合い、学校の生徒を逃がすためにバランが囮になって開発棟の上に残っているという情報を得たのでルドガー達はエリーゼに案内を頼む。とそこで雷が鳴り響きエルが小さな悲鳴を上げる。


『雷……怖いんですか?』

『べ、別に!』


そんなエルにエリーゼが心配して話しかけるが、エルは怖くないと強がる。そんな様子にルドガーは思わず微笑んでしまうが、さらに大きな雷が鳴り響き、エルが大きな悲鳴を上げたことで状況は一変する。列車やドヴォールのように世界が歪み変わってしまったのだ。その事に警戒しつつルドガー達は所内を用心しながら進み目的地である屋上に到着する。するとそこには電気を放つ不気味な球体のような物が存在していた。


『また変なのだ!』

源霊匣(オリジン)ヴォルト!』

『ビリビリするやつだよー!』

『……制御も出来ないのに!』


ヴォルトに対して対峙した経験があるのかジュード達が警戒する中、突如としてヴォルトが周囲に雷撃を放ち、それに巻き込まれたルルが悲鳴を上げて気を失ってしまう。


『ルル!』

『よくも…ルルをっ! うおおおっ!!』


ヴォルトの攻撃により瀕死になったルルの元に涙ながらに駆け寄るエル。そしてルドガーは大切な家族を傷つけられた怒りで怒号を上げながらヴォルトに斬りかかる。そこにアルヴィン、ジュード、エリーゼが援護に入り、何とか源霊匣(オリジン)ヴォルトを撃破することに成功する。

そして最後は今までと同じようにルドガーが骸殻になり歯車の様な物体を破壊して世界は砕けていく。一同は気がつくといつの間にかヘリオボーグ研究所の一階に傷ついたルルと共にいた。


『ルル、しっかり!』

『大丈夫、任せてー』


傷ついたルルに近寄りエリーゼが回復術を唱える。その横でエルが必死にルルに呼びかけ、そのエルにはティポが励ましの言葉を贈る。そして懸命な治療の結果、ルルは―――


『ナァ……』

『ルル!』


傷の回復が終わり、無事に目を覚ますことが出来た。そのことに優しいアーシアは記憶の中であるにも関わらず自分の事のように喜びを表していた。ルルも無事に治ったのでルドガー達は何が起きたのかを分からない状態ではあるがバランを探すために屋上に行く。そこでは先程の戦闘の痕がまるで戦闘など始めからなかったかのように無くなっていた。

そのおかしさに疑問を抱きながらも取りあえずバランが無事に出て来たので源霊匣(オリジン)ヴォルトやユリウスの情報を聞くがどちらも情報を得ることは出来なかった。最後に痕跡だけでもと思ってユリウスがどこかに行くかなどを言ってなかったかをジュードとエルが聞いていると突如として空から声が聞こえて来た。


『カナンの地は、魂を浄化し循環させる聖地よ』

『ミュゼ!』

『こんにちは、ジュード』


ミュゼは次元を切り裂く力を持った大精霊でかつてはガイアスと共にジュード達に立ち塞がったことのある人物だ。勿論今はそんなことはないのだが。因みにかなりグラマーなボディをしているためにイッセーが鼻の下を伸ばしていたが直ぐに小猫からボディブローを入れられてノックダウンしていた。そんなミュゼはジュードに驚くべき情報を言い渡した。


『ミラが、いなくなっちゃったの』

『ミラが人間界に来てるの!?』

『そのはずだけど……会ってないのね』


ジュードはミュゼの問いに無言で答える。ミラとは精霊の主である、ミラ=マクスウェルの事なのだが、魂の浄化に問題が起きたと言って精霊界を飛び出してきり連絡が取れないらしい。その事を知り動揺するジュードを残してミュゼはミラを探すと言い残して大空へと姿を消していった。その後、別行動をとっていたローエンとレイアに合流するがジュードの顔は晴れなかった。その事が黒歌達にジュードにとってのミラの存在の重要性を伺わせた。そしてここで場面は移り変わる。





『待っていたよ、ルドガー君』


場所はクランスピア社の社長室でビズリーがルドガー達を待ち構えている場面だった。ルドガーはここに来る前、ヴェルからのユリウスを目撃情報があったという連絡を受けイラート海停という場所に行ったのだがそこで会ったのはユリウスではなく、ユリウスに手加減されていたにも関わらず負傷した数人のエージェントだった。そこでルドガーはユリウスが解析した“分史世界”データのコピーを受け取りビズリーに渡しに来たのだ。


「分史世界……何か重要そうな言葉ね」


ヴァーリが呟くようにこれは今後のルドガーの旅路に大きく関わる内容なのだがそれはすぐに明かされることになるだろう。何故ならビズリーはその為にルドガーを呼び寄せたのだから。


『さて、君にいい知らせと悪い知らせがある。どちらから聞きたい?』


ルドガーからデータを受け取るとそんなことを言い始めるビズリー。そんなビズリーに対してルドガーは少し悩んでから、どうせなら悪い方から先に聞いた方が、後が楽だろうと考えて悪い方からでと言う。


『警察が、ルドガー様を公開手配するようです』

『はあっ!?』


驚愕の声を上げるルドガーに対して黒歌達はその不幸を憐れむ。初出勤の日に痴漢冤罪をかけられて無職になり、その数分後には列車テロに自分の意志とはいえ巻き込まれ、気を失って目が覚めてみれば2000万ガルドの高額な負債を負うはめになり、極めつけは公式な指名手配だ。

なにがどうなったらここまでの不幸が重なるのかと逆に聞いてみたい気分にさえなってしまう。それぐらいにルドガーの不幸は酷いのだ。そのことに黒歌達はこれが終わったらルドガーには優しく接してあげようと心に誓う。ロリコン疑惑とチャラ男の件に関しては別だが。


『ルドガー、捕まっちゃうの……?』

『いい知らせもあるんですよね?』

『ああ。君を我が社のエージェントとして迎えたい』

『俺が!?』


ビズリーの言葉に一度、入社に失敗したことのあるルドガーは驚きの声を上げる。


『驚くことは無い。君の行動を観察させてもらった結果だ。君には現状に立ち向かう意志、そしてなにより力がある』


ビズリーのその言葉にジュードたちが始めからルドガーを試す気だったんだろうと詰め寄るが、ビズリーは涼しい顔で器を計るためだったと答える。そしてエージェントになれば警察は無理にでも抑え込むとルドガーに言い渡す。

これはルドガーに選ぶ意見を与えているかのように見えるかもしれないが、実際の所はエージェントにならなければルドガーは警察に逮捕されると言っているのだ。さらには借金のことまで持ち出してルドガーの逃げ道をふさぐ。そのことにルドガーは、他に選択肢はないと諦めるが最後の抵抗として何をするのかとビズリーに聞く。


『……何をさせる気ですか?』

『“分史世界”の破壊』


先程ビズリーに渡したデータにおいても出て来た言葉だ。あのデータは分史世界を集積解析したデータで“道標”と呼ばれる物を探知する確率を上げるためのものだったのだ。


『心当たりがあるだろう』

『あの妙な世界か!』


アルヴィンと同じようにルドガーもこれまで自分の周りで起こっていた不可解な出来事を思い出して、あれに違いないと確信する。ビズリーはそんなルドガー達の様子に頷いて鉢植えに植えてある花の前に移動し、開花した花を指差し、次につぼみを指差す。


『今、我々がいるここ。本来の歴史が流れる正史世界から別れたパラレルワールド……。それが分史世界だ』

『分史世界が生まれると、正史世界に存在する魂のエネルギーが拡散していきます』


「パラレルワールド……本来ならとても信じられないけどここまで来るとむしろそうしないと説明がつかないね」

「つまり、死んだ人は全て分史世界の人間で、正史世界の人間は死んでいないということですね」


祐斗の言う通り、普通の人間からすれば到底信じられるような内容ではないのだが、今まで見てきた事を説明するにはこの話を信じる以外に道がないのだ。それは実際に体験したルドガー達ならなおさらだ。今更、あれは夢だの幻想だの言われても信じられない。

そして違う世界の存在を認めれば、アーサーの言う通りに殺した人間は全て分史世界の人間なので正史世界の人間が死んでいないという今までの謎が一気に解けるのだ。


『拡散って……まずくない?』

『放置すると、どうなるんですか?』


ビズリーはその質問に無言で花のつぼみをむしり取り、一気に握りつぶす。その様子に碌な事にはならないのだろうとルドガー達は固唾をのんでビズリーの言葉を待つ。そしてビズリーは少し、苦々しげな顔をしてルドガー達に答える。


『この正史世界から、魂が消滅するだろう。当然、人間も死に絶える』


世界の滅亡が着々と進んでいるという驚愕の事実に実感の湧かないルドガー達だったがビズリーに確固としたものではないが証拠を上げられて否応なしに信じることになる。そしてビズリーはクランスピア社の隠された仕事を、真実をルドガーに教える。


『クランスピア社は、世界を守るため、密かに分史世界を消し続けてきたのだ』

『世界を消すなんて、どうやって……』

『まさか!?』


ルドガーには思い当たる節があった。いつも分史世界に入った時に自分が変身していた、エルに怪物みたいと言われてへこむ姿こそが世界の消すために必要な能力なのではないかと考え、ビズリーの方を見る。そのことにビズリーは満足げに頷いて再び口を開く。


『そう……ルドガーは既にこなしている。ルドガーの変身……“骸殻”こそ、分史世界に侵入し、破壊する力なのだ』

『世界を壊す力……』


ルドガー達はこれで今まで自分達が経験してきた謎の現象の正体を大まかではあるが理解することが出来た。ルドガーは自分の力の壮大さにまだその恐ろしさを感じることが出来なかったがここで自分がすべきことは理解した。


「世界を、パラレルワールドを壊すのが本当の骸殻の使用目的だったのね。……通りであれだけ圧倒的な力が出せるわけだわ」

「ヴィクトルが言っていた世界の破壊者っていうのはこの事を言っていたのかよ……」


骸殻の圧倒的な力の理由に気づき思わず身震いをするリアス。世界を壊す程の力なのだ。通りで何も出来ずに自分達が負けるわけだ。次元が違いすぎる。そしてイッセーはヴィクトルが言っていた言葉を思い出し、その意味の一部を知る。しかし、彼はまだ知らない、世界を破壊するという本当の意味を。

黒歌達が骸殻についての考察をしている間に話は進んで行き、結局ルドガーは分史対策エージェントになることを決め、ビズリーの手を取った。そして、ジュードが最後に分史世界の生まれる理由を聞く。


『ある者が糸を引いているのです』

『カナンの地にすむ大精霊……クロノス』


ヴェルとビズリーの発言に驚くルドガー達、大精霊が糸を引いているというのも驚きだが何より、エルの目的地である『カナンの地』という言葉が出てきたことにエルがやる気をみなぎらせている。

そして、話を終えるとビズリーは骸殻の使い方を教えるために地下訓練場にルドガー達を連れて行き、ルドガー一人に複数の魔物をけし掛けさせ、危機的状況に追い込み、骸殻を使えるようにした。そして訓練が終わり肩で息をしているルドガーの元にビズリーと仲間が集まる。


『なんでルドガーに、こんな力が?』

『ルドガーが、クルスニク一族の末裔だからだ』


アルヴィンの実に単純な質問にビズリーが答える。骸殻能力はクルスニクの血を引く者でも才能ある選ばれた者が懐中時計を鍵として発言する能力だという。その事に全員ではないのかと黒歌達は若干の安堵を覚える。あんな力をみんながみんな持っていたら怖いなんてものではないからだ。


『骸殻は、クルスニク一族に与えられた……いや、かけられた“呪い”だ。だが、同時に人間に残された武器でもある。お前なら使いこなさせるはずだ』


“呪い”という言葉の時だけまるで何かを憎むかのような表情をするビズリーに黒歌達は驚く。


「“呪い”……これはヴィクトルさんが言っていた『契約により呪われし一族のその末裔』のことかしら。そうなってくると……社長さんはまだ何か隠しているわね」


ヴァーリはビズリーが何かを隠していると直感的に判断したがそれが何かはまだ分からなかった。しかし、いずれ彼女達は知ることになるだろう。呪いの意味を、一族に生まれたが故に苦悩し続ける者達の姿を。

 
 

 
後書き
今回の文字数……一万六千字!
チャプター7まで書くつもりだったけど6で文字数を見てみて挫折しました。
残りチャプター十……しかもかなり重要なものがある。

ロンダウの虚塵と箱舟守護者の心臓はまじめにカットするかもしれませんのでご了承を。
まあ、書くかも知れませんけど。 
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