美しき異形達
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第三十九話 古都での死闘その十
「そして今ね」
「今ここで」
「倒させてもらうわ」
このことを言ってだった、菖蒲は。
前にいる怪人の胸に剣を刺した、一撃で心臓を貫かれた怪人の背に符号が出た。
薊は百足の怪人と死闘を続けていた、その中で。
薊は炎を宿した棒での接近戦を行っていた、七節の棒を巧みに使いそのうえで怪人を攻めていた。だがそれでも。
怪人は薊のその攻撃を余裕はないが防いでいた、そして。
そうしつつだ、こう薊に言った。
「お見事です」
「そうだろ、あたしだってな」
「お強いというのですね」
「自分でそう言う趣味はあまりないけれどな」
それでも、というのだ。
「これまで散々闘ってきたからな」
「だからですか」
「ああ、こうしてな」
「闘い慣れていると」
「要するにそうだよ」
まさに、というのだ。
「あんたにも負けないぜ」
「確かに。しかし」
「しかし?」
「私の闘い方はです」
それは、とだ。怪人はその激しい接近戦を繰り出している薊に言うのだった。
「毒ですので」
「だからだってのか」
「はい、この毒を少しでも受けさせれば」
「あたしは負けて、だよな」
「私の勝ちとなります」
そうなることをだ、怪人は薊に告げた。
「そうなりますので」
「そうだよな、そのリスクがあるからな」
「私にとって大きいです」
こう言ってだ、早速だった。
怪人はその薊に対してだ、その棒の攻撃右から炎を宿したそれで振った一撃を浴びせたものを右手で受け止めてからだった。
口からだ、その息を吐いた。
息はただの息ではなかった、霧だった。濃い紫の霧が口から吐き出され。
薊の顔を襲った、それを受けてだった。
薊は一瞬怯んだ、だが。
その一撃を受けてもだ、薊は一瞬怯んでもだった。
すぐに態勢を立て直した、そして。
怪人のその腹に蹴りを入れた、それで怪人にダメージを与えて動きを止めて。
そこから真上に跳び空中で身体を伸ばした姿勢で独楽の様に回転し急降下しつつ右足での蹴りに入った、その蹴りで。
怪人を貫いた、そして怪人に背に両膝を折って衝撃を殺したうえで着地した。怪人の背には赤い符号は出ていた。
薊は立って怪人の方に振り向いてだ、こう言った。
「あたしの勝ちだな」
「そうです、ですが」
「あんたの毒のことだよな」
「確かに受けた筈ですよ」
その毒を、というのだ。
「速効性の猛毒を」
「それこそ受けたらか」
「一瞬で、です」
まさにその一瞬で、というのだ。
「死んでいる筈ですが」
「確かに一瞬怯んださ、あたしも」
「しかしそこまででしたね」
「ああ、そこまでだよ」
こう言ったのである。
「あたしはな」
「そうですね、しかし」
「あたしはこうして生きているからな」
だからだというのだ。
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