剣聖龍使いの神皇帝
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第1巻
買い物からの九頭大蛇
「もしもし、漆原?あたし。サツキ。ちょっと買い物に付き合って欲しいの」
『買い物?何しに行くのよ』
「もちろん漆原だけじゃないわよ。桜花さんも来るらしいんだけどさ、来てほしいの」
という訳で、サツキと桜花は漆原を伴って町に出た。諸葉が『実戦部隊』の特別顧問になった後の、週末の日曜日だった。生憎、空は曇り模様で、買い物日和とは言えない日だった。
「何か変な日・・・・」
サツキがぼやき、静乃は無言で首を傾げるが隣には大人の桜花が来ているので、恐らく大丈夫だろう。何かあればCB所属の桜花だから、何か情報でも入るはず。空気がジメジメしているような、ピリッとしているような嫌な感じ。休日は今日しかないので、出かけるしかないので桜花が運転する事三十分。再開発地区にあるショッピングモールに向かった。去年オープンしたばかりで、ここは主に蒼い翼がやっている大型商業施設なので、桜花が連れてきた。
「桜花さんがここを知ってるから案内してもらったのよ」
「ここは蒼い翼が展開しているから、でも買い物なら桜花さんと嵐城さんだけでもいいのでは?」
「静乃さんは諸葉様の前世では妻だと聞いていますから、ここには恋仲だったサツキさんもいるので一緒に選んではどうかと思いまして」
「なるほど。それはいいアイディアね、近場なら誰かに見られる心配があるからか」
「それと買うついでにあなた達との買い物も付き合いますよ」
そう言ってから、施設に入った後に色々と回ったがサツキと静乃と同じ腕輪にしようと思った桜花だったので、オーダーメイドでしてもらう所に向かった。それついでに色々と回った。服もついでに見て回り、気に行った物があれば桜花が買う事になった。ちょうど昼になる所だったので、屋台でクレープを買った桜花はサツキと静乃がいる所に行ってから座って食べていた。
「それにしても買った物をその場で宅配便で送れる何てね・・・・」
「これについては蒼い翼専門特権です。ま、漆原家にはちゃんとした宅配便なので」
「それにしてもこれ美味しい『ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ・・・・・・』な、何!」
突如として、鼓膜をつんざくような爆音が響く。サツキと静乃の思考が凍りつくが、桜花はすぐに隊長である諸葉にメールしてからIS展開。空から大量の水滴が降ってくる中、魂が抜かれたように呆然とする。滝のように打たれたので、我に返った時は展開後に戦闘態勢へと入る桜花。
「何よこれぇ!?」
「サツキさん!池の方を見て・・・・あれは《異端者》ですよ!」
雨やスコールでない事ぐらい分かっていたが、静乃は顔を池の方に向いていたがサツキと同じく固まっていた。
『グ・・・・ルルルルゥ・・・・』
腹に響くような重低音の唸り声を聞いて、吹き付けられる血腥い吐息を浴びて、にわかに差した長大な蠢く影を見たサツキが悟る。怖くて体が動かないが、自分が倒せる力を持っているのは分かっているが、桜花は既に戦闘態勢でサバーニャを呼び、乱れ撃ちを開始していた。黒く、音も立てずに迫るにも関わらずに立ち向かう桜花を見たサツキは固まったままの体を動くように指示していた。
「(動け・・・・動きなさい・・・・動いて・・・・動いて頂戴、お願いだから・・・・)」
その間に周囲を翳す長大な影が濃くなり、射撃を開始した桜花の攻撃を浴びているが、周りの者達の声で覚醒した。
「うわああああああああああああん」
「助けてええええええええええええ」
「怖いよおおおおおおおおおおおお」
恐怖で泣きじゃくる子供達の声が聞こえるが、桜花は攻撃をしながらサツキに言う。
「さっさと立ちなさい。あなたは私達に恩返しするために力を付けてきたのでしょ!」
サツキはカッと目を開いてから、認識票を出してから改めて見るが大蛇だった。地の底から鎌首をもたげた、巨大な一ツ眼をした蛇だった。その目を潰していた桜花だったが、少数勢力で勝てるCBでも今は周辺一帯の避難が終えるまでの時間稼ぎ。この化け物はこの世のモノではない、《異端者》とは天災よりも唐突に無慈悲にやってくるので、過去住んだ町が何度となくその被害にあっては、CB所属の桜花に助けられてきた。いつか《救世主》となり、桜花達に恩返しをしたいと思っていた。ここが恩返しをするフィールドだ。
「桜花さん!私はやるわ、このあたしが相手してあげるわ!」
「その意気よ。でもまずは周辺一帯の避難が終わるまでの時間稼ぎをしないとね。静乃さんも目を覚ましましたか?」
「・・・・ごめんなさい。もう大丈夫よ」
大声で見得を切り、金色の通力を纏い、認識票から剣を顕現させる。そして桜花は空を飛びながら時間稼ぎとして、撃っていた。それも効果は絶大であり、大蛇が倒れたのだった。
「サツキさんは一人でやるとでも言いたそうだけど、貴方達が《異端者》と戦うのは勝敗は数と連携で決まると亜鐘学園で《救世主》の鉄則のようですが、今は時間稼ぎとして私がやりましたがあとは任せますよ。一般人の避難誘導や諸葉様には既に連絡済です」
「任せて!漆原、あなたは後方支援をして」
「任せなさい。これでも私は王佐の魔女と呼ばれた畏敬の女。嵐城さんのサポートぐらい完璧にやってあげるわ」
そう言ってから桜花は他に一般人がいないか探索へ向かっては、子供達を数人纏めてから蒼い翼らの者達に預けた。そして静乃も認識票から竜杖ナーグラヴィッツを顕現させる。
「綴る・・・・、氷の闇よ 雪霊よ そなたの息吹を貸しておくれ 死よりも静けく凍えさせておくれ・・・・」
空を覆う暗雲よりも、大蛇が作る影よりも静乃の周囲が暗く翳っていく。彼女の持つ貪欲な魔力が光を喰らい、自然の力を飲み込んでいき更に強くなっていく。サツキは眼を瞠ってたが、《救世主》になって間もないサツキでも理解できる程の静乃の魔力は桁外れだった。まあ静乃的には、力を隠していたが今が見せ場だと思ったのだろう。細い指が滑らかに、全てを停止させる力を綴っていく。光のスペルは三行だったが、静乃がトン、と指先で弾く。不可視の冷気が生まれて、大気の水分を結晶化させながら大蛇へと襲い掛かる。源祖の業の闇術で、第三階梯《凍てつく影》は、蛇独特の鱗が霜に覆われて大蛇を苦痛ののた打ち回る。
「サツキさんと静乃さん!私が言う所に大蛇を誘導して下さい、奴をショッピングモールの所に誘い込みます。サツキさんは通力で走りながら誘導を、静乃さんは先に中へ行き、また《凍てつく影》をお願いします」
そう言った桜花は、大蛇に向かってビームサーベルで傷を付けながら準備に入った。桜花はCB所属の者で、上司ではないがサツキや静乃にとっては諸葉の部下に当たる者だから無言で頷いてから準備に取り掛かる。静乃はショッピングモールに入った後、誰もいないのを確認したらサツキが大蛇を誘導させる。桜花は空高く見ながら、サツキは指示通りに動き、静乃は本気を持って全長何メートルか分からない相手を氷で攻撃。
「これならイケるかも!」
大蛇は静乃の方に行くがそれをさせないために、横合いから蹴っ飛ばして妨害させた。白鉄が黒魔を庇う事は戦術通りのセオリーを厳守。サツキの顔は歓喜だったが、跳んでいる最中だったので、爆音と共に地中からもう一匹の大蛇が出現した。サツキはこれは冗談だと言いながらも、桜花がサツキをキャッチし静乃がいる所まで運ぶと桜花のセンサーは鳴り止まない。
「この数は尋常じゃない数のようですね」
爆音連発と共に、大蛇が地中から出てきては十メートルは超える巨体が出現したので、これはまるで映画の出現シーンだと思われるが事実だ。最初に現れた一ツ眼から九ツ眼が出現した事により、九匹だと思われるが頭と首が9つあるだけで本体は一つ。
「・・・・これは・・・・多頭種?」
静乃が呟いたがそれが答えとなり、九頭大蛇。ダハーカの頭が九つあるようなもんだが、頭の数が増えるほど、爆発的強さを増すという《異端者》。一昨年現れた七面八臂の巨人は、百人がかりでようやく斃せたと授業で習った。だけど桜花達CB側はIS部隊四人による、ライザーソードで倒したり量産型聖剣エクスカリバーを持ち、爆発的エネルギーで倒した前例もある。桜花だけでは倒せないが、仲間が出揃えば何とかなるのがCB側。
「こんなの・・・・無理ゲーだわ・・・・」
「諦めないで!サツキさん!」
桜花はサツキに近づけさせないために、乱れ撃ちに大量のミサイルを放った。だがサツキには聞こえていないらしく、剣が落ちたのだった。
「何をやっているの、サツキ!」
後方から静乃の叱咤の声だったが、サツキの目の前には九ツ眼の頭が顎を開いて迫っていた。迎撃に放たれる《凍てつく影》で、咄嗟ゆえの威力に劣る第一階梯闇術。九ツ眼の頭はそれをものとせずに、サツキに至近距離から石灰色の吐息を放つ。桜花では間に合わないので、静乃が押し倒すようにしてサツキをブレスから庇った。白鉄ならぬ静乃では避けるにも限度があるので、二人の体をブレスが霞める。反射的にサツキは目を瞑るが、痛みはなかった。膝から下の感覚が消え失せていた。石を化した自分の両足が、石化の異常状態は膝から上にゆっくりと侵食し始める。
「・・・・通力を高めて。石化の呪力に抗うのよ」
静乃ともつれ合って倒れたまま、サツキは無言で頷いて指示に従う。その間に桜花は、シールドビットを使って二人の周辺をある程度守れる。石化の進行は食い止められたが、この足では立ち上がる事も出来ない。首を伸ばして来た五ツ眼が、二股に割れた舌で舐めようとするがソードビットによって舌を斬られる。サツキと静乃は、桜花がいなければ死を覚悟していただろう。
「桜花さん!諸葉は?」
「今向かっているそうですが、私だけでは時間稼ぎしか出来ませんがもう少しだけ耐えて下さい。諸葉様は必ず来ます事を信じて下さい!」
桜花は持っていたビームサーベルで、大蛇の牙や舌を切断しながらも桜花は思う。こいつは人間味のような表情をする。嬲るのが面白いのか、こちらを見てはニヤニヤと笑いながら、サツキ達のシールドビットが破壊された事で死への恐怖を楽しんでいた。
「何なのコイツら!まるで桜花さんや私達への恐怖を楽しんでいる。どう思う・・・・?」
聞いても静乃の返事はなかった。サツキは気付くが、静乃は足だけではなく背中一杯にブレスを浴びた。石化の呪力に抗うため、意識朦朧とする程の魔力を振り絞っている。
「静乃さん!しっかりして!もうすぐ来ますよ」
サツキは無言となってしまうが、桜花が戦いながら静乃に檄を飛ばす。例え大蛇に食われずとも、徐々に石になっていく恐怖が彼女らを蝕む。大蛇共にとっては、絶望に歪んでいくであろう二人の表情がご馳走なのかもしれない。が、それをさせないために桜花は大蛇共に立ち向かう。そのお陰か、無数の眼は桜花の方へ向かっているので恐怖は感じてない。その直後にどこからか、諸葉の声が聞こえてくるので一粒の希望が絶望という大きなのを塗り替える程だったからだ。
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