君は僕に似ている
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2部分:第二章
第二章
「いいものだよな。とてもな」
「はい、また平和になって欲しいです」
「けれどその為には」
「セルビアの奴等が邪魔です」
こう言うのもわかっていた。目に憎しみが戻るのもだ。それも全部わかっていた。
「あいつ等が」
「そうだな」
答えはした。けれど。
心は違っていた。これまでは頷けた。今は違っていた。
だから言葉だけで答えてだ。また話を聞いた。
「俺、戦います」
「平和を手に入れる為にだな」
「そうします。クロアチアの為に」
平和が欲しい、そしてクロアチアを愛している。それは俺も同じだ。変わる筈がなかった。けれど戦争と憎しみにだ。俺は正直疲れだした。
そして疲れを感じてから。俺の考えが変わった。
こんなことを繰り返して。先に何があるのか。
クロアチアは前はユーゴスラビアの中にあった。ユーゴは。
五つの民族が仲良く暮らしていることになっていた。少なくともそれを目指していた。けれどそのユーゴができる前はどうだったか。
殺し合っていた。セルビアもクロアチアも。それこそスロバニアもマケドニアもだ。お互いに憎しみ合って殺し合ってきた。それがバルカン半島だった。
この半島に血が流れなかったことはない。俺はそのこともあらためて考えるようになった。そうして俺は。殺し合ってその先にあるものを考えた。
同じだと思った。繰り返しだと。
殺し合って憎しみ合って。それがずっと続く。ユーゴの前の歴史がだ。今繰り返されているだけだった。その繰り返しだと思った。
それを言いたかった。しかし。
また。予想通りの言葉が出て来た。こいつの、彼の口から。
「俺、戦いますから」
「クロアチア人としてだな」
「はい、セルビアと戦います」
その心は変わらなかった。思った通りだ。
「あの時の俺は何もできなかった」
「だから家族が死んだっていうんだな」
「けれど今は違います。俺は戦います」
こうだ。熱のある声で話してきた。
「そうしますから。絶対に」
「わかった」
俺は表情を消してその言葉に頷いた。そしてだった。
その日は休んだ。自分達の粗末なベッドに入って寝た。明日もまた戦いだ。それがずっと続いた。俺達は生きてはいた。けれどだった。
戦いが続く。ユーゴだった国はどんどん分裂していっていた。
俺達だけでなくボスニアでも既に戦いがはじまって久しかった。そこにマケドニアやコソボも独立を言い出してだ。さらに滅茶苦茶になっていた。
特にだ。ボスニアは酷かった。俺達は倒したセルビアの連中を見下ろしていた。また戦いだった。セルビア軍の陣地を奇襲して勝った。
セルビアの奴等は逃げ出した。後には死体と負傷者が残っていた。ッ負傷者は捕虜にする予定だ。けれど彼はその捕虜をだ。
一人残らず射殺した。誰もそれを止めなかった。俺もだ。
止めようとは思った。けれどあの話を聞いて。それができなかった。
彼はだ。怒りに満ちた声でこう言った。
「この連中ボスニアでとんでもないことしてるんですね」
「ああ、そうだ」
その通りだとだ。俺はセルビア人の死体を見ながら言った。頭を撃ち抜かれてだ。口から血を流してそのうえで倒れていた。その死体を見下ろしながらだ。
「ここ以上に虐殺してな」
「収容所ですね」
「とんでもない話だ」
正直考えたくもなかった。言葉に出すのもはばかれた。
「そんな目的での収容所なんてな」
「それがセルビアのやり方なんですね」
俺に応える声にだ。これまで以上に憎悪がこもっていた。
「そんなことをするのが」
「御前はそういうことは」
「絶対にしません」
少なくともそういう奴じゃない。それはわかっていた。
けれど言葉になったのを聞いてだ。俺は安心した。そこまで荒んでいないことがわかったからだ。
「そんなことは」
「そうだな。俺もだ」
「俺はセルビアの奴等を殺します」
それは変わらないというのだ。
「けれど。そんなことは」
「けれどな。それはな」
「昔から行われていたんですか」
「そうだ、昔からだ」
実際にそうだとだ。俺は答えた。調べてだ。それもわかっていた。
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