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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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交差

 
前書き
偶には原作主人公視点 

 
~~Side of なのは~~

私は高町なのは、9歳です。魔法少女やってます。
家族は私の他にお母さんとお兄ちゃん、お姉ちゃんがいます。お父さんは……実は数年前、お仕事で大怪我した後に突然行方不明になったんです。だけど私たちは、どこかでお父さんは生きていると信じています。それで帰ってきたお父さんに、ずっと我慢して待ってた事をほめてもらいたいです。

さて、そんな私は今、学校のクラスメートで大事な友達のアリサちゃんとすずかちゃんと一緒に温泉旅館に向かっています。車はアリサちゃんの家の執事の鮫島さんが運転しているのと、すずかちゃんの家のメイドのノエルさんが運転しているのとで分かれていて、私たちは鮫島さんのに、お兄ちゃんたちはもう一つの方に乗っています。

別にもう一つの方に乗っても構わないんですけど、こっちにはアリサちゃんとすずかちゃんがいるし、何より最近、お兄ちゃんが妙にピリピリしてて怖いんです。そんなお兄ちゃんを毎日お母さんやお姉ちゃんがなだめるのが最近の光景で、皆と違って運動もできない私は昔から抱いていた疎外感を更に増していました。

だからなのかな? 私はユーノ君を手伝うことで出会った魔法の力に、逃げるように一気に傾倒していきました。私が使える特別な力、私にしかできない、私にしか守れない、だから私がやらなきゃ……と。だけどこの前のジュエルシードの発動の際、ある人に出会って指摘されました。

“覚悟を持て”と。

ジュエルシードの危険性を本当に理解したあの日、私は自分が行っている回収作業がどれほど多くの人に影響するのか、その言葉ではっきり思い知らされました。力を手に入れて浮かれていた私にとって“大切な人たちを守るために戦う”という覚悟を自覚させてくれた事は、私の心に大きな意味を持ちました。だから、またあの人と会えたら今度はもっとちゃんとお話ししてみたいです。

そして……この前出会ったもう一人の魔法少女。初めて会ったあの時は流れのままジュエルシードを巡って戦う事になって、それで私が負けてジュエルシードを奪われたんだけど、それを手にした際にあの子がほんの一瞬だけ見せた寂しそうな眼。勝ったはずなのにあの子がどうしてあんな眼をしたのか、私はずっと気になっています。また今度会えたら、その時は少しでも何か話を聞きたいです。

あ……ずっと考え込んでいたら、皆に心配させちゃいます。顔を上げて車の前を見ると、私たちの車と並走して観光バスが走っていました。確かこれから行く温泉街は定期的にツアーが組まれる場所なので、観光バスが隣で走っている事は珍しい事ではありません。

「あ、私たちと同じ所に行くバスなの」

でもどんな人が乗ってるか興味が湧くので、窓越しで何となく見てしまいます。でも高さもあって見えるのは窓際の席に座っている人だけで、通路側より向こうにいる人はわかりませんでした。だけど窓際だけでも色んな人がいるので、それだけで楽しいです。

「へぇ、ここから見てみると意外に観光客が多く乗ってるわね。何人か同じ旅館に泊まるかもよ?」

「もしかしたら旅館で会うかもしれないけど、知り合いしか普通は気付かないよね」

「知り合いかぁ……居たら居たで面白いかもしれないの」

「ま、私たちの知り合いなんて考えてみれば家族とクラスメート以外に、そういないわよ。……あれ? つまりそれって私たちの交友関係が狭いって事!?」

「あはは……確かに私たちはまだ小学生だし、交友関係なんて普通はそんなものだよ。それに無闇に交友関係を拡げなくても、私は皆が傍にいるだけで十分だよ」

「そ、そう……ありがと……すずか」

「にゃ~、嬉しいけどなんかここも空気が甘いの」

この時の私は知らなかった。アリサちゃんやすずかちゃんが何の気なしに放った言葉。そこにはいくつかの思惑や真実が混ざっていた事を。







その頃の観光バス内。

「こくん……こくん……」

「ねぇフェイト、旅館に着いたら起こすから寝てても大丈夫だよ?」

「ん……わかったぁ……じゃ~おやすみぃ…………すぅ……」

「ふむ、乗り物の振動というのは子供に睡眠を促す作用があるのだな。現にはやても陥落寸前だ」

「なにお~……私はまだ起きとるで……むにゃ」

「我慢するぐらいなら大人しく寝ておけ。どうせ着くまで暇な事に変わりないのだからな」

「むー……そんならサバタ兄ちゃんの膝借りるで~……ぱたり」

「まったく……まるで“ひまわり”を相手にしている気分だ」

「ほっほっほっ、兄妹仲がよろしいですね~」

「うむうむ、可愛い孫を見ているようじゃのう~」

「なんかあたしら、爺ちゃん婆ちゃんたちに微笑ましい感じで見られてるよ?」

「今更気にするなアルフ。年配者が多いこのバスでおれ達が浮いているのは乗る前からわかっていたはずだ」

「そうだけどさ……やっぱりちょっとむず痒いよ~」

そんな感じであった。








旅館に着いてチェックインした後、私たちはさっそく温泉に向かいました。それでユーノ君も連れて行こうとしたら、なぜかすごく嫌がっていました。フェレットだから大丈夫なはずなのに、どうしてだろう? でもアリサちゃんとすずかちゃんが出し抜くようにユーノ君を風の如くさらっていったので、結局一緒に浸かる事が出来ました。ただ温泉に入っている間、ずっと念話で念仏のような事をしてたけど……そんなに恥ずかしい事なのかな?

「―――兄ちゃん、身体に傷多いけどめっちゃ肌スッベスベやん! なんか女として負けた気がするで……ぺちぺち」

「傷が多いのは居た場所を考えるとしょうがないけど、傷は男の勲章だって聞いた事があるから見方を変えれば……ほら、一気に頼もしく見えるよ! ぺたぺた」

「…………なぜ2人そろって俺の身体を触ってくる」

「まあ、いいじゃん」

「それにしても―――ちゃんも一緒に入れば良かったのになぁ。一応風呂に入るぐらいの時間はあるはずやろ」

「う~ん、気を遣ってくれてるのに悪いけど、あの子は用事が済むまで落ち着こうとしないんじゃないかな」

「確かこの国の諺に、急いては事をし損じる、というのがあったな。アイツは気の入れ所と抜き所を把握すべきだろう」

ちなみにこの旅館には男湯女湯の間に家族用の混浴風呂があるんだけど、私たちがここに来る途中通りかかった時は使用中でした。誰が使っているのかわからないけど、さっきから衝立越しに楽しそうな声が聞こえてくるので、きっと仲の良い家族だと思います。

そうしてゆっくり疲れを癒す事が出来た温泉から上がって、こういう場所で恒例の卓球をしようと卓球場に向かいました。

「何なのよ、アンタ!?」

すると私より先に向かっていたアリサちゃんの怒声が聞こえて来て、何があったのか急いだら、オレンジ色の髪の女性がすずかちゃんを含む二人に絡んでいる光景に差し当たりました。

「何があったの、アリサちゃん?」

「聞いてよ、なのは! なんかこいつがね……!」

「え、ええと……私たちに何か用なんですか?」

「ちょっ、先に聞いといてスルーかい!」

「いや~悪いね。ちょっと知り合いの子に似ていてさ。うっかりぶつかって悪かったね」

「……いいもん、いいもん。私なんてイジられたりしないと輝かないキャラなんだから、むしろありがたい方だもん。……ぐすん」

「よしよし、アリサちゃんは頑張ってるもんね。いつも全力で向き合ってるもんね」

私がさっきまでアリサちゃん達に絡んでいた女の人と向き合っていて、その後ろで体育座りでいじけてるアリサちゃんをすずかちゃんがなだめている。そんな妙な光景に対して、呆れ交じりの聞き覚えのある呟き声が聞こえました。

「廊下の真ん中で何をやってるんだ、おまえ達は……」

その声に思わず振り向くと、あの時の……春なのにマフラーを巻いて、独特な赤い目をした彼、私に覚悟を促したサバタさんがいました。
背中に私達と同年代らしい茶髪の女の子を背負いながら……。

『ああぁーーーーーっっっ!!!!』

「な、なんやぁ!!?」

へ? なんでアリサちゃんとすずかちゃんも叫んでるの? というか一斉に大声出しちゃったから背中の子もびっくりしちゃってるよ。

「あ、あああああ、アンタ! なんでこんな所にいるのよ!?」

「私たち、あれからずっと探してたんですよ!? サバタさん!」

「にゃっ!? 二人とも、サバタさんを知ってるの!?」

「知ってるというか、まあぶっちゃけて言うなら私たちの命の恩人なのよ」

「詳しい事情は話せないけど、本当に危ない所だったんだ。サバタさんが来てくれなければ今頃どうなってたか……」

「そ、そうだったんだ……」

「ところでなのはの方こそ、どうやってサバタと知り合ったわけ?」

「うにゃ!? え、ええと……た、多分、二人と似たような感じだと思うな~にゃはは……」

言えない……ジュエルシードの発動時に会ってたなんて……。だってその事を話したら必然的に魔法の事も話さないといけないから……。

「お? なんやサバタ兄ちゃん、この子達に何かやらかしとったんか?」

「その言い方は誤解を招きそうだが、単純にこいつらと少し縁があっただけだ。それよりも……おいアルフ。なに子供に絡んでるんだ、大人げない」

「だ、だって~、今の内に釘を刺しておけばもう邪魔してこなくなると思ってさ~!」

「お節介を焼くのも結構だが、問題を起こされると面倒だ。それに……」

こちらを一瞥したサバタさんは軽くため息をついて次の句を告げる。

「このままだと本当に厄介な問題が起きそうだ、さっさと戻るぞ」

「あ、ちょ、ちょっと!? わ、わかったから! ちゃんと歩くから引きずらないで~!? わ、わあああぁぁぁぁ~~~~~………!!!? [こ、今度来たらガブッと行くからね!? しっかり覚えておくんだよ~!!]」

私が二人と話し合っている間に、サバタさんは涙目で言い訳し続けている彼女の後ろ首をつかんで引っ張って行っちゃいました。その様子にサバタさんの背中の子も爆笑していて、私もなんだかドナドナの曲が頭に浮かびました。なんか去り際に念話で脅してきたけど、ずるずると連れて行かれてる間の抜けた姿だったから威圧感が全然ありませんでした……。大丈夫なのかなぁ?

「あぁ、行っちゃった。でもまさかこんな所で見つけるなんてねぇ……」

「どうしよう……これ、お姉ちゃんに伝えるべきなのかな……?」

「う~ん……とりあえず、卓球する?」

サバタさんがいなくなった通路の方を見ながら、私は魔法の事をバラされなくて内心ほっとし、このまま言及される流れにならないように本来の目的だった卓球の話を持ち出しました。

「はぁ……そうね、今はどちらにも都合があるし、アイツの事はまたの機会ということに決めとくわ」

「私としては本当は放置するわけにはいかないんだけど……あの女の人もさり気なく連れて行ってくれたし、例の件は次に会った時にすればいいかな」

私の提案に了承したアリサちゃんは軽く息を吐いて気合が入っているのを示したいのかシャドーボクシングを始め、私の知らない事情があるらしいすずかちゃんは頬をかいて困惑混じりにため息を吐きました。

ちなみにそのあとやった卓球の戦績はトップがすずかちゃんで、私はビリでした。はぁ……運動……やっぱり苦手なの。






月明かりが綺麗な夜、そろそろ寝ようかと思っていた10時ごろ、私は大きな魔力の波動を感じました。

[なのは、ジュエルシードの反応だ!]

ちょ、ちょっと待ってユーノ君! まだ眠くてフラフラなの~!

浴衣だと動き辛いからえっちらおっちら私服に着替えて、皆にバレないように忍び足で部屋を出てから急いで発動地点に駆け出すと、さっき会ったオレンジ髪の女の人……アルフさんと、この前私を落とした金髪の女の子が待ち構えていました。その余裕のある様子から私が来る前にジュエルシードを封印したみたいです。遅刻した点では私のミスですね……。

「忠告したはずだよ? 来たらガブッといくって」

「君達はジュエルシードを手に入れてどうする気なんだ!?」

「答える義理は無いね。それに、調子に乗ってる子はあたしの牙で噛み千切ってやるよ!」

そう言うと彼女は立ち上がって、人間から狼の姿に変わりました。何気にこういう変身は初めて見たので驚きました。

「やっぱりあいつ、あの子の使い魔だ」

「使い魔?」

「そうさ、あたしは主の魔力で生きる代わりに全身全霊を以てあらゆる障害から守る存在さ」

「でも最近怠けてるよね?」

「って、うぉ~い!? そ、そんな事ないよ!?」

ぐりんっと振り向いて後ろのあの子に必死の形相で叫ぶアルフさん。だけどその背中からおびただしい汗が出ているのは気のせいじゃないみたいです。

「じゃあこの前冷蔵庫に置いといた私のプリンを勝手に食べてたのは?」

「ナ、ナンノコトダカワカラナイヨー」

「そう。ま、どうせまた買えばいいだけだよね。………期間限定の特別製プリンだったからもう売ってないけど……………ぐすん」

「うわぁー!? ごめんなさぁ~い!!」

「え、えっと…………どんまいなの」

なんだか内輪もめがあったみたいだけど、無事(?)に済んで良かったです。でも、これだけアットホームなら私とも少しでいいからお話してほしいです。

「………はっ! そ、それよりジュエルシードを渡すんだ! それは君たちが手に入れていいようなものじゃないんだ!」

妙な空気の中、いち早く正気に返ったユーノ君が要求したけど、二人はそれを一蹴していきなり襲い掛かってきました。咄嗟にユーノ君は先鋒の狼さんに飛びかかり、転移魔法で飛んでいったので私はすごい練度を以て攻撃してくる女の子と交戦することになりました。

「良い使い魔を持ってるね」

「ユーノ君は使い魔じゃないよ。私の大切な友達!」

「そう。でも私にはどうでもいいこと」

その時、またしても一瞬寂しそうな眼を浮かべた彼女。それを目にしたことで彼女のことをもっと知りたいと思うようになりました。そしてジュエルシードを賭けて戦いながら私は彼女に質問を投げ続け、答えてくれるのを待ちました。

でも結局かなわず、私の首筋に彼女の魔力刃を突き付けられたことでレイジングハートが敗北を認めて、ジュエルシードを放出しました。

「悪いことは言わない。これ以上関わらないで」

「そんなの……無理だよ!」

「…………」

戻ってきた狼さんと去っていく彼女に、せめて名前だけでも聞けたらと思って尋ねると「……フェイト・テスタロッサ」と返してから転移していきました。

フェイトちゃん……今は無理でも、いつか絶対に友達になって見せるから!!








とりあえず戦闘で消費した体力が回復したので旅館に戻ることにしました。終始空中戦だったから幸いにも服は汚れなかったので、もし見つかっても家族への言い訳に苦労はしなさそうです。

「ごめん、なのは……僕の力が及ばないばっかりに」

「ユーノ君のせいじゃないよ。私の戦いがまだ下手だから……」

「なのはは十分頑張ってるよ。せめてジュエルシードをどうして集めているのかだけでも聞ければ……」

「危険なことは多分しそうにないけど…………あ」

「どうしたの、なのは? ………あ」

ついユーノ君と二人そろって呆然とした声が出ちゃいました。それもそのはず、私たちの視線の先では、今日も偶然出会ったサバタさんが月明かりに照らされて幻想的な光を全身から発している光景が見えたのです。月と共鳴しているような二つの淡い光はため息しか出ない美しさで、しばらくの間、私とユーノ君は言葉も忘れて見とれていました。

「……盗み見とは、魔導師ともあろうものが行儀が悪いな」

「あ……ごめんなさい」

「フッ……子供は寝る時間だ、さっさと部屋に戻るのだな」

「そのまえに訊かせてください! あなたは魔導師なんですか?」

「残念だが“獣”、おれはそんな真っ当な人間じゃない」

「そ、そうですか……それと僕は“獣”じゃなくてユーノ・スクライアです!」

「知ってるが呼ぶ気にならん、出直して来い」

「ガーン!!」

「あの……サバタさんは……」

「悪いが高町なのは、おまえの質問に答えている暇がない。こっちはとんだ拾い物をしてしまったのでな……まったく、こういうのはおれの役割ではないのだが……」

困ったような……でも嫌では無さそうな顔を浮かべて、サバタさんは立ち去っていきました。私の名前は覚えてもらってたけど、それだけって感じでした。あの人とも出来ればもっと話したいのですが……。ところで拾い物って何なんでしょう? もしかして旅館で会った時は無かった右腕の火傷が何か関係あるのでしょうか?

「あ、そういえば! サバタさんってアルフさんと知り合いみたいだから、フェイトちゃんの事も何か知ってたかも! にゃ~、さっき聞けてればよかったのに~!」

「名前で呼んでもらえないのは哀しいけど……結界の中に入って来れたり、暴走体と戦えるほど高い身体能力に卓越した射撃技術、極めつけは魔力を喰らう力を操る黒い銃。彼は……一体何者なんだろう?」

彼に対しての疑問が尽きないユーノ君でしたが、フェイトちゃんと同様に少なくとも悪い人ではないと思うな。だって私だけじゃなくアリサちゃんとすずかちゃんも助けてもらった事があるし、ちゃんと話す機会があればいつか仲良くできると思います。
その後はひとまず部屋に戻って皆にどこを出歩いていたのか訊かれましたけど、何とか誤魔化せました。それから旅行の間、出歩く度にさり気なくサバタさん達を探してみたけどやっぱり見つかりませんでした……。
 
 

 
後書き
近くにいるのに色々すれ違ってます。 
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