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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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相談

 
前書き
説明回 

 
「はぁ……駄目だなぁ、私。いつかこうなる事ぐらい覚悟していたはずなのに……」

夕方にジュエルシードを感知したという事で出かけたフェイトが、帰ってくるなりベランダの外を向いてやけに落ち込んでいた。体育座りでしょぼくれているフェイトを遠目に、おれはアルフからこうなった経緯を尋ねた。

「今日さ、回収に行ったらそこで白い魔導師とジュエルシードを巡って戦う事になったんだ。相手は素人で甘ちゃんだったから気迫の差もあってフェイトが勝つのは自明の理だったんだけど、同い年の子を撃墜した事に罪悪感を抱いちゃったみたい。まったく、目的のためだというのに、フェイトは本当に優しいんだから……」

「白い魔導師……か」

心当たりがあるから少し罪悪感はある。しかしこの争奪戦は口を挟んで止められるような内容でもないから、おれはヴァンパイアなどから横槍を入れられないように一歩下がった所で見守ろうと決めている。

「サバタなら大丈夫だと思うけど、あたし達の事はあまり口外しないでほしいんだ。厄介な組織に嗅ぎ付けられる訳にもいかないからさ」

「そうか。それぐらい構わない……が、そろそろアルフ達がジュエルシードを集める理由を教えて欲しいのだが……」

「……ごめんよ。サバタなら教えても大丈夫かもしれないけど、フェイトが話さないならあたしも話すわけにはいかないんだ。使い魔だしね」

「まあ、そうだろうな。ところで話を戻すが、その厄介な組織の名前はわかるのか?」

「うん、名前は“時空管理局”。次元世界の警察みたいな所だよ」

「次元世界?」

「そ。この世界の他に色んな世界が無数にあるのは前に話したよね? で、その世界の多くを管理しているのがその組織なんだ」

「……途方もない話だな。まぁ、異世界の魔法使いがいるという事実も大概だったが、いくつもの世界という膨大な規模を一組織が本当に管理できるものなのか?」

「さあね。あたしも一般常識を知ってるだけで、別に詳しいわけじゃないからわからないよ」

「………」

時空管理局。次元世界を管理するなど、果たして人間が本当に手を出していい領域なのか? ただ人の性とも言える欲望を加速させるだけではないのか? 自分たちに都合よく物事を改ざんして、いずれ取り返しのつかない事態に追い込まれるのではないか?
だが実の所、おれにはそんな事どうでもいい。重要なのは、フェイトたちの敵がその規模が桁違いな組織だという事だけだ。

「……今のうちに、もしその組織が出てきた時の対策を決めておこう。事前に決めていたヴァンパイアの時と同様、捕まったら終わりなフェイトとアルフはとにかく安全地帯に逃げろ」

「そうしたいけどその時ジュエルシードがあったら、どんな状況でもフェイトは手に入れようとするよ?」

「ジュエルシードならおれが暗黒転移で回収しておく。だから逃げる事を最優先にするよう、フェイトに重々言い聞かせておくんだ」

「だけどサバタは一人で大丈夫なのかい?」

「問題ない。暗黒転移は瞬時に発動できる上、連続使用が可能だ。速度を競うなら全力で逃げるおまえ達だろうと一瞬で追い抜くかもしれんぞ?」

「おっと、それならあたし達が先に逃げても安心だね」

「そういう事だ。それにダークマターの性質は魔導師にとって天敵だから、敵の魔導師と戦う事になろうと自力で突破できるだろうしな」

「そりゃあ確かに、魔力を文字通り消滅させられるんじゃ普通の魔法は役に立たないよねぇ……」

アルフが呆れ交じりに嘆息する。以前ジュエルシードの捜索に出た日、暗黒銃が魔法に対してどれほどの威力を持つのか、アルフが張ったシールドに撃つ事で実験した事がある。それで暗黒ショットが直撃した瞬間、それなりに強固なはずのシールドがまるで霧が掻き消されるように霧散したのだ。なお、ショットも着弾と同時に消滅していたので、アルフにダメージはない。
この実験と、以前ヴァンパイアをブラックホールで動きを封じた際、フェイトの魔法はダメージが通っていた経験から次の結論が導かれる。

“活性化した暗黒物質は魔力素を喰うため、アンデッドを魔導師が相手にしてもフェイトのような変換資質が無いと現状の魔法ではまともに戦えない”という事だ。

……地味に時空管理局や多くの魔導師の存在意義を揺るがしているな。ま、ヴァンパイア同様、体内にダークマターを宿しているおれも同罪か。

フェイトが落ち込んでいた理由から、いつの間にか脱線していた。ともあれ、フェイトにはフェイトなりの戦う理由がある。その過程で傷ついた者への感情には、本人が心を強くして耐えるしかない。もっとも、フェイトがその程度で立ち止まるとは思えんが。

「……ねぇサバタ」

「どうした?」

「私って、間違ってるのかな……? 倒した相手の事をいつまでも引きずるなんて……」

「……戦士としては欠点だろうが、人としては美点だろうな。だから一概に正否を問うものではない。結局大事なのは、己の心の持ちようだ」

「私の……心?」

「そうだ。フェイトが知りたいのは、目的のために泥にまみれてもなお、前に進む覚悟。他者を蹴落とし、己の望みのために戦い続ける意思だ。……世の中というのは全員が全員、望みを叶えられるわけではない。だからこそ、自分以外の人間の望みを踏み潰してでも戦い続けるしかないのだ」

「誰かが救われても、別の誰かが救われない。悲しい摂理だね……」

「アルフから聞いた、白い魔導師を落とした事に罪悪感を抱いていると。だがフェイトはジュエルシードを集めることをやめないのだろう?」

「うん。私にはそれがどうしても必要だから」

「なら迷う必要はない。魔法には非殺傷設定があるようだから、いずれ相手は再び立ちふさがってくるはずだ。だからフェイトはそいつを倒し続ける覚悟を持つしかない」

「そう、だね。でも私一人でそんな覚悟持てるかな……?」

「一人では無理でもおまえにはアルフがいる、だろう?」

「そうだよ。フェイトが背負いきれなくても、あたしが支えるからさ。だから気にしなくていいんだよ」

「アルフ……うん、ありがとう……!」

「それに、だ。ジュエルシードの回収作業は命がけだ、フェイトのように実戦慣れしている人間が当たる方が危険は少ない。ゆえに素人が迂闊に戦いの場に赴かないように力づくで止めていると考えれば、少しは心がマシになるんじゃないか?」

「あ、そういう考えが……なるほど……その発想は無かったよ。ありがとう、励ましてくれて嬉しかったよ」

「そうか……」

何にせよ、フェイトが立ち直ったのならそれで良い。だが高町なのはに覚悟を促しておいて、戦線から離させる考えを示すというのも少々複雑な気分だが。
と思っていたら、何故かしばらく何も言わないまま見つめてきたため、もう一度目線を傾けると、両手の指を絡ませて頬を紅潮させたフェイトが上目づかいをしながら、たどたどしい口調で何かを言い始めた。

「そ、それで……その……サバタのこと……お、お……」

「?」

「だ、だめ……言えないよぉ、アルフぅ~~!!」

「いやいや、ここまで言ったんだからもういっそズバッとお願いした方がいいって!」

「えぇ!? でも……やっぱり恥ずかしいよ……今更“お兄ちゃんと呼びたい”ってお願いするなんて……!」

「お~い、フェイト~。もう口に出ちゃってるよ~」

「え……あ、わ、わああっ!? どどどどどどうしよう!? あぅあぅ~~!!」

先程までの超然とした様子から一転、迷子になった子供のように半泣きでおろおろとしているフェイト。多分これがフェイト本来の表情なのだろう。そもそもこれまでの憮然とした様子がこの年代の子供から見て少しおかしかったのだ。おれのような人生を歩んだ訳でもないはずなのに、目的遂行のために私情を捨てているのだから。それにしてもふと思う所がある。

高町なのは、フェイト・テスタロッサ、八神はやて、世紀末世界より明らかに平和な世界で育ったはずのこの3人の少女は明らかに人の愛に飢えている。ついでだがアリサ・バニングスはともかく月村すずかも似たような所で歪みを抱いていると思われる。

なんだ? この街の子供は皆こうなのか? 世紀末世界の孤児や魔女と色んな意味で張り合えるぞ。この世界の方が文明的に発展しているはずなのに、どうして育った環境がこうもアレなのか……本当に疑問だ。

「フェイト、そう怯えずとも呼びたいのなら呼べばいい。何より暫定的だが兄妹扱いなんだから、むしろその方が自然かもしれない」

「あ……ホントだね。じゃ、じゃあ呼ぶよ! お……おにい……!」

「フェイト、がんばれ!」

「お……お……おに、お兄……ちゃん……! ……は、はぅ~!」

「ヤバい! ヤバすぎるよ今のフェイト! 可愛すぎて天下が取れるよ! あ、鼻血が……!!」

「自重しろよ、アルフ……」

うっかり狼の姿に戻ったアルフの顔に真っ赤な花が咲き乱れるのを、憐憫のこもった表情を向けて呆れた。なお、フェイトは恥ずかしかったのか、2階の部屋に駆け込んで布団に顔を突っ込んで身悶えていたらしい。あいつは小動物か?

ガチャ。

「い……今、アルフ姉ちゃんが犬になった……やと!?」

「犬じゃなくて狼だよ! って……し、しまった! はやてに見られちゃったよ!?」

「出かけるたびに変身していたのだから、遠からずバレていたと思うが……」

「変身やと!? ってことは今のはもしかして……ほんまに魔法なんか!? 二人とも、詳しく聞かせてぇな!!」

「……アルフ、フェイトを呼んできてくれ。あいつの方が魔法について詳しいから説明役に適任だ」

「さっきのやり取りの後ですぐ呼び戻すってのもアレだけどしょうがないね。ま、この方がフェイトも気が楽になるかな?」

というわけでアルフに呼ばれて居間にとんぼ返りしてきたフェイトを交え、おれ達ははやてに魔法という代物について実物を見せたりしながら説明した。今更だがこちら側の魔法使いこと魔導師は世紀末世界の魔女とは違い、人々に受け入れられる存在なのだな。同じ異能の力でも、こうも扱いが異なると少々複雑な気分になる。
あと、終始はやては目を輝かせて話を一言一句聞き逃さないよう集中しており、前に薦められて読んだ小説や物語に出てくる、巻き込まれ系主人公みたいな気持ちを味わっているだろう彼女は年相応の少女らしい表情を見せていた。この年頃の少女は非日常に憧れるものだそうだが、果たして命の危機を常に感じる日々に何を期待しているのやら。日常を願いながら非日常に思いを馳せる……どの世界でも人間の思考には矛盾したものがあるな。

「この地球の他にある世界、次元世界じゃ魔法技術っちゅうのは割とポピュラーなものなんやな。しかも魔法という神秘的な名前とは裏腹に科学寄りやし、ポッター的なのをイメージしてたからちょっとばかし複雑な気分や」

「えっと……それで魔法を使うためにはリンカーコアって言う魔導師に必要な器官があるんだけど、はやてにもリンカーコアがあるか調べてみるよ」

「お願いするで。それにしても私にもリンカーコアっちゅうのがあったら、フェイトちゃんみたいに魔法が使えるんかなぁ?」

「個人ごとに適正した魔法があるから、全部同じって事にはならないよ。それよりリンカーコアがあるかどうか調べる方法だけど……[はやて、この声が聞こえる?]」

「おわっ!? なんや、少し前の時みたいに頭ん中にフェイトちゃんの声が聞こえるで!?」

「うん。念話が届くなら、はやてにもリンカーコアはあるみたい」

「念話?」

「そう、こうやって魔力を通して遠くの相手と話せるんだけど、リンカーコアがないと聞こえないんだ。範囲や周波数などの調整はその人の技量次第だけど」

「へぇ~! じゃあ私も魔法使いになれるんやな!」

「そうみたいだね。ところで今言っていた“少し前”って何のことだい?」

「えっとな、確かフェイトちゃん達がここに来る一日前の夜に[誰か助けて……力を僕に貸して……]って感じの声が聞こえたんよ。でも私の足はこんなやから行っても力になれへんと思って心苦しかったけど大人しくしとったんや。けど次の日、また同じような声が聞こえてきて、ずっとこのままやったらどうしたもんかなぁ、と悩んどったらうちの家の近くでドカドカすごい音が響いてきたから、こればっかりは看過できひんと思って行ってみたら皆がおったわけや」

「なるほど、念話の後に騒音被害を受けていたから出てきたわけか。それなのにここに住まわせてもらっているのだから、はやてには正直感謝しているぞ」

「さ、さよか……サバタ兄ちゃんからお褒めの言葉をもらえるなんて嬉しいわぁ。それで皆が来てからあの念話が来なくなったから、あんまり気にしとらんかったけど要するに今、海鳴市に魔法的事件が起きとるんやな?」

「そう。それで私とアルフは原因となっている、このジュエルシードを集めている。この前の動物病院の倒壊も、スタジアム傍にできた謎の陥没も大本の原因はこれ」

「ほえ~こんな綺麗な宝石があんな事件をなぁ~。じゃあフェイトちゃんは陰でこの街を守るヒーローみたいなもんやな!」

「ヒ、ヒーロー……?」

「あ、魔法少女やったらどちらかと言うとヒロインか? せやけど私らが住んどる街を守っとるのに変わりはあらへんから、やっぱりフェイトちゃんは本当に良い人やよ」

「……………」

今のはやての発言でフェイトの中の何かが変わった。いや、気づいたというべきか。ジュエルシードの話をする時に見せていた影が薄くなったように見える。何にせよ、悪い変化ではないように思われる。

「それで、その封印ってのは私にもできるん?」

「ううん、はやてにはリンカーコアはあっても魔法の使い方を知らないし、デバイスもないから実戦に出るのは危険だよ」

「要するに才能があってもレベル1の装備なしで戦ったらあっという間にゲームオーバーっちゅうことやな。なるほどなるほど……あ~あ、まだ魔法使いどころか見習いにもジョブチェンジしてない私じゃフェイトちゃんの力にはなれへんのかぁ」

「そんなことないよ! はやてのおかげで私達は万全の状態で戦えるんだから。だからはやてが卑下しなくてもいいんだよ」

「そうさ。はやてが助けてくれなかったらあたし達、今頃きっと野宿したまま対処してただろうさ。だからホンットありがたく思ってるよ」

「な、なんや、皆してそんな手放しで褒められると、流石に私も照れるわぁ~! よ、よっし! ほんなら皆で温泉旅行せえへん?」

「いきなり話が変わったな」

露骨に話題を変えてきたはやてだったが、境遇的に褒められ慣れていない事で耳まで真っ赤になっている彼女の様子はどことなく微笑ましく、あんまりやり過ぎるのも可哀そうだと思うので大人しく乗ってやる事にした。

「それで温泉旅行とは?」

「こっから少し離れた所に海鳴市の温泉スポットがあるんやけど、慰安旅行も兼ねて行ってみいひんか? 万全を期すには戦いの疲れを癒すのも大事やろ?」

「………そうだな。それにそういう少し離れた場所はまだ調べていない。休暇がてら行ってみる価値はあると思うぞ、フェイト」

「なんか最近のんびりしてる気がするけど、あたしはこういうのが良いと思うよ?」

「……アルフとお兄ちゃんが言うなら……いいかな?」

「おっしゃあ! 言質とったでフェイトちゃん! なら早速準備始めるから、期待しててな~♪」

以前から行きたかったせいか、ワクワクしているはやてをフェイトとアルフは微笑ましく眺めていた。……フェイトが魔法の事を教えたんだ、おれもヴァンパイアの事を話しておくべきか。

「すまないが、おれからも話がある。生きるために知っておくべき大事な話だ」

「生きるためにって……サバタ、もしかしてあの夜フェイトを襲ってきたアイツが関係してるのかい?」

「うぅ……今話すの~……? 夜だから少し怖いなぁ……」

「あれ? 二人ともなんや、急にホラー映画を見た時のような雰囲気出して……え? も、もしかしてリアルにホラー的存在がおるんか!? ウリィィィィィッッ!! っとか叫ぶ奴がほんまにおるんか!?」

ジョジョか……おれも少し読んだが、吸血鬼の設定がアンデッドとかなり似ていた印象がある。説明が面倒になった時、参考文献に丁度いいかもな。

「はやての言っている事はあながち間違いではない。フェイトもアルフもよく聞いておくんだ。今から語るのはおれが戦っている敵、銀河意思ダークの使者イモータル、闇の一族の眷属にして反生命種アンデッド、奴らの脅威の事だ……」

「イモータル……アンデッド?」

「まず前提として言っておくが、フェイトとアルフのように俺はこの世界の人間ではない。世紀末世界、人々が太陽を忘れた世界からやってきた」

「世紀末世界って、なんや危険そうな香りがプンプンするなぁ。そこは次元世界の一つなんか?」

「正確には不明だが、次元世界に同じ地球と呼ばれる世界は無いと以前アルフから聞いたから、おそらく違うだろう。第一こっちの世界に時空管理局なんて名前は一切存在しない」

そして、その世界にはびこる生と死の輪廻から外れた存在、アンデッド。まだこの世界では大規模な吸血変異は起きていないが、どういうわけか世紀末世界と同じようにイモータルが存在している以上、放っておけばいずれおれのいた世紀末世界のように荒廃してしまう可能性を孕んでいる。もしそうなっても彼女たちが生きられるように、奴らに対して気を付けるべきことをしっかり伝えておく必要がある。

たとえ、真実を知ることでおれが嫌われようともな。

「諸々の説明は追々するが、今はイモータルの特徴をあげておく。まず奴らは強力な暗黒物質を体内に宿しており、一時的に倒した所で時間が経てば復活する。ゆえにイモータルを倒し切るには奴らの核となっている暗黒物質を焼却するしかない。そのためには太陽の光を増幅させるパイルドライバーが必要不可欠なのだが……この世界には恐らく無いから、要するにイモータルを現時点で倒すのは不可能だ」

「え~……じゃあもし遭遇したらどないすればええの?」

「なりふり構わず一目散に逃げろ。奴らに吸血されるなどをして暗黒物質を注入されると、生きることも死ぬことも許されないアンデッドにされてしまうからな。アンデッドは理性を失い、血を求めてさまよう屍として動く存在だ。そして暗黒物質を宿す事になるから太陽の光で身が焼かれるようになる。少しは耐性のあるアンデッドやイモータルもいるが、基本的に太陽が弱い性質に変わりない。次に暗黒物質ダークマターについてだが、これが吸血変異(アンデッド化)の原因であり、同時に宇宙を構成する物質でもある。あまり知られていないがイモータルは宇宙を渡ってやって来ている奴もいるから、ヴァンパイアは宇宙でも活動できる」

「まさかの吸血鬼=宇宙人説かいな! UMAもびっくりや!」

すると、おれはある意味UFOにキャトルミューティレーションされた人間か? ……宇宙へ飛べた暗黒城も立ち位置を考えてみればそんなものか。

「ただ、戦うにしても太陽の力が加わっていない攻撃だと大してダメージが通らない。フェイト達が使う魔法も属性変換しなければ相殺されてまともに効果が出ないだろうな。物理攻撃を当てられる近接戦を挑むのも構わないが、吸血される危険性を考えるとあまり得策とも言えない。せめて太陽仔か月光仔の血が流れていれば話は別なんだが……」

「太陽仔に月光仔? それって何だい?」

「簡単に言えば血統だ。一族とも表せるが太陽仔は太陽の力を自在に扱えて、吸血変異にそれなりの耐性がある。そして月光仔は太陽仔以上に耐性があり、余程の事が無い限りアンデッド化しないようになっている。それで太陽仔の父と月光仔の母の間から生まれたのがおれとジャンゴだ」

こう聞くとおれ達兄弟は色んな意味でハイブリッドなのだな。もっとも、兄弟間で戦うよう銀河意思に仕組まれたから、運命の悪戯も皮肉なものだ。

「ジャンゴって?」

「太陽仔の血を濃く受け継いだおれの弟だ……。太陽少年として数多くのイモータルを浄化してきている。しかし……親父に似たのか、それとも単に受付嬢にアプローチしているのか、暗黒ローンの返済に苦労しているようだったが」

「おいっ、太陽の戦士のくせして金の管理が雑なんかい! なんかアカンやろ色々!!」

暗黒カードを今も持っているおれが言うのも何だが、借金地獄に陥ったりしないか心配だ。好意も抱いていて、出費などの計算が必要な商売をやっている大地の巫女(リタ)辺りにいつか財布を握られるんじゃなかろうか? アンデッドすら素手で倒す怪力女の尻に敷かれる…………強く生きろ、ジャンゴ。

「ま、この世界にいないアイツはこの状況に関係ないから置いておこう。それでジャンゴが太陽仔の血を継いだように、おれは月光仔の血を濃く受け継いでいる。が、諸事情で太陽の力は使う事が出来ない代わりにおれは暗黒の力を使えるようになっている」

「暗黒の力って事は……サバタ兄ちゃん、もしかして……」

「そう、銀河意思ダークに仕える暗黒仔として育てられたおれの身体には、暗黒物質が宿っている。月光仔の血のおかげで吸血変異こそしていないが、暗黒の戦士であるおれの性質はどちらかと言えばイモータル側だ。……さて、これを知ったおまえ達はおれの事をどう思う?」

そう、おれの正体はヴァンパイアとほとんど同じということを今、彼女たちに教えたわけだ。生命種を滅ぼそうとする存在に近いことで、彼女たちはおれを危険視してくるだろうと予想している。しかし当然だ、暗黒の力は彼女たちの近くにあるべきではない。だから離れてほしいと言われたら、おれは躊躇なくここを出るつもりだ。
しかし……その考えは杞憂に終わった。

「どうって言われても……これまで通り、サバタはサバタだとあたしは思うな。だって暗黒の力が使えるってだけの話だろ? というかぶっちゃけ、あたしとフェイトはこの家に来た時に少し教えてもらってたけどピンと来なかったし、これまでのサバタを見てると悪い人には全然見えないからね」

「うん、私もアルフと同じだよ。危ない時は守ってくれて、風邪をひいてもちゃんと看病してくれるほど面倒見が良くて、こうして私たちの事を想って真実を話してくれる。だからサバタは私たちのお兄ちゃんだよ」

「せやせや。今日まで一緒に過ごしといて、身体ん中にダークマターがあるからって嫌いになったりはせえへんよ。わざわざ自分を敵に見せかけているだけ、この問いが真剣なのがわかるし。むしろ内緒のままにしないでしっかり話してくれた分、私らの好感度上がっとるで」

アルフ、フェイト、はやての返事は、正直予想を裏切られた。少なからず気味悪がられたり、恐れられたりする覚悟はしていたのだが、まさか一人もそんな態度をとるどころか普通に受け入れてくるとは……。

「フッハッハッハッハッ! なるほど、おまえ達はジャンゴに匹敵するほどお人好しだな!」

「む~なにもそこまで笑うことないやろ?」

「でも、サバタがこんなに笑ったのは初めて見たよ」

「確かに少し前のフェイト並にいつも鉄面皮だったもんね。珍しいものが見れたと考えれば良いんじゃない?」

そうして彼女達は微笑み、部屋の中が穏やかな空気に包まれる。しかし……おれは受け入れてくれた喜びを感じた反面、彼女達の心の強さに嫉妬に近い憧憬を抱いてしまった。月の血が抱える慈愛と狂気の“狂気”が作用したのかもしれないが、そんな感情を抱いてしまう自分の弱さに苛立ちを感じる。
自分の弱さを認めることのできない心……おれの未熟な部分であるそれを克服しなければ、いつしか再び惨劇を招く可能性がある。だから……奇跡的に与えられた時間の間に、おれも変わらなくてはならない。今のおれは“暗黒少年”、“月下美人”の力に振り回されている粗末な人形に過ぎないのだから。

っと、そういえば吸血鬼といえばこれも注意しておいた方が良いな。

「先に忠告しておくが、この街には噛まれてもアンデッド化しないタイプの吸血鬼がいる。こちらから手を出さない限り恐らく害は無いから敵対する必要はないぞ?」

「……ちゅうかイモータルが来なくても海鳴市に吸血鬼おったんか。さっきまでアンデッドの脅威の話をしとったのに、最後になってほぼ無害な吸血鬼もおるって言われても、私らどうせいっちゅうねん」

「それにそのタイプの吸血鬼がどんな見た目なのか教えてもらわないと、判別に困るよね。私が知ってるのは長身で赤眼で刀二本持ってて血の気が全く通ってない白い体色だったけど、そっちはイモータルらしいし」

「……改めて冷静に考えると、この街って実は人外魔境だったのかい。事前情報じゃあ脅威はほとんどないって聞いてたはずなのに、あの白い魔導師の事も含めて全然そんな事無かったよ」

「事前情報が違ったり、状況が刻々と変動するのはいつもの事だ。それで件の吸血鬼だが、見た目は普通の人間とほとんど変わりない。人間と同じくアンデッドなのかそうじゃないかですぐ判別できる」

「あれ、そうなの? じゃああんな怖い見た目じゃないんだね、良かったぁ……」

「わからんよ~? 後ろからいきなりがぶっと噛まれるかもしれへんで~?」

「こ~んな風にかい? かぷっ」

「ちょ、あ、アルフ……くすぐったいよ……! ふぁん!」

「ふおぉ~!! 棚ボタで眼福やぁ~!! 早く……早くカメラを用意せなッ!!」

「……………駄目だこいつら、早くなんとかしないと」








「そういえば魔法で思い出したんだが、この家に来た時にはやての部屋から何か妙な魔力の流れが感じたが、はやては何か思い当たることはないか?」

「あ、多分やけど……」

はやては自室に一旦入ると、膝に一冊の本を乗せて戻ってきた。いかにも曰くがありそうな鎖に巻かれて仰々しい雰囲気をまとっている十字の印がついている本から、おれは暗黒に染まった波動を感じた。フェイトとアルフも何か禍々しい気配を感じたのか、軽く身震いしていた。

「この本な、私が物心ついた時からそばにあったんやけど、鎖が巻かれてて読めへんし、見た目がこうイカツイから捨てるわけにもいかんくて、本棚にずっと置いといたんや。それで……これってもしかして魔法に関係しとるんか?」

「ビンゴ……魔力の流れは間違いなくソレから匂うよ」

「だけどまだ起動していないのかな? デバイスには見えないから実はロストロギアなのかもしれないけど、解析できる機材がないから調べられないや」

「そっか~。でもま、私にいつか覚醒イベントが来るかもしれへんのやな! 先にイベントがあるって気づくのも珍しい気がするけど、なんや楽しみになってきたで!」

魔法の存在を知ってから希望が出たのかはやては、明るい笑顔でいつか訪れるその時に思いをはせていた。元気になったはやてはフェイトとアルフを連れて一緒に浴室に向かい、おれは彼女の代わりにこの本を本棚に戻した。

「………」

はやての部屋を出る際、ふと振り返って本を再び見る。
威風が漂うその本は重厚な存在感を表しながら、静かに目覚めの時を待っていた。はやての境遇も考えるとあまり縁起の良い品物では無さそうだが、それは本から発せられている絶対存在に匹敵するレベルの大きなプレッシャーが原因かもしれない。フェイトとアルフは気づいていなかったから、恐らく月下美人のおれしか感知していないのだろう。まだ起動していない今は手が出せないが……タイミングがあれば暗黒チャージでこの本の闇を吸い取れるやもしれん。それがどんな結果をまねくかは知らないが、少なくともこの“闇の書”をそのままにしておくよりはマシなはずだ。

「……問題はそのタイミングか。おれが傍にいる時であれば良いが……」

ともかく現状では何も出来ないため、この本に関して今は放置しておくのが吉だな。

一階のベランダに戻って空を見上げると、今日は三日月だった。この家の塀の上から猫が見ている中、わずかに降り注ぐ光を浴びて恐らく世紀末世界の月に残してきたはずのカーミラの事を想うのだった……。

 
 

 
後書き
サバタは一途、そんな印象。

原作ブレイク フェイトが早々に闇の書を見つける。はやてが魔法の存在を知る。 
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