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武士と騎士

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6部分:第六章


第六章

「そのうえで格闘戦に入る!」
「いいな!」
 こうしてだった。両軍は今度は激しい格闘戦に入った。米田とクエスター、それぞれの相手はもう戦う前から決まっていることだった。
「こいつだな」
「こいつしかいない」
 二人はお互いの機体を正面から見据えつつ呟いた。
「俺の相手はだ」
「私が剣を交える相手はだ」
「一人しかいない」
「それならだ」
 こうしてだった。まずは正面から撃ち合う。しかしそれは当たらなかった。
 そのまま旋回しつつ攻撃を繰り出し合う。しかしそれで倒される二人ではなかった。そのまま撃ち合い続ける。大空を上下左右に飛び回り勝負を繰り広げる。
 一時間程度戦いを続けた。しかしであった。
「しぶといな」
「これ程までとはな」
 二人はお互いを見合いながら呟いた。
「撃墜するのは難しいか」
「わかっていたとはいえ」
 米田の飛燕が上に来た。そのうえで急降下し攻撃を仕掛ける。
 だがクエスターのスピットファイアは素早く右に動いた。それで攻撃をかわしたのだ。
「くっ!」
「かわせたか」
 米田は歯噛みしクエスターは安堵した。そうして。
 クエスターは自機を今度は下にやった。明らかに誘う姿勢だった。
「さあ来い」
「罠か」
 二人はそれはわかった。
「それならだ」
「どう来る?」
 米田はそれに乗った。彼も急降下する。
 それが迫った時だ。クエスターは賭けに出た。
「今だ!」
「むっ!?」
 突如として急上昇に移った。そこから今度は垂直に曲がってみせる。そして逆さになったまま急降下してきた米田の飛燕に向かう。
「来た!?まさか」
「これで勝てる!」
 米田は驚愕しクエスターは勝利を確信していた。
「終わりだ、日本の武士よ!」
 そのまま攻撃を繰り出す。機関砲が火を噴く。
 クエスターは勝利を確信した。しかしだった。
 米田は咄嗟に急降下の速度を速めた。それによってだ。
 スピットファイアの攻撃をかわした。まさに一瞬の判断だった。
「何っ!?」
「危ないところだったな」
 米田はまずは安堵した。今度は彼が安堵する番だった。
「一瞬の判断だったな」
「くっ、あれをかわしたか」
 クエスターは乗機を上から下に旋回させた。そしてそのうえで元の態勢に戻った。身体にかかっていた重圧がとりあえずはましになった。
「まさかと思ったが」
「さて、今度はだ」
 米田は再度攻撃を繰り出そうとする。しかしだった。
「隊長」
「どうした?」
「基地から命令です」
 部下の一人が通信を入れてきたのだった。
「すぐに戻れとのことです」
「何があったんだ、一体」
「何でも地上部隊が攻撃を受けているらしくて」
「それに迎え、か」
「一旦補給を受けて援護に向かえとのことです」
 そうだというのだった。
「ですから」
「わかった」
 軍人にとって命令は絶対だ。それならば頷くしかなかった。
「それならだ」
「全機帰還ですね」
「止むを得ない」
 返答は一言だった。
「それならだ」
「はい、それでは」
「今より」
「決着をつけたかったがな」
 名残惜しい言葉だった。クエスターのスピットファイアを見ながらの言葉だ。
 
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