道を外した陰陽師
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第四十四話
「・・・疲れた・・・」
「あー・・・お疲れ様、雪姫」
伊空とこれからの予定を話していると雪姫が帰ってきて・・・真っ先にそう言った。
言ったというか、俺の辺りまで来るやすぐにもたれかかってきた。そうとう疲れてるな、これは。
さっきスケジュールを確認したら、参加種目の予選が連続してたし。最後にさっき話してた混戦のやつだったから、まあ疲れて当然だろう。
「で、予選はどんな感じだった?」
「一応、全部残れたが・・・奥義持ち相手とか、もう・・・」
ああ、混戦の予選かなんかでそうなったのか。とはいえ、奥義って派手なのが多いから区切られた空間で大人数、と言うのはあまり向いていない。むしろ雪姫のように細かく動ける人間の方が有利だろう。ものすごく疲れるのは間違いないが。
「あ、念のために聞いとくけど・・・」
「もちろん、あのあたりは使ってないぞ。・・・使ってたらもっと疲れてただろうな・・・」
現在ソファに移動しているのだが、雪姫は完全に全身から力を抜いている。先輩の前だから普段ならもっとちゃんとしているのだが、それどころではないらしい。
と、そんなことを考えていたら俺の肩に頭を乗せて寝てしまった。いや、どれだけ疲れてるんだよ。
「えっと・・・静かにした方がいいかな?」
「いや、気にしなくていいと思うぞ。この感じだと相当疲れてるから簡単には目を覚まさないだろうし。雪姫って、一気に呪力を使うと眠くなるらしいから」
正確には、気を抜いた瞬間に寝てしまうらしいけど。リラックスした瞬間に一気に意識を手放すらしい。
「信頼されてるのね。異性の横でここまで無防備になるなんて」
「まあ、ここなら他にも誰かいるしな。タオルは・・・あったあった」
「・・・待って、それ何?」
「気にすんな、呪術の応用みたいなもんだから」
テキトーに誤魔化しながら自分の膝の上にタオルを敷き、そこに雪姫の頭をそっと乗せる。横になった方が体が休まるんじゃないかという安易な発想と・・・まあ、うん。ついこの間穂積にやってもらったことをしてみようという試みである。どんなリアクションをしてくれるのか。
「・・・ねえ、それ雪姫さんが起きた時に大変な反応をしないかしら?」
「それが目的だったりするから、問題ないだろ」
「うわぁ・・・」
最後にタオルケットをかけ、右手で優しく頭をなでながら話を続ける。
「さて、確か今日は予選だけで終わりだったよな?」
「ええ。明日から予選を勝ち残った人たちでの試合よ。だから、後今日の予定は・・・特にないわね」
まあ、うん。新人戦女子混戦の予選は一番派手になるからなのか最後に持ってきてたし。後あるのは各校の人間による明日以降の予定や試合運びを決めるくらいだ。あれ?俺もう部屋に帰ってよくないか?
「なあ、部屋に戻ってもいいか?」
「・・・ねえ、寺西くん?貴方今回裏方として動くことが多いことは自覚しているのよね?」
?何を急に・・・
「してるけど?」
「なら、ちゃんと把握してないと困ることは分かってるのよね?」
「別に連絡してくれればいいだろ。行く場所と誰のやつをやるのかだけ」
「その場その場でいいわけないでしょ・・・」
呆れている伊空を見ながら、俺は名刺入れを二つ取り出して片方をしまい、第十五位としての名刺を出してから仕事用の連絡先に線を引いて伊空に渡す。
「それ、俺の普段使ってる携帯の連絡先。なんかあったらそこに連絡してくれ。どうにか対応してみるから」
「・・・ねえ、何で名刺入れが二枚もあるのかしら?」
「色々と立場ってもんがあるんだよ」
第三席としての名刺入れは、ライセンスと一緒に空間に穴をあけて入れておいた方がいいのかもしれない。そう思った俺はすぐに行動に移した。
「はぁ・・・とりあえず明日の予定だけど、寺西くんはこの人たちのフォローに回ってくれるかしら?」
「えっと・・・ん、了解。つっても早い段階ではやることないだろうけど」
「ふつうならそうなんだけど・・・この人たち、ちょっと奥義が特殊なのよね」
「面倒事を押しつけました、と。はいはい分かりましたよ」
そう言いながら俺は渡された紙の内容を携帯に打ち込んでいき、それが終わってから本を取り出す。
「じゃあ、俺は雪姫が起きるまではここにいるから何かあったら呼んでくれ」
「わかったわ。じゃあ、また食事の時に」
伊空はそう言ってから、作戦班を含むメンバーの下に向かい、入れ替わりで殺女とラッちゃんが入ってくる。
「ヤッホーカズ君、お疲れさまー」
「お疲れって言っても、俺疲れるようなことしてないんだけどな。ラッちゃんの方はどうだった?」
殺女は予選なしで進むためラッちゃんに尋ねる。まあ、席組みに予選なんてやらせても無意味なのは間違いないし、正しい判断だろ。
「一応、参加種目は全部突破したわ。それで・・・雪姫ちゃんは?どうしたの、それ?」
俺の膝を枕にして眠っている雪姫を指してそう聞いてくる。まあ、普通聞くよな。
「雪姫も全部クリアしたんだけど、最後のやつがかなりきつい内容だったみたいでな。疲れて寝ちゃってる」
「ふぅん・・・何で膝枕?」
「起きた時のリアクションが面白そうだから」
目の前でため息をつかれた。
「後はまあ、俺の肩にもたれかかるよりは体を休めるだろうしな」
「その理由がなかったら殴ってたかも・・・」
「それは勘弁、かな」
「それにしてもユッキー、ぐっすり寝てるね~」
殺女が雪姫の顔を覗き込み、その頬をプにプにしながらそう言う。うん、殺女も遊ぶ側だ。
「あたしとしては、同い年の男子の横で警戒心がないなー、って感じなんだけど」
「ユッキー、なんだかんだでカズ君に心許してるしね」
「はぁ・・・まあ、カズ相手なら大丈夫だとは思うけど、少しくらい警戒したほうがいいんじゃないかしら?」
「大丈夫大丈夫!ユッキー少し男子が苦手なところあるし、カズ君以外にはこうならないと思うから!」
一応、俺も男子なんだけどなぁ・・・
「う~ん・・・まあ、それなら大丈夫かな?」
「そうやって信頼してくれるのはうれしいんだけどな?男子扱いされてないみたいで少しばかり傷つくんだが」
「そうじゃなくて。なんて言えばいいのかな・・・」
「大丈夫よ、殺女さん。こいつは男子だけどそういった面については男子じゃない、くらい言っちゃえば」
「オイコラ」
言われたい放題であった。なぜそこまで言われなければならん。
「だってあんた、昔思いっきり誘惑してきてたり周りからしてみれば好意ダダ漏れの子だったりがいたのに心当たりある?」
「そんなもん、あるわけないだろ」
「じゃあはっきり言ってあげるけど、結構な人数がいたからね?」
・・・えっと。
「俺の一族が珍しかっただけじゃないのか?」
「当然それもあっただろうし、名家ってことで話しかけてきた人もいるだろうけど、それだけじゃないわよ」
「・・・何でそこまで自信満々に?」
「・・・あんたは知らなくていい」
少し口ごもってから、ラッちゃんは顔を逸らしてそう言った。頬が少し赤くなってるけど・・・はて、どうしたのだろうか?
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