道を外した陰陽師
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第四十三話
呪校戦初日、この日に行われるのは新人戦を含む全種目の予選だ。
参加校がそこそこあるため、まずそう言った形でふるい落としに掛ける必要がある。そう言う理由で種目ごとに行われる。俺が参加する混戦の場合、陰陽師と妖怪とで分けて予選を行い、そのポイントの合計で上位のものから本戦への参加資格を与えられるわけなんだけど・・・正直に言おう。めんどくさい。
「では、混戦の予選を開始します。種目内容については今配っている紙に書かれていますので、そちらをご覧ください」
そう言いながら配られた紙を見ると、内容はまあそこまで苦労する内容ではないようだ。
まず最初に行うのは、何重にも隠行をかけられたオブジェクトにかかっている行符を見抜き、相剋すること。次に行符を用いた式神の生成。最後にその式神を使って自分の番号が書かれた式神を倒すこと。他の番号の式神を倒した場合には減点をかけられる、と。
まあ、倒す式神については攻撃はしてこない代わりにむちゃくちゃ逃げ回る。そこは少々難しいかもしれないけど、その式神を放たれるのが前二つをクリアしてからである以上、苦労はしないで済むだろうな。
そう考えながら、持ち込むことを許可された五枚の行符を確認する。一種類一枚ずつの持ち込みだけは許可されたので、無駄撃ちはできない。最初の種目でどれだけ正確にやれるかが重要、ってのがセオリーかな。
そう考えていると、前方にオブジェクトが出てきた。確かに隠行はかかってるなぁ・・・大したことはないけど、さっさとやるのもつまらないし・・・
「では、開始してください」
セオリー無視の方向で行きますか。
そう結論付け、持っている五行符全てを正五角形を形成するように空中に並べて言霊を唱える。
「五の道、今ここに相生する」
いきなり全部の札を使ったことに零厘以外の選手が驚いてこっちを見ているが・・・いいのかな?予選の得点はどれだけ早く終われるか、と言うのも重要な要素なんだけど。
ま、他の高校の選手が落ちてくれる分にはいいかな。
「木生火、火生土、土生金、金生水、水生木。相生は円をなし、輪廻の如く永続する」
目の前で札が隣の札を相生し、そして一度きりで使いきることがなく再びその札が総称されることで無限に威力を増していく。まだ報告していない術だから基本的に誰も使えない技なんだけど・・・まあ、うん。何か干渉しようとしてきても光也が妨害するだろ。
別に、誰かに報告する気もないし。
「五行相生・輪廻。急急如律令」
そう考えながら完成した術を放ち、オブジェクトにぶつける。この術には他の術に対して相剋を行う様な術式も組み込んであるから、見抜かなくても相剋できる。これで一つ目はおしまいだ。
そして、この術は札を使いきらないように設定してあるから・・・まだ、札は残っている。
「式神生成。五行練成、急急如律令」
そのまま五行相生・輪廻を式神にして、放たれた式神に向かわせる。
当然、逃げ出そうとしたが・・・威力がでかすぎる一撃から逃れられる範囲がなかったので、消え去る。これで予選終了。所要時間二十秒。
「・・・もう退場しても?」
「あ、はい。どうぞ・・・」
係員から終了時間、ポイントなどが記された紙を受け取り、校章のハンコを押してから名前を書いて返し、そのまま退場する。
他の人がどんな結果になったのかも気になるし、早いとこ零厘の本部に向かうか。基礎を磨かせたから、予選は突破した人が多いと思うけど。
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「ねえ、寺西くん。最後に使った術について問い合わせが殺到してるんだけど」
「そこまでする物か・・・?」
帰ってくるなりそう言われた。
ったく・・・面倒なやつとかうるさいやつが来たか。
「まだどこの資料にも載ってない技だもの。当然でしょう?あの術、オリジナル?」
「ああ、完全に俺のオリジナル。とりあえず、術の公開とか登録とかはする気がないって返信しておいてくれ」
「・・・たぶん、それじゃあ納得してくれないと思う」
「なら、問い合わせは光也まで、って感じで頼む」
そう言いながら他の予選の結果がどうなったのかリストを視る。
・・・ま、こんなもんかな。全選手が突破したわけじゃないみたいだけど、例年に比べれば多い。
「それにしても、やることを変えるだけでここまで変わる物なのね」
「まあ、当然だろ。確かに試合で勝つためには奥義だとかその辺を磨いた方がいいんだけど、そっちにばかり力を注いでたら肝心の予選を突破できない。例年呪術学園の予選突破者が多いのはそれが理由だよ」
そして、基礎ができている人間と言うのは応用の術や奥義についてもその精度が上がる。かなり地味だから分からないことも多いのだが、それでも確かに違いがある物なのだ。
「・・・念のために聞いとくけど、予選で切り札切ったバカはいないよな?」
「もしいたとしたら、寺西くんが使った術なんかよりもそっちの問い合わせが殺到してるわ。私だって、どうやってこんなものを作ったのか聞きたいもの」
そう言いながら、伊空はポケットから三枚の札を取り出す。
「これ、呪術の歴史が変わるような代物よ?」
「ような、じゃなくて歴史が変わる物だよ。俺が作ってるオリジナルの術の中にもそういうのはあるけど、それとは比べ物にならない」
「それでも、公開する気はないのね?特許を取ればかなりの収入になると思うけど?」
「公開はしないけど、特許はもう取ってあるよ」
光也を使ったので、どこにも公開せずにやってある。さすがにそう言う事をしておかないと今回使っても誰かに何か言われかねないし。
「・・・さて、と。この感じなら俺は予定通りに動けばいいんだよな?」
「ええ、そうして頂戴。試合のない時間は裏方として働いて」
「了解しました、生徒会長」
そう言いながら、本部内の札を保管している場所に向かう。
「とりあえず、予選でどれくらいの札を消費した?」
「そうね・・・一応、想定の範囲内で収まったわ。新人戦の混戦の予選が全員をスタジアムに乗せて、規定の人数になるまでひたすら・・・と言うものだったから、結構使ったんだけど」
「何それ超楽しそう」
こっちなんて、あんな地味極まりなく、つまらないものだったというのに・・・
全員参加なんて、そんなの・・・
「俺だったら、そこで全員倒すんだけどなぁ・・・」
「・・・そうなった場合、どういう形になるのかしら・・・」
ちょっと興味はある。一人ずつ倒していったら途中でとめられるだろうから、一気に一撃で俺以外を倒せば・・・
うん、いけるな。
「何にしても、そこまで問題があるレベルで使ったわけじゃないんだな」
「ええ。強いて言うなら土気の札が少し不足しているけれど、制作班の人たちに言ってあるから明日以降には影響しないわ」
「とはいえ、もうちょい全体的に欲しいかな。相手によってはより多くの札が必要になってくることもあるだろうし、術によっては消費量が多いこともあるからな」
とはいえ、奥義を使うやつらの中には札を一切使わないこともあるんだし、杞憂かもしれないけど。
「寺西くんの使う術の中にも、そういうのが?」
「ああ。予選で使ったやつも、一度に五行符を全種類使う。他にも一度に札を二十枚消費するような燃費の悪いのだってあるしな」
あの辺の術は、使うかどうか・・・傲慢と色欲、憤怒はまず使わないだろうけど、暴食なんかは使うかもしれない。
「まあ、何にしても制作班が頑張ってくれればよほど不足することはないだろうし、最悪俺みたいな暇な時間が多いやつが制作側に回ればいい話だ。何とかなるだろ」
「そう、ね。そう考えましょう」
この場では言わなかったが、予選を一つも突破できなかったやつもそちらに回らせればどうにかなるだろう。三年生なんかは結構落ち込んでるのかもしれないが、さっさと立ち直ってそちらに回らせないとな。
あれだけ優勝させたいと思っていたんだ。割と早い段階で立ち直ってくれることだろう。そうでなければ、そんな奴はいない方がいい。
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