道を外した陰陽師
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第四十一話
途中からバスに乗る予定だったのだが二人乗りのリクエストにこたえているうちに気がつけば会場についていたことや伊空にグチグチと文句を言われたことで体力を削られた俺は、自分の寝泊まりする部屋(機密事項の都合で個室だ)に着くなり布団に倒れ込んだ。
まだあんまり運転に慣れていないのに長距離移動したのが原因だな・・・
「一輝さん、大丈夫ですか?」
「おー・・・大丈、夫・・・」
人の状態に戻った穂積にそう返事をするも、体は起き上がろうとしない。よっぽどだな、これは・・・妖怪の討伐よりも疲れてる・・・
「お疲れでしたら、少し睡眠をとられてはどうでしょう?本日のパーティの一時間前に起こすこともできますし」
「・・・呪戦の間くらい、休暇だと思ってくれていいんだぞ・・・?」
「休暇をいただくには、毎日自由時間が多いですけどね。・・・では、こうしましょうか。友達が友達を、寝坊しないように起こしに行く、と」
・・・うん、もうここは甘えよう。
「じゃあ、お願いするけど・・・何で一時間前?」
「正装で参加するように、とありますから。着替える時間や髪を整える時間も人うようでしょう」
「えー・・・制服じゃダメなのか?」
「例年、制服での参加は少ないでそうですよ。こちらの学校から配布された物にも『極力制服での参加は避けること』とありますし」
「マジか・・・」
「マジです。持ってきてはいますよね?」
「入れっぱなしだし、あることにああるけど・・・」
そう言いながら空間に穴をあけ、正装と呼べるものを片っ端から取り出す。
俺がベットから降りてもまだ乗りきらなかったので、もう一つの方にも載せていく。
「・・・何でこんなにあるんですか・・・」
「ほら、鬼道もそこそこの家だったし。席組みになった時にも貰ったからな・・・さて、どれを着るか」
世界中どこでも問題なく行けるのだが、今回見たく学生メインのところだとかえって悩む。とりあえず、色モノになる物はすべて除外して・・・
「後、これもダメだよな・・・」
「いい物のように見えますが・・・ああ、そう言う事ですか」
そこにある鬼道の家紋を見せると、穂積は納得してくれた。さすがに、これを着ていくわけにはいかない。
「・・・そういや、光也からパーティの初めに席組み全員壇上にあげるって言われてた気が・・・」
「そのための狐面でしょうか?」
「かもな・・・まあ、それについては席組み用の和服でいいだろう」
一つ決まった物を別に分けて、パーティの間着る物をどうするか再び考える。
考えて・・・同じクラスの男子に電話してみた。
「あ、秋斗?少し質問いいか?」
『ああ、別にいいけど・・・何だ?』
「パーティ、服装どうしたらいいんだ?」
『・・・そういやお前、説明があった時寝てたな・・・』
呆れたような声を聞きながら、そんなものはあっただろうかろ思い返す。
・・・・・・・・・まあ、いいか。どうせいくら考えても出てこない。
『一輝の場合は、そうだな・・・元の家、純日本系の奥義だったか?』
「・・・一応、そうなるかな」
ぬらりひょんだし、それでいいはずだ。
『だったら、日本のせいそうだな。当然、一族のはダメだけど』
「サンクス。ちなみにお前はどんなのを?」
『オレは普通に一族のを。ってか、正装をそれくらいしか持ってねえしな』
そこから少しばかり話をして、電話を切った。
「とりあえず、この二着になりそうだ」
「着替えるのが少々面倒そうですね・・・手伝いましょうか?」
「いいよ、普通にパーティに参加しててくれれば。穂積、今は俺の武器に憑いてる霊って扱いだから参加できるし」
そう言いながら出していた服を全て片付け、再び布団にダイブする。
「んじゃ、俺は寝てるから・・・しばらくの間、自由にしてて・・・」
「・・・では、殺女さんたちの部屋に行ってきますね」
穂積が部屋から出ていく音を聞いて、俺は眠りについた。
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「・・・なあ、光也。やっぱり俺も出ないとダメか?」
「ええ、一応。いいじゃないですか、背丈も髪の長さもいじりましたし、声も性別をごまかせるようにしましたし。・・・一応、席組み全員が集合するのが恒例なんですよ」
「本音は?」
「面白そうですし、正体がばれることはないでしょうからやっちゃいましょう」
ブン殴りてえ・・・!
「あ、初日はお願いしますね。さっさと済ませちゃいましょう」
「まあ、その意見には大賛成なんだけどな。・・・面倒だ・・・」
「いい加減腹をくくれ、一輝。ただ黙って立っていればいいんだからな」
白夜にそう言われるが、そればっかりは慣れだろう。俺と同い年、俺の次に席組み期間が少ない殺女ですら三回目。俺はまだ一回目。一番緊張してしかるべきだろう。・・・面倒くさいだけなんだけど。
そんなことを考えながら狐面を付け、慈吾朗の後について行った。
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「ふぁ~・・・眠い・・・」
「寝るなよ、お前。パーティの最中に寝るとか学校の名前が・・・」
「・・・まあ、仕方ないか。伊空もなんか頑張ってるみたいだし」
今回もビリになれば、来年からは呼ばれなくなる危険すらある。
昨日のあの三年生の必死さを考えると・・・さすがに、そんな事態になることを避けようということくらいは考える。
「・・・お前が二種目以上参加してくれれば、かなり有利になるんだけどな」
「そればっかりはいくら言っても仕方ないだろ。・・・何、競技に参加しなくても裏方には回れるし、俺が参加する競技は優勝してやるから」
「ほう、それはこわいな」
男連中と話をしながら立食をしていたら、後ろから声をかけられた。聞き覚えのある声だったので振り返ると、そこには鈴女とその取り巻きがいた。
「よう、鈴女。お疲れ様」
「お疲れ様、一輝」
お互いに持っていたグラスを軽くぶつけ、一口口にする。
「それで?一体君は何をたくらんでいるのかな?」
「たくらんでる、とはまた物騒な言い方だな。ただ暇な時間が多いから裏方に回ろうってだけなのに」
「それはまた、警戒しないといけないな。何が飛び出すか分かったものじゃない」
「星御門家の次期当主、現席組み第八席を警戒させられたのなら、既に作戦は成功したも同然かな」
と、そこで鈴女が笑い出した。
「うん、やっぱり君は面白い。私の策と君の策、どちらが勝るか楽しみだよ」
「俺も、どれだけ驚かせることができるか今から楽しみだ」
それだけ言葉を交わすと、最後に一度握手をして鈴女は去って行った。
取り巻きの女子の皆さんに凄く睨まれてるけど、まあ気にしないでおこう。そんなことを考えながら皆の方に体の向きを戻すと、
「・・・どうした?」
「どうした、じゃないだろ・・・何?お前、殺女さんに匂宮美羽さんだけじゃなく星御門鈴女さんとも仲がいいの?」
「そうだな・・・誕生日パーティを祝いに来てくれるくらいの関係だ」
「何なんだよ、お前、は・・・」
と、そこで口を開いて固まって俺の方を・・・正確には俺の後ろを見ているのでなんだか軽くデジャブを感じながら振り返り、そこに美羽がいることを確認して納得する。
手を中途半端に伸ばしているし、俺に用だったのだろう。
「どうした、美羽?」
「あ、えっと・・・お食事中にすいま、せん・・・」
「気にしなくていいよ。・・・どうしたの?」
「えっと・・・これ、どう・・・ですか?」
これ、と言われて何の事だか分からなかったのだがすぐに理解した。今美羽が着ているドレスの事だろう。
席組みは目立つためにも全員ドレスと言って光也が準備したのだ。自分で準備したものではないので、少し心配なのかもしれない。
「似合ってるよ。美羽は髪と雰囲気が外国のお嬢様、って印象があるし」
「・・・・・・♪」
頭をなでながらそう言うと、美羽は笑顔になり、少しホッとしたような感じもしてくる。
「あ・・・一輝さんも、似合ってます・・・」
「ありがとう。・・・つっても、そこまでちゃんと着れてる気はしないんだけどな」
「そんなことない・・・です。着なれてるって言うか・・・カッコイイ、です」
「・・・なら、自信を持てるよ。ありがとう」
そこで少し笑みを向けると、美羽は少し顔を赤くしてから頭を下げてパタパタと走って行った。
なんだか背後から殺気じみたものを感じるけど、さてどうしようか・・・と考えていたところで、
「ちょうどいいところで会いましたね、一輝」
知り合いに声をかけられたので、そちらに体を向ける。そこには、見覚えのあるのが三人ほど。
「前に慈吾朗、豊か。どうしたんだ?」
「酒と何かつまみになる物を探しています」
「で、ワシはそんなものはないから諦めるように言いつつ保護者をやっておる」
「俺は『化け狐』につかまった。オイ、お前からも言ってやれ。そんなものがあるわけないだろう、諦めろ、と」
簡単にこのメンバーができた光景が想像できてしまう。
なんだかんだで、この三人で動く頻度は高いんだよなぁ・・・ひそかに前と豊がくっつかないかと思っていたりする。
「何にしても前。ここは高校生がメインなんだから酒の類はないぞ」
「チッ・・・。私たちを呼ぶのですから準備しておくべきでしょうに・・・」
「むしろ、酔っ払った席組みとか見せられたもんじゃないだろ。この間だって俺の家だからよかったものの・・・」
そう呆れながら少し考え、そう言えばあれがあったなと思い出す。
「そう言えば、向こうの方にきつねうどんとかいなりずしとかあったけど」
「・・・仕方ありませんね、それで我慢しましょう。・・・行きますよ、二人とも」
「いなりずしは久しぶりに食べたいのう・・・食べ過ぎんようにせんとな」
そう言って歩き出したのが二人と、逆方向に行こうとするやつが一人。だがしかし、そいつの首に式神から生成されたロープが巻きついて、引っ張られる。
「早く行きますよ、豊」
「まて!酒を飲むならと言っただろう!?」
「ここまで来たのですから最後まで付き合いなさい」
「ふざけるな!おい『型や」
「豊、この肉うまいぞ!」
「フガッ!?」
何か口走ろうとしていた豊の口に肉を押し込み、黙らせてから見送る。
あのバカ・・・正体暴露しかけてるんじゃねえよ・・・!
「・・・なあ、一輝」
「ん?どうした?」
「いや、あれ・・・よかったのか?」
「ああ、大丈夫大丈夫。前は油揚げ大好きだし、慈吾朗は席組み一の常識人だし」
「いや、そうじゃなくて・・・」
はて、何を言いたいのかさっぱり分からない。
とりあえずは気にしなくてもいいだろう。まさか豊の事じゃないだろうし。
「ん?オオ、一輝!食ってるか!?」
「食ってるよ、拳。俺としてはそれよりも、お前が何をしてるのかと聞きたい」
ガッハッハ!と豪快に笑う拳は、何故かでっかい肉の塊を載せた台車を押している。でかいのレベルがかなりおかしい。二百キロはあるんじゃないのか、それ?
「何、明日から皆本気でぶつかりあうのだからな!美味いものを食ってもらおうと思ったわけだ!」
「いつもの如く、とってきたんだな・・・五人前くれ」
「おう、食え食え!」
そういうと、豪快なしゃべり方からは想像もつかない丁寧さで肉を斬り、その場で焼いてから五皿を俺が展開した結界の上に置いていった。
「ほら、好きにとっていっていいぞ」
「・・・・・・・・・・・・凄い人だな、あれ・・・」
「ああ・・・あ、肉サンキュな」
「お、これうめえ・・・ってか、何か俺の中の席組みのイメージが・・・」
「拳さんは結構イメージ通りだけどね。・・・筋肉、憧れるなぁ・・・」
最後のセリフを言ったのが華奢なやつだったために、俺は噴き出しそうになる。
「あ、一輝、ようやく見つけた。」
「どうした、匁?」
噴き出すのを我慢しているところで匁に話しかけられ、どうにか耐えることができた。
「何、あれがちゃんと作動したのか気になっただけだ」
「ああ、そういう・・・ほら、あそこ。穂積がいるから直接聞いてきてくれ」
「確かに、それが一番早いか。そうしよう」
匁がそのまま穂積のところに走っていくのを見届けて、後一人でコンプリートだなぁと考えて見回して・・・一人の少女がこちらに向けて走ってきているのを発見した。
「はふぅ・・・こんばんは、一輝さん!」
「こんばんは、夜露ちゃん。白夜の付き添い?」
「と言うよりは、代理ですね・・・お兄ちゃん、帰っちゃいましたから」
アイツ、帰ったのか・・・ハァ、まあいいけど。帰りたい気持ちはよく分かるし。
「で、夜露としては知り合いがいてとても助かりました。応援していますね、一輝さん!」
「ありがとう、夜露ちゃん」
「えへへ~。あ、そうだ。殺女さんとかってどこにいますか?」
「あの辺に固まってるよ。ほら、今にもバカ騒ぎをし出しそうだから早めに止めてきて」
「あ、ほんとだ!じゃあ参加してきまーす!」
そう言って去って行ってしまった。
やっぱり、どこかずれてるんだよなぁ・・・ん?
「どうしたんだ、お前ら?」
「・・・ちなみに、今のは?」
「白夜の妹の夜露ちゃん。それがどうかしたのか?」
「いや・・・世界ってちょっと理不尽だなぁ、って・・・」
なんかよく分からんことを言い始めたんだが・・・大丈夫か、こいつ?
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