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道を外した陰陽師

作者:biwanosin
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第四十話

 呪校戦当日の早朝・・・と言うか、明朝三時。
 昼に寝たおかげかものすっごい早い時間に目が覚めたので、特に意味もなく呪札の確認をしていた。
 まず、数えきれないほど作ったそれを出し切ることも出来ないので空間に穴をあけて入れておいたそれを、見て、視る。
 書いた文様、込めた術式を同時に確認していき、普段なら無視する程度のずれでもある物は取り出していく。今回組み込んだ術式はまだ俺以外の誰にも創る事のできていないものなので、一応、と言ったところだ。
 完全な状態に治せるものは全て治し、無理そうなものは火行符で焼き尽くす。

「・・・無理にでも寝た方がいいか?」

 とはいえ、眠くないのだから眠れない。
 何かやることはないかと考え、今回俺が参加する種目について思い出した。

 今回、俺以外の席組み四人は呪戦に・・・何でもありのバトルトーナメント一種目に参加する。そっちの方が何でもできる分、とてもうらやましい。
 自由に戦えるというのは何と素晴らしいことだろう、とは俺が参加する種目を伝えられた時に思ったことだ。

「混戦・・・どうせなら、読んで字のごとくな種目ならよかったのに・・・」

 字のままで考えれば、全員ごちゃまぜにしての同時バトルとか、そんな感じになるはずだ。もしそうなら満足のいく素晴らしいものになるのだが・・・心底残念なことに、そう言うわけでもないのだ。

 形式はトーナメント。A、Bの二つのブロックに分かれ、双方の優勝者同士で一位、二位を。双方の二位どうしで三位、四位を決める。そして、勝負の内容は・・・その場で審判が箱から紙を一枚取り出し、そこに記されたルールで戦うのだ。
 内容としては、『奥義の使用禁止』、『言霊を全て唱えなければならない』、『言霊を唱えてはいけない』、『呪力などを消費する術の使用禁止』と言った普通の物から『コスプレしてバトル』、『知力対決』と言ったふざけたものまである。客からすれば見ていて楽しいのかもしれないが、やる側としては心底面倒な種目なのだ。

「・・・あ、そういえば・・・」

 と、そこで昔このルールを聞いた時に思いついた一つの手段を思い出した。これは全ての場合において対応できる、というものではないのだが・・・やるか、どうせなら。

「えっと、まずは武器を全部点検しないと」

 やることや必要なものを頭の中でまとめ終え、武器庫に向かった。

 三時間後

 準備が終わったころに皆起きてきたので、食事や着替えなどを済ませてから三人で家を出て、鍵をかけたところでラッちゃんが家の前に来たので合流する。

「おはよう、ラッちゃん。寝れた?」
「ラッちゃん言うな。寝れそうになかったけど寝たわよ。・・・それ何?」

 そう言いながら俺の腰の方を指さしてきた。
 今、俺は普段はしていない武装を・・・腰の後ろ側に匕首を止めているのでこれの事を言っているのだろう、とすぐに分かり、鞘を付けたまま外してラッちゃんに渡す。
 渡されたラッちゃんが首を傾げたところで・・・

『おはようございます、凉嵐さん』
「きゃっ!?」

 そこから穂積の声がして、驚いて落としかけた。

「え・・・今、これから穂積さんの声が・・・」
『ここにいますからね、わたくし』

 再び匕首から声がすると、光り出して・・・光が収まると、そこにはいつも通り和服姿で先ほどの匕首を持った穂積がいた。

「・・・穂積さん、この土地から出られなかったんじゃ・・・」
「ま、その辺は少し裏技をな。匁にも協力してもらった」

 あのバカ騒ぎになった誕生日パーティの夜受け取った匕首。これには土地の霊脈パターンなどの類を模倣する式が入っているので、数ヶ月かけて模倣させて、それにとりつくことで移動を可能にしたのだ。・・・かなりの裏技、力技な関係で土地に置いておいた時間の半分程度しか持たないけど、呪校戦の間分くらいには十分すぎる。

『そう言うわけですので、こっそりと付いていきます』
「そ、そうなんだ・・・呪術って、何でもありなのね」
「それはもう今更じゃないかな、ラッちゃん?」
「とはいえ、私も殺女も見た時には心底驚いたがな」

 かく言う俺も、実際に出来たことや注文したその日のうちに届いたことに心底驚いたんだけど。



  ========



「ねえ、実際のところ三人と一輝君ってどんな関係なの?」

 行きのバスの中、横並び五人の最後尾の席で一番左側に座っている人・・・大同(だいどう) 菊乃(きくの)からそう質問された。

「どんな、って言うと?」
「ほら、付き合ってるのかどうか、とかじゃないかな?」

 殺女の質問に答えたのは菊乃の隣に座っている多岐倉(たきくら) 有那(ゆうな)。名前がどちらともとれることや普段着が男ものなこと、男性的な見た目からユウ君と呼ばれることの多い女子だ。あだ名の呼び中では唯一、殺女がユウちゃんと呼んでいる。

 この二人からそんな質問をされて固まった私と殺女をよそに、凉嵐が。

「はぁ・・・そう言うのはないわ。あたしだけじゃなくて、この二人もそうだと思う」
「あ、そうなんだ」
「そうよ。・・・昔もよく聞かれたけど、あれが恋愛感情なんて分かるはずもないし」
「「あー」」

 つい、私と殺女は納得したような声をあげてしまった。
 確かに、あれが恋愛感情を分かっているとは思えない。当然、理解できているなどではなくて、こういうものだという経験からくる感覚的なもので、だ。

「そう・・・なんだ?」
「そうよ。・・・カズと話したことがあれば分かる思うけど、あいつは男女分け隔てなく接するやつだし」
「よっぽど嫌ってでもいない限り、そうなるやつだな・・・」

 おかげで少し、二つの意味で心配になってくる。自分への敵意はほとんど気にしないし・・・

「確かに、そんな感じだったなぁ・・・それでも女子への気遣いとかができるし・・・。それでも、幼馴染だったり同居してたりするから、何かあるのかなー、って思ってたんだけど」
「そう考えると、同居してる二人はどんな関係なんだい?」
「どんな、か・・・私の場合、カズ君は私のパートナー兼監視役、っていうのがカズ君の立場かな。感覚的には友達、だけど」
「私も、立場としては秘書だが、実際には友達や仲間と言う形になるな」
「えー、それだけ?」

 不満そうに言われても、実際関係はそんな感じなのだから仕方ない。
 とはいえ、確かにそれだけの関係で同じ家に住んでいるのもおかしな話ではある、か・・・

「あ、それなら三人と一輝君はどんな感じだったんだい?」
「出会い?」
「そう、出会い。正直一番気になるのは殺女さんなんだけど」

 確かに・・・席組み第九席と公表されている一輝の立場の出会い、気になるだろうが・・・実際には第三席と第九席の出会いだ。機密事項が含まれてるんじゃないか?

「そうだねぇ・・・」

 事実、殺女はいいづらそうにしているし。
 そして、少し考えてから・・・

「まともに・・・お互いに素で話したのはあれが初めてかなぁ・・・」
「あれ?」
「うん、家族を失って自分を押し殺して一人でいようとしてたのに少しムカッと来て・・・殴り合いのケンカをした時」

 四人が全員、同時に沈黙した。
 ・・・え?殴り合いのけんか?術よりもその力で席組みに入った殺女との?

「・・・中々にバイオレンスね・・・」
「今思い返すと、ちょっとやりすぎたかなー、って思ったり」

 あはは・・・と笑ってるが、よく死ななかったな、一輝・・・

「それで彼と?」
「うん。お互いの本音をぶつけ合って、仲良くなって、で今の関係に」
「・・・一つ二つステップが飛んでない、それ?」

 まあ、普通ならそうなんだが・・・一輝は殴り合ったことなんて気にもしていないだろう。だとしても、かなり普通ではない出会いなのは間違いない。
 って、それは私も大差ないんじゃ・・・むしろひどい気も・・・

「じゃあ、雪姫ちゃんは?殺女さんに負けないくらいの出会いがあったり?」
「ちゃんはやめてくれ。・・・言っても驚かないでほしい」
「それは内容次第かな」

 はぁ・・・まあ、もう済んだことだ。お互いにさほど気にしてもいないのだし、言ってしまってもいいだろう。
 そもそも、気にするほどの内容でもないはずだ、うん。・・・投げやりぎみになんてなっちゃいない。・・・それは無理があるか。

「最初の関係は・・・暗殺しに行った側とターゲット、だな」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」

 さっきよりも長い沈黙の中、気にしていない風を装って菓子を食べる。うん、甘いものは好きだ。

「えっと・・・それってどっちが・・・」
「私が一輝を、だな。まさか初めての任務で第十五位を殺しに向かう事になるとは思ってもいなかった」

 なんにしても、ここまで話せば何となく事情を察してくれるだろう。家が滅びたら、引き取り手によってはそう言う事もある。私もその一人である、という事を。

「それで、どうしてそんなに仲良しに?」
「いまだにあいつの行動が完全には理解できていないが・・・夜、暗殺しようと寝てる一輝の部屋に侵入して、一輝は寝たまま私を捕まえて」
「本当に色々とおかしなことをするんだね、彼は」

 まあ、規格外ではある。初対面でそれは十二分に理解したつもりだった。全然できていなかったが。

「で、次の日と言うか・・・その日の朝に色んなところを連れまわされて・・・」
「えっと・・・それはあれよね?相手の情報を引きだすとか、そういう・・・」
「ただ遊ぶだけだったようだな。それと、死ぬつもりだったのを思いとどまらせるために」

 また沈黙。まあ、うん。そうなる気持ちは分かる。全部知っている殺女くらいしか驚いていないのがいないし。と言うか、私自身何を言ってるんだと思う。
 気がつけば、前の席からも沈黙が・・・ばっちり聞かれているようだ。

「で、気がつけばあいつはヒトの心の中にずかずかと入り込んでくるし、私も無意識のうちに心を許してるし、で・・・」

 と、そこで少し困った。あの時の事は機密扱いになっているし、どう話したものか・・・そう言えば、建前があったな。

「ちょうどそこで私の引き取り手が行っていた違法な実験が暴走したらしく、死亡したからこれ幸いとばかりに」
「彼の後見人・・・闇口光也についた、と。・・・それだけの立場の人がよく、引き受けてくれたね・・・」
「一輝と殺女の二人がそうするように・・・要求したからな」

 あれは少し脅迫も混ざっていた気がするが、まあ元々報酬として引き受けるつもりだったみたいだから要求でいいだろう。

「じゃあもしかして、伊達さんもそんなドラマとかアニメみたいな出会いを?」
「あたしのは二人ほど特殊じゃないわよ。・・・というか、一般人のあたしがそこまでとかまず無理だし」
「普通に暮らしてれば、二人みたいなのはまずないよね・・・」
「・・・まあ、普通でないことくらいは理解している」
「私は、非日常が増えることくらいは覚悟してるからな~」

 そもそも、席組み第三席と第九席。この二人と同じ家に住んでいて普通になるわけもない。

「それに、わりとよくある話よ。あたしってほら、中途半端に妖怪じゃない?」
「八分の五がイタチで、残りが人間だっけ?」
「そう。それで昔・・・小学校の頃は男子、女子両方にいじめられてたんだよね」
「あ、そんな中彼だけは気にせず接してくれたとか、そんな感じ?」

 美談としてはそうなんだろう。一輝は細かいことを気にするやつでもないからそれもあるだろうし。だがしかし、それだけではないだろうな。
 殺女を見ると、向こうも同じことを考えているらしい笑みを浮かべている。

「いや、まあそれもあったんだけど・・・その中にはクラスでも陰陽術が一番うまいとか言われてる人もいたんだけど、全員倒しちゃったのよ。無傷で」

 うん、ものすっごく予想通りだ。一輝らしすぎる。

「つまり、実は一輝君が一番強かった、ってこと?」
「それも、圧倒的にね。・・・カズが私がいじめられてるのを見て『そんな大勢でかかって楽しいの?・・・ああ、そっか。弱いから集まらないと何にも出来ないんだ。かわいそうに』っていったのよ。嘲笑を交えながら」
「一輝の無駄に相手をあおる癖はその頃からなのか・・・」

 そんな子供、私は嫌だな。担任なんてもっと面倒だったに違いない。

「で、当然向こうもそれにカチンときて、対象を私からカズに変えて、後は全員が先に攻撃してきたのを全部避けてから攻撃を始めたの」
「嫌になるくらい計算高いな・・・」
「どういうこと?」
「あー・・・つまりは、正当防衛を成り立たせたんだね。自分を守ることをよく考えてる」

 さらには、乱入する前にカメラを設置してその様子を録画していたらしく、その連中の親が学校側に要求してまた親も集まって一輝とその父親を攻め立てたそうなのだが、その映像を見せて完全に黙らせたらしい。さらには責任を問い、これ以上うるさくする、また問題を起こすなどの事があったのなら公開すると脅したそうだ。
 一輝が取った行動も、暴力は全てよけるかお互いを攻撃させる。相手が呪術を使いだしてから自分も素手での攻撃を始める。まだ慣れていない相手による呪術は死の危険があるため、気絶するまで攻撃しても誰にも攻められない。・・・それこそ、過去に一輝がやったように惨敗した結果学校での立場がなくなろうが、過程で骨が折れようが、プライドをズタボロにしようが。同い年であることも影響し、公にしたところで一輝は一切問題なしとされる。
 まあ、一輝の事だから教師が来るまで相手を攻撃しなくても無傷だっただろう。だが・・・結果としてそれ以降その親と子供たちの立場がなくなる。一部は転校や引っ越しまでやったほどだ。・・・徹底的にやったな、また。

「で、それ以降はそのグループのクラスでの立場もなくなって、無事あたしにも友達ができました・・・というあらまし」
「・・・一輝君って、正義感にあふれてるの?」
「それはないわ」「それなはい」「それはないね~」

 三人の発言が被った。

「あれは別に、間違ったことでも気にしないことあるし」
「逆に正しいことでも叩き潰したりもする」
「気に食わないと容赦なくやるからね~」
「・・・・・・つまり、気に入らなければ容赦なく叩き潰す、と・・・」
「完全に自分の都合で動くわけか。面白い人だね」

 まあ、本来国の陰陽師に許されることではないしな、都合だけで動くことなんて。
 ライセンスを発行されている陰陽師は、野良の妖怪を退治する分には誰にも咎められないし、呪術犯罪者を罰する分にも基本的には何も言われない。しかし、それが立場のある者ならば逆に罰しようとした方が冤罪を被せられて自分が消されるだろう。もちろんの事、正しい者に手を出すのは根本的にアウトだ。
 だがしかし、そう言った者から外れる者が日本に十人いる。それが席組みだ。

 席組みの十人には本当に色んな権限を与えられている。

 免許がなくても大きすぎなければどんな乗り物でも運転していい。
 バスや電車、飛行機、タクシーなどの乗り物全般の使用料は全て陰陽師課が持つ。
 常に式神などの基礎術の使用許可。
 席組みとして人をを雇う時、その関係で発生する出費は全て陰陽師課が払う(私や穂積はこれに当たる)。

 他にも様々な権限を与えられているが、一輝の行動を問題なしとしているのはこれだろう。

 日本の席組み以外の陰陽師に対して、認定を行う事が出来る。
 必要だと判断した時、任意での殺害許可。

 認定とは、その相手を呪術犯罪者として認定すること。つまり、誰でも発見次第殺害を進めることになっている第一級から、無実を示す無印まで自由に決めることができるのだ。席組みに与えられた様々な権限の一部は席組み以外にも与えられているが、この二つだけは席組みにしか与えられていない。もちろん乱用しすぎれば他の席組みによる粛清対象となる。つまり、しすぎなければいいのだ。
 ・・・鬼道の一族については、もはや例外のような扱いを受けていたが、一輝があれなのはもしかしたらその頃からなのかもしれない。

「ねえ、寺西さんに土御門さん、伊達さん。その寺西くんはどこにいるのかしら?」

 と、そんな話をしていたら天月会長が私たちのところまで歩いてきて、話しかけてきた。

「席にはついてないのですか?」
「それがね、多岐倉さん。席に座ってたのを起こそうとしたら」

 そう言いながらとりだしたのは・・・一輝の式符だ。まさか、ここまで早い段階で気付かれるとは・・・。

「そういうわけで、どこにいるのか聞きたいのだけれど」

 そう言いながら笑顔を浮かべている天月会長は、ちょっと怖い。なるほど、笑顔によるコーティングをするというのはこういう状態の事を云うのか。より一層怖い。
 さて、それにしても・・・

「・・・どうする、殺女」
「言うしかないんじゃないかなぁ・・・ほら、見えるところにいるし」

 殺女はそう言いながら後ろを見て指差した。
 そちらを私と凉嵐以外が見る。予定通りなら、一輝がバイクに乗っている姿が見えるはずだ。

「・・・ねえ、確か私寺西くんに念押ししなかったかしら?移動はバスでまとまってする、って」
「してましたね。途中で作戦会議をしたいから、と」
「ホントにすいません、カズが自由すぎて・・・一応、作戦会議中は電話で参加させますので・・・」
「それ、道路交通法違反にならないかしら?」
「あれ、呪具・・・私だったり光也だったりと相互連絡をしながら運転するための物だから、許可されてるよ?」
「そう・・・じゃあ、それはもういいわ。ええ、参加してくれれば何でもいいわよ・・・」

 ご迷惑をおかけします、会長さん。
 ただ、まだ参加しようとしただけいい方だというどうしようもない問題児なので、ご勘弁を・・・

「ところで・・・あの後ろに乗ってる和服の女の人って誰?」
「・・・(したなが) 穂積。家に住んでる・・・憑いてる幽霊。家事全般をやってる」
「で、ちょっとした裏技で今回付いてきましたー!」

 殺女が明るい。一輝が自由すぎて私や凉嵐は頭を抱えているというのに・・・似ていることが原因なのか・・・?

「バイクの二人乗りかー。ちょっと憧れるなぁ・・・」

 そして、穂積を見た大同菊乃がそう洩らしたのを聞いて、私もだと思った。
 いいなぁ、二人乗り。
 
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