道を外した陰陽師
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第三十五話
「やっとテスト終わったー・・・これでもう、教師のカンニングはするなだのコックリさんは禁止だのを聞かなくて済む・・・」
「確かに、毎回毎回言ってて聞きあきたよね~」
「過去にやったやつがいたらしいぞ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
零厘学院に入学してから数ヶ月が経ち、もう七月も終わりの時期。要するに夏休みに入ろうという時期になった。
それまでの数ヶ月の間は高校入学前の忙しさが嘘ではないかと言う位に何もなく、ごくごく平凡な、そしてそれがどれだけ幸せなのかが分かる期間を過ごすことができた。強いてあげるのなら、雪姫の理系科目の致命的さが中学の比ではなくなったことだろうか。
一般科目以外のカリキュラムについては、もっと問題がない。
俺と殺女については、一年生の間にだんだんと出来ていくようになる・・・と言う教師のスケジュールを完全に無視して、授業第一回で一年分の実技テストをクリア。以来その時間は二人で結界を張り、模擬戦をしている。なんだかウザイくらいに自信満々だったヤツ(将来席組みになるとか、無謀なことを言っていた)が呆然としていたのは、今思い出しても愉快である。
雪姫のほうも、覚醒課で学年で一番優秀な生徒という立場を得たらしい。
まあ、俺と殺女の二人と一緒に行動していれば、イヤでも腕は上がるだろう。
そして、その成績による精神的後押しのおかげで一学期を乗り切ったといっても、過言ではない。
と、そんな様子でウチのメンバーは全員無事、一学期を乗り越えた。
なんだかんだ雪姫も、殺女の授業でギリギリとはいえ平均点くらいまでには理系科目の点数を上げたし。
だから・・・問題は、うちで暮らしている以外のメンバーにあった。
それは・・・目の前で、一学期を乗り切った安心感にぐったりとしているラッちゃんこと、伊達凉嵐である。
「・・・もうイヤ・・・勉強したくない・・・」
「はぁ・・・個人的には、夏休みの間にほんの少しでいいから二学期の予習をしておいて欲しいんだけどな」
とはいえ、それ以上強く出る気になれないくらい、ラッちゃんは弱っていた。
原因は一応、俺なんだけど・・・でも、仕方ないと思う。だって、こうなるくらいの勢いで勉強を教えないと1、2教科赤点だったはずなんだから。
あ、念のために言っておくと危ないのが1、2教科だったというわけではない。倍くらい危ないのがあった。
そんな状況であったため、テスト週間の間うちに泊まりこみで、毎日俺がみっちりと勉強を教えていたら・・・こうなった。
さすがに高校で赤点は冗談にならないとはいえ・・・やりすぎた、のかもしれない。いくら自分の勉強が要らないからって、ほぼ付きっ切りというのはまずかったか・・・?
と、以上の反省もあるし、今居るのは学院内の俺の私室に近い状態になっている一室であるため、ぐったりしたいだけぐったりしてもらうことにした。ラッちゃんも俺の秘密知ってる関係で、委員に入ることになったし。
「なんにしても、みんな無事に一学期を乗り越えたんだから打ち上げでもしようよ!」
「やめておけ。私達三人はともかく、凉嵐は休むべきだ。どう見ても瀕死ではないか」
「俺も雪姫に賛成だな。・・・回復するまで、宿泊延長した方がいいか・・・?」
と、俺と雪姫は割りと本気でラッちゃんが死ぬのではないかという心配をしていたら、部屋の戸がノックされた。
なんだろう・・・?また学校内で牛鬼でも発生したのか?それとも、生徒がオリジナルの術式を発動しようとして失敗したのか?
「どうぞー」
「失礼します」
考えても仕方ないので、入室を促すと・・・入ってきたのは、三年の先輩だった。
これはまた、本当に珍しい・・・三年にもなれば、大抵の問題は自分で対処できるだろうに。
そんな事を考えていたら雪姫がその人を通して、席に着くように促していたのでとりあえず紅茶でも淹れる事にした。コーヒーの方がいいのかもしれないが、あいにく今は品切れ中である。
「さて、とりあえず名前を聞かせてもらっても?」
「あっ・・・三年の天月 伊空。今日は在留陰陽師への報告とか依頼とかじゃなくて・・・同じ零厘学院の生徒へのお願いに来たんだけど・・・」
「そっちか・・・対象は?」
「寺西一輝くん、土御門殺女さん、寺西雪姫さん、伊達凉嵐さんの四人。・・・ここの委員会のメンバー全員ね。特に、寺西くんと土御門さん」
名前を呼ばれて、いまだにダウンしていたラッちゃんが体を起こし、伊空を見て慌てて姿勢を正した。
うん、気付けば先輩が目の前にいたんだ。当然の行動かもしれない。俺だったらそのまま寝るだろうけど。
「で、内容は?」
「今年の呪校戦に出て欲しいの!」
「「ゴメン、俺達/私たち無理」」
「即答!?」
俺と殺女が息を合わせて言うと、伊空は下げた頭を一瞬で上げて目を丸くしている。
「いやむしろ、なんで伊空は俺たち二人が出られると思ったんだよ・・・」
「なんでだろう。一応先輩なのにサラッと呼び捨てにされた・・・」
「とりあえず、相手のことは名前で呼び捨てにすることにしてるからな。・・・で、俺の質問の回答は?」
年とか知るか。俺はよっぽど尊敬できると思うかお世話になってると思わない限り敬語も使わないしな。
「で、でも・・・出場権は陰陽師関連、又は妖怪関連の学科のある高校に通う、その学科に属している人だし・・・二人とも条件は満たしてるじゃない?」
「じゃあ、その条件を満たしてる他校の席組み三人は、これまでに参加してきたことあったか?」
「ううん、してこなかったけど・・・」
憑き物に関わる歴史が深く、そう言った人の入学が多い人憑学院の高等部二年、匂宮美羽。
武器を用いた陰陽術や妖術の権威が大学部に所属している刀槍学園高等部の二年、九頭原匁。
陰陽術の原点といえる札、五行符、式符といった分野に特化しており、さすがは原点というべきか日本で最も陰陽術、妖術の規模のでかい日本一の名門校、呪術学園高等部三年、星御門鈴女。
もう笑っちゃいそうになる名前の学校ばっかりなんだけど、どこもかしこもその高校の特色を名前にしているので何も言えない。
むしろ、入学した今でも零厘の名前がどういう意味でつけられたのか分からん。ここも一応、名門校のはずなんだけどなぁ・・・何でだろう?
「それで・・・私たち席組みには、呪校戦への参加禁止令が出てて・・・」
「え・・・何で?」
「いや、悩むようなことじゃないだろ・・・」
半分呆れながら茶菓子をつまみ、簡単に説明をする。
「あんたみたいな一般人には・・・席組みが五割くらいの力で戦うところすら見たことがないやつには分からないだろうけど、全員が無茶苦茶強いんだよ」
「いや、そうじゃないと今の権限が与えられてるのが納得できないから分かるんだけど・・・」
「んじゃ、もう面倒だしはっきり言ってやる。殺女がその気になれば、五割程度の力で席組み以外の日本の陰陽師全員を相手にして、全員戦闘不能にできるからな?」
話したら、伊空が口をあけてポカンとしている。
全く、席組みの事実エピソードを話すと誰でもこうなるんだよな。ついでに、俺の正体とかも、面白い反応が得られる。
「ま、そう言うわけだから諦めてくれ」
「うー・・・今回の呪校戦、殺女さんがいればウチの高校にも、二十年ぶりの優勝があると思ってたのに・・・」
あ、そうか。どこかで聞いた名前だと思ったら、今年の零厘学院における呪校戦のリーダーだった。今メンバー集めをしてるって、STで連絡されてたな。どうせ出られないからあんまり気にしてなかった。ついでに、生徒会長。
「で、でも!そっちの二人は問題ないんだよね!?」
「あー・・・ま、本人たちが了承すれば問題ないけど。二人はどう?」
とりあえず、本人の意思だけは聞いておく。
それについては、俺に口出しする権利もないし。殺女が出たそうにうずうずしてるのは、第三席権限で無理矢理にでもとめるけど。
そりゃ、俺も出たいから気持ちは分かるんだが・・・その結果呪校戦が白けた結果になるのは後味悪いし。
「私は・・・いい経験になるだろうから、出てみたいが・・・後見人の事もあるし、許可が取れれば、だな」
確かに、雪姫の後見人は光也になっているので色々と面倒が起りそうだ。
まず間違いなく光也は許可を出すだろうけど、それでも念のために、だな。
「あたしは、まあいいかな。こんなに中途半端にしか妖怪の血が流れてなくてもいいなら、ですけど」
「あ、それについては大丈夫。むしろ、人間の血の影響でいい感じに強化されてるみたいだし」
確かに、ラッちゃんはハーフよりも人間の血が薄めになる・・・ここまで中途半端な形にひいた例は中々いない、珍しいケースだ。
そして、妖怪の血に人間の血を混じらせた場合、人間の持つ彼岸への感受性から妖術のコントロール能力が上がるという事も、研究結果として出ている。これで中々に強いのだ、ラッちゃんは。
「とりあえず、二人は確保・・・って、寺西くんも出ていいんじゃないの!?」
「チッ、気づいたか・・・」
「今舌打ちしたよね!?」
はぁ、気づかれたなぁ・・・俺、席組みじゃないことになってるし。
殺女に対して適応された条件は、表向きには俺には適応されないことになる。
「んじゃ、参加しない理由その一を言います。めんどくさい」
「何でよ!?通ってる高校のために一肌脱いでくれても、」
「と言っても、これは建前なんだけど」
「早く本当の理由を言いなさい!」
・・・もう後十回はいじりたかった。ここまで弄りがいのある人、中々いないんだよなぁ・・・伊空、弄られ過ぎて涙目になってるし。
最近では、ここまでなのはいないんだよ・・・最初の頃は雪姫が面白かったけど、最近ではもう慣れてきちゃったみたいだし・・・雪姫、適応力高いんだよな。おかげで、一緒に暮らしていて楽しいけど。
「はぁ・・・じゃあ機密事項を避けて説明するけど、俺も呪校戦への参加は後見人から禁止されてるんだよ。色々と諸事情があってね」
「・・・何で禁止されてるの?」
「一つ目の理由は、機密事項につき話せない」
これは、俺が席組みの第三席、『型破り』だからでーす。
これさえ言えれば、それで終わることなんだけどなぁ・・・
「一つ目ってことは、他にもあるのね?話してもらえる?」
「二つ目の理由は、機密事項につき話せない」
これは、俺が非公開の異常能力者だから。
万が一にも、俺が無意識のうちに使うなんてことが起こると面倒だから。
まずあり得ないけど。俺が使わない気でいたのにこれを使うなんて、命の危機レベルに何かあるか、俺がこれを使わないと解決できない・・・神が出現するレベルの事件でもない限りはない。
つまりは、可能性は一パーセントにも満たないわけだ。正直、形ばかりの禁止である。
「・・・まだあるのかしら?」
「三つ目は、機密じこ」
「機密事項で話せないのね!もう流れの予想ついてるわよ!」
「機密事項につき話せない」
「分かってるって言ったわよね、私!?」
ここまで弄りがいがあると、もう天性のものだよな。うん、貴重な才能だ。
ちなみにだが、今回のはそんなに人の目があるところに出場したら、俺が鬼道の一族だということがバレかねないから。これが一番、出場禁止になる理由だったりする。・・・とはいえ、どうせ他人の空似、ってことになるんだけど。鬼道流の体術やら剣術を使ったとしても、どうせスルーされるだけだ。
人間、これはこうだという認識が固定されていると、中々それを覆せないし。
まあでも、俺としても鬼道だってばれるのは困るし。困りすぎるくらいに困るし。暗殺増えそうだよなぁ・・・対応が面倒極まりない。そういうわけで、避けろと言われたら避ける。
「ちなみに、四つ目と五つ目、六つ目は・・・」
「機密事項、でしょ?もういっそ何個機密事項があっても驚かないわよ。そして、こうして言っても言ってくるくらいは、」
「ない」
「ないの!?」
楽しいなー。たぶん、この人をいじることに関しては飽きることはないだろう。まず間違いなく。断言できる。
「はぁ・・・何なの、この人は・・・」
「知り合いからは、よく問題児って言われる」
「そこまで的確に表した言葉は、中々ないわね・・・」
さて、どうするか・・・この様子だと、まだ納得した感じじゃないんだよなぁ・・・
となると、もっと上の存在から説得してもらうしか・・・
「・・・そうだ。光也に来させよう」
「ちょ、陰陽師課のトップをそんな簡単に呼び出す気!?」
これまでで一番の驚きを見せた伊空を無視して、俺は光也の番号を携帯で呼び出した。
出場禁止を言い渡したのは光也なんだし、それぐらいの責任は取るべきだよな。
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