道を外した陰陽師
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第雪話
「全く・・・あのバカはどこにいった・・・」
いらだちを隠せないまま、私は廊下を歩く。苛立ちの原因は一輝だ。
教師と生徒会に話があるから探してくるよう言われ、まず携帯に連絡してみたが反応は無し。携帯を三つも持ってるくせに反応しないとか、もう何の意味がある。
次にもうほとんどあいつの私室となっている委員会室にいったものの、鍵がかかっていたからまずいないだろうと判断。念のため鍵を開けてみたが、やっぱりいなかった。
さすがに学校から出ていたら連絡の一つ入れるだろうから、学校にいるんだろうが・・・もういそうな場所の心当たりがない。
図書室で調べものもしていなかったし、どこかの部活を見てもいなかった。大穴で教室に戻っている可能性も考えては見たものの、やっぱりいない。最後の手段で一輝が渡されている電子キーで開ける事の出来る全ての部屋をしらみつぶしにしてみたが、まあ結果は変わらない。この状況で苛立つなといわれても、まず無理だ。
これで苛立たずにいられるほど人はよくない。
「というか、何で私がこんなことをしてるんだ・・・」
いや、まあ理由は分かってる。アイツと親しい人間は結構いるが、行動を予測できるほどの人間が少ないのが原因だ。これはアイツの行動が突拍子もないのが悪いんだが。
授業中、急に「依頼があった」と言って出て行くのはまだいい方だ。ランク的にも急に仕事が入ることはあるだろうし、十番台クラスでなければ不可能と判断されるような事件も、起こらない訳ではないのだ。そういう時に表向きは十五位となっている一輝が呼ばれるのは仕方ないことでもある。
ついでに闇口光也から頼まれることもあるらしいが、それについてはものすごく面倒そうにしながら行って、法外な値段設定をしているヤクザまがいの陰陽師ですら真っ青になる値段を請求して帰ってくることが多い。たまに内容によってはロハで行っていると闇口光也は言っていた。他にも「あまり表に出せない内容なんで、請求された通りにしないといけないんですよねー。いやはや、立場が弱くてなりません。マネージャーとして何とかなりませんかね?」とも言われた。とりあえず「無理です」と即答しておいたが。
そして、勝手な予想だが、ロハでやった仕事の方が難易度が高い。ついでに面倒な事情が大量に関わっている。
「って、こんな予想がつくようになったから頼まれるのか・・・」
付き合いの長さは、まだそうでもないんだがな・・・一年もたってないのに、何でここまでなったんだか。
ちなみに、普段なら手伝ってくれる、そして手伝うことが出来る友達が二人いるが、今日は二人とも忙しいらしく、放課後になると行ってしまった。
凉嵐は妖怪登録の更新で、この辺りにある規模の大きい神社まで。流れている血の半分以上が妖怪である者が対象とされていて、それの更新を定期的に行うことは義務付けられている。使える妖術のレベルだとかによってどれくらいの制限をかけておく必要があるかが変わってきたりするし、それを行わないと場合によっては妖怪としての本質に引っ張られて人を襲いだす心配もある。
確か鼬の場合は・・・カマイタチに引っ張られることが多く、その時は人を斬る風の妖怪となるだろう。が、凉嵐は風の妖術よりも鼬火の方が得意だったから、引っ張られるならそっちだろうな。その時は、吸血衝動に駆られるわけだ。・・・対策しやすいので、討伐されることもないだろう。
殺女は分かりやすく、席組みとして闇口光也に呼び出された。もう一人匂宮美羽も呼び出され、仕事があるらしい。内容はテレビ出演。
・・・いや、うん。まあ分からないではない。この二人に限った話ではなく席組みは全員整った顔立ちをしているから、そんな人前に出るような仕事が増えるのも理解は出来るんだが・・・なんだか、本当にやるべきことからは離れて行ってしまっているように思えて仕方ない。
ちなみに、殺女はこの類の仕事がある度に家で愚痴っている。その標的は主に一輝であることが多い。同じ席組みで、しかも第三席という自分よりも高い立場にいるはずなのに、一切その手の仕事をしていないんだから当然と言えば当然だが。この件に関して、顔バレするイベントは一切NGであることを、一輝本人はとても喜んでいた。
まあ、あいつも世間一般にはカッコイイと評されるであろう顔をしているし?卵で無かったならその手の仕事があってもおかしくはなかったかもしれないな、うん。
「って、何考えてるんだ私は・・・」
気がつけばあいつのことを考えている、なんてことが最近よくある。いや別にそういうことじゃなく、あれだけ衝撃的な出合い方をしたわけだし、印象的にもなるだろう。というかあそこまで強い印象を与えられる人間なんてそうそういない。だからそういう話ではない。うん。
「なにせ、あれだからなぁ・・・」
何度思い返してみても、おかしな奴だ。暗殺しに行ったら寝たまま無力化されて、まあこのまま捕まるかうまいこと逃げ帰っても殺されるかなぁとか思ったら朝食を一緒に食べることになって、遊びに連れだされて・・・あっさりと、元凶を殺して見せて。
「・・・あそこまでなるには、一体何があったんだろうか」
ある程度聞いたとはいえ、全部聞いたわけではない。だからちゃんと分かるわけではないし、私に理解しきれるとも思えない。それくらいには、一輝の底は深く、くらい。
そして、私にはそれを詮索する権利も、責める権利もない。一輝が手を汚してくれたおかげで、私は今こうしていられるのだから。でも、気にはなる。
「気になっても仕方のないことだな」
少し頬を叩いて気を切り替え、考え直してみて一つだけ思いついた。一輝のいそうな場所。最初に思いついてもいいくらいな場所だったが、だからこそ外していた。というか、いそうだが本来出れないから外していたというか・・・
「・・・開いてる・・・」
そこに行ってみたら、鍵が開いていた。鍵穴を見ても分からないが、おそらくピッキングをしたのだろう。電子キーの方で開ける手段はないはずだから、そっちで間違いないだろう。
まあ、うん。これでやっと解放される。そう思って屋上に出てみたら、そこには五、六体ほどの妖怪の死体と、それらのにおいが漏れないようにという配慮なのか囲うように張られている結界の上で昼寝をしている一輝の姿が。
・・・頭が痛くなってきた。もう見て見ぬふりをして帰ろうかな・・・それはそれでマズイか。
とりあえず結界に上って一輝を揺らしながら声をかける。
「・・・何してるんだ、お前は」
「ふぁ~・・・ん?雪姫か。おはよー」
「おはよー、ではない!なんだこの状況!?」
真下を指差しながら聞いてみると、一輝は寝ぼけ眼のまま下を見る。
「あー、これはだな・・・」
「この学校には、野良の妖怪が入れないように結界が張ってあるんじゃなかったか?」
「あるにはあるんだけど・・・俺の前任が張ったものを補強して使ってるんだよ」
胡坐をかいて座り、頭を少しかいたところで目が覚めたのだろうか。少なくとも口調からは眠たさは消えているように感じられた。
「こういうところに張る結界ってのは色々と設定段階が面倒でなぁ。一からはろうとするとかなりの労力になるから、大抵こうして前任の物を自分で使えるようにして使うんだよ」
「なるほど。それで、なんでここにその野良がいるんだ?」
「・・・まあ、使いまわしだからガタが来たみたいでな。だいたい・・・」
と、そこで一輝は空の一点を指し、ぐるぐると円を描いて見せる。
「あの辺りに来たんだよ。だから、とりあえずそこから入ってきたのを潰しに来てた。以上が、現状の説明かな」
「三時間目から放課後までずっとここで寝ていた事の説明は?」
「いや~、誰にも気づかれないように潰そうと思うと呪術は使えないし、剣は他の物が斬れるかもしれないとか考えた結果、体術でやるしかないじゃん?」
「普通それで妖怪と相対しようとは考えないがな」
だから陰陽師というのが仕事として成り立つし、依頼があるんだから。
「それで一匹も他に行かせずにつぶそうと考えると、意外と難しかったってわけだ。加減を考えないと学校が崩壊しかねなかったし」
「ああ、考えたのはそっちの方向なんだな」
まあ、考えてくれてよかったが。仕事ならちゃんと人命のことも考えるんだよなぁ、コイツは。
というか、まだ寝ていた理由を聞いていない。
「それで、寝てたのは?」
「・・・あ、そういやあの死体を処理しておかないと」
「そうか、じゃあ処理しながら話してもらおうか」
「グッ・・・」
誤魔化す気満々だったんだな。危うく忘れるところだった。
「・・・ねむかったし、寝やすい気候だったから寝てた」
「よくもまあこの状況で寝れたもんだな」
「返り血は浴びてないし、不快な状態だったわけでもないしな」
「いやそこではなく」
というか、それも含めて色々と。何より普通の人間は死体が真下にある状況で寝られるものではない。
「ってか、下部活してるよ・・・もう放課後なのか。そろそろ帰らないと」
「確かに、そろそろ帰った方がいい時間ではあるな。STが終わってからそこそこたった」
「なら、帰るとするか。行こうぜ、雪姫。荷物は教室に?」
「おきっぱなしだな」
「なら、そこによってから昇降口だな」
そう言ってから歩きだした一輝の背を追う。
・・・ちなみに、何で一輝を探してたのかを思い出したのは家に帰り、風呂に入っているときだったのでもう手遅れだった。
しまったな・・・思いっきり一輝の策に乗せられた気がする。
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