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鎮守府にガンダム(擬き)が配備されました。

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第2部
  第3話 特別編 我が祈りは旭日と共に 其ノ1

 
前書き
暁用のTwitter開設しました。
裏話や投稿予定などは次からこのTwitterに書き込みます。
詳しくはあらすじをどうぞ。

3月4日、シブヤン海峡にて、第二次世界大戦末期に撃沈された戦艦武蔵の残骸が発見されました。
戦死された乗組員の方々へ、そして今を生きる我々日本人の為に命を賭して戦って下さった方々へ感謝と哀悼の意を表します。
終戦70年の節目ということもあり、特別外伝として戦艦武蔵と一葉の過去の話を書かせていただきます。

戦死された戦艦武蔵乗組員の方々の御冥福を御祈り申し上げます。 

 
9月2日
リンドヴルム
第1作戦会議室

リンドヴルムの作戦会議室。
各部門の責任者のみが集まった室内は、異様な空気感に包まれていた。

「俺達がここに来たのは、偶然じゃなかったって訳か……」
「いや、人為的に引き起こされたわけでもない。
そう言う意味では、これは偶然だったのだろうさ」
「然し、〝サイコフレーム〟とは……深海棲艦の再生能力も納得できる」

〝サイコフレーム〟。
サイコミュの基礎機能を持つコンピュータチップを、金属粒子レベルで鋳込んだMS用の構造部材だ。
嘗てネオジオンで開発された技術で、ネオジオン総帥、シャア・アズナブルにより意図的に連邦へリークされた経緯がある。
MSやMAに組み込む事で、それまで膨大な搭載スペースを要したサイコミュを大幅にダウンサイジングする事が出来、結果的に機体の能力が向上した。
だがサイコミュ自体、未知の領域が大き過ぎた為、サイコフレームの開発は結果的に凍結となった。

「ユリシーズ……いや、〝アクシズ〟の存在とサイコフレーム……第二次ネオジオン抗争でサイコフレームを搭載していた機体は限られて来る。
恐らくは……」
「〝サザビー〟と〝νガンダム〟……ですね」
「〝ヤクト・ドーガ〟と〝α・アジール〟という可能性も捨て切れん。
だが、姫級や鬼級の再生能力がサイコフレームの恩恵だとしたら、サイコフレームを有していない通常型の深海棲艦の再生能力は一体……」

再びの沈黙。
だが、その沈黙は突然の来客によって遮られた。

「提督、鹿島鎮守府中央棟に御来客です」
「ん? 俺にか?」
「はい、呉鎮守府と舞鶴鎮守府からいらっしゃいました」
「呉と舞鶴から?」


◉◉◉


呉鎮守府と舞鶴鎮守府。
日本帝国海軍でも5本の指に入る大規模な鎮守府だ。
歴史も古く、由緒正しい軍港であり、保有する艦娘の隻数も尋常ではない。

中央棟にジープで乗り付け、重々しい木製の扉を開ける。
中央棟内はいつも通りの静けさと重厚な緊張感に支配されており、平常運転のようだ。

「貴方が神宮司准将閣下でありますか?」

玄関ホールの真ん中で話し込んでいた3人の艦娘と思しき少女達が、俺に気づいて歩み寄ってくる。
駆逐艦と思しき少女の問いに対し、敬礼で答える。

「如何にも、地球連邦宇宙軍第8軌道艦隊麾下、特別即応艦隊を指揮している、神宮司一葉准将だ。
貴艦等は…?」
「呉鎮守府からエインヘリアル艦隊へ転属致しました、陽炎型2番艦、不知火です。
御指導、御鞭撻、宜しくです」
「白露型4番艦の夕立よ」
「あ〜、前々から言ってた奴か……ああ宜しく、共に戦おう。
……で、そちらさんは?」

戦艦クラスか重巡クラスであろう、褐色の肌に長身の女性が、不敵な笑みを浮かべながら立っていた。

「大和型2番艦、戦艦武蔵だ。
よろしく頼むぞ」
「……戦艦娘の着任は聞いていないが……?」
「ああ、私は転属では無い。
少し補給に寄っただけだ。
それと……〝姉〟の様子を見に……な」

ああ、そう言う事か。
俺は1人納得した。

大和型2番艦武蔵……。
第二次大戦中に進水した世界最大級の戦艦であり、大和と共に日本の象徴となった艦だ。
その最大の特徴は巨大な主砲……46cm3連装砲だ。
言葉通り、地図を書き換えてしまうほどの威力を持つ46cm3連装砲は、世界中の海軍関係者から畏怖と敬意を評された程だ。

恐らくは帰還した戦艦棲姫……大和目当てなのだろう。

「すまないが、大和は今ユグドラシルで精密検査中だ。
昨日の夜に不調を訴えて来てな。
まぁ、人間用の設備だから余り期待は出来ないが……明日の朝方には全部終わるだろう」
「そうか……明後日まで滞在する。
検査が終わったら尋ねよう」

武蔵は少しだけ残念そうに表情を濁らせ、平静を保った。

「ねぇねぇ司令官さん、夕立あの巡洋艦の〝旅行〟したいっぽいッ‼︎」

白い髪の駆逐艦娘……夕立がぴょんぴょん跳ねながら元気よく騒ぎ出した。

〝旅行〟とは、着任した施設や艦艇内を散策する事だ。
施設や艦艇内の設備や配置を覚える為に行なわれる。
着任早々遅刻したり、戦闘中に担当部署を間違えたりしないようにする為だ。

「そうだなぁ……時間もあるし、武蔵もどうだ?
これから一緒に戦うこともあるかも知れんし、知っておいて損はないだろう?」
「うむ……私も時間がある、行かせてもらう」
「私も行きます」

武蔵と不知火も来るようだ。
俺は踵を返し、3人に手招きしながら扉を開けた。


◉◉◉


鹿島鎮守府
エインヘリアル艦隊 旗艦
リンドヴルム

「一葉ちゃんの船かぁ……楽しみです♪」
「こんなに生き生きとした鳳翔は久しぶりに見るなぁ」
「なんで親父達まで……ってか姉さん達まで居るんだよ」
「いいじゃないか、減るもんじゃあるまいし」
「皆さん、あんまり騒いじゃいけませんよ?」
《《は〜い》》

途中で鎮守府中の姉達と両親が合流しつつ、数台の車両を引き連れたジープは、埠頭に停泊するリンドヴルム前に到着した。
埠頭に横付けしたリンドヴルムのタラップを登り終え、第1カタパルトへ足を乗せると、まるで待ち構えていたかのようにラッパが鳴り出した。
見ればカタパルト上に主要な左官以上のメンバーを始め、乗組員ほぼ全員が礼装を身に付け、整然と整列していた。

「鹿島鎮守府提督閣下以下、所属艦艇一同に対しぃ、敬礼ェーーッ‼︎」

軽快なリンドヴルム音楽隊の演奏と共に、全員が最敬礼で出迎える。
全く耳の早い奴等だ。

「鹿島鎮守府の皆様、ようこそ当艦へ。
本艦の艦長を務めています、フィカーツィア・ラトロワ大佐であります」
「おいラトロワ、なんなんだこのお祭り騒ぎは」
「当たり前だ、世話になっている鎮守府の最高指揮者が御出でになるんだぞ。
それに先の海戦は彼女達艦娘の尽力が無ければ、我々は今ここに立っていなかっただろう」
「全く……耳早すぎだろ……」
「ふふ、ヴィドフニルの諜報能力の賜物だ」
「今すぐあの暇人共を鎮守府中から撤収させろッ‼︎」

最近諜報部隊や歩兵大隊が暇そうなのは知っていたが、何故こう言う方向に暴走してしまうのか。
頭が痛くなってきた。

「皆〜ッ‼︎ 艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよ〜〜ッ‼︎」
《《《L.O.V.E.ラブリー、那珂ちゃ〜〜〜〜んッ‼︎》》》
「……はぁ…」

いつの間にかファンクラブまで作っている艦隊員に呆れながら解散を促し、皆を率いてリンドヴルム艦内へ歩を進めた。

まず最初に足を踏み入れたのは、艦隊の心臓部でもあるMSデッキ。
現在、リンドヴルムのMSデッキには6機のMSが格納されている。
壊滅した第3小隊のスペースには、海中からサルベージされたジムクゥエル2機とジムキャノンⅡが置かれ、今尚使用可能なパーツ採取と敵機の破片回収が行なわれている。
因みに第3小隊のパイロットは奇跡的に一命を取り留め、現在は療養中だ。

「…大きい……」
「この子達なら深海棲艦もぽいぽい出来るっぽいッ‼︎」

未だMSを見た事のない不知火と夕立が率直な感想を述べた。

「こいつらは元々陸上・航宙戦闘を念頭に開発されてるから、空中・海上では動きが制限される。
母艦として、足場として、艦娘の支援が必要不可欠なんだ」
「……私達は足場なの……?」
「まぁ……そうなるな……」
「……緊急時の対応って意味でね……」

肩を落とす日向と伊勢にフォローを入れる。

「これが俺の機体、ヘイズル改1号機だ。
機体自体はジムクゥエルと同一だけど、各種装甲、追加装備を施して、ヘイズル改の仕様に改修してある。
それに加えて機動戦闘重視のオプションを装備してある」
「肩にKAGAって書いてある」
「本当だ、加賀さんだ」
「……え⁉︎」
「横須賀に行く時加賀姉さんに搭載したからだよ。
その時のマーキングのままなんだ」
「……あ…………そう……」
「大丈夫、まだチャンスはあるわ」

何故か不貞腐れる加賀を鳳翔が励ます。

更に皆を引き連れて奥へと進む。
リンドヴルムのMSデッキは二層式で、通常のアーガマ級は1フロアに4機格納できる。
が、改修工事の際、主機を高性能かつ小型のものに変更した事により空いたスペースを活かし、下層第1デッキにMSを。
上層第2デッキには予備パーツやリザーバーのMSを収納するスペースに変更した。
その為、MSデッキと言っても、その広さは尋常ではない。

第1デッキの奥、第2デッキと繋がっている昇降機の近くに人集りが出来ていた。
俺とラトロワは顔を見合わせ、その人集りに近づいた。

「おい、なんの騒ぎだ?」
「あっ、提督ッ‼︎」

整備班の若手が驚き、それに気づいた人集りが一瞬で静まり、全員が敬礼で出迎えてくれた。
それに答礼しながら、人集りを掻き分けて進む。

現れたのは、一際巨大なコンテナ。
だがそのコンテナは、はっきり言って異質だった。
というのも、問題なのはそのコンテナの表記。
連邦のマークではなく、〝ジオン公国〟のマークが記されているのだ。

「こいつは?」
「はい、第2デッキを整理していたら出てきました。
納入日は0095年の4月10日です」
「95年……随分前だな」

コンテナのロックが解除され、内部が明らかになる。

其処にあったのは、長大な砲身と巨躯。
カーキ色の装甲に、特徴的なモノアイ。
まるで、主を待つ騎士の様に、光の灯っていないモノアイが、俺を見据えていた。

「なんだこいつは……」
「提督……こいつは…一体…」
「……ザメルだ」
「ざ、ザメル?」
「ああ、YMS-16M.XAMEL。
ジオン軍の試作MSだ」

YMS-16M〝ザメル〟。
ジオン公国軍が開発した試作MSだ。
全高27.0m 、本体重量75.0t。
全備重量121.5t、ジェネレーター出力1080Kw、スラスター総推力は61800Kg(10300Kg×6)。
装甲材質は超硬スチール合金で、武装には固定式の680mmカノン砲、20mmバルカン、8連多弾倉ミサイルランチャーを持つ、地上用の長距離砲撃戦用MS。
桁外れの出力を持つ熱核ホバージェットを有し、地上での最高速度は時速220kmにもなる。
最大の特徴は背面上部に装備する中折式680mmカノン砲だ。
堅牢な地上施設は疎か、艦艇でさえ一撃で破壊可能なカノン砲による砲撃は、地上を抉るほどの威力がある。

「宙賊を討伐した時に接収したんだろう。
宇宙じゃ使い道が無かったからな、そのまま御蔵入したんだろう」
「どうしますか、これ」
「折角だしこの際、有効に使わせて貰うさ。
上手く行きゃ、大幅な戦力強化に繋がるはずだ」
「では、早速組み立て作業に入ります」
「ああ、任せる」

コンテナから離れ、姉達の元へ戻る。
皆興味深げにザメルを見ている。

「ねぇ、……一葉君。
あのMSの主砲、……680mmあるって本当?」
「ああ、そうだよ」
「46cm砲より大きいの⁉︎」
「まぁ、そうなるかな?」
「……ひ、ひえ〜〜〜……」

皆が唖然としながら、ザメルのコンテナに釘付けになる。
艦娘にとって主砲とは、自らの牙であり誇りだ。
より大きい、より高性能の主砲を積みたいと、皆日頃から思っている。

「……あのMSを搭載したら……」
「……多分いけるだろうけど、無理だよ長門姉さん。
幾らホバージェットでリコイル消してるとは言っても、反動で甲板が抜けるよ」

その後、数時間にわたりザメルについて質問責めにあったのは言うまでもない。


◉◉◉


姉達の質問責めから命辛々逃げ延びた俺は、武蔵と一緒にリンドヴルムのPXにやって来た。
朝から何も食べていなかったので腹の虫が騒ぎ出したのだ。

「すまないな、騒がしくて」
「いや、よく慕われているじゃないか。
結構な事だ」
「そう言ってくれると助かるよ」

リンドヴルムのPXには人が居らず、糧食科の隊員と俺達だけ。
丁度真ん中の席に武蔵を座らせ、俺は券売機で宇宙食と皿うどんを購入。
料理を受け取り、武蔵の前に置いた。

「確か武蔵は九州の出身だったな」
「おお、皿うどんでは無いかッ‼︎
大好物だ、すまないッ‼︎」

相当腹が減っていたのか、武蔵はパクパクと皿うどんを平らげ、俺が一つ目の宇宙食のパックを終わらせる頃には、綺麗さっぱり皿うどんは無くなっていた。

「提督はそれでいいのか?」
「ん? ああ、中々に行けるんだ、これが。
かれこれ20年近くこいつを食ってるからなー……。
慣れちまったんだ」

武蔵が興味深げにレトルトパックを眺める。

「俄かには信じがたい事ではあったが、違う世界か……是非話を聞きたいな」
「向こうのか? あんまりいい話じゃないんだが……」
「私も聞きたいわ」
「んあ? 加賀姉さん?」

いつの間にか、脇に立っていた加賀姉さんが話に乗って来た。
見れば、金剛姉さんや長門姉さんなど、最近よく絡む姉達が周りに集まっていた。

「球磨も気になるクマ」
「そう言えば向こうの事は聞いてなかったな」
「一葉ちゃんの事、お母さんに話してほしいわ」

いつの間にか両親まで加わっている。
なんで俺の知り合いは神出鬼没な奴が多いんだ。

「……あんまり面白くはないよ?」


俺は語り出した。

向こうの世界の事。

人と人が分かり合え無かった、この世界が辿ったかもしれない世界の話を。

俺が士官学校へ入校したときの話を。

「あれは……雪が降る寒い日だったな……」


次話ヘ続ク…… 
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