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第2部
第2話 戦艦三笠、着任
前書き
第2部、第2話です。
色々あって話の順番を変えました。
新しく暁用のTwitterも始めました。
詳しくはあらすじをどうぞ。
9月1日
日本帝国 首都東京
皇居
真っ白な砂が敷き詰められた庭園。
その風景を一望出来る、庭園の中央に建てられた東屋に数人の男女が腰を下ろしていた。
1人は鹿島鎮守府の主、神宮司定晴。
脇には妻であり秘書艦である鳳翔。
定晴の向かいには真っ白な袞衣を纏った女性。
その脇には、金髪碧眼に海軍の二種軍衣を羽織り、襟元に大元帥章を付けた女性。
そして現征威大将軍、煌武院悠陽。
さらに東屋や庭園の各所には天皇家や将軍家を守護する〝帝国斯衛軍〟の衛兵が睨みを利かせている。
「…本当に、よろしいのですか? 陛下」
「構いません、先方も了承しています。
貴方は貴方の、成すべきと思った事を成しなさい」
「……お気遣い頂き、至極恐悦にございます」
定晴は静かに頭を下げた。
「……それはさておき、〝あの子〟は…」
「はい、現在は我が鹿島鎮守府の第1艦隊と共に近海の偵察任務に着いております」
「自ら戦場に?」
「有重力下での戦闘のカンを取り戻したい……と言っていました。
何事も無ければ、明日の朝には鎮守府へ帰投するかと……」
袞衣を纏った女性は残念そうに苦笑いを零した。
「……しかし、〝大元帥〟自ら赴くとは……」
話を振られた金髪碧眼の乙女は、腰に差した軍刀に置く手でティーカップを持ち、口へ運んだ。
「彼らは今回の海戦の立役者であり、我が国の国民の命を護った……言わば恩人です。
その彼らの力となれるなら、私のような〝老艦〟には願っても無い光栄です」
「ですが、大元帥の職は……」
「大元帥の職は悠陽に、教導の任は姉の〝敷島〟に任せてあります。
それに、久しぶりに〝妹達〟の顔を見たい、と言うのもありますが」
定晴は観念した様に頭を下げた。
「愚息には、御無理をさせぬ様言い聞かせて置きます」
「良いのです、私も〝一葉〟に会うのを楽しみにしているのですから」
庭園に一陣の風が吹く。
金髪碧眼の乙女は、深く帽子を被り、立ち上がった。
「……狡いわ、悠陽や定晴ばかり……私だって甥っ子の元気な顔が見たかったのに」
「姉上様は執務が残ってるでしょうに」
「定晴が〝天皇家〟を継げはいいのよ」
「私は前線から退く気はありませんよ。
〝出奔〟した時に言った筈です」
「もう、お姉ちゃん悲しいわ」
「あらあら、定晴様は手厳しいですね」
「悠陽ちゃん慰めて〜…」
「ふふ、〝神楽〟の事はちゃんと伝えて置きますよ」
「では、戦艦〝三笠〟、只今より任地へ向かいます」
◉◉◉
翌日 9月2日
鹿島鎮守府
ギラつく太陽が嫌になる位眩しい。
鎮守府正門前でツナギを着た俺は、草刈り鎌片手に憎たらしい太陽を仰ぎ見た。
「あっちぃ……」
ラトロワに黙って帰投中に日光浴に興じていたのがばれた俺は、一緒に働く武、響、ユウヤと共に鎮守府の清掃に精を出していた。
「本当に暑いっすね……」
「あ〜〜、怠い……」
「白銀、ブリッジス、手を止めるな……。
仕事が終わらないだろ……」
日頃から姉達……鹿島鎮守府の艦娘達が当番で清掃している為、余り雑草などは無いが、何事も完璧に遣らなければならないのが軍人だ。
見落としがないか、刈り残しがないかを隅々まで探る。
「失礼ですが、この鎮守府の方ですか?」
「へ?」
そろそろ切り上げようか、という時に不意に声を掛けられ、瞬時に振りかえる。
そこに立っていたのは、純白のワンピースと帽子を被った女性。
金髪碧眼を見るに、恐らく外国人……イギリス辺りか。
歳は20くらいで、整った顔立ちに陶器のような白い肌を持ち、長い金髪を三つ編みにしている。
まるでファッションモデルのようなスレンダーな体型をしている。
「……えっ、定晴君?」
「は? ……え、えっと、お、親父のお知り合いの方ですか?」
前屈みで此方の顔を覗き込む女性がキョトンとした顔を浮かべる。
女性は、はっと一瞬驚き、嬉しそうに柔かな微笑みを浮かべる。
俺はと言えば、女性のワンピースから溢れんばかりに自己主張するたわわに実った豊満な胸の谷間が目に入り、慌てて視線を逸らした。
「あ、提督がデレてる」
「仕事しろよなぁ〜〜提督〜」
「いいから2人共手動かせよッ‼︎」
「う、うるせえッ‼︎」
武達が騒ぎ出す。
それを罵倒しながら立ち上がる。
「も、申し訳ありませんが、神宮司提督は現在鎮守府運営の会議中です。
事前のアポイントメントが無ければ、鎮守府への進入は許可出来ません」
「それならば御心配なく、許可は定晴君……じゃなくて、神宮司提督から頂いてますよ」
女性が肩から下げた白いバッグから一枚の紙を取り出した。
紙には入府許可証と書かれており、親父の達筆なサインが書かれている。
「……失礼致しました‼︎
ようこそ、鹿島鎮守府へッ‼︎」
「はい、此方こそお邪魔して申し訳ありません」
「いえ、この様な格好でお出迎えして申し訳ない……」
「そう畏まらないで下さい、連絡も無く突然出向いたのは私なのですから。
……ところで、もし宜しければ…お名前をお聞かせ願えますか?」
人懐こい笑顔を浮かべながら、女性は髪を掻き揚げた。
「は、はぁ……地球連邦宇宙軍、第8軌道艦隊麾下、特別即応艦隊エインヘリアルの艦隊司令をしております、神宮司一葉准将であります」
「まぁ、やっぱりッ‼︎」
「え?」
「あ、いえ、なんでもありません…ふふ」
女性は名前を聞くとパァッと今まで以上に嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「その艦隊司令官様がなぜ雑草刈りを?」
「いやはや、実は執務中に休憩を取っていたのが副官にばれまして……お恥ずかしい限りです」
「あらあら、でも適度な休息は必要ですものね。
日頃から激務の様ですし、体調には御気をつけ下さいね」
「は?」
「隈が酷いですもの。
あまり無理はなさらないでください」
「は、…はいッ‼︎ 恐縮でありますッ‼︎」
「ふふふ」
女性に対し敬礼する隣で、ゲラゲラと笑う武とユウヤに軍手を投げつける。
「で、では、鎮守府の者を呼んで参ります」
「あ、良ければ……貴方に鎮守府内の案内をして頂けませんか?」
「はッ⁉︎ お、俺…じゃなくて、小官が、でありますか?」
「……だめですか?」
「いえッ‼︎ 勿体無き光栄でありますッ‼︎ ささ、此方へ……」
「まぁ、ありがとうございます」
◉◉◉
(……とんでも無い事になったな)
鎮守府正門近くの用具室で連邦の制服に着替え、女性を連れ立って鎮守府内へ向かう。
女性が苦手な俺としては、内心ビビりまくりだ。
「え〜、此方が鎮守府の中央棟です。
神宮司提督の執務室や通信室、海図保管庫もあります。
艦娘用の船体磁気除去施設の管理室もありますよ」
「懐かしいわ〜」
「ん? 以前にも来られた事が?」
「ええ、もう何年も前ですけど」
多少話を織り交ぜながら、鎮守府内を散策する。
と言っても、鎮守府は途轍もなく広い為、もっぱら地球連邦製のジープでの移動だが。
「此方が我がエインヘリアル艦隊の旗艦、リンドヴルムです。
元はアーガマ級1番艦のネームシップですが、エインヘリアルに配備される際、艦種秘匿の為、名称を変更しました」
「戦艦…ではありませんね……巡洋艦かしら?」
「その通りです。
アーガマ級強襲巡洋艦と言いまして、多数のMS…艦載機を搭載し、戦艦を超える快速な巡航速度を持って敵の懐へ強襲を仕掛ける為に開発されました」
女性は興味津々といった具合にリンドヴルムをまじまじと見上げている。
と、一際強い海風が吹き、俺と彼女を包み込んだ。
リンドヴルムから偵察任務に出るリゼルが発艦した際の風だ。
女性が慌ててワンピースの裾を抑えるが、その甲斐なくワンピースが捲れ上がった。
「……あ」
「え? …っ⁉︎」
翻るワンピースの中にピンク色の何かが見えた瞬間、俺は顔ごと視線を大きく逸らそうとしたが、時既に遅し。
捲れ上がったワンピースの中から、すらりと伸びる美脚とピンク色のパンツが丸見えになっており、瞬時に手早く直した女性が、顔を真っ赤にしながらジト目で此方を睨んだ。
「……見ました?」
「………………見てません」
「本当ですか?」
「ホントデス」
「…今朝の献立は?」
「鮭の塩焼き定食」
「昨日の天気は?」
「雨のち晴れ、時々曇り」
「12589+4583÷15865は?」
「0.793570753230381」
「下着は何色でした」
「ピンク色……はッ⁉︎」
「うう〜〜〜……///」
「申し訳ありませんッ‼︎」
顔をさらに真っ赤にし、手で隠す女性の前で全力で土下座する。
もしこの事態がラトロワやまりもに知れたら、恐らく俺は明日の陽を拝む事なく人生を終える事になる。
「もう…(……一葉だけ、特別ですからね……)」
「え?」
「なんでもありませんッ‼︎」
◉◉◉
更に鎮守府内をジープで走り抜ける。
すると、前方から緑色の巨体が見えて来た。
「あれがMSですか?」
「ええ、あれは……MS-06ザクⅡですね」
ブレーキを掛けて路上に泊まる。
ザクも此方に気付き、ジープの隣で止まった。
《提督、お疲れ様です》
「ワイズマン大尉かッ‼︎ 御苦労ッ‼︎
其奴の調子はどうだ、使えそうかッ‼︎」
《まだ何とも言えません。
移動や作業には問題ありませんが、戦闘に耐えられるかは未知数です》
「了解だッ‼︎ 引き続き修復の指揮を取ってくれッ‼︎」
ザクの外部スピーカーからワイズマン大尉の声が響く。
「一葉く〜〜んッ‼︎」
「んあ? 雷姉さん」
「私もいるわッ‼︎」
「なのですッ‼︎」
「ハラショー」
見れば、ザクの掌に雷姉さん達が乗って、此方に手を振っている。
今朝進水した暁型2番艦の響も一緒だ。
「振り落とされないように気をつけてなッ‼︎」
「「「は〜〜いッ‼︎」」」
ザクが歩き出す。
その度にザクの掌に乗る姉達が慌てる光景を見ながら、俺はジープを走らせた。
「仲が良いんですね」
「ええ、まぁ…実の姉弟みたいなものですから」
ジープは更に鎮守府内を走り続け、中央棟の前に戻って来た。
陽は高く登り、燦々と輝いている。
時間的にも、会議は終わっている頃だ。
「では、提督執務室へ案内致します」
「いえ、私は少し用があるので、失礼します」
女性は中央棟の玄関ホールで立ち止まり、頭を下げた。
「は、はぁ……」
「御案内して頂いて、ありがとうございます」
「何方に御用でしょうか?
良ければ案内致しますが……」
「あら、女子更衣室まで付いて来る気ですか?」
「あッ……し、失礼ッ‼︎」
女性はウィンクしながら帽子を被りなおし、ペロっと舌を見せた。
「御心配なく、〝また後でお会いしましょう〟。」
歩き去っていく女性を見送りながら、深い溜息を吐いた。
これだから女性は苦手だ。
「……親父の顔見ていくか……」
俺は1人、玄関ホールの赤絨毯の敷き詰められた階段を登った。
◉◉◉
「…ってことがあった訳だ」
「ほほぅ、なるほどなぁ〜」
「あらあら♪」
提督執務室に入ると、丁度両親が執務に精を出していた。
両親も丁度休憩を挟む所だったこともあり、緑茶を頂くことになった。
未だ蝉が鳴き続ける鎮守府内には、一時の沈黙が流れていた。
丁度お昼時なので、緊急対応組の艦娘以外は全員食堂でお昼を頂いている時間だ。
「……っていうかあれ誰だよ親父。
不倫相手か?」
「んな訳あるか、俺は鳳翔さえ居れば充分だ」
「もう、あなたってば……///」
昼間から夫婦円満で暑苦しい事この上無いが、仲が良いのは良い事であるのは重々承知している為、口には出さない。
「……さて、実は大本営からお前の艦隊へ転属する艦の事で話がある」
「ん? ……ああ、あの話か。
でも大和達がもう居るけど良いのか?」
「天皇陛下直々の命令だ、こっちは従うほか無いさ。
それにもう来てもらってるしな」
「随分用意周到だな」
「……お入り下さい」
「失礼します」
「…ぶッふぉッ‼︎」
「あっちゃちちッ‼︎」
「あらあらあら♪」
飲んでいたお茶を勢い余って親父に噴きかける。
何故なら、扉から現れたのは、先程まで一緒にいた女性だったからだ。
海軍の二種軍衣を羽織り、腰には装飾の施された軍刀。
将官用の帽子の下には、あの流れるように煌びやかな金髪が伸びていた。
「何すんだよ一葉ッ‼︎」
「それよりこの状況を説明しろ親父ッ‼︎」
今にも取っ組み合いを始めそうな勢いに、鳳翔と女性はクスクスと笑っている。
「……改めまして、本日付でエインヘリアル艦隊へ転属となりました。
敷島型4番艦、戦艦三笠です。
久しぶりね、一葉」
「は、はい?」
「おいおい、三笠さんは〝お前の名付け親〟だぞ?
それに産まれたばかりのお前の〝乳母役〟もして頂いたんだ。
忘れるとか無いぞお前」
「は…はああ⁉︎」
「もう一葉に逢いたくてうずうずしてたんだから♪
正門前で会った時、定晴君に瓜二つでびっくりしたわ〜。
なかなか乳離れしなかったあの一葉がこんなに逞しくなるなんて…お姉さん嬉しいわ〜〜♪」
「ちょ……ま……」
「それにさっき私の下着を盗み見てたし……やっぱり男の子ね?」
「ほ〜〜ぅ……」
「あらあら♪」
「誤解だッ‼︎ 不慮の事故だッ‼︎」
全力で否定するも、親父はニヤニヤと笑っていた。
ムカついたので装備開発で出来た綿のような何かを投げ付けた。
「もうお姉さんお嫁に行けないわ……一葉が婿に来てくれないと駄目かも知れない……」
「そりゃいい、良かったな一葉、こんないい嫁さんが持てて」
「祝宴は何時にしましょうか、定晴君」
「いつでも構いませんよ」
「やめーーいッ‼︎」
最悪だ。
聞いた話には、この戦艦三笠は艦娘でありながら帝国軍大元帥も務めていたらしい。
これでは無碍に接する事が出来ない。
親父は満更でもなさそうで、お袋も当てにならない。
八方塞がりだ。
「さぁ、昔みたいに私が面倒見てあげるから、一緒に頑張りましょうね」
「どうか勘弁してくださいッ‼︎」
この後、周りの方々にコッテリ詰問責めに会い、女嫌いが加速したのは言うまでもない……。
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