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戦国異伝

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第百九十八話 石田三成という男その五

「わしなぞとてもな」
「天下第一ではござらぬか」
「そう仰るのですな」
「そういうことじゃ」
 至って澄んだ声でだ、幸村は言っていった。
「わしは己をそう思っておる」
「決して奢ることはなく」
「ひたすらですか」
「そういうことじゃ、そしてじゃ」
「そして?」
「そしてといいますと」
「海津に着いたらな」
 いよいよと言うのだった、ここで。
「戦じゃ」
「上杉との、ですな」
「越後の龍との」
「直江殿ともあいまみえる」
 幸村の顔が自然に引き締まった、その海津の方を見て。
「あの御仁はさらに強くなっておろう」
「確かに。あの御仁は」
 霧隠がだ、その幸村に言って来た。
「殿に比肩するまでに」
「強いな」
「はい、その智も」
 武勇だけでなく、というのだ。
「見事です」
「そうじゃな、だからな」
「この度の戦はですか」
「勝つ」
 兼続に、そしてだった。
「上杉殿にもな」
「そうされますな」
「御主達も頼む」
 幸村は十勇士にも言った。
「次の戦もな」
「お任せあれ」
 猿飛が主に陽気に応えた。
「それがし達皆次の戦でも」
「戦ってくれるか」
「存分に戦ってみせましょう」
 これが猿飛の言葉だった。
「そして勝ってみせましょう」
「そう言ってくれるか。では頼むぞ」
「思い存分暴れましょうぞ」
「次の戦でも」
 三好清海と伊佐の二人も言う。
「そして上杉にも勝ち」
「そうしてですな」
「確かに上杉は強いですが」
「それでもでござるな」
 海野と望月の二人の六郎が言うことはというと。
「織田もまた強い」
「そういうことですな」
「織田の兵は確かに弱い」
 幸村もこのことはわかる、実際に戦ったが故に。
「しかしその分武具がよいからな」
「戦は兵の強さだけではない」
「そういうことですな」
 筧と根津の言葉だ。
「つまりは」
「それもまた強さですな」
「だから武田にも勝ったのじゃ」
「それでは織田は強い」
「数もあり」
 穴山と由利の言葉はこうしたものだった。
「兵は個々の強さだけでなく」
「そうしたものもですか」
「そうじゃ、しかもじゃ」
「しかも?」
「しかもといいますと」
「羊と狼では狼の方が強いのう」
 今度はだ、幸村はこうしたことを言った。
「そうじゃな」
「つまり狼が率いているからですな」
「織田家は強い」
「兵は弱くとも」
「それでもですな」
「そうじゃ、しかも狼の数は織田家の方が多い」
 即ち優れた将がだ、織田家には実に多いというのだ。 
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