戦国異伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第百九十八話 石田三成という男その四
「そう思いまする」
「いくさ人でありますか」
「はい」
まさにというのだ。
「それがしそう思いました」
「確かに。佐吉はです」
「いくさ人ですな」
「筆を持つことが多いですが」
それでもというのだ。
「佐吉はまごうことなきです」
「いくさ人でありますな」
「幸村殿ならばと思っていました」
「それがしならですか」
「佐吉の本質をわかって頂けると」
まさにというのだ。
「思っていました」
「左様ですか」
「では、ですな」
大谷がここでまた言った。
「これより」
「それがし何があろうとも武士に恥じることは」
それはというのだった、幸村はここで。
「決していたしませぬ」
これはこれまでもしたことがない、幸村にとってそうした物事程縁遠いものがないからだ。それでなのだ。
彼はこの言葉を言えた、それでだった。
石田と大谷にだ、こう言った。
「共に義に生きましょうぞ」
「はい、石田殿も宜しいでしょうか」
「幸村殿さえよければ」
石田も幸村に言葉を返す。
「それがしも」
「ではこれより友になりましょうぞ」
「我等これより」
大谷が音頭を取った。
「刎頚の交わりをし」
「そしてですな」
「これから先何があろうとも」
幸村と石田も応える、大谷に。
「全てを捧げ」
「命を賭け合うということで」
「では、ですな」
「これから」
ここでだ、三人でだった。
それぞれ同じ碗で茶を飲み合った、幸村はそのうえで言った。
「ではこれよりそれがし義の為に」
「全てを捧げまするか」
「義に生き義に死す」
まさにそれこそがというのだ。
「それが武士なので」
「ではその義の為に」
「それがしは」
「それでは」
石田が応えてだ、そのうえで。
彼等は共に茶を飲み合い絆をさらに深め合った、そこまで見てだった。
石田達と別れ己の場に戻る幸村にだ、十勇士達が言った。
「殿、お見事でした」
「まさに武士でした」
「殿は最早天下第一の武士です」
「そうなりました」
「いや、わしはまだまだじゃ」
幸村は確かな顔で彼等に返した。
「到底な」
「天下第一の武士にはなっておられぬ」
「そう仰るのですか」
「天は高い、それにじゃ」
幸村は上も見上げて言った。
「わし以上の方なぞな」
「それこそですか」
「天下のあちこちにおられると」
「そうじゃ」
それでというのだ。
ページ上へ戻る