鎧虫戦記-バグレイダース-
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第013話 脱獄のハトレイ
前書き
どうも蛹です。
ハトレイ‥‥‥ハトとセキレイの名前をもじった造語。
二人が脱獄するという勇気に敬意を表してつけられた。
実際は、題名が“〇〇の人名”という書き方をしていたので
最終回に誰の名前を使うが迷っていた挙句、ハトとセキレイが
候補に上がり、決められなかったので考えた故の苦肉の策。
だが、意外とあっていたので採用することになった。
別に二人が融合したりするわけではない。
最後に決まって良かったです。
それでは第013話、始まります!!
〖間に合ったみたいだな!〗
ボブが″レヴィアタン″のスピーカーから
セキレイたちに向かって言った。
そして、手元のスイッチを押して
再び″プラズマハーケン″を発射した。
バシュッ!!
「邪魔だッ!」
ボボボボボボボッ!!
ゼロの剣が渦巻くように炎を纏った。
そして、それをハーケンに向かって突いた。
「〔灼火巻旋!〕」
ボッ! ギュルルルルルルルッ!!
突き出された炎の螺旋がハーケンをドロドロに溶かし尽くした。
先端の鉤は完全に溶け、ワイヤーも溶けかけており
電線がむき出しの状態になっていた。
ボブはワイヤーを腕に垂らすぐらいの長さまで回収した。
〖噂には聞いていたけどここまでの熱量とはな。
″994号″‥‥‥‥‥‥‥だったかい?〗
ボブの口から放たれた一言にセキレイは反応した。
「″994号″ッ!?」
セキレイこと″995号″は大声で叫んだ。
1つ前に手術を受けたはずの男との性能に
ここまで差があるとは。
セキレイは何とも言えない気持ちになった。
「手抜きか!?おれは手抜き工事なのかッ!!?」
精神的に身もだえしながら叫んだ。
〖性能はほぼ同じだ。だが、彼の″超技術″は超攻撃系の能力だ。
炎の熱量に至っては、カイエンさんとほぼ同じだからな〗
それなら納得である。
こっちは二つ持ってはいるが、どちらも補助系能力。
無重力と硬化。熱に対する耐性もないことはないが
臆することなく立ち向かうほどの自信もない。
〖俺のハーケンをあっさりと溶かす程の高温だ。
カスることさえ許されないぞ!〗
あえて大声で伝えることで全員の気合いを奮い立たせた。
ゼロはレヴィアタンの方を向いてつぶやいた。
「思い出した。ボブ大佐、でしたよね」
〖‥‥‥‥‥‥‥そうだ〗
ボブの声はスピーカー越しからでも
分かるくらいに緊張していた。
この施設内の最強であろう男と
対峙しているのだから当然だろう。
「私は任務を遂行しようとしているだけです。
邪魔しないで頂けますか?」
〖‥‥‥‥‥‥‥‥‥そうはいかない〗
″レヴィアタン″は垂らしていた両腕を
少しずつ上げて、胸の前まで持ち上げて構えた。
〖俺は彼らを外に出してやるのがミッションだからな〗
ギャギャギャギャギャッ!
ボブはそう言うと足裏のホイールを回転させて
高速でゼロに近づいて行った。
そして、彼の方に手を伸ばした。
「無駄だ、〔灼炎障壁〕!」
ボオオオオオォォォォォォォォッ!
ゼロが床に掌を付けるとそこから広がるように
床が赤くなっていき、炎の壁が展開された。
〖うわッ!〗
レヴィアタンの腕をすぐに引いたため
炎の壁に巻き込まれずに済んだようだった。
〖やはり、そう簡単にはいかないな〗
レヴィアタンは左右に大きく動きながら後ろに下がった。
入れ違いにカイエンが駆け込んで行き、懐から剣を抜いた。
「〔灼熱乱舞!!〕」
全身を回しながら斬り込んで、炎の壁を断ち斬った。
その隙間から飛び込み、ゼロに剣を振り下ろした。
「無駄だということがわからないのか?」
ゼロは剣をカイエンの太刀筋の延長線上に置いた。
剣は当然ながらゼロの剣に当た――――――――――
フッ‥‥‥
―――――らなかった。
「何だとッ!?」
カイエンの手には剣が握られていなかった。
何も握っていないその右手を虚空を掴む左手と共に腰に添えた。
ボッ!!
添えられた手の中に剣が鞘に収められたまま出現した。
そして、その剣を抜き横一文字に振り抜いた。
シャキンッ!!
しかし、ゼロは瞬間的に身を反らしたことで
薄皮どころか服しか斬れないという結果に終わった。
カイエンは体勢の崩れたままのゼロにさらに追撃を加えた。
ブオッ!
「くっ!」
更に避けた。その後も次々と来る剣を避け続け
体勢を十分に整えた上で剣で受け止めた。
ガキイイイィィィィィィィィィィィィィィイイイン!!
ガリガリと剣が擦れ合う耳に痛い音が
拮抗している二人の間から聞こえて来ていた。
「まさか剣を出し入れできるとは‥‥‥‥‥‥
先程の戦いで使わなかったのは余裕からですか?」
「これは一回限定の不意打ちじゃからな。
それに、消したら再び出す時に隙が出来る。
余裕と言うよりは出し惜しみかのぅ」
二人は平然と会話しているように見えるが
実は両方とも全力で剣を押し合っている。
外から見ると、中は音だけしか聞こえず
何が起こっているかが全く分からなかった。
〖俺をインドア派と一緒にするなよッ!!〗
ボンッ!!
″レヴィアタン″が猛スピードで突っ込んで行き
炎の壁をものともせずに突き抜けた。
〖たまには俺もアグレッシブに行かないとな!〗
「死ぬわッ!!」
笑い声を上げているボブの搭乗している
″レヴィアタン″の脚にしがみついたセキレイが叫んだ。
「でも助かったぜ。おかげで入れたんだからな」
〖一応、装甲は並の兵器じゃ破壊できない頑丈さだが
ゼロの本気の熱量はそれをはるかに上回る。
だが、カイエンさんが中で戦ってくれてた事で
彼はこの炎の壁の熱量を上げる余裕がなくなったわけさ〗
「それじゃ、もし結構ゼロが余裕だったら?」
ボブは少し考えた後に答えた。
〖‥‥‥‥‥‥死んでたな〗
「あっさり言うなッ!!」
セキレイは″レヴィアタン″の脚にツッコんだ。
そして、手を離し地面に着地した。
「で?おれ達はどうやって戦うんだ?」
セキレイは上を向いて訊いた。
こっちを向いた″レヴィアタン″と目が合った。
〖‥‥‥‥‥さぁ?〗
「本当に考えなしだなッ!!ていうか
前からそんなキャラだったっけ!?」
ボブは視線を二人の剣士の戦闘に向けた。
〖今までの“普通の戦闘”ではパッと作戦が浮かぶが
こんな敵との戦い方なんて、そんな簡単に
思いつくものじゃないさ。お前だってそうだろ?〗
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
セキレイはしばらく俯いたまま何も答えなかった。
そして、ようやく口を開いた。
「いや‥‥‥‥‥いけるかもしれない」
それを聞いたボブはセキレイに追及した。
〖何か作戦でも考えついたのか!?〗
「あぁ!クソ、盲点だったぜ。
“おれ達がこれから何をしたいか”を考えたら
すぐに思いついたはずなのにな!!」
そう言って、セキレイは″レヴィアタン″の頭の隣まで登ると
ゼロに聞こえないように小さな声で作戦を提示した。
**********
「ゼロ!貴様はワシの大切な者を!″アヴァン″を殺したッ!!
それだけは絶対に許さんッ!!」
ボボボボボボボボボボボボボボッ!
カイエンはそう言って、炎の巨剣を生成した。
「〔灼熱巨剣!〕」
そして、それを勢い良く振り下ろした。
「受けて立ちましょう。〔灼熱巨剣!〕」
ボボボボボボボボボボボボボボッ!
ゼロも炎の巨剣を生成した。そして、それらは激突した。
ガギイイイイィィィィィィィィィィィィィィィイイインッ!!
莫大な熱量のぶつかり合いで周囲に衝撃波が発生し
全員は吹き飛ばされそうになった。
「〔粘土細工【高波】!〕」
ザババババッ!!
ジョンは床を水をかくようにして上にあげると
それはまるで、波のような形をしたまま固まった。
「″物体潜行″の応用だ!物体を水みたいにしている間に
形をいじったまま解除するとそのまま固まるんだ!!
それより、早くそれの陰に隠れるんだ!」
言われるがままにカツコとハトは急いで隠れた。
「一体、中で何が起こってるんだ?」
「お、おばちゃん‥‥‥セキレイお兄ちゃんと
ボブおじさんは、だ、大丈夫なのかな?」
高温の熱風に耐えながらハトはカツコに訊いた。
「分からないわ‥‥‥‥少なくとも
ここは彼らに任せるしかないってこと以外は」
彼女はすでに塞がってしまった炎の壁の方を向いて
熱風に目を細めながら答えた。
**********
〖成程‥‥‥‥考えたなセキレイ〗
ボブはコックピット内で腕を組んだまま言った。
セキレイは吹き飛びそうになるのを必死に耐えていた。
「後はあいつが上手く引っかかってくれるかなんだよなぁッ!」
〖大丈夫だ、俺に任せろ!そのミッション、確実に遂行してみせる!!〗
ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャッ!!
そして、″レヴィアタン″はゼロに向かって急発進した。
セキレイは慣性の法則で空中に取り残され、そのまま落下した。
「おわぁっ!?ギャグ漫画かよ!!」
ズダンッ!
セキレイは転がりながら着地し、その勢いで立ち上がると
急いで″レヴィアタン″の後を追った。
ギャギャギャギャギャッ!
アイススケートの様に左右に振れながらゼロに近寄って行った。
爆風はすでに止んでいたが、未だ二人の巨剣はつばぜり合いの状態だった。
「ボブ大佐が来ていますけど?」
「ワシがそんなウソに引っかかるとでも‥‥‥‥‥
ってマジで来てる!?馬鹿か!?馬鹿なのかアイツは!!?」
あまりの驚きにカイエンは叫んだ。
ゼロは苦笑しながら剣を離し、身を引いた。
「灼熱の戦いに機械が役に立つとでも?」
〖それは俺自身、十分に承知していることだ!
俺は俺のできることをやるだけだ!!〗
ボブは、ただひたすら周りにハーケンを突き刺し
それを巻き取って自身を引っ張り、完全に引き込んだら
またハーケンを発射する。それをただひたすら周りで繰り返していた。
「フッ、所詮は機械頼りの人間。周りを回りながら隙を伺うのでしょうね」
「ワシを忘れんようにしとけよ?」
カイエンはゼロを睨みながら言った。
「おれの事もな!!」
いつの間にかセキレイがゼロの近くに現れた。
右腕を後ろに思いっきり振りかぶっていた。
「懲りずに不意打ちとは!それに、どこを狙っている!!」
振り下ろす先には床があり、ゼロはいなかった。
セキレイはゼロをある意味で信頼していた。
無駄な攻撃には反撃せず体力を温存する男だと。
「ボブッ!!」
〖おおぉッ!!〗
バシュシュシュシュシュシュシュシュッ!!
ボブは″レヴィアタン″に装備している
片方の肩に3本ずつ、両腕に1本ずつの
計8本のハーケンを一斉に発射した。
それは全てゼロ達には全く当たらないものだった。
『なぜ無駄な攻撃を‥‥‥‥?』
その意味はすぐに分かった。
ビシッ!バキキッ!ビシビシビシッ!
床に亀裂が入り始めた。
そして、これまでの全ての動きの意味をゼロは理解した。
″レヴィアタン″のハーケンの移動によって床は少しずつ破壊されていたのだ。
それは重量のある機体の移動によって促進されており
最後のハーケンの一斉発射によって床はついに悲鳴を上げ始めた。
後はもうお分かりだろう。セキレイの一撃によりすべてが報われるのだ。
セキレイ達の目的は、ゼロに勝つことではなく、ここを脱獄することである。
つまり穴をあけることで、ゼロを下の階にまで
瓦礫ごと叩き落としてしまおうということなのだ。
「やらせ――――――――!」
ザクッ!!
「‥‥‥やらせんぞ?」
カイエンは、ゼロの片足を焼き切った。
そして、彼がセキレイへ攻撃できないようにした。
振り下ろした腕はすでに床に触れそうな位置にあった。
ゼロは、もう間に合わない。
「うおおおおぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」
ドガアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアンッ!!
右腕は深々とめり込み、そこを中心にさらに亀裂が広がった。
そして、外の亀裂と合体したことで、ついに床が抜け始めた。
「貴様がここまで上がって来れたのも下が吹き抜けだからじゃ!
つまり、逆も通る!貴様は瓦礫と共に真っ逆さまじゃ!!」
「だが、あなたはどうするんですか?
このまま私と一緒に落ちて行くのですか!?」
しかし、その後異変に気付いた。ゼロは落ちているはずなのに
カイエンは空中で停止しているのである。
「″重力無効″」
セキレイの″超技術″によって彼は空中に浮遊していた。
ゼロは片足がないのでジャンプで瓦礫を伝おうにも限界があった。
「まだだぁッ!!」
ゼロが初めて叫んだ。そして、今までにない
最大級の炎を使って世界さえも断ち切れそうな巨剣を生成した。
「〔灼熱巨神剣!!〕」
それはさっきまでの巨剣の何倍もある大きさだった。
熱量も近くにいるだけで焼き尽くされそうなほどだった。
「私も出し惜しみしていたのさ!これは生成するのに大量の熱量が必要だからな!
これで体力を大幅に使うことになってしまう。でもこの一発で――――――――」
ゼロは空中のセキレイを睨んだ。
カイエンはゼロと反対方向にいるためガードが出来ない。
彼は少なからずこうなることを読んでいたのだろうか。
「――――彼を処分するッ!!」
そう言って剣を横に薙ぎ払った。
剣は空気中のチリさえ残さずに焼き払っていった。
″重力無効″は高速で移動することはできない。
確実に、ゼロが剣を振り抜く方が早いだろう。
このまま、彼は消し炭にされるのを待つだけなのか。
〖うおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!〗
ガギイイイイィィィィィィィィィィィイイイイイインッ!!
青い機体が彼の運命を変えた。″レヴィアタン″である
両腕に巨大な瓦礫の塊を持って、機体の右側で剣を挟み込んでいた。
「ボブッ!!」
〖うぐッ‥‥‥‥‥いいから早く逃げろ!!〗
″レヴィアタン″は熱により腕が瓦礫と融合していた。
全身は赤く熱を持っており、いつ弾け飛んでもおかしくなかった。
「でもッ!お前はどうするんだよッ!」
〖言ったろ‥‥‥‥“お前らをここから出す”。
これが俺の最後のミッションだ〗
「それって‥‥‥‥ッ‥‥‥‥」
彼が命を懸けてゼロを押さえることでセキレイたちを逃がす。
その先を理解したセキレイは拳を握りしめた。
そして、彼は覚悟を決めた。
「すまねぇ‥‥‥‥ッ!‥‥‥‥」
そう言って、セキレイはカイエンと灼熱の戦場から退避した。
ゼロは必死に剣をこちらに当てようとしているが
ボブは万力の様に力を込め、完全に抑え込んでいた。
「なら、貴方から焼き切ってくれるッ!!」
ジュオオオォォォォォォォォォォォオオオオッ!!
〖ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!〗
″レヴィアタン″の脇腹に剣が深々とめり込んだ。
ボブの全体を焼き焦げそうな熱量が襲った。
ボフッ‥‥‥‥
「‥‥‥‥なっ!しまった!!」
しかし、ここで全ての力を使い果たしたらしく
炎が消滅してしまった。ゼロはそのまま落下するしかなかった。
〖‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥〗
ボブは黒く焦げて張り付いた指をレバーから引き剥がし
カメラの一つを操作した。その先には
小さな希望が自由へと駆けて行く姿が見えた。
後は、壁を壊すだけだ。それを願って彼はゆっくりと目を閉じた。
〖任務‥‥‥‥完了‥‥‥‥‥‥‥〗
ただそれだけをつぶやき、青い機体は暗闇へと落ちて行った。
**********
『ボブ‥‥‥‥あんたの命‥‥‥‥決して無駄にはしない!』
セキレイはカツコたちと入口まで走りながら、そう誓った。
ハトは浮かない表情をしていた。おそらく悟ったのだろう。
「おじさんは‥‥‥‥‥カッコ良かった?」
ハトは滲んだ目でそう訊いてきた。
セキレイは一瞬悩んだが、すぐに答えた。
「あぁ‥‥‥カッコ良かったよ‥‥‥‥‥‥
ボブはあの戦場の中で最も熱く燃えていた‥‥‥‥‥‥」
それ以上は言えなかった。それ以上話していると
改めて現実を突き付けられるようで‥‥‥‥‥胸が苦しかった。
「‥‥‥‥‥そっか」
ハトはそうつぶやくと、目を手の甲でごしごしと擦った。
そして、再び前を向いた。
「私も頑張らないと!」
彼女は両拳を握り、気合いを入れて言った。
カツコも、ジョンも、前を向いていた。
「‥‥‥‥‥そうだなッ!」
なら、前を向くしかない。現実から目を背けるわけじゃない。
それを背中に背負って、それを受け入れたまま走り続けるのだ。
それが‥‥‥‥‥今を生きるおれ達に出来る事だった。
「着いたわよ!」
先程も見た巨大な無機質の壁が、おれ達を蔑んでいた。
出られるわけがない、そう嘲笑いながら。
「ハト。さっきの巨人になるヤツ、まだ使えるか?」
「‥‥‥‥‥‥‥大丈夫。全然、大丈夫だよ!」
バシュウウゥゥゥッゥゥゥゥゥゥゥゥウウウ!!
ハトは″巨人制御《ギガンティックコントロール》″を使用して
再び15m程の大きさに巨大化した。
「よし。ところで、ハトは身体を変身できるのか?」
「‥‥‥‥‥‥うんッ!」
ハトは変身させた手の指を曲げたり伸ばしたりしながらうなずいた。
「ハト!それでこの壁を殴ってくれ!」
「えぇッ!?私のパワーじゃ壊せないよ?」
セキレイからそう言われて
ハトは右手を左手で包むようにして答えた。
「心配すんな!お前の手はおれがガードする!
とりあえず俺を拾ってくれ!」
ハトは腰を曲げて、足元に手を伸ばした。
そこにセキレイが乗ったのを確認して再び腰を伸ばした。
「俺の″超重堅鋼″がお前の拳を守る!」
ガキキキキン!!
ハトの拳が硬質化した。それを開いたり閉じたりした。
小さくカチカチと金属同士が当たる音が聞こえた。
「私たちも手伝うわ!」
ブワァァァァッ!! ギュルギュルギュル!
カツコは太い棘を伸ばして、それを複雑に巻いていった。
そしてとてつもなく巨大な薔薇の腕が完成した。
「〔巨棘の豪腕〕!!」
カイエンも今あるありったけのエネルギーを
″パーシヴァル″に流し込んだ。
灼熱の炎が巨大な長剣を造形した。
それは〔灼熱巨剣〕より細身だが
熱密度はそれをはるかに上回るものだった。
「〔灼蓮極剣〕!!」
みんなが技名を言っていたのでハトもとりあえず言ってみた。
「え~っと、〔カチカチパンチ〕!」
「いや、それはねーだろ!」
ビシッ!
セキレイは手の上でツッコんだ。
ハトは頭の後ろに手を置いた。
「俺もそんな攻撃に使える能力が欲しかった‥‥‥‥」
ジョンは全員の後ろでそうつぶやいた。
それを無視して、セキレイは掛け声を出した。
「せぇーのッ!いけハトッ!!」
「おりゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああッ!!」
「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああッ!!」
「せりゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああッ!!」
ドガアアアアァァァァァァァァァァァァァァァアアアンッ!!
堅牢な入口の壁が粉々に砕かれ、間からは鋭く日が射した。
全員はしばらく目を開けることが出来なかったが
ようやく慣れて来て少しずつ目を開いた。
「た、高ぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
あまりの衝撃にセキレイはそのままの事を叫んだ。
日の光は、はるか頭上から射しているものだったのだ。
それも、円柱状に大穴の開いたような場所の頂上からだった。
全員はしばらく何も言えなかった。
「‥‥‥これを登るの?」
綺麗ともいえるほどツルツルな壁面を触りながらハトは訊いた。
「さすがに無理があるわね‥‥‥‥‥」
「じゃな。さすがに無茶すぎる」
円柱状の場所は出口まで500m以上あるように見える。
ジャンプや何かで行くには壁が垂直すぎる。
これはもう、万事休すである。
「できたならワシがカツコを担いで行きたかったんじゃがなぁ」
「ウフフ、でも今は止めといてね」
「分かっとるわぃ」
ちょっとカツコが残念そうな顔をしたのは気のせいか。
そうジョンは心の中で思ったが呑み込んだ。
「‥‥‥‥‥‥セキレイお兄ちゃん」
肩の上に避難していたセキレイにハトは話しかけた。
「ん?何だ、ハト」
セキレイはハトの耳に向かって答えた。
「私‥‥‥‥‥飛べるかも」
「ん、跳べる?」
ハトは吹き抜けのようになった上を見上げたまま
もう一度同じことを言った。
「私、飛べるかも!」
そう言うとンググ、と全身に力を込め始めた。
すると、肩甲骨の上、肩の関節の近くから何かが生えて来始めた。
メキ‥‥‥メキメキッ‥‥‥‥‥
それは少しずつ大きく広がっていき
最終的に全ての鳥類が持つ、あの器官へとなった。
バサァッ!!!
「おっきな翼ッ!!」
ハトはそう大きな声で言いながら
真っ白な翼を羽ばたかせた。
「そうか!その羽で飛ぶのか!!」
セキレイの中のジャンプによる跳ぶと
羽ばたいて飛ぶ事の誤解がようやく解けた。
「分かったわ!あとは二人の力を合わせれば‥‥‥‥‥」
「″重力無効《ゼログラ》″!!」
「いっせーのーせッ!!」
バサァッ!!!
大きく翼を羽ばたかせ、セキレイ達は空を飛翔した。
そして、一直線に天井の出口へと向かって行った。
「全員を乗せて、体重ゼロのハトちゃんが
翼で羽ばたけばよかったのね」
カツコがハトの手の中でつぶやいた。
セキレイ以外の3人は手の中に納められていた。
彼はハトの肩の上でただ待ち続けた。自由の瞬間を。
「そろそろ抜けるよーっ!」
ハトは手の中の3人に言った。
セキレイは目を大きく広げた。
そして、ようやくこの瞬間が訪れた。
「脱出ーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
「やったぁーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
「もうそろそろいいか?」
「はっ!!」
少女は目を開けた。そこには雲一つない
すがすがしい青空が広がっていた。
「夢?‥‥‥‥けっこうリアルな夢だったなぁ」
そうつぶやきながら少女、マリーは身体を起こした。
草むらの上で寝転んでいたので、その痕が残ったままだった。
「‥‥‥‥‥‥‥‥あれ、アスラは?」
マリーはそう思い、周りを見回した。
少しして、木の影で寝ている少年、アスラを見つけた。
彼女はゆっくりとそこに寄って行った。
そして、その顔を覗き込んだ。口から少しよだれが垂れていた。
「‥‥‥‥アスラの寝顔、とってもカワイイ♪」
普段から腰に日本刀を帯びており、片時も離さない程
戦う意思の強さを持っているが、寝顔は正に無邪気な少年そのものだった。
マリーはアスラの頬を指でつついた。
「‥‥‥‥‥‥起きない」
いつから寝ていたかは思い出せない。
だが、太陽がそれほど傾いていないということは
あまり大した時間は経っていないのだろう。
「ふあぁ~~っ‥‥‥‥もう一回お昼寝しようかな」
そう言って、彼女はアスラの隣に寝転んだ。
彼の顔をまじまじと見た後に目を閉じた。
まだそこにいるであろう人に向かって声をかけた。
「おやすみ、アスラ」
そのまま彼女はすやすやと寝息をたて始めた。
後書き
ボブは自らの置かれた立場に臆することなく立ち向かいました。
そして、自らの命を懸けて、彼らの脱獄の手助けをしました。
私の中では、例え施設を裏切っていたとしても
彼の功績は素晴らしいものだと思います。
上の命令でしか動いていなかった男が自らの意志で戦ったのですから。
大脱出からの場面転換ってよくありますよね。
あの声の主は一体誰なのか?無論、私ではありません。
それは、結構すぐに分かります。
次の話は、とある男の過去編です。一体誰の過去なのか?
最強の“力”と“能力”を持つものです。私とタメ張るかもしれませんww
次回 第25.5話 憎しみの記憶 お楽しみに!
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