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美しき異形達

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第三十八話 もう一つの古都その十二

「そこから阿修羅の様にとか修羅とかね」
「あっ、戦う人をそう言うわね」
「そうした例えにもなる位なのよ」
「そこまで強いのね」
「阿修羅はね」
「三面六臂は伊達じゃないのね」
「そうなの」
 こう菊に話すのだった。
「まあ仏教は他にも強い仏様おられるけれど」
「戦う仏で一番強いのは不動明王ね」
 菖蒲が言って来た。
「そうね」
「そうね、戦うとなったらね」
「不動明王ね」
「あの仏様はまた別格よ」
「戦う仏の中でも」
「大日如来の別の姿とも言われてるし」
 密教の曼荼羅の中心にいる如来だ、如来の中でもとりわけ力が強いことで知られている。そうした意味では阿弥陀如来や釈迦如来に匹敵すると言えるだろうか。
「インドのシヴァ神が元だとも言われていて」
「ヒンズー教の三大神の一柱で」
「阿修羅よりも。強いわね」
「不動明王は別格なのですね」 
 桜も言う。
「あの仏様は」
「明王はもう戦う為の仏だけれど」
 如来や菩薩が憤怒した姿とされている、それだけにその力は相当なものなのだ。
「その中でも不動明王は一番ってされているから」
「それだけにですね」
「とんでもない強さなのよ」
「まさに仏教で最強の仏ですね」
「勿論孔雀明王より強いわよ」
 その明王よりもというのだ。
「あの明王も強いけれど」
「そうなのですね」
「そう、けれどこの阿修羅も確かに強いから」
 このこともまた言うのだった。
「顔は可愛いかも知れないけれど」
「子供の顔だからな」
 薊は阿修羅像のその顔を観て言った。
「可愛いっていえば可愛いな」
「そうね、確かに」
 菊は薊の言葉にも答えた。
「お顔はね」
「けれどこの六本の腕で戦うとなるとな」
「もう勝てないわね」
「本当に阿修羅なんだな」
「実際に腕が六本あったら」
 その三つの顔も観つつ言う菊だった。
「混乱しそうだけれど確かに強いわね」
「それぞれの腕に武器を持てるからな」
「殴ることも出来るし」
「相当に強いよな」
「そうよね」
 こう言うのだった、そして。
 そうした話をしつつ八部衆の他の像も観てそれから正倉院にも行った、そしてその正倉院のところでだった。
 鈴蘭、黒蘭の姉妹と会った。その二人と会ってだ。薊が笑顔で言った。
「ここでも会ったな」
「そうね、旅先は同じでも」
 黒蘭が応える。
「いつも会うわね」
「本当に縁があるわね」
「そうだよな、お互いに」
「そうね、もう若草山は言ったかしら」
「ああ、あの山な」
 薊は奈良に来る前に事前に確かめていたガイドブックの中に書かれてあったことを思い出しながら黒蘭に答えた。 
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