Fate/EXTRA〜もう一人のアーサー王〜
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戦いのための準備
前書き
もう三月ですが皆さんいかがお過ごしでしょうか?
自分は最近花粉症と思われる症状に悩まされつつあります。
鼻水とか鼻詰まりとかくしゃとか……。
助けてくれぇ……って感じです。
どうでも良いですねw
それでは続きをどうぞ。
右、左、右、左、方向を転換させながら標的へ走り出す。片手には黒い鞘。もう片方には刀。白銀に光る刀を添える程度に構えながら、相手の背後へと回り込み、斬る。
「……ッ!!」
しかし、斬った先に相手はいなかった。敵は俺の攻撃をしゃがんで躱し、俺の懐へと潜り込む。このままではまたやられる。そう思った俺は必死の抵抗とばかりに体を横へと倒そうとする。
だが相手の動きは俺よりも速かった。胸ぐらを掴まれ、半分体が浮くのを感じると一気に地面に急降下。
地面スレスレのところで体の落下が一旦止まるとゆっくりと地面に着く。この時点で俺の負けは確定した。
「動きはマシになってきたようだが、動ききれてない部分がある。それと、剣がまだ遅い。これではすぐにカウンターを食らうぞ」
騎士がそうアドバイスをして離れていく。俺も溜め息を吐きたくなるのを我慢して立ち上がる。
この稽古が始まって数時間が経った。最初と比べセイバーの動きが僅かながら見えるようになった。動きも多少良くなったとセイバーも言っているし、自分自身強くなっているような気がしてやりがいがあった。
だが、セイバーに勝つにはまだまだ程遠い。なんせ俺は鎧に当てるどころか、素手にすら負けてるのだから。
スッと息を吸ってまた稽古を始める。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なぁ、なんで俺に剣をすんなり教えてくれたんだ?」
何回も剣を振りながら、そんな事をセイバーに聞いてしまった。彼女はいきなりどうしたと言わんばかりに黙って俺の攻撃を避ける。
「もう少しなんかこう……お前にはまだ早い!的なもの感じで拒否されるかと思ったんだけど」
すると、彼女は溜め息混じりにこう返してきた。
「何を今更言っている?」
ごもっともだ。確かに今更だがなぜそうすんなり受け入れられたのか気になって仕方がなかったのだ。
「オレがお前に剣を教えるのは生き残る術を与える為だ」
攻撃の最中に放った俺の突きを彼女はダンスでもしているかのように回転して避ける。そして、そのままの回転の勢いで拳を瞬時に作り上げ攻撃に転じ始める。
「ッ!!」
俺は体勢を低くし、その攻撃を回避する。頭上を通過する拳に冷や汗をかきながらセイバーに体当たりする。鎧を着ているとはいえ、男の突進を食らっては少しは堪えるはずだ。
案の定、セイバーの体は地面へと崩れた。今だ、俺は片手の剣を鎧へと振り上げる。幸いなことにセイバーの体に馬乗りの状態でいるため、単純に剣を降ろすだけで当たる。
振り下ろそうとした時、
「自分から死地に向かう奴の為に教えるつもりはなかったのだが………な!!」
セイバーがさっきの言葉の続きを言うと、片足を持ち上げた。その足が俺の体に衝撃となって叩き込まれる。若干浮遊感を感じたと思ったら気付いた時には地面に転がっていた。
立ち上がろうとするが既にセイバーがすぐそこに立っていた。片手には俺に向けられた剣。
「オレもどうやら莫迦になってしまったらしい」
セイバーはすぐに剣を引っ込めると、いつものように俺に手を差しのばした。
「もう少し続けたいところだが今日はこれにて終了だ。これ以上やってマスターに死なれては元も子もないからな」
「……あともう少しだったのに」
悔しさを口にしながら俺はセイバーの手を借りて起き上がった。さっきの勝負が勝負なだけに今まで疲労感しか感じなかったのにまだやりたいと今では純粋に思える。
「あともう少しなものか。わざとあの状況に持ち込んだに決まっているだろ」
「マジかよ……」
さっきまでの自信とやる気を返してくれ、セイバーにそう言いたくなった。はぁ…と重い溜め息を吐く。それにしても、よくこの状況まで誘導できたものだ。敵を敢えて追い詰めさせて、その隙を突く。剣を振るうことに精一杯の俺には到底考えられない芸当だ。
「やっぱりセイバーってすごいんだな……」
「当たり前だ。何を当然の事を言っている」
セイバーは普通のことだと言うが、まだまだ俺にはない技術をたくさん持っている。それには本当に憧れるし、勉強になる。
「いや、本当にセイバーはすごいよ」
「………そ、そんなに褒めるな!なんか物凄く……その……なんだ。むず痒いというか恥ずかしいというか……!なんか変な感じがする!」
物凄い慌てふためきようだ。そんなにおかしなことを言っただろうか。本人もまんざら嫌でもなさそうな気がするが……。そこのところはよく分からない。
「だが……まぁ……ありがと」
セイバーは照れくさそうに答える。
こうして、波乱万丈の1日は終わりを迎えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「敵を調べよう」
朝日が溢れる静かな密室で、俺はセイバーに提案をしてみた。真剣な表情で、なおかつシリアスな雰囲気を放ちながらやる気があることをアピールする。対するセイバーはイスを並べたベッドに寝転がりながらこう答える。
「断る」
ズルッと何かが俺の中で滑った。猶予期間が今日を含めてあと二日に差し迫ったが、相手の情報が全く集まらないことに対して焦りを感じていた。
それにしても俺の提案は案外悪くないと思う。敵を知らなければ対策の取り用もないし、戦い方も分からない。戦いにおいては損することが充分に多いと思うんだが…。
すると、セイバーが気だるげな表情で口を開けた。
「調べて何になる?敵の武器の対策か?戦術の看破か?それとも弱点を持って潰すか?」
「……それの何がいけないんだ?」
セイバーのその問いに敢えて反論せず答える。すると、セイバーはゆっくりと上半身を起こし、片目を閉じて言う。
「ああいけないともマスターよ。なぜならお前の修行の時間が減ってしまうからな。これでは何のためにオレが重い腰を上げたのか分からなくなる」
理由を知った途端、口をあんぐりと開けてしまった。セイバーの言うことだからもっと理不尽で横暴なことを言うのかと思っていた。
「だけど相手の情報も大切だ。まだ慎二のサーヴァントはライダーだと言うことしか分からない。他にももっと情報を集めた方が戦いが有利になるはずだよ」
するとジトーと俺を見るセイバー。
「そんなにオレの修行が嫌か?」
「そうじゃない!ただ情報も大切だってことが言いたいんだ!セイバーの修行の時間も減らすつもりはないし、嫌いになったりしない!」
つい言葉を荒らげてしまった。少し傷つけただろうか、と反省しながらチラッとセイバーの方へと視線を投げた。
「ふむ、オレの修行が悪いわけではないのだな。それは良かった。だが、修行と情報収集を両立させるのは困難を極める。さっきも言った通り、修行の時間を減らすつもりはないからな。……睡眠の時間を削るという案もなきにしもあらずだが貴様とてそれはやりたくはあるまい。他の案があるとするならば朝の時間をもう少し増やしそれを回す、というのもある」
意外に大丈夫だった。というより、めっちゃ協力的だったのに驚いている。なぜそこまで考えてくれるのだろうか。
「情報収集に協力してくれるのか?確か断るって…」
「修行の時間を削るならの話だ。他に考えがあるなら止めはしない。それに色々と世話になっていることもあるからな、協力しなくては面目が立たんではないか」
「セイバー……」
目頭が熱くなった。こんなにも俺のことを思ってくれるなんて……。
優が感動している時、セイバーはというと。
(腹減った……)
空腹に苛まれていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
情報収集をすべくまず俺たちが向かったのは図書館だった。ここなら歴史の本とか何かの伝説が記された書籍等を探していけば相手のサーヴァントの正体が分かるかもしれない。
と思ったのだが、
「見つからないな」
一向にそれらしき書籍は見つからない。ワードは『艦隊』。慎二がライダーの宝具をうっかり言ってしまったキーワードだ。
艦隊を使うサーヴァントと言えば大体限られてくると思うのだが……。
「先を越されたな」
「ッ!?」
声のした方向を見ると部屋着の状態のセイバーが大きくあくびをしながら本棚を見つめていた。両手を短パンのポケットにいれ、セイバーはしゃがみこむ。
セイバーは妙に落ち着いた様子でいるが俺はそうはいかなかった。なぜセイバーがその格好でそんなに悠長にしているのか分からなかったからだ。あまり大きな声をあげず、コソコソとセイバーに訴える。
「なんでその状態なんだよ?いつもの鎧はどうした?」
「鎧は外した。今この場で動かれると邪魔だろう?」
だからと言って他にも考えようがあるんじゃないか?と言いたくなったがそれよりもさっきのセイバーの言葉が気になった。
「で、先を越されたってどういうことなんだ?」
セイバーが一呼吸を置くと、話し始める。
「簡単なことだ。完璧なはずのムーンセルがサーヴァントの情報を置いていないというミスはあり得ないからな。誰かが持ち去ったに違いないだろう」
「……」
なんとも言えない。いや、理屈あっていないわけでもないがたったそれだけで結論付けて良い…のか?
だがまぁ、せっかくセイバーが協力してくれるのだ。その意見を尊重しなくては。
とりあえず本を探すのは一旦中止し、図書館内で何かおかしなことをしている奴を見なかったかと中にいるNPCに何人か聞いてみた。
すると、
「ああ、それならさっき間桐君が本棚の前でそわそわしてるのを見たよ」
当たったよ…。聞く限り怪しいよ……それ。一応他の子にも聞いてはみた。すると、何人も慎二が怪しい行動をしているのを見たと言う。
「なっ、そうだったろ?」
図書館からの帰り道。セイバーが後ろから声をかける。
「……うん」
ただそれぐらいしか返せなかった。あまりにもバカらしくて恥ずかしくなってくる。
それにしても困ったことにもなった。本を隠されたとなっては相手の情報を集めるのが非常に難しくなる。
「はぁ……」
「なぜそんな顔をする?」
「大丈夫なのかなって思ってさ」
しばらくの沈黙のあと、そうかとセイバーが答える。何か言ってくると思ったが意外と口数は少なかった。
「何にせよなんとかしないといけないのは確かなんだけどな……」
「この程度で臆するな。これで勝敗が決まったわけではないだろ」
セイバーが呆れたように言う。確かにそうだ。情報も大切だが全てがそれで決まるわけではない。
「それもそうだな、よし!じゃあ早速修行に取り掛かろうか!」
「……」
返事がない。
「セイバー?」
返事がないことを不審に思った俺はセイバーの様子を確認する。
振り向いた先にはセイバーが浮かない表情をしていた。
「すまないがマスター。修行の前にある所へ寄らせてくれ」
「お、おう。良いけどどうしたんだ?」
セイバーは俺から視線を逸らしながら言いづらそうに言った。
「腹が減った……」
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