英雄は誰がために立つ
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Life8 秒読み
「――――英霊とは、あの英霊の事でいいのか?」
「はい、その通りにございます。シャルバ様」
シャルバと呼ばれた人物は、魔王風のマントを羽織り軽鎧を身に着けていた。
「しかし、ならば何故動かぬ?」
「特殊な術式を掛けているからでございます。そもそもこの狂戦士は、使用時まで現状維持しておかなければ身勝手に突っ走りますからね」
「そうであるのなら重ねて解せぬ。何故その様な扱いにくく、手を焼くような英霊を塵芥にも値せぬ鳩や鴉、それに現魔王共が開く三竦みの会談に投入するのだ?」
確かにシャルバの言うとおりである。
真の腕利きの傭兵や殺し屋からすれば、扱いに四苦八苦する核弾頭なんぞよりも、威力こそ低いモノの使い勝手のいいコンバットナイフやスナイパーライフルを迷わず選択する事だろう。
「それはこの英霊が様々な意味で適正だからでございます。会談の破壊の有無に拘わらず、禍の団と伏羲がいかに本気で強大な力をも所持しているかも彼方にも否でも理解する事に成りましょう。まぁ、有体に申し上げるのであれば、良くも悪くも派手なデモンストレーションと言った処でしょうか」
「なるほどな。だが、そうであるならばカテレアは如何なる?」
「レヴィアタン様には申し訳ありませんが、礎になっていただきましょう。そうなれば、シャルバ様率いるこの派閥の中で慎重論を頑なに貫こうとしているクルゼレイ様も躍起になりましょうし、全ては世界の本来のあり方――――シャルバ様が様々な勢力たちをも滅ぼした上で永劫唯一の統制者に成る近道にもなりましょうしね」
「フフフ、相変わらず腹黒い男よな貴様は」
レヴェルの言動を非難するも、上機嫌なシャルバ・ベルぜブブ。
「であれば、後は任す。くれぐれも抜かりなくな。貴様の事だから、それこそあり得ぬであろうが」
「御意」
上機嫌にこの部屋から退出するまで、恭しく礼をするレヴェル。
ッ。
着信が鳴る前に素早く体勢を戻しつつ通信にでるレヴェル。
「はい――――はい、そうです。ええ、予定通りシャルバ様方を調子づかせて計画を加速させる次第にございます。――――ハハハハ、あの方々は自身を特別だと思わせて口車に乗せてしまえば、後は簡単ですからね。この英霊召喚も聖遺物さえ用意してしまえば、後は呼び出し放題の技術も確立しましたし、その影響もあって神話・伝説に登場した英雄の魂と遺志を継いだなどと言う英雄の劣化品も上手く発生しました。――――ええ。英雄派共々、我らの思惑通りにさぞ踊ってくれるでしょう」
一拍置いて、淡々と言葉を吐く。
「所詮、彼らは前座でしかないのですから――――」
-Interlude-
授業参観が行われた次の日の放課後、士郎は自分が身を置いている弓道部に来て後輩たちの指導をしていた。
事の始まりは8年前、弓道は一般的には発育上の問題から中学生からの方が良いとされているが、一応体験コーナーの様なイベントがあった処で、試しにと無理矢理勧められたところ一射目で中でて周囲を驚かせてしまいその上、射法八節(流派や個人の考え・体格・思想などにより異なる)まで完璧と言うかまるで一つの芸術品の如く美しかったと評されてしまい、神童顕現などと騒がれたが弓道は初めてと言って断ろうとしたのが不味かったのか、その才能を無駄にすべきでは無いと周りに担がれてなし崩し的逆らえない状況に陥った。
士郎の弓は弓道と言うより弓術だが、周りの素人にはその辺の違いなど分かる訳も無くその後も、辞めるに辞められないまま期待に応える様に快進撃を続けていき現在すべての出場した大会で、団体戦では仲間たちに指導しながら優勝に導き、個人でも他の追随を許さぬと言わんばかりに優勝していきあらゆる大会を総なめにしていったのだった。
しかし、過ぎた才能を妬む存在と言う者達はいつの世も必ず現れるもので、何とか引きずり落とせないかと策略を巡らせようとした処で、藤村組自体を目障りに思うある公式組織の一部と手を組む事に成り八百長関係で攻撃しようとなったのだが、士郎の規格外級の観察眼によりその動きを察知されて策略発動直前に決定的証拠を掴まれてしまい、その公式組織の一部は組織から正式な解雇になり散りじりに地方に飛ばされ、士郎の才能を妬んだ者達は永久に大会出場権を剥奪と停学や退学どころか、逮捕とな言う結果となった。
閑話休題。
そんな士郎が熱心に後輩たちに指導している弓道部に、お客が現れた。
「すみません、藤村ぶ―――先輩。真羅副会長がお見えになっているんですけど?」
弓道場の入り口の一番近くに居た女子部員が、士郎に声をを掛けた。
「真羅が?わかった。じゃあ、行ってくるが、しっかりしてくれ。部長はもうお前なんだぞ?苅山」
「は、はいぃぃ」
士郎の檄にシュンとする、苅山と呼ばれた2年女子生徒の新部長。
「あー、別に怒った訳じゃ無いんだ。悪かったよ」
そのまま、苅山の頭の上に掌を乗せて撫でる士郎。
「はうぅぅ・・・って、はっ!や、辞めてください藤村ぶ―――先輩!皆にこれじゃあ、それこそ示しがつきません!」
士郎に撫でられるのは至極の気持ちよさだったのか、顔を赤めるも直に直に取り繕い士郎から後ろに一歩下がる苅山。
「あっ、悪い!やっぱり嫌だったよな?」
最近の思春期真っ盛りの女の子は、髪のセットが崩れるなどの理由から頭を撫でられるのは嫌がる様だ。だが・・・。
「あ、いえ!別に嫌と言う訳では・・・・・・って!ですから藤村先輩!真羅副会長がお待ちなんです!」
「解ってるって、そんなの怒らなくてもいいだろ?」
無理矢理追い出す形で士郎を促す苅山。
それに逃げる様にと言うのは大げさだが、急いで入口に向かって言った士郎。
「ゼェェー、ハァァー、ゼェェー、ハァァー・・・・・・」
顔を赤め乍ら息を落ち着かせようとするそんな苅山を、男子部員の何名かが距離を置いた一角でそれを見る。
「やっぱり部長、可愛いですよねぇ」
「まぁな・・・。けど苅山の本命は藤村だからなぁ」
「それ言ったら、この学園の最低でも3分の1の女子生徒の本命が藤村先輩すっよ?」
「クッソー、爆発してくんねえかなぁ?」
「お前それ、毎日言ってるよな?」
そんな不毛な会話をしていると後ろに居たもう何名かも加わって来た。
「一度でいい一度で・・・・・・」
「何だ?お前も爆発してほしいのか?」
「いや、体交換してくんねえかなぁ?」
「無理だろ。つかそれ、多分それあんま意味ねぇかもだぜ?」
「なんでだ?」
「藤村先輩の魅力ってのは、容姿や完璧超人級のスペックってのもあるだろうが、それに合わせてある内面や気配りとかもだから、お前と変わったら瞬時に好意を向ける女子の人数減るだろうぜ?」
「「「「「確かに」」」」」
「おいっ!?」
などと、男子部員がバカ騒ぎしているのをよそに、女子生徒もグループを作って苅山の様子を見ていた。
「いーなー、部長!藤村先輩に撫でてもらえて!」
「確かに羨ましいけど、アンタって確か中年趣味じゃなかったっけ?」
「ナイスミドルって言ってって言ったでしょ!兎に角、藤村先輩だったらいいのよ!他の男どもと違って大人だし、包容力が有りそうじゃない?」
「けど、鈍感よ?周知の事実として」
「そこがいんじゃない!周りの有象無象と違って、歳不相応の大人の魅力に入っている隠し味的なアレで!」
そんな風に徐々に白熱していると双方に・・・。
「貴方達!いい加減にしないと、藤村先輩のお叱りを後で受けてもらうわよ」
この事に不満を感じつつも皆練習に戻ったが、2名だけ恍惚な表情で突っ立ったままである。
「藤村先輩からの直々のお叱り♡」
「はうぅん♪♪」
この事に真に頭を痛める苅山だった。
-Interlude-
「ずいぶんと仲がよろしいですね?」
士郎は今、椿姫と共に校舎の屋上へ並んで歩いていた。
既に秒読みに入っている、三竦みの会談に向けての警備チェックのためだ。
「そりゃ、一年と少しの間一緒に過ごしてきた可愛い後輩だ。仲が悪い方が問題だろ?」
「う゛、それはそうですが・・・」
椿姫としては、ちょっとしたやきもち的発言で言ったにも拘らず、正論で返されたために言葉を詰まらせる。
「そう言えば、ソーナは一緒じゃないんだな?」
「会長は事務作業の最中です」
「と言う事は、気力を取り戻せたのか?あれから、心配だったんだが」
士郎の言っているのは、昨夜の件についてだった。
最後まで恥ずかしい思いをしたソーナは、今朝の教室内にて珍しくダルそうな感じだったからだ。
「ええ、まぁ。未だ多少、尾を引いていますが・・・」
そうこうしている内に屋上に着く2人。
そして、そのまま手すり近くまで寄る。
そこで、たまたま士郎の視界に旧校舎近くに居る一誠達が目に入った。
「ん?見かけない子がいるが、あれがサーゼクス様から聞いたギャスパー・ヴラディー君かな?」
「見えるんですか?転生悪魔の私ですら見えないのに・・・・・・って、今更ですね。士郎君の事では」
「なんだか酷く貶されている様に思えるのは、俺の気のせいか?」
士郎の問いに、否定も肯定もしないで無言で返す椿姫。
「ったく・・・それにしても、ゼノヴィアは何してるんだ?デュランダルを振り回しながら、彼を追いかけている様だが・・・体力作りでもさせているのか?」
「さぁ、解りませんが・・・」
「ん?如何した?」
思わず視線を感じた士郎は、椿姫の方を見ると何か探るような視線を送られていることに気付いた。
一方、椿姫が何故そんな視線を送っているかと言うと、ゼノヴィアとの関係性についてだった。
「そう言えば、ゼノヴィアさんとはど如何なったんですか?」
「如何とは?」
「ゼノヴィアさんに告白されたのでしょう?にも拘らず、平然としていますが・・・」
「あれはリアスに乗せられて、トチ狂っただけだろう?そんなしょうも無いこ・・・と・・・って、如何したんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
椿姫の疑問に答えていた途中で再度彼女に向き直ると、侮蔑と言うか汚らわしいと言うか下種を見るような視線を向けられていた士郎。
「な、何が言いたいんだ?ハッキリ言ってくれ!?」
気圧されるも訳が分からずに懇願するように聞く士郎。
「・・・・・・・・・・・・・・・ハァ、いえ、いいです。そうでした、今更でしたね」
椿姫は別にゼノヴィアの恋を応援したいわけでは無かったが、同じ女としてそれはあんまりでは無いのかと言う気持ちから、士郎に行動に対して大変に遺憾さを感じていた。
「な、何がだ・・・・・・・・・?」
「いえ、説明なんて必要ありません。只・・・申し上げるのでしたら、士郎君のトンデモナイほどの廻りの悪い鈍感さには失望―――――いえ、絶望していると言った処でしょうか・・」
今度は憐れみともいえる視線を受けて、何も言えなくなる士郎。
だがそんな状況に追い込まれても、鈍感故に何故自分がここまで追い込まれているのか解らないでいた。
そんな如何しよも無い状況でも事態は動く(←士郎にとっては不幸中の幸い)。
「ん!?」
「如何かしましたか?今更・・・」
今も直、士郎に侮蔑と憐れみを織り交ぜた視線を送り続けていた椿姫は気付かなかった――――いや、気付けなかった。
何せ、士郎の視界に入ったのは・・・。
「椿姫、結界を張れるか?」
「何を言って「出来るのか、出来ないのか!」え!?で、出来ますが・・・」
急な士郎の口調と態度の変わりように、困惑する椿姫。
「なら今直張ってくれ!それから、張り終わったら俺の後ろに隠れて俺の前側を覗こうとするなよ?――――信仰心のある奴は勿論、無い奴でもこれから投影のを見れば“引き込まれるぞ”!!」
椿姫に説明しながら、変声期を勝手に内蔵させたハンズフリー片耳に付けて、素早く携帯を操作し終える。
「は、はい!」
士郎の言葉に黙々と従う椿姫。真剣な態度に何かあったのだろう判断したのだ。
白龍皇の突然の来訪時も、一番最初に気付けたのは士郎だったのだから。
そして言われるがまま結界を張り終えた後、椿姫は士郎の大きく逞しい背中に寄りかかる様、体を預けた。
そんな当の士郎は、そんなシチュなどお構いもせず何時の間にか投影していた黒塗りの洋弓左手に携えてから呟く。
「――――投影、開始」
自身に素早く埋没し、彼の槍を検索して引き出す。
それは真紅に彩られており長く、中程から二つに分かれたが故に尖端が二つある槍。
そして、真名解放を行っていないにも拘らず、僅かに聖なるオーラが滲み出るそれは聖槍に他ならなかった。
そのまま洋弓に番えると、携帯が相手に繋がったのか声を出す士郎。
『私だ兵藤一誠、幻想殺しだ――――』
-Interlude-
リアスに朱乃、それと祐斗以外のオカルト研究部メンバーは、ギャスパーのお守と言い換えていいのか解らない強制特訓を敷いていた。
そんな時に神の子を見張る者の総督アザゼルが襲来?してきた。
それに、何が目的が未だにはっきりとせず、神器について語りだすアザゼル。
因みに、アザゼルが来訪する少し前に元士郎が訪ねて来たために一緒に居る。
それで言いたい事を言え終えたのか、満足そうなアザゼルは踵を返そうとする。
そんな不敵な笑みを浮かべるチャラ男に、文句の一つも言っておこうかと考えた一誠。
「正た『おっぱいよぉー!おっぱいよぉー!おっぱいよぉー!おっぱいよぉー!――――』うおっ!なんだぁ!?」
喋りかけた瞬間、一誠の制服のポケットから携帯のモーニングコールの様な着信が鳴った。
それと同時に、アザゼルの背筋に悪寒が走った。
「っ!!」
「って!もしもし?」
慌てて一誠は電話に出る。因みに出るまで鳴り響いていた。
『私だ兵藤一誠、幻想殺しだ。すまないが君らの前に御茶目にしては遣り過ぎな不審人物にも聞こえるよう、スピーカーにしてくれると助かる』
「え?あっ!は、はい!」
ポチッ。
『ズムズムイヤ~ン』
そんな音が鳴った。
「あっ、ヤベ!切り返すんの忘れてた!」
「兵藤一誠、君と言う男は――――」
「セクハラ過ぎです。先輩・・・」
「イッセーさん・・・」
「兵藤・・・・・・流石にそれは無いだろう?」
「ぅぅ?」
『――――何だ今の音は?』
各々が一誠に何とも言えない目線で、それぞれの感想を言う。
アザゼルは今も直背筋に悪寒が走りっぱなしの上、汗まで書いて来ているにも拘らず、イマイチ緊張感を取れずにいた。
『・・・・・・まぁ、いい。仕切り直るが、これは如何いう御積りか?総督殿』
「っ、お前さんはもしかして、ヴァ―リの奴が言っていた『幻想殺し』か?」
確認の意味で問う、アザゼル。
『ええ、そうです。電話越しで大変失礼かともお思いましたが、茶目っ気にしてはオイタが過ぎるアザゼル総督殿の行為に比べれば可愛いモノでしょう?』
「クク、言ってくれやがる・・・が、お前さん、今何してる?」
皮肉を織り交ぜながらお互いに話すも、ある直感をもって電話越しの士郎に話しかけるアザゼル。
『ある地点にて、とある人物に対して何時でも狙撃できる体制で構えています。そのとある人物は越権行為も何のその、やりたい放題と小耳に挟みましたので一つ忠告の意味で釘を刺しておこうかと』
「ほ、ほぉ、それでもう一つ聞きてぇんだが、狙撃したらそいつは如何なる?」
『遅いか速いかの差でしかありませんが、消えさるでしょうね。文字通り』
冷淡な声が一誠の電話から出る。
それに対して、未だに冷や汗が止まらずにいるアザゼル。
「な、なるほど。だけどそんな事をこの人間界でやったらまずいんじゃねえか?陰謀説とかよ」
『そうですね。しかしその人物は、同胞の良からぬ企みに薄々気づいていただろうにも拘らず、見逃したり今回のように自由闊歩にし過ぎてる点を考慮して、その部下に問い詰めれば何とかなるかと』
「そこで部下に行くのかよ!ってか、脅し――――いや、挑発にしては過ぎるんじゃねぇか?」
『構いませんよ。そんな安い挑発にムキになるようでしたら、小物過ぎると評価を改めるだけです』
「―――・・―――――っ言ってくれるじゃねぇか!」
電話越しにだが、藤村士郎に対して本気では無いモノの殺意を向ける。
当然そんな殺意の矛先は表面上、一誠に向いている訳なので永き時の中で在きてきた堕天使の頭目の軽い殺気だ。当然の事乍らビビっていた。
『何をそんなに怒気を孕ませているのですか?私は、とある人物にと言ったんですよ?』
そんな当の言葉を口にした元凶は、自重するどころかさらに皮肉ってくる始末だった。
「―――――・・・―――そうだったな。それに今回は俺も確かに軽率過ぎた様だ。オイッ!赤龍帝」
「あ、あん?」
「趣味だったとはいえ、営業妨害も含めて悪かったな!少なくとも会談が始まるまでは、俺も自重しよう」
一誠に謝罪をした後に、翻ってその場を後にするアザゼル。
電話越しの相手には何の言葉も残してはいかなかったが。
そんな空気に取り残されたオカルト研究部メンバーは、取りあえずアザゼルの助言が真実か見極める事をも含めて、ギャスパーの修業を開始する事にした。
そこで、電話から声が発せられた。
『では私はこれで失礼する』
「あっ、はい」
その言葉と共に電話の切れる音が響いた。
-Interlude-
「――――ふぅ、行ったか。全く、あの総督も会談前なんだから、自分の立場を弁えろと言うんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「さて椿姫、もう結界を解いてくれていいぞ?投影物を霧散から、魔力が漏れる心配はもうない筈だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「――――っと、椿姫?」
「・・・・・・え?あっ、は、はい!?」
士郎が振り向くと、彼女は士郎の背中に寄り掛かりながらボーっとしていたため、彼女はそのまま崩れるように斜めになり士郎の懐内に収まった。
そんな状態になっていたので、身を取り繕う暇なく困惑する椿姫。
そんな時・・・。
ギィィ。
「――――椿姫、此処のチェックは終わ・・・りまし・・―――何をしているのですか?ふ・た・り・と・も!」
この状況で、会長としての責任に駆られて、気を取り戻して校内の見回り序でに椿姫の確認に来た処で、ソーナと接敵してしまった士郎と椿姫。
士郎と椿姫の今の状態は、傍から見れば恋人同士が抱き合っている状態なのだから。
「え?会、長・・・―――って!違います、違いますよ是は!?これは、そのですね――――」
「ん?ソーナじゃないか。もう、大丈夫なのか?」
一方は赤面しながらしどろもどろになり、もう一方は落ち着いていた。
この2人の対照的な違いから、自分が変なタイミングに来ただけだと瞬時に分析し理解するソーナ。
「ええ、ご心配には及びません。もう、大丈夫です。それと椿姫、そんなに慌てなくても大体の事情は理解出来たので落ち着きなさい。何時までも一人だけで混乱していても空しいだけですよ?」
ソーナの視線は最初に士郎で、次に椿姫、また更に士郎へ向き最後に椿姫に戻った。
「・・・・・・っ、そうですね。理解が早くて助かります、会長」
ソーナの態度に落ち時を取り戻した椿姫は、結界を解いてから士郎に対して冷ややかな目線を向ける。
「な、なんだ?」
「いえ、いいです。本当に今更ですから」
「なんなんだ・・・・・・(ガクッ)」
椿姫の言いたい事が分からずに頭を垂れる士郎。
ソーマを先頭に3人分ほど離れて士郎が頭を垂らしながら続き、また3人分ほど離れた形で椿姫が続く。
そんな状態で屋上を後にする3人だが、一番後方に居る椿姫の胸中は複雑だった。
先程まで背中に寄り添っていた時は、本当に頼りがいのある大きな背中だった。
まるで昔の幼い頃の、兄や父に“何か”から守られている感覚だった。
とは言っても、彼女は自身の内に宿った神器の異能による力の影響が災いして、迫害された身ではあったが。
しかし、打って変わって今このときは何とも情けない背中だった。大きく逞しいのは変わりないが。
(本当に今更ですが、士郎君はいろんな意味で罪作りですね)
そんな士郎に対して量りかねない思いが、椿姫の胸中を独占していたのだった。
-Interlude-
その日の夜。
気配からも確認した上で、ゼノヴィアが自室に居る事を把握し終えてから、冥界に居るサーゼクスと通信機を通して会話をしている士郎。
内容は近々行われる会談への件についてだった。
「――――魔術協会からは誰が来るんですか?」
「メフィスト・フェレスさんは立場上無理だから、トップの4人になるかな?」
「そのうち1人は絶対に来ませんよ」
「何故わかるん・・・・・・あー、彼か・・・」
士郎に言葉に聞き返そうとするも、直に思い出したサーゼクス。
「ええ、あの人です。俺もお会いしたことは無いんですが、噂通りならまず来ないかと・・・」
「『異形嫌い』・・・か」
「特に悪魔は嫌っていますから・・・。最悪誰も来れないでしょうね」
通信機越しでも分かるような程の、嘆息するサーゼクスの姿が想像できる士郎。
「後、出席するのは『導師』ですか?」
「ぅん、『先生』だね。そもそも今回の会談は、コカビエルの襲撃の事件が結果的に切っ掛けになったとはいえ、『クロム先生』の助力が無ければ会談にまでこぎ付ける時間も、相当掛かっただろうからね」
ルオリア・C・クロムエル。
人間かはたまた人外かは不明の上、どの様な方法でかも不明だが、世界中の様々な神話体系の異界などにも入界許可を得られている程の、途轍もない実績と信頼を勝ち取っている賢人。
紺色の短髪に髪をかき上げて、眼鏡をかけて何時も笑みを絶やさない痩せ細った男性だ。
更には聖書などの影響により、民間の伝説レベルにまで落ち込んだ神々の信仰の低さのケアの実現、各神話の不和の仲介なども精力的に活動している傑物だった。
因みに愛称が、『導師ルオリア』か『クロム先生』と呼ばれている。
「大丈夫なんですか?今回の会談はまだまだ、きな臭い動きが有るように思えます。そんな会談で、もしクロム先生に何かあれば三竦みの会談の破綻だけでなく、各神話勢力からも突っ込まれますよ?」
「そうなんだろうが、これは先生自身からの希望でもあるのさ。でももし何か起こった場合は僕らも先生を全力で守るし、君の警備への依頼もその当たりが有るんだよ?」
その言葉に一拍置いて、取りあえず了承する士郎。
「判りました。では今日はこの辺で」
「ああ、夜分遅くのこんな時間に悪かったね?ゼノヴィア君には気づかれていないかい?」
「ええ、今は勉強中でしょう」
「彼女も熱心だね」
「新しい生活に付いて往こうと、慣れようと必死なんでしょう?」
シロウの言葉に成るほどと、呟くサーゼクス。
「じゃあ、今度こそお休み」
「はい、お疲れ様です」
その言葉と共に士郎は、通信を切った。
-Interlude-
次の日の夜。
士郎は定期的に、夜のオカルト研究部の活動時間に来ていた。
そして今、士郎がいるのはギャスパーの引きこもり部屋であった――――現在もギャスパーの引きこもり部屋の外の廊下の壁に、背中を凭れ掛かける様に一誠と祐斗とギャスパーの話を盗み聞きしていた。
(ハァ、あいつは全く・・・。どんだけエロに生涯を懸けているんだか・・・)
そこで、そろそろ話を区切れそうだったので、祐斗に察知できるようワザと気配を露わにする士郎。
「ん!?」
「如何した木場?」
「そこで隠れている人、バレバレですよ」
「へ?」
何かを察知したかのように、直に反応して不審人物へ呼びかけた。
その呼び声に待ってましたと言わんばかりに、のそっと直に出て来る幻想殺しの格好をした士郎。
「幻想殺し!?」
「は、はわわわわ!?だ、誰ですかぁぁぁ!?」
まるで気づけなかった一誠とギャスパーは、突然の登場に驚く。
因みにギャスパーは、同時に怯えていた。
「貴方が気配も殺さず、あんな見つけてくださいと言わんばかりに隠れてるなんて、僕を見縊り過ぎですよ?」
『見縊り過ぎか・・・。そんなセリフを吐くのであれば、もう少し早く気づいて欲しかったものだな?』
「如何いう意味です?」
祐斗は訝しみながら、声を強張らせる。
『私は最初から居たぞ?』
「最初?」
それに祐斗では無く一誠が反応する。
『ああ、最初だ。彼、ギャスパー・ヴラディ君が悪魔稼業で戻ってきて即座に、部屋に引きこもったあたりからだ』
「嘘だ!そんな事はあり得ない!だって視界には・・・!」
『私の凄腕の知り合いに、教えてもらった気配を絶つ技の極みによるものだ。とは言っても、あいつ同様程までに上手くできる訳じゃ無いが、君たち位であれば通用すると言う事だ。因みに、以前にほんの少しの間だけ君らに貸したタルンカッペは一切使っていないぞ?』
この事実に驚きを隠せない木場祐斗。
『とは言え、不快な思いをさせたのであれば謝罪しよう。別に私は喧嘩を売りに来たのではないのだから』
その言葉と共にギャスパーに近づいていく。
「フ、フェェェェェ!?どうして僕に近づくんですかぁぁぁぁ!!?」
一々怯えるギャスパー。
そんな彼の前に一誠が前に出る。
『ん?』
「悪いんすけど、今の俺はコイツの事を部長から任されているんすよ。それに対人恐怖症なんで」
『それくらい承知している。荒業で何とか解決させようとしたんだろうが、リアス嬢は焦り過ぎだ。私が今日、こうして訪れたのは会談に関する事何でな』
「何すかね?それは・・・」
会談に関すことと聞いて、場を譲る一誠。
「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
「如何したんだギャスパー?」
ギャスパーの目の前に来た幻想殺しに対して、必要以上に怯える姿に疑問符を浮かべる。
『恐らくこの外套の性質が原因だろう。君らは私にもう何度か会って慣れてきているのであろうが、これに畏怖や嫌悪感を感じるのではないか?』
「え?う~ん、まぁ・・・」
『この外套は、聖骸布と言う聖遺物の一種で出来ているから、それでだろう。特に彼はハーフとは言え、元ヴァンパイア。その上、転生悪魔になってもヴァンパイアの性質もいくらか残っているから余計なのだろう』
「聖骸布!?」
その言葉に、入り口の一番近くに居た祐斗が反応する。
「如何したんだよ木場?そんなに驚いて・・・・・・って、聖遺物の一種!?」
「そうさ、その聖骸布は教会などではとても貴重なモノのはずだ!それを何故貴方が持っている!?」
『ある知り合いに条件付きで貰った、としか言えないな。まぁ、そんな事はいい。それよりも君の神器についてだ』
祐斗の疑いの眼や一誠の戸惑いの目線を無視して、ギャスパーと視線を同じくらいにするように膝を床に付ける。
「フェェェェェ!?ご、ごごごごゴメンなさいぃぃぃぃぃぃ!!」
『君の好きにすればいいが、いちいち謝る必要はないぞ?で、話を戻すが、サーゼクス様から聞いている限りでは、制御が出来ていないんだな?』
「は、はぃぃぃぃ!」
そこで士郎は、あらかじめ投影しておいた金と青を基調とした西洋風の鞘を前に置く。
『これは、あらゆる呪いや最上級の魔法からをも守ってくれる特殊な鞘だ。とは言っても、私が力の解放を行わない限り、単なる鞘でしかないが。これを会談中にもし、君の神器が発動してしまった場合はこれに思いのたけで念じるんだ。そうすれば私に届くので、力を開放しよう』
「え、え~と?は、はいぃぃぃ!」
「「如何いう事(すか・です)?」」
『・・・・・・・・・』
渡されたギャスパーは、要領を得られていなかったために意味も解らぬまま頷くだけだったが、一誠と祐斗が当然の様に疑問符を頭上に浮かべるように聞いて来る。
「会談中に何か起きるんですか?」
『一応念のためでもあるが、それだけでは納得してくれそうにないかな?』
「当然っすよ!」
一誠と祐斗の真剣な目つきに、溜息をしてから口を開いた。
『あまり不安心を持たせたくなかったので言いたくは無かったのだが、私の独自で入手した情報では会談を行うこの駒王町の周辺で、不審人物が多く目撃されている様だ』
「つまり何か起きると?」
『起きない事には越したことはないが、恐らく今回の会談で和平協定でも結ぶのだろうと言うくらいは聞いている。そうであれば、反対勢力などが利害一致で一時的に組んで、会談の破壊を目論むのは当然だろう?』
「和平協定!?」
「会談の破壊!?」
一誠と祐斗は幻想殺しの言葉に、いちいち反応するも取り合う気が無い士郎。
『兎に角、最悪を想定しての事だ。何もなければそれでいい。無事会談を終えたらそれは回収するが、使えるのは一回きりだ。くれぐれも会談前に使わぬ様にな』
言いたい事が終えたのか、立ち上がると同時に踵を返してこの部屋を出て行こうとする。
しかしそこで・・・。
「あ、あの!」
『ん?』
ギャスパーの声が幻想殺しに待ったをかけた。
その声に再度振り向く士郎。
「あ、貴方は僕の事が怖く・・・ないんですか?」
『・・・・・・』
まさか自分から言い出すとは思ってみなかった士郎は、瞠目する。
そして聞いた本人は、怯え顔である。
「ギャ、ギャスパー?」
「ギャスパー君?」
一誠と祐斗は、何故こんな事を聞くのか困惑顔をただ浮かべるだけだった。
『ギャスパー・ヴラディ、君は怪物や悪魔の真の定義を知っているかね?』
「え?」
『怪物や悪魔の真の定義とは、強大な異能を持つことや、人外からの生まれや育ち、ましてや血を吸う吸わないかでは無い。力に溺れて心までも魔性に堕ち、自身の内から湧き出る欲望や悦楽を満たす為だけに、他者の命や物を蹂躙する畜生。それこそが真なる悪魔や怪物と言うモノだ』
この定義こそが、士郎のこれまでの人生の中で理解しえた、真理の一つ。
その言葉を黙って聞く、蚊帳の外状態の一誠と祐斗。
『君はそうなりたいのか?』
「そ、そん訳ありません!!」
『ならばそこの2人は如何だ?ギャスパー・ヴラディ、君からして彼らは心身とも魔性に浸かり切った畜生に見えるのかね?』
「それこそあり得ません!!」
一誠と祐斗の事の時は、言い淀む事無くハッキリと言い切るギャスパー。
『ならばそれで良いのではないかね?』
「え?」
『異能の力も不安定で、生まれや幼い時に体験した迫害の数々もあれど、君は君なんだ。ギャスパー・ヴラディ。君は・・・君の人生は君自身がこれから決める事だ。未だ周りの状況などについていけなくて怖い事もあれど、幸い周りの者達は悪魔ではあれど、悪人とは程遠い善人だ。立ち上がりたいという姿勢、努力を見せれば、手を差し伸べてくれることだろう』
「「・・・・・・・・・」」
聞き入っているのか、呆然とする一誠と祐斗。
そして、ギャスパーは・・・。
「あ、貴方は助けてくれますか?」
『いいのかね?未だ素顔を曝さぬ不審人物だぞ?』
「そ、そうかもしれませんけど、今の様な事を言う人が悪人には思えません!」
その言葉に内心、苦笑する士郎。
『解った。君がもし立ち上がりたいと言うのであれば、力及ぶか解らぬが助力しよう。だから君も、自分のペースでいいから君自身が本気で如何したいのか考えたまえ。そうすれば答えは自ずと見つかる筈だ。難しいだろうがな』
その言葉と共に、今度こそこの部屋を後にする士郎。
後に残された3人は、それぞれにある事を思っていた。
祐斗は、幻想殺しの正体にある程度気付き始めていたため、何故同じ校内の学生であるにも拘らず素顔を隠すのかも含めて疑心で満ちていたが、それが消え失せていた。
一誠は、実力があるのに素顔を曝さないことに少なからずの反感が有ったモノの、それが霧散していた。
ギャスパーは言われた言葉から来る意味に嬉しすぎて泣きたい処もあったがそれ以上に、ある大きな感動を胸中全体に渡り、占拠されていた。
そして3人の考えは一字一句同じものだった。
―――――――『凄いな』と。
そんな一夜も時間は有限故に、更けていく。
様々な思想や主義、陰謀がない交ぜになりながらも、聖書に載っている三竦みの会談が始まろうとしていた。
後書き
宝具一覧は、次の章の第1話の前に載せるつもりです。今の処。
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