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狼の森

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第二章

「そうです」
「親父さんもあの森に入らなかったしな」
「猟師は危ない場所に進んで入るなと」
「危ないとわかっている場所にはかい」
「はい、猟は獲物を確実に仕留めるもので」
 進んで危険な場所に入るものではないというのだ。
「そうした時があるにしても」
「進んで入るものじゃないっていうんだな」
「ですから俺も」
「あの森には入らないんだ」
「一人では」
「成程な、若しあの森に入るのなら」
「それこそ何人か何十人かでないと」
 そうした数でないと、というのだ。
「入らないです」
「つまり賢くあれっていうんだな」
「猟師は」
「そういうことか。それじゃあな」
「はい、狼が来れば」
 あくまでだ、森に入らずにというのだ。
「その時は仕留めますから」
「わかった、それじゃあな」
 こうしてだった、ハンスは狼がいるという森に入らずにだった。
 猟師として村を守っていた、彼は村の頼りになる猟師だった。そしてある日大きな猪を仕留めて帰ったその時に。
 村に戻るとだ、そこで。
 村の入口に狼を見た、黒い毛のかなり大きな狼だ、ハンスはその狼を見て思わず弓矢を構えた。だがだった。
 狼はその彼に向かって来ずだ、そのままだった。
 無言で彼を見ていた、ハンスは構えていたが。
 狼が来ないことにいぶかしんだ、そして。
 狼はその彼に背を向けて去った、狼が姿を消してからだった。
 ハンスはこの状況に首を傾げさせた、それでだった。
 家に帰ってだ、妻であるハンナ村で幼い頃から共にいて夫婦となった彼女に対してこのことを話したのだった。
「さっき狼に会ったがな」
「えっ、狼に」
 狼と聞いただけでだ、ハンナはその幼さが残る可愛らしい顔を青くさせてそのうえで夫に言葉を返した。
「何もなかったの?」
「ああ、村の入口で会ったけれどな」
 それでもだとだ、その時のことを話すのだった。
「それでもな」
「襲い掛かって来なかったの」
「俺の方を見てたけれどな」
 それでもだったというのだ。
「暫くして背を向けて帰ったよ」
「どうしてかしら」
「さてな、けれどな」
「無事だったのね」
「何もなかったよ」
 本当そうだったというのだ。
「向こうは見ていて帰ったよ」
「不思議な話ね」
「狼なのにな」
「狼は一匹だけだったの?」
「ああ、一匹だけだった」
 ハンナにその数のことも話した。
「他にはな」
「一匹だけだったから帰ったのかしら」
「さてな、とにかくな」
「何もなくてよかったわね」
「全くだよ、じゃあな」
 ここまで話してだ、そのうえでだった。ハンスはハンナに対してだ、笑顔になってそのうえでこう言ったのだった。
「御飯作ってくれるか」
「ええ、今からね」
「頼むな」
「今日も美味しいもの作るから」
「頼むな」
 こうして夫婦で夕食も食べた、そしてだった。
 ハンスは次の日もその次の日も狩りをして村に来る獣達を警戒していた、しかし狼の森には決して近付かなかった。
 その中でだ、ある日のこと。
 森で狩りをしていたハンスの前に一人の老人が姿を現した、ハンスはまずはその老人をいぶかしむ目で見た。
 見ればフードのある丈の長い深緑の服を着ている、顔には白い髭があり顔の下半分を覆っている。目は灰色である。
 その老人を見てだ、ハンスは彼に問うた。
「あんた何者だ」
「わしは隠者じゃ」
 それになるとだ、老人は答えた。 
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