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【IS】百万回負けても、諦めない。
前書き
ゲーム脳を戦闘に流用したらこうなる。
「……今日も負けた」
「負けたわねぇ」
エネルギー切れで這いつくばる我が打鉄ちゃんの真横に、水色の女子が舞い降りてあっけらかんと言う。もう40回は負けたと思う。
ヘロぅエブリワン。マイネームイズ浅田大成。
男性IS操縦者がどうとか言う理由でIS学園などという謎の場所に叩きこまれた俺は、政府の命令でISの実戦訓練をひたすらやらされていた。
なんでも俺の専用機を作るらしい。そんなもん要らん。この訓練用打鉄ちゃんと添い遂げる。
と言っても聞いてくれないのが俺の周囲である。ISに乗って戦うのは結構好きなのだが、大人たちは常識という眼鏡をかけ続けたせいで愛着というものを忘れてしまった古い地球人らしい。俺がどれだけ打鉄ちゃんを可愛がっているかを伝えてもちっともわかってくれない。
そして最終的に出してきた条件がこうだ。
「IS学園の2年生に国家代表の子がいるから、その子に勝ったら打鉄のまんまでええよ」
「ホンマか?」
「ホンマホンマ。まぁ出来りゃの話やけどね(笑)」
という訳で連日連夜その人――楯無という人に勝負を挑んでいるのだが、ちっとも勝てねぇ。
最初は単純に練習不足だったのもあるんだろうが、それを差し引いてもずたぼろ。それから色々と訓練して挑み直すもやっぱりずたぼろ。同級生の一夏と一緒に練習しようかと思ったが、あいつは何故か毎日剣道に明け暮れているので意味なかった。
あいつもうすぐ模擬戦だって言ってたけどISの訓練しなくて大丈夫なんだろうか。でも姉貴が天才だからあいつも天才なのかもしれない。ならどっちにしろあいつはあてに出来ん。
じゃあどうする。真っ当に練習してもとてもじゃないが追い付かないし、何より俺の専用機は既に開発段階に入っているそうなのでこれ以上負けるとタイムオーバーだ。というか、既に開発が始まっている時点で約束が反故にされてる気がするが、それでも約束は約束。
ともすれば、俺の選択肢に残った方法はたった一つしかない。
ひたすら楯無って人と戦って攻略の糸口を見つける。
というか、見つかるまで戦い続ける。
永遠と思えるほどに続くトライ&エラーの修羅の道である。
某鬼畜アクションゲームでは「百万回やられても、負けない」だったが俺の場合は負ける度に敗北数がカウントされるのでそのまま使う事は出来ない。だが、どっちも諦めたらそれで終了という点では共通している。
もうそろそろ練習時間が終わるので、帰ってデータを整理しつつまた打鉄ちゃんをカスタマイズしなければ。
エネルギー切れした打鉄ちゃんからぬるりと脱出して量子化でハンディサイズに戻した所で、楯無って人に話しかけられた。
「ねぇ、貴方って専用機を受け取らないために戦ってるのよね?」
「イエス、ザッツライト!しかし歩む道はザ・辛いという面白くもない状況なのです」
「……普通さ、勝てないからもっと強いISを使おうって考えないかな?」
「で、出た……研究所とか政府の人が散々言ってきた台詞!!」
もー耳にタコが生えてきて俺の顔に吸盤張付けそうなほどに聞き慣れた意見である。言うまでもなく却下だ。
「俺は愛着が強い人間なんですぅー。勝ちたいから打鉄を手放すんじゃなくて、打鉄で勝ちたいんですぅー」
「でも現実として打鉄使ってるのに負けてるわよね?やっぱり性能差って大きいから素直に変えるべきだとオネーサンは思うなぁ」
何、あんた政府の回し者なの?そんなに俺から打鉄ちゃんを引き剥がしたいのか!!
俺は決めたんだ。この打鉄ちゃんで一生戦うんだ。昔パトレイバーって漫画で主人公の泉ちゃんが自分のレイバーを「パトちゃん」と呼んで可愛がっていた気持ちが俺にはよく分かる。俺もこいつが可愛い。戦いで傷付けてしまうことはある程度割り切っているが、俺は遊び半分で新型を拒否してる訳じゃないのだ。
「お言葉返すようですが、打鉄に乗ってても強い人は強いです。先生方を見ればそれは間違いない。だから打鉄で勝つのは不可能じゃない。そうは考えられませんかね?」
「まぁそうなんだけど……正直それを目指すには君はまだ早すぎると思うよ。だってキミってば未熟で弱いド素人だもん」
「新型に乗ったから玄人になる訳でもないでしょ?だいたいこの学校の生徒は卒業するまで打鉄かラファール!なら条件はみんなと同じです。以上、お話終わり!!」
急いでデータを纏めないと睡眠時間を削ってしまう。俺はとっとと練習アリーナから撤収した。
= =
さて困ったものだ、と楯無はため息をついた。
政府からはどうにか彼を負かして専用機受け取りを承諾させてほしいという要求をされている。楯無としても訓練機よりは専用機に乗ってもらった方が有事の際に生存率が上がって助かる。だが彼ときたら、なんど打ち負かしてもまったくへこたれない。タフにもほどがある。
IS素人というのは大体、勝ったり負けたりで一喜一憂して浮き沈みするのが普通なのだ。くよくよ悩むし色々後悔する。そういう過程を経て、段々と戦いを理解していく。
だが彼はどうも敗北前提で戦っているように見えた。今日もショットガンやサブマシンガンなど使い慣れて見ない武器を持ち込んで色々とやっていたが、それだけだったのでさっさと撃ち落とした。
で、その癖口と態度はまだ全然勝つ気でいるのだから分からない。
さっきもはっきりと「弱いくせに意地張るな」と伝えたのに、返ってきた返事は「意地を張っても張らなくても結果は一緒」でばっさりだ。取り付く島もない。どんだけ打鉄を愛しているんだろうか。
弱い時に高性能なISを求めるのは決して悪いことではない。いずれ彼が成長すれば打鉄の性能では物足りなくなる日も来るだろうし、そもそも貰って損することなどありはしない。自分専用のISで思う存分鍛錬できるのだ。いいことではないか。
本人には伝えていないが、彼の機動は挑戦初日と比べれば驚くほど上達してはいる。武器の扱いもかなり上達した。楯無的な理想は、この辺で専用機をポンと渡してその辺の代表候補生と戦わせる。そして「ほら君はこんなに強くなってるんだよ」と伝えて自信を持たせ、さらに成長を促す……といった所か。
対戦アクションゲームはやればやるほど上達する。相手とのギリギリの戦いの中で勝利を拾い、それを糧にしていく。ISもそれと同じではないか?勝ち目のない戦いにひたすら打ち込む彼は順序を間違えている気がした。
「もっと効率いいパワーアップの方法があるんだけどなー……」
そうすれば本当に自分に勝てるかもしれないのに、と楯無は勿体無いものを見るような目線で彼の背中を見送った。
= =
ヒャッハー!IS整備室だぁ!!
食堂で貰ったお茶やおにぎりを持ち込んで食事をしながら今日のデータを洗い直す。
うーん、やっぱりあのミステリアスレイディというISは機動性重視で装甲はスッカスカみたいだ。だからといって迂闊に近づけばあのミストルティンというリーチの長い槍でブッ刺される。それでもだめならアクアナノマシンを使ってボッカン。長距離でも後れを取らないように槍には機関砲までついている。
一見して防御が低そうに見えるが、それにつられて不用意に近づくとあっさり餌食になる。当たらなければ勝てると言うより、当たらずに勝つ方法を模索したISと言えるだろう。
今日ショットガンやサブマシンガンを使ったのは、命中時にバリアエネルギーをどれほど消費しているかを確定させるためだ。……うん、データは揃った。これでどれほどのダメージを与えれば試合に勝てるかを数値化できる。
よしよし……データが揃ってきたぞ。
機動で翻弄されるのはまぁしょうがないが、逆にモンドグロッソや彼女の動きのデータを解析すれば逆算的に敵に照準を絞らせにくい動きも一種のリズムとして見えてくる。今日も何度かこっそり試してみたが、意外に猿真似でも効果があることは分かった。後はその機動を保持するためにいくらか打鉄ちゃんの装甲を軽量化する必要がある。
アクアナノマシン対策、オッケー。
ナノマシンを使用する傾向と湿度センサーの積み込み、オッケー。
取るべき機動と狙うべきタイミング、必要な攻撃量と火力。
条件を確実にするための追加装備。
流石に何十回も戦えば色々と見えてくるものがある。危惧する事態としては、次から彼女が大きく戦法やISの仕様を変更してくることだが、それは多分ないだろう。
で、そんな俺の作業風景を横からのぞいている少女がいた。
水色の髪……まさか楯無さんが送り込んだスパイじゃないだろうな!?俺は素早くデータを保存してモニタ電源を落とした。
「なんか用事?」
「………………」
眼鏡っ子である。特に理由はないが気が弱そうだ。どことなく楯無って人の面影があるので姉妹とかかもしれない。彼女はこちらに何やら複雑な感情の籠った視線を見せ、やがて口を開く。
「勝てるの?」
「勝つけど?」
ほぼ条件反射だったが、俺は自信満々に答えた。
もしもこの対策で駄目ならこの対策の何がいけなかったのかを洗い直す。
そして位置からデータを集め直してまた挑む。
「でも、今まで毎回負けてた……」
「戦わないと勝つためのデータが取れないじゃん。事前情報なしに勝つなんて無理無理」
「負けるのが怖くないの?」
何を言ってるんだこの子は。負けるのは当たり前じゃないか。
戦いってのは情報が命だ。そして、こっちは晒せる情報がないが、あちらから情報を得ることは出来る。イコール追い詰めているのはこちらだ。
「あのさ、RPGとかのゲームって時々どうやったら勝てるのか全く分からないボスとか出てくるじゃない」
「う、うん………裏ボスとか?」
「そうそう。で、勝ち方がわかんねぇ!ってなってネットで調べたりすると、実は論理立てて考えればちゃんと勝てる道があるんだよな」
「そうじゃないと、ゲームとして成立しない………」
「そういうことじゃないだろ」
ゲームだから勝てる勝てないってのはちょっと違うと思う。勝ち方が分からないから負けるんだ、というのが俺の考え方だ。
「そりゃ確かにデータ的に絶対勝てない相手ならしょうがないとは俺も思うけどさ。あの楯無って人はやって勝てない相手とは思わないね。事実、戦えば戦うほど進展があった。明日は勝つよ、あの人に」
……ちょっと見栄張ってしまった。反省である。
しかしその見栄に女の子はちょっとムキになって反論してきた。
「相手は、あなたより何年も長くIS訓練をして、ロシアの代表になった、天才。こんな短期間で、勝てる訳……ない!」
「まぁ確かにそうかもしれない。だけど少なくとも俺は専用機の開発が完成するより前には必ず勝つね。絶対に勝つね」
「負ける!貴方なんかが……お姉ちゃんに勝てる訳、ない!」
というかやっぱり姉妹だったのか。お姉ちゃん大好きシスコンなのか。
だが俺は勝つね。
「いーやそれでも勝つ」
「負ける」
「勝つ」
「負けるっ!!」
「お、言ったなぁ?じゃあ俺が明日勝てなかったら君に秘蔵のブラックサレナ・グリフォン・ブラックオックスの黒い三連星フィギュアくれてやるよ!全部が限定盤だ!!おまけにスサノオとビッグ・オーにジ・エンドもくれてやらぁ!」
「な、なら私は……ラセンガンとアヌビスとアストラナガンと……お、ORヴェルトール!……全部、ハンドメイド……!!」
「……その言葉、嘘偽りはないな?」
「そ……そっちこそ!」
勝敗の有無にかかわらず、この子は戦友認定である。
勝っても負けても黒ロボについて語り合おう。
= =
そして、当日。
「打鉄、カチコミ特攻仕様……!」
かなりの数の装甲板をひっぺがすことで機動力と馬力に余裕が出来たこの打鉄ちゃんで、今日こそ勝つ!
ウェポンセレクトはIS用シールド1枚とIS用ヒートナイフ2本。IS用拳銃一丁。ついでに細工が一つ。仕上げを御覧じろってなもんだ。これでミステリアス・レイディを攻略する!
今の俺では量子化展開は隙が大きいため、ナイフは映画「リベリオン」を参考に手首周辺の装甲板からせり出す仕組みにした。後はシールド抱えて戦うだけだ。
楯無さんは俺の打鉄の仕様に絶句している。装甲の半分近くが脱落して一部は内部機構がむき出しになっている訳だから、そりゃ正気を疑うだろう。だが心理的影響を考慮しての姿ではないので問題ない。
「あの……なんで今日に限ってそんなにハッチャケてるの?」
「今日はハッチャケる日なんですよ。じゃ、試合始めますよ!!」
見せてやる。俺のミステリアスレイディ……面倒だから略してミレディ対策を!!
まず機動!
ミレディにつかず離れずの位置で行動する。離れすぎると瞬時加速で詰められるが、ある程度距離を詰めると瞬時加速は逆に使いづらい。しかもミレディは接近戦にそれほど向いたISではないので、瞬時加速は不意打ちと回避以外にはほぼ使わないと言うデータが取れている。
なのでミストルティン内蔵のマシンガンに最適な位置に陣取って戦う。割とギリギリではあるが、プログラムを組んで瞬時加速の波形パターンを分析して自動で回避タイミングを知らせてくれるシステムも組み込んだため不意打ち対策も取ってある。
「またよく分からない事を……」
ミレディはそんな俺の行動を不信に思いつつ、いつもの事だと定石のマシンガンを使用する。
そこで盾発動。
IS世界じゃ盾はイマイチ使いどころのない装備として扱われている。それは盾で防ぐよりもバリアで受けつつ攻撃を仕掛けた方が圧倒的に効率がいいからだ。だが、その点を除けばシールドという奴は意外とISの大口径弾を防ぐことが出来てしまう。
そしてミスト砲(勝手に名前付けた)は発射口が4つあるものの口径が小さい、数で補う銃だ。なのでシールドで防げる。
シールドで防がれたことに意外な顔をしつつも複雑な機動で移動して縦横から射撃を仕掛けるミレディ。だがしかし、今までの訓練の成果かある程度目で追えるし、これまた逃げる用のナビゲートシステムをプログラムで組んでおいた。相手に対してどのように距離を取りつつアリーナ内で動き回るかのルートを自動生成するプログラムだ。ISの処理能力パネぇ。
これ、相手や僚機も含めて3機以上だと人がついて行けない複雑怪奇なルートを生成するのだが、一対一なら割と有効。このシステムの存在を相手に知られていなければ尚有効だ。おー便利便利。プログラム工学齧っててよかった。
「今日はやけに動きがいいわね……!まさか、今まで手を抜いてたの?イケナイ子だわ!これはもう貴方の自室で夜の個人レッスンね!」
「うわぁ、引くわぁ。その発言はないわぁ……」
「あら、意外と冷めた反応……」
「16歳とかババァですわ」
「まさかの今更ロリコン宣言!?……ってコラ!今の言ってみただけでしょ!」
「あ、やっぱバレます?」
別にロリコンじゃないので。ただのロボットジャンキーなので。
それはそれとして、いい加減回避機動が読まれてきた。さっきからこちらを追い詰めるような円形軌道で機体を一カ所の空間に縛り付けるように動いている。無理をすれば逃れる事も出来るが、リスクが高いし今回の作戦の趣旨から外れるので敢えて乗る。
段々と蒸してきた。湿度計をチラリと見ると、結構危ない。
クリアパッション……略してクリパの発動のために楯無さんが俺の周囲にアクアナノマシンを散布しているのだ。あれは自分の周囲にも散布できるが、こうして空間的な散布も可能。あの人ならこの状況、無理に責めずにあぶり出そうとそれを使って来ると思った。装甲が薄い分、今日はいつも以上に効く。というか恐らく喰らえば一撃死。
だがこれも計算通り。言うならば操縦者が使う定石というのは本人なりの必勝パターンな訳で、コンピュータのアルゴリスムと似通ってる部分は否めない。だからといって全部同じにはならないが、限定環境下ならホレこの通り。これも長く戦い続けて得られたデータだ。
防ぎながら、クリパの発動モーションを待つ。待つ。ただ待つ。
待っていることがばれると択をかけられて状況が振出しに戻る可能性がある。なので不信がられないように反撃が必要だ。右手の盾で防ぎながら、左手にIS用拳銃を握り、隙を見て発砲。盾を掲げながらなので照準が酷いが、とにかく抵抗しているというアピールをする。
「う~ん……悪い手とは言わないけど、それってガードしてるだけの状態に毛が生えた程度の反撃よね?せめてもうちょっと射撃訓練積もうよ」
「この試合が終わったら精進します」
実際、やらないとまずい。というのも、今回の戦法は楯無さんのミレディが紙装甲であるから成り立つものであり、他のISでは全く以て必勝戦法になりえない。射撃訓練で動ける的に当てられなければ勝つための手札が欠落しているということだ。今回は訓練が間に合わないから敢えて札を捨てたが、今後はいろいろと考える。
色んな武器で色んな戦術を試し、敗北しまくった。その経験から導き出される今の無様だ。この敗北塗れの無様な姿こそが、俺にとっての勝利の道。俺はこの手であの人に勝つ。この方法なら打鉄で勝てると確信してる。
湿度がそろそろ臨界だ。――クリパが来る。
「――所で、妙に熱いと思わない?なんか蒸すわよね~」
「ISのバリアで守られてるんで特には。――ま、この先の展開は読めますが」
今まで分かっていても喰らってしまったクリパ。だが実はそこに解決策が転がっていた。極論を言えば――クリパを撃たせることでこっちが得をするようなシチュエーションに持ち込む。
楯無さんはまだ気付いてすらいないだろう。実は――俺がとっくの昔にクリパ対策を完成させているということに。何せ一度も使ったことはないが理論上は非常に単純な方法で攻略可能なのだ。
「じゃ、いつものように一発爆発しとく?」
発火、爆発する気だ。タイミングは今しかない。
俺は量子化のインターフェイスに予めカウントセットしておいた「あるもの」を、爆発の直前に自動で出現するようプログラムしておいた。手動ではミスする可能性が高かったので、クリパの湿度と爆発までの時間を計算尽くで導きだし、それに重なるものになるよう何度もシミュレーションしたのだ。
『カウントゼロ。格納ボックス2番、解放します』
格納ボックス2番というのは簡単に言えば拡張領域という名の箱の二番目ということだ。その中からたった今、ひとつの物が解放された。
瞬間、打鉄ちゃんを中心に凄まじい勢いの風が吹き荒れた。
「な、これは一体……!?」
「……計算通り!!」
発動していない、その事に驚く楯無さん。今は細かい事はどうでもいい。重要なのは――今の風で待機中のアクアクリスタルが霧散したということ。つまり、爆発を完全に無効化したのだ。クリパの瞬間、ミレディは爆発の衝撃に巻き込まれず相手にも悟られにくいギリギリの位置で待機する。その座標に、俺はすぐさま瞬時加速で突っ込んだ。
今しかない。クリパの使用をした瞬間、一瞬だけ情報処理でミレディの動きが停止する。クロスカウンター覚悟で散々ちょっかいを出して撃墜された時に見つけ出した、普通なら欠点にすらならない法則だ。何せ停止している間、相手は爆発で一時的に行動不能になるのを前提としてるのだから。
それでも楯無さんの対応は早かった。突っ込む途中になんとかミスト槍を俺の方に向けてカウンターを狙ったのだ。
が。
実はその方が都合がいい。
俺は、瞬時加速の時点でそれを予想して、シールドを真正面に掲げていた。
するとどうなるか。
加速潰しの弾丸はシールドに防がれるが、ミスト槍の切先はシールドに突き刺さる。ついでに貫通して俺にもダメージが入るが、これこそがこの特攻のキモ。
シールドが突き刺さることによって、ミスト槍の取り回しが事実上不可能になった。
IS一機をギリギリで覆える大きなシールドががっちり刺さるのだ。しかもシールドが邪魔でミスト砲も使えない。これによって、武器を奪われたミレディは無防備になる。
そしてこれこそ最後の作戦。手首のギミックで両手にヒートナイフを握った俺は――
「必殺ルパンダイブ!!」
「えぇぇぇぇーーーッ!?」
そのまま楯無さんの細いウエストのくびれを抱きしめた。おぉう、女の子のお腹を抱きしめるとか初体験過ぎてちょっと恥ずかしい。
ダイナミックセクハラ?いやいや違う。見た目は間抜けだが――ヒートナイフでバリアエネルギーを削るにはこれが一番効率がいい!!
俺は彼女の身体をがっちり手で掴んだまま、PICコントロールで両腕の慣性をその場でがっちり固定。彼女の両脇腹にヒートナイフを押し付けた。当然ながらそんなことをすれば絶対防御が発動してバリアエネルギーが爆発的に消費される。
「くあぁぁぁぁああああ!?こ、この……ッ!?」
高熱に悶える楯無さん。ヤダ、今の俺って傍から見たらかなり犯罪者。でも勝てばいいのだ。
ヒートナイフとは、どこぞのガンダム好きな皆さんが超振動ナイフを「熱摩擦で斬るんだからヒートナイフだ!」と言い張った結果ついたあだ名である。
ヒートナイフ……ぶっちゃけIS世界ではほぼ産業廃棄物だ。当たれば威力は高いが、リーチが拳とほとんど変わらない上に空中戦では使いにく過ぎて使用メリット殆どゼロ。当然すぐにその武器は生産停止となった。
そして、その在庫がまだ学園にあると知らなかったら、俺のこの戦略は成立しなかっただろう。
「は、離れなさい!!」
「お断りだね!このタイミングを逃すと勝てないんだし!!」
ミレディの手が殴る。足が蹴る。だが残念なことにミレディはパワータイプではないのでダメージは少ない。それでも軽量化したせいで構造的にダメージが入りやすい部分がどうしてもあり、彼女はそこを重点的に狙って効率的にダメージを与えてくる。かなり、バリアの減りが早い。
だが、それでもヒートナイフが先にバリアを削りきる。その計算を信じて、衝撃に揺られながら死に物狂いでヒートナイフを押し当て続ける。長剣には出来ず、銃にも出来ず、だがヒートナイフにだけ出来る――ゼロ距離継続ダメージだ。ナイフの熱と振動によるダメージは、剣でひたすら切りつけられているのと同じことだ。そのダメージは凄まじい。
ミレディの失態は一つ。第三世代武装と複合武器に殆どの容量を取られ、完成されたコンセプトと代償に汎用性を失ったことだ。つまり、今この瞬間のような事態を予想していなかったのである。
湿度が爆発的に上昇し始めた。もう一度自爆覚悟でクリパを使用する気だ。だが、それは間に合わない。
「ひ、ヒートナイフの熱で水分が拡散されてる……!?散布が間に合わない!!」
「そゆコト!これならギリギリで間に合うって寸法さ!!」
相手のバリアはあと少し。こっちもバリアはあと少し。計算でもそうだったが、ナイフを押し付けている間に受けるダメージを極限まで減らし、かつ確実に瞬時加速で取りつけるための装甲配分だったために相当ギリギリだ。
「ギリギリ……押し勝てぇぇぇーーーーーーッ!!」
『ミステリアス・レイディ、残存ENゼロ。勝者、浅田大成!!』
なお、その瞬間を見ていた山田先生と千冬。
「うっそぉ……勝っちゃいましたよ。あんなので」
「あの馬鹿、あんなセオリー無視も良い所の戦闘で……国家代表に勝つか普通?」
素直に負けていれば普通に専用機を受け取るだけで終わったのに……と事情を知る千冬は呆れ果てた。
打鉄ニストの末路、という言葉が頭を過ったのは気のせいである。
さらに、その光景を見ていた簪とのほほん。
「か、会長が負けちゃった……あさりんすごぉーい!!」
「………本当に勝っちゃった」
「ねえねえかんちゃん。クリアパッションの瞬間に起きたあの風ってなんだったんだろう?」
「……!まさか、圧縮空気を量子化して、格納してた……!?滞留するアクアクリスタルを、物理的に押しのけるために………!?」
今まで誰も気づかなかった思わぬ弱点に戦慄する。これなら自分でも姉に勝てたではないか!とかなり悔しがると同時に、敗北から学ぶことの大切さを教わった簪だった。
完全勝利、という文字が頭を横切ったのは気のせいである。
ちなみに別の場所で見ていた一夏、箒。
「勝ったな」
「あ、ああ」
「でも、何ていうか……最後のアレってやった大成も問題だけど、あんな方法で負けちゃう生徒会長もアレだよな」
「浅田大成………ただの意地っ張りかと思ったらとんでもない執念だった」
高レベルな読み合いともマヌケな結末とも呼べる結果に、なーんか部妙な気分になる二人だった。
ちなみにセシリアはというと……言葉に出来ない状態で暫くその光景を呆然と眺めていたという。
そして……その後、大成は約束通り簪にフィギュアを受け取るついでに黒ロボの格好よさについて一晩語り合い、結局代償として自分の秘蔵フィギュアも結局彼女に渡すという盛大な交換会になった。
楯無は実力で勝っていた筈の自分があんな方法で敗れたことが悔しかったのか、その後ミステリアス・レイディに設計レベルの改良を加えたそうだ。ついでに「私に勝った貴方が弱いんじゃ困るのよ!!」と大成を度々連れ出してはマンツーマン訓練を課したという。
なお、大成は敗北の腹いせに楯無に脇腹をさんざん擽られ、仕返しに擽りかえすという小学生みたいな応酬をしているうちに変な空気になって、以来ちょっと互いを意識し合っているようだ。
そして――
「打鉄でこれだけやれるんなら専用機でもっとやれるよね?という訳で乗り換え決定!」
「裏切り者ぉぉぉぉぉ!!うおぉぉーー俺の打鉄ちゃんがぁぁぁぁ!!!」
「コアはその打鉄のを移植してあげるから贅沢言いなさんなよ」
「こうなるとは薄々思ったんだけどさぁ………大人って汚いッ!!!」
専用機決定。打鉄ニスト敗北である。
後書き
メディウス・ロクスも格好いいな。ストライクノワールの格好よさも異常。ズワァースもいいよね。M9ファルケやアウセンザイターは見た目より動きが格好いい。ブラックゲッターも非常にイイ。ラインバレルの黒化もロマンだね。ああでもゲシュペンストのフォルムもいい。ガウェインと蜃気楼も嫌いじゃないし、強さで言えばマスターガンダムは外せない。最近ではバンシーやガリルナガンなんかもいいね。あぁ………黒ロボたまらん。打鉄を赤と黒のカラーリングで塗り上げたい。あとレーゲンの名前をトロンベにしよう。
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