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美しき異形達

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第三十八話 もう一つの古都その三

「名物とも美味しいとも思わないのよ」
「そうなのね」
「お素麺にしてもそうよ」
「三輪素麺って違うのね」
「私達から見ればね」
 奈良県民以外の人間からしてみると、ともだ。菖蒲は裕香に告げた。
「違うの」
「そうなのね」
「そう、それとね」
「それと?」
「これから私達が行く場所だけれど」
「東大寺ね」
 まずはそこだった。
「あそこの大仏さんね、正倉院も行くし春日大社も若草山も」
「そうした場所も」
「ううん、奈良県民からしたらね」
 それこそ、と言う裕香だった。
「何でもないかしら」
「そう思えるものよ」
「そこに住んでいたら」
「そう、東大寺の大仏さんにしてもね」
 それもというのだ。
「世界で最も大きな像だと言われているから」
「確かに凄く有名だけれど」
「有名どころではないわね」
「世界的によね」
「あの大仏さんはね」
「何でもないって感じだけれどね」
 奈良県民からしてみればだ、裕香はその立場から答えた。
「あの大仏さんも」
「鹿もでしょうか」
 桜は奈良県の象徴とも言っていい動物について問うた。
「あの子達も」
「鹿?」
「はい、もうすぐ会えますね」
「奈良県民でここの鹿好きな人いないわよ」
 裕香は期待している感じの桜にあっさりと答えた。
「物凄く態度大きくて悪食で悪戯には絶対にやり返してくるから」
「そうなのですか」
「人間慣れしてるし元々春日大社の神獣だから甘やかされてるからね」
 それで、というのだ。
「もう何をしてもいいって考えてるのよ」
「だからなのですか」
「奈良県民は皆嫌いよ」
「愛されていないマスコットなのですね」
「食べるものは子供のお弁当でも雑誌でも横から取って食べるし」
 裕香は顔を顰めさせて桜に鹿達のことを話していった。
「幾らでも食べるから、鹿煎餅も」
「別に餓えてねえよな」
 薊は裕香の話を聞いて彼女に問い返した。
「ここの鹿って」
「餌もちゃんと貰ってね」
「そのうえでかよ」
「さらに食べるの」
「それはまた酷いな」
「下手すればお弁当の中のお肉やお魚も食べるの」
 言うまでもなく鹿は草食生だ、だがそれでも春日大社の鹿はなのだ。
「多少お口の中に入っても平気みたいなの」
「とんでもない鹿ね」
 向日葵もその話を聞いて呆れた。
「実態はそうなのね」
「そうなの、もうすぐで会えるから」
 丁渡ここで商店街を出た、左手には近鉄線奈良駅がある。近畿日本鉄道の主要な駅の一つでもある。
「鹿にね」
「いよいよかよ」
「そう、下手にちょっかい出さないでね」
 裕香はそこにいる全員にこのことを注意した。
「背中向けた時にやり返してくるから」
「背中向けたらかよ」
「油断したその時にね」
 まさに、とだ。また薊に話した。 
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