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とある愚者の転生記

作者:冬夏春秋
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リリカルなのは編
  第五話 俺は、野比のび太。風小(風芽丘小学校)の二年生だ

 それは、友達と連れだってサッカーをした帰り道だった。
 夕日が落ち始める中、少し離れた前を2人の少女が歩いており、「今日のご飯はなんだろう?」なんて、ぼうっと考えながら歩いていた。今にして思えばかなり緩んでいたんだろう。「堅」も「纏」もせずに歩いていた。

 よくある白のワンボックスカーがかなりの速度で俺を追い越して行き、2人の少女の傍で急停止し、中から大人が数人降りてきた。
 一瞬だった、と思う。2人を囲み、車の中に運び入れた。

「えっ? あれ? 誘拐?」
 余りのことに反応できなかった。というか、現状と認識が追いつかない。なにこれ?

 おろおろしていると、後頭部に痛みが走り、そして気を失った………。





「おい、何で子供が一人多いんだ?」
「へへ、すいやせん、兄貴。ちょうど誘拐されるところを見られちまって………。放置しておくのもまずいと思ったんで後ろから殴りつけてついでに運んで来やした」
「そうか。まぁ、見られたんなら仕方がねぇ。後始末はきっちりしとけよ」
「「「「「「「「へい!」」」」」」」」
 むぅ、なんだかかなり理不尽なことが言われてる気がする。どうやら腕・足を縛られ、猿轡(さるぐつわ)をはめられ、芋虫のように転がされてるみたいだ。耳をすますとなんだかいかにもちんぴらな声が複数とやり手の男っぽい声がする。

「まぁいい。オレはクライアントに連絡を取るから、お前らは別れて見張ってろ。1時間したら予定通りに順に休憩しろ。いいな、あと3日で大金が手に入るんだ、ぬかるんじゃねえぞ!」
「「「「「「「「へい!」」」」」」」」
 どうやら、誘拐事件に巻き込まれたようです。別れて見張るためでしょう、誘拐犯どもは部屋から出て行きました。
 つうか、この後頭部の痛みは気を失わされるために殴られた痛みのようです。
 ぜってぇ、許さん。殴ったやつを見つけ出して倍返しだ。

 はっ。なんかあまりの痛みに黒い思考があふれだした………。

 とりあえず、「絶」で痛みと体調を整え、次に「円」で周囲の調査をおこなう。
 どうやら廃棄されたビルか何かのようだ。埃が溜まってる床に転がされている。体をずりずりと動かし、壁を伝って身を起こす。ついでに舌にオーラを集め、刃物状に変化させ、猿轡をかませている布をなんとか切り裂く。
 うん、俺ってば、微妙に器用だよなぁ。これも修行の成果と思っておこう。
 気を取り直して傍らを見ると、女の子が2人手足を縛られ、転がっている。まぁ、これは「円」の効果で知ってはいた。
 改めて見ると、俺と同年代っぽい金髪のお嬢さんと紫髪のお嬢さんだ。
 あー、これはあれだな! バニングスさんと月村さんの誘拐イベントだ。この髪の色のペアは多分間違いない。なんか転生して初めてテンプレなイベントに遭遇したな。バニングスさんの身代金か月村さんの血族か。
 だがテンプレ通りなら、誘拐されるのを助けに行って、戦闘民族高町人とニアミスするんだよなぁ。助けに行くんじゃなくて、一緒にさらわれてどうするよ、俺。

 微妙に今の自分に凹んでいると2人が目を覚ましたようだ。

「「うーん」」
 自分の状況がつかめないんだろう、2人とも目をぱちくりしている。

「何よ……」
「えーと、ここは何処ぉ?」
 手足を縛られ転がされてるのに気付いたのか、一転してパニックになったみたいだ。

「うるさいぞ、ガキども。静かにしとれや」
 この部屋の扉の向こうの見張りだろうチンピラが、ガンッと扉を蹴り、威嚇して来た。
 とりあえず、部屋に入って来ないようなので助かった。

「アリサちゃん」
「すずか」
 ビクッとしてお互いに気付いたのか、声を掛け合います。

「気ぃついたか。大声を出しても無駄だから喚くんやないぞ。それと逃げ出そうとしても無駄やからな」
 チンピラにそう言われて、2人は自分達が誘拐されたと理解したんでしょう、顔から血が引けてます。

「あぁ、落ち着いて、2人とも。パニクるのはわかるけど少し落ち着こうか」
「「誰?」」
 おや、全然気付いてませんね。って、「絶」をしてたから気配が無かったか。
 「絶」を解き、小声で話しかけます。

「俺は、野比のび太。風小(風芽丘小学校)の二年生だ」
 小声で話しかけたのを察したのでしょう。2人は互いに目を合わせて、「アリサ・バニングスよ。聖祥大学付属の二年生」「月村すずかです。アリサちゃんと同じで聖祥大学付属の二年生」と答えてきます。

 やっぱりこの2人はアリサ・バニングスさんと月村すずかさんでした。いきなり原作?に巻き込まれました。どちらかというと「リリカルなのは」よりも「とらいあんぐるハート」っぽいが。

 その後、3人でわかっていることを話し合います。というか、この2人、すごいなぁ。「落ち着け」言った俺が言うのも何だけど、こんな状況でよく落ち着けるよなぁ。本当に小学生か?

 とりあえず、落ち着いて手持ちのカードを確認してみる。
 念による身体強化。多分、戦闘民族高町人でもない、そこそこの荒事に慣れた程度の大人なら無双できるはず。ただ、刃物程度なら「堅」で防げるが、相手が銃とかになると「堅」でどこまで防げるかわからん。「硬」の一点なら余程大丈夫と思うけど、その一点を外してしまうと大惨事になるな。
 霊剣。五十センチくらいの包丁程度の切れ味の刃にオーラを変化させれる。場所は手や指、足先とかだ。まぁ、さっきは舌先で猿轡を斬ったが。指先からの霊剣で手足を縛っているロープを斬ってしまえばすぐに自由になれるので、今のところ、落ち着いていられる。
 気弾。十秒くらい時間をかければ、指先にゴルフボールぐらいに圧縮した気弾をオーラで作り、発射できる。堅さは多分野球の硬球くらい。オーラ自体はそれなりの技能か才能を持ってなければ見えないはずなので、ダメージはそこそこでも、当て方次第では戦力になるはず。
 螺旋丸。ランダムな乱回転は無理だけど、一方向の順回転はできるようになった。ただ、攻撃の面では、オーラで覆った拳や蹴りが当たれば、わざわざ気当てや「硬」を使ってダメージを増やさなくても、気絶させる程度のダメージを与えれるはず。というか、下手に「硬」を使った攻撃を与えた場合、確実に致命傷になりそうなので、そこまでのダメージを与えないでなんとかしのぎたい。もちろん、こちらの命とかには変えれないが。
 魔法。
 発動に時間がかかるので、まぁ、使えそうなのは「バインド」で拘束するぐらいか。他に習っているのは、実戦で使うのはまだ修練不足だな。下手に頼らない方が良いだろう。
 うーん、これぐらいか。結論的には、一般人なら銃とか使われなければ余程大丈夫か。 

「ちょっと、聞いてるの!」
「アリサちゃん、声が大きいよ~」
 ありゃ、手持ちのカードを確認してたら話しかけられてるのに気付かなかったらしい。

「ごめんごめん。ちょっと考えごとしてた」
「もう、しっかりしなさいよ。何でアンタはさらわれたのよ?」
「あー。あれだ。たまたま誘拐現場を目撃したらしくて、一緒に連れ込まれたっポイ」
 気にするかなぁ、と思っても他に言いようがないので正直に答える。この辺、精神年齢合わせて四十越えてても上手くごまかせない。

「えっ。ごめんなさい。巻き込んじゃたのね………」
「ごめんなさい………」
 あー、なんて言うか話してきたバニングスさんだけじゃなく月村さんも落ち込んじまった………。

「バニングスさんも月村さんも落ち込まないで。これぐらい、なんともないから」
「なんともないって………。まぁいいわ、バニングスじゃ呼びづらいでしょ。アリサでいいわ、代わりに私も名前で呼ばせてもらうから」
「うん、私もすずかって呼んで。よろしく、のび太君」
 いや、いきなり下の名前で呼び合うってどうなの? 小学生なら普通なのか? 俺が気にしすぎなのか?
 いや、良いんですよ。笑いたかったら笑っても。2人とももう気付いてるんでしょう。俺の名前に。初対面の人が笑いをこらえてるのは前世も含めて何度もあった。だから気にしないしね。

「わかった。こちらこそよろしく。アリサさん。すずかさん」
 さて、これからどうするか話さないと。

「えぇっと、アリサさんとすずかさんは今の状況的に心当たりはあるのかな?」
「うーん、どうだろ? 家の方に関係するのかも知れないけど………」
「………私も」
 2人ともわからないか。あとすずかさんのほうは微妙に反応が鈍いな。
 あぁ、『とらハ』の方だとなんか吸血鬼がどうのって話しだったか。誘拐犯がそっち方面だとちょっとまずいか。もう一回「円」で探るか。
 ふむ。改めて調べると確かにすずかさんが他の人間とは違うことがわかるな。禍々しい感じはないけど明らかにオーラの質の感じが違う。身体能力的には念で強化した俺とそう変わらんかもしれん。

 と、よかった。「円」で調べる限り、すずかさんのような感じがする人は他にいない。まぁ、1人2人鍛えられてる感じがする人はいるけど、念能力者の俺ならどうとでもなる。

「そっか。助かるかな? 俺たち」
 まぁ、すずか姉から高町兄のラインがあるなら、どうとでもなると思うけどそのへんどうなんだろ?

「大丈夫よ、きっとパパが助けに来てくれる!」
「そうよ!お姉ちゃんならこの場所も見つけて助けてくれる!」
 むぅ、なんとも判断しにくい答えだ………。

「いゃぁ、無理やろ」
「そうそう。お前さんらも不幸だね。たまたまターゲットの近くにいただけで巻き込まれて。まぁ、そっちの坊主には死んでもらうが、そっちの金髪のガキはそういうのを好きな輩はたくさんいるからそいつらに売ったるしな。クライアントに渡すのはそっちのガキだけだからな」
下種な笑いをしながら、隠れて聞いていたのか、俺たちの反応を楽しもうとする誘拐犯達。だが、自分が巻き込んでしまったと知ったすずかさんはともかく、巻き込まれたカタチのアリサさんや俺は奴らの希望通りの反応はしない。

 ガスっ。
 反応が気に入らなかったんだろう、チンピラの一人に腹を蹴られた。「スカしてんじゃねぇぞ、ガキ」とかなんか言ってるが気にしない。
 ぜってぇー、倍返しと心に決めたけど気にしてないよ。
 「纏」でダメージは全然無いから気にしてないよ。
 ホントダヨ。
 
 とりあえず、腹を蹴られて苦しんでる振りをする。

 なんか、誘拐犯のリーダーらしき奴がべラベラしゃべり続けてる。
 「夜の一族」がどうの「吸血鬼」がどうの「化物」がどうのとか、聞いちゃいけないキーワードが盛りだくさんだ。

「だからどうだって言うのよ! 何を言われてもすずかは友達なんだから!」
「アリサちゃん………」

 うーん、俺ってば空気? まぁ、いいや。そろそろ俺の堪忍袋の緒が切れる。言いたい放題やりたい放題しやがって。

 まずは、指先から伸ばしたオーラで縛っているロープを斬って。
 最初の奇襲のために「隠」で隠しつつオーラを練って、身体強化する。
 オーラを込めて攻撃して下手に念に目覚められても困るので、殴ったり蹴ったりする相手との接点は「流」によりオーラを0にする。念のため両指に斬ったロープを巻いて即席でグローブみたいなものを作り、オーラを0にしたことにより怪我をしないように準備をする。
 ちょうど2人と話してる誘拐犯の後頭部が最初の獲物だ。
 
 さぁ、ここからは俺のターンだ。
 お前の罪を数えろってか。  
 

 
後書き
リニスを呼べば済むのにうっかりそれに気付かない我らが主人公。
ここからは、主人公の無双タイムです。たぶん。きっと。 
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