Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-
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A's編
第九十五話 慌しい年明け
平和な新年を迎え、小学校も三学期が始まった頃、士郎はというととてつもなく慌ただしいことになっていた。
勿論、なのはやフェイト、はやては管理局での仕事が始まり始まるため、手続きやデバイスの調整や訓練など普通の小学生に比べれば忙しい。
はやては夜天の書が消滅したので、デバイスがないため新規デバイスの開発も行っている。
対してアリサとすずかは未だ魔術回路の起動も行っていないので、しばらくは平穏なものだ。
そして、士郎はというと
「ではすみませんが、こちらの備品リストを資材部から運び入れてください」
備品リストを渡すと同時になる通信
「はい、衛宮です」
「お疲れ様、衛宮君」
「マリーさん、お疲れ様です」
「申し訳ないんだけど緊急のミーティングが入っちゃってデバイスの受渡しと試験起動の時間を変更できないかな?」
「ちょっと待ってください。
一時間後ろ倒しならグレアム提督の予定も、私も大丈夫です」
「じゃあ、悪いけど、その予定でお願いしてもいいかな?」
「了解しました。
グレアム提督には私から伝えておきます」
「ごめんなさい、お願いします」
「はい、では失礼します」
「士郎、新規端末一式の運び入れがまだされていないんだけど、書類は渡したよね?」
「ああ、アリアから受け取って確認してそのまま運用部にまわしたぞ。
運用部の方で滞ってるんじゃないか?
グレアム提督が第六小会議室で会議中だから会議が終わったら運用部に寄ってもらうようにメッセージを入れておいてくれ。
ロッテ、提督が運用部と話をつけたら端末の運び入れを手伝いに行ってくれ」
「ええ、また私なの」
「適材適所だ。
アリアはともかくロッテは書類系や問い合わせは得意じゃないからな。
それにこれ以上遅れると端末のバージョン更新と設置が今日中に終わらない」
「うえ~い」
とまあ、魔術を扱う新規部署の立ち上げというわけで使う部屋も新たに、部署で使用する端末やデスクなどの準備に追われている。
嘱託である士郎がやるというのも変な話ではあるが、特殊な部署であり部隊長がギル・グレアム。
所属魔導師また魔術師は衛宮士郎、その守護騎士リインフォースの二人。
グレアムの使い魔リーゼアリア、リーゼロッテの課長含めても五名という小規模な課である。
さらに士郎は嘱託であり、士郎の守護騎士であるリインフォースも嘱託扱いである。
つまり管理局正規局員が部隊長であるグレアム一人というあり得ない部署なのである。
しかし、あり得ない部署とはいえ新規立ち上げには必要な備品や書類などが山積みであり、グレアム一人で手が足りない上に部隊長としての業務もあるため、士郎達が手伝うことになった。
だがリインフォースはこういった書類仕事をしたことがないし、ロッテは性格上苦手としている。
アリアはまともに出来るが処理能力は士郎がこの四人の中ではずば抜けており結局士郎が主体となっているのだ。
つまりは士郎は小学生の生活、デバイスの開発試験立会い、新部署の立ち上げ、新規嘱託職員として技能測定や書類などの業務まで行っているのだ。
そんな時
「お疲れ様、調子はどう?」
「レティ提督、お疲れ様です。
デバイスの受渡しと起動試験時間の変更、人事部、経理部からのグレアム提督のサインが必要な書類の滞留、出向候補部隊からの問い合わせが十六。
まあ、昨日より滞留若干増といったところですか」
「……それを平然と答える方がすごいわね。
魔導師じゃなくて事務員で良いからうちに来ない?」
「候補の一つとして考えておきます」
残念と首をすくめるレティだが、士郎の事務処理能力の高さを認めており、本気でほしい人材だと思っている。
出来ることなら自分の秘書として
「それで何かありましたか?
期限切れの書類はなかったと思いますが」
「それはないわよ。
息抜きがてらこれを届けに来ただけだから」
封筒を士郎に差し出すレティ。
「拝見しても?」
「ええ、大丈夫よ」
嘱託と正規局員では目を通してはまずい書類もあるので念のためレティに確認してから書類に目を通す士郎。
それは
「新規部隊の立ち上げ、正式承認書類ですか。
そういえば今までは仮承認でしたか」
「ええ、これで今日から正式に立ち上げ決定。
部署、課名もこれで決まったわ」
士郎の持つ書類には
『希少技術管理部魔術技術課』という部署名と課名が書かれていた。
「これでIDカードの所属部署、課の情報が更新されるから帰る前に人事課に寄ってね」
「了解しました」
「それじゃ頑張ってね」
「ありがとうございます。
ああ、それと」
士郎の言葉に首をかしげ、振り返るレティ。
「運用部で新規端末一式導入の書類が滞っているのでお願いします」
「まったくうちの子達は。
了解、急いで処理させるわ」
「ありがとうございます。
ロッテ、レティ提督についていってそのまま運び入れてくれ。
アリア、グレアム提督のメッセージはキャンセルだ」
「「は~い」」
レティとロッテを見送って、書類を封筒に戻し、赤ペンで『優先確認』『人事課へIDカード更新』と書かれた付箋を封筒に貼り付けグレアムの書類が溜まっている仮デスクに置く。
それとほぼ同じタイミングで
「士郎、邪魔をするぞ」
「やっほ~、士郎君」
クロノとエイミィがやってきた。
「いらっしゃい、バタバタしていてお茶も出せないが」
「この忙しいタイミングでお茶を飲みに来たりしないさ」
「そそ、士郎君のお茶はとっても魅力的だけどね。
ここに来たのはエステート補佐官から士郎君宛ての書類を預かったついでに様子を見にね。
そこでレティ提督達とすれ違ったけど」
エイミィさんから書類の入った封筒を受け取り、先ほどの書類と同じように『エステート補佐官より』『優先』と書いた付箋を張り、士郎の仮デスクに置き
「運用部で書類が滞っているので、お願いしました。
ロッテは新規端末一式の運び入れとヘルプ要員です。
と、すみません」
部屋の通信が鳴り、二人に断って士郎が通信を受ける。
「お疲れ様です、衛宮です」
「お疲れ様です。
先ほどの備品リストなのですが、申し訳ありません。
資材部の在庫リストに不備がありまして個数に不足があるものがいくつかあるのですが」
「ないものは補充され次第でかまいません。
とりあえず備品リストであるものをお願いします」
「了解しました。
では失礼します」
「お願いします」
局員と対等どころか、年上のはずの局員のほうが士郎に下手に出ているという光景を目にして、ある意味士郎らしいと苦笑するクロノとエイミィだが、来るタイミングが悪かった。
「ところでクロノとエイミィは手が空いてるか?」
通信が終わり、二人に視線を向けることなく、そのままなにやら操作しながら投げられた士郎の言葉
「ああ、特に急ぎの仕事はない」
「うん、私も大丈夫だよ」
書類を届けてほしいとか、何かお願いをされるのかと思い正直に答えた二人だが
「それはよかった。
エイミィ、新規端末一式がもうすぐ運び込まれるから、端末のバージョン更新を頼む。
クロノはバージョン更新が完了した端末の設置とグレアム提督宛に来ている魔術関連の質問項目の回答を埋めてくれ」
「「……はい!?」」
士郎からのいきなりに作業指示に目を丸くする二人。
「いや、待て。
士郎、手伝うのはいいが、他部署の手伝いとなると上に話を通しておかないと」
「問題ない」
その言葉とほぼ同時に開かれる通信モニター。
「お疲れ様です。リンディ提督」
「はい、お疲れ様です。
何かあったの?」
「新部署の立ち上げの作業要員が足りていないのでクロノ・ハラオウン執務官とエイミィ・リミエッタ執務官補佐を二時間程、貸していただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「いいわよ。
急ぎの仕事も今はないしね」
「ありがとうございます。
このお礼はまた別の機会に」
「はい、期待してます。
じゃあ、頑張ってね」
手を振るリンディに頭を下げ、通信を閉じ、クロノ達に振り返る士郎。
「直属の上司の許可も取得したから頼んだぞ、二人共」
「はあ、了解した」
「さすがに士郎君、抜け目ないな~」
まさか書類を届けた先で手伝うことになるとは思わなかったので、若干肩を落としながら了承する二人。
そしてタイミングを計ったかのように
「は~い、新規端末一式と書類お待ち~」
端末資材一式をロッテが運び入れる。
どこぞの出前だという言葉を飲み込み、ロッテから書類を受け取り確認して不備がないことを確認する。
「あれ、クロ助とエイミィじゃん」
「ヘルプ要員だ。
エイミィが端末のバージョン更新をしてくれる。
クロノと一緒に設置をしてくれ」
「……士郎、人使い荒くない?」
不満そうに士郎に視線を向けるロッテに
「失礼だな。
これでも余裕を持たせているぞ。
もっとも二時間半後にはデバイスの受渡しと起動試験で俺とグレアム提督がいなくなるからな。
その前にキリをつけてないとアリアとロッテの二人でやることになるが」
士郎の言葉にアリアとロッテが揃って顔を青くする。
士郎が司令塔になっているから回っているが、士郎もグレアムもいなくなれば間違いなく何かしら滞り厄介なことになるのは目に見えている。
「クロ助、エイミィ、急いで片付けるよ!」
クロノともエイミィもロッテがあせる気持ちがわかるので、頷き作業に取り掛かった。
そして、きっかり二時間後
「ふむ、なんとか形になったか」
部隊長であるグレアムに、リーゼ姉妹、士郎、リインフォースの端末付きのデスクに、今後のメンバーが増えた時のための予備端末とデスク。
各書類を保存するためのキャビネットやロッカーなど一通りのものが揃い、並べられていた。
「士郎、一気にやりすぎだろう」
仮の簡易デスクと持ち運び式の端末しかなかった部屋に一気に運び込んだのだ。
呆れたようなクロノの言葉はもっともでもあるが
「今日、デバイスを受け取ったらテストが詰まってるからな。
手伝う時間もなかったから仕方がない」
デバイスの受け取りの後、テストが詰まっている士郎のスケジュールを考えると仕方がない。
グレアムやリーゼ姉妹は士郎が手伝うまで実際に滞留させてしまっていただけに反論すら出来ない。
「デバイスの受け取りの時間は大丈夫なの?」
「おかげさまで。
さて、お茶でも淹れて一息入れるか。
氷がないからホットになるが」
「ありがとう。士郎君の紅茶なら大歓迎だよ」
エイミィの言葉に頷きながら人数分のお茶の準備を始める士郎。
士郎がお茶の準備を始め、クロノ達が肩の力を抜いている中で端末と書類の処理に追われている者が一人。
「あの……提督、大丈夫ですか?」
「ああ、私はクロノ達のように肉体労働をしていたわけじゃないからね。
それに私が戻るまで進めてくれていた書類のおかげでだいぶ助かっている」
闇の書事件以降、急激に衰えたようなグレアムにクロノが心配そうに視線を向けるが、当の本人は肩の力が抜けたように穏やかなものだ。
そこに紅茶を用意した士郎がやってくる。
「肉体労働をしていないとはいえ、会議など役職ゆえの疲労もあるでしょうから程々に。
とはいえ優先度、期限順にまとめているので最低限は進めてもらわねばなりませんが」
「ああ、優先度が高いものももうすぐ片付くから良いところで今日は上がらせてもらうよ」
グレアムの言葉に頷きながら、紅茶と士郎が地球より持参したチョコレートを二つほど横に置く。
「さすが士郎だね。
チョコとは気が利いてる」
「だね。
疲れた時は甘いものほしくなるし」
「市販のものだ。
たいしたものじゃない」
アリアとロッテの褒め言葉にも軽く首をすくめて見せるだけの士郎だが、その士郎の言葉にエイミィが反応した。
「市販のものということは、部署の運用が本格的に始まったら士郎君のお手製が出てくる可能性があがるということかな?」
「いつもは無理ですよ。
たまには用意するつもりですが」
「うはあ~、それはなんとも魅力的な」
羨ましそうなエイミィの言葉にわずかに首を傾げる士郎。
当の本人はそれなりに自信はあれど、翠屋本局出張店時代にどれだけのファンが出来たのか正しく理解していない。
「士郎のお手製おやつか。
事務職がいないからそれを餌に優秀なの一人か二人ヘッドハンティング出来ないかしらね」
「アリア、頼むからやめてくれ。
それをやったら本当に出来そうだから」
アリアの呟きにかなり本気で嫌そうな顔をするクロノ。
士郎本人は出来るはずないだろうと内心で苦笑しているが、クロノの横でエイミィが
「本当に出るなら悩むな~、でもクロノ君から離れるのもアレだし、情報を教えて分け前をもらうという手も」
などなど呟いており、あながち不可能な話でもないのかもしれない。
ともあれちょうどいい時間ということで
「なら、俺とグレアム提督はデバイスの受渡しとテストに行ってくるから」
「了解、一段落は着いたから私達でも大丈夫。
助かったよ」
「じゃあね、士郎」
士郎とグレアムはマリーの所に向かい、クロノとエイミィも自分の部署に戻るために士郎達と共に部屋を出たのが
「ねえ、クロノ君。
士郎君のデバイス、気になるんだけど」
「まあ、僕も気にならないと言ったら嘘になるんだが、急ぎの仕事もないし、たまには良いか」
ということでクロノとエイミィも士郎達について来ることになった。
そして、マリーの待つ部屋の扉を開けて出迎えたのは
「いらっしゃ~い」
意外な人物だった。
後書き
というわけで第九十五話でした。
本当は士郎のデバイスの受渡しと初回起動の話しにするつもりが気がついたら、まったく関係のない話になっていたり。
執筆がのってたまにやってしまう。早く話を進めなさい私というのです。
さて、ぼやきは一旦置いておいて、前回の九十四話が実は公開百話目でした!!
もっとも感想でおめでとうを頂き初めて知って、ぜんぜん意識してなかったんですがね。
もう百話目かという気持ちと、公開してからようやく百話目かというなんとも複雑な心境でもあります。
何はともあれ、今後ともF/mgをよろしくお願い致します。
次回は遂に士郎の新たな相棒が公開です。
更新は三週間後、二十七日当たりに更新します。
それではまた次回お会いしましょう。
ではでは
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