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戦国異伝

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第百九十六話 二匹の虎その十

「あの国にはな」
「?では何処に」
「何処に行かれるのですか」
「これから北に進みじゃ」
 そして、というのだ。
「信濃に入る」
「あの国にですか」
「入られるのですか」
「武田は降った、既に武田の領地は全て織田の領地じゃ」
 そうなったからだというのだ。
「最早通っても何ともない」
「では加賀に進まれずに」
「信濃に入られるのですか」
「そこを通りじゃ」
 信濃、この国をというのだ。
「そして越後に入るぞ」
「!?そうでしたな」
 丹羽が信長のその話を聞いてだ、はっとした顔になり主に言った。
「信濃から越後は近い、しかも」
「海津からすぐにじゃな」
「上杉の本城である春日山です」
「だからじゃ、信濃から上杉の本国を攻めるぞ」
 その越後をというのだ。
「わかったな」
「そうされるのですか」
「越後を一気にですか」
「攻めてそうして」
「敵の本拠を陥としますか」
「そうじゃ、猿夜叉を助けに行くよりその方が遥かによい」
 金沢にいる彼をいうのだ。
「よりな」
「しかし猿夜叉殿は」
 林は長政ならと思いながらあえて信長に問うた。
「上杉五万の軍勢に囲まれ攻められております」
「危ういというのじゃな」
「はい、相手は上杉謙信です」
 あの軍神だ、攻められて堪えられる相手ではないというのだ。
「そう容易には」
「その通りじゃ、しかしじゃ」
「それでもですか」
「金沢の城は築城中とはいえその守りは固い」
 まずは金沢城の堅固さを言うのだった。
「城壁は高く堀は深い、しかも櫓も多い」
「あの城ならですか」
「それに兵も二万おる」
「その二万の兵に、ですな」
 丹羽はここからは自分から言った。
「猿夜叉殿に浅井家の方々なら」
「猿夜叉は守りにも強い、かなりの数に攻められてもな」
「上杉の五万の軍勢でも」
「守られる」
 これが信長の読みだった。
「あの城には兵糧も鉄砲も多く置いてあるしのう」
「さすれば、ですか」
「猿夜叉ならば守ってくれるわ」
「そしてその間に我等はですか」
「春日山に向かうぞ」
 上杉の本城であるこの城にというのだ。
「よいな」
「はい、さすれば」
 丹羽も頷きそうしてだった、信長は諸将に言った。
「では今日は休みな」
「それで、ですな」
「明日からは」
「信濃に進む、そして信濃を北に進みじゃ」
 そうしてというのだ。
「春日山に向かうぞ」
「ではこのまま」
「上杉との戦に」
「さて、わしが信濃に兵を進めれば」
 それでどうなるかもだ、信長は笑っていた。それで確かな笑みを浮かべてそのうえでさらに言うのだった。 
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