美しき異形達
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第三十七話 川の中での戦いその十七
「これがね」
「同じ奈良県でもか」
「そう、奈良県っていっても広くて」
いつもは自分の故郷の辺鄙さを言う時に使う言葉だが今は違っていた。ここで何故こう言ったのかというと。
「奈良市と明日香村は離れてるのよ」
「そうなんだな」
「あと桜井市もお寺とか神社あるけれど」
「離れてるんだな、奈良市と」
「結構ね」
「そうなんだな」
「奈良市からは郡山市とか天理市が近いのよ」
そうした市の方がというのだ。
「明日香村は北のぎりぎりってところかしら」
「その人の多いっていう」
「そう、あそことか御所市、王子町位までが北ね」
奈良県の、というのである。
「南じゃないわ」
「南は吉野や十津川ね」
黒蘭が言った、ここで。
「そうね」
「そう、吉野も観光地だけれど」
「谷崎潤一郎も作品に書いていたわね」
ここで再びこの作家の名前が出た。
「歌舞伎の舞台にもなっていて」
「義経千本桜よね」
「それでもなのね」
「南は物凄い山奥でしかも奈良市からかなり離れてるから」
それ故にというのだ。
「今回はね」
「私達も行かないけれど」
「今回は行けて郡山市か天理市ね」
そうしたところになるというのだ。
「天理市には天理教の本部があるけれど」
「うちの理事長さんの信仰してる」
「そう、その天理教のね」
本部があるというのだ。
「あそこ位なら行けるわ」
「じゃあ奈良市に行けば」
その時はとだ、鈴蘭が言う。
「奈良市を観て回りましょう」
「案内は出来るから」
裕香は鈴蘭に少し謙虚な感じで述べた。
「一応奈良県民だったから」
「一応って」
「だから南にいるから」
同じ奈良県でもだ、とかく裕香はこのことを言うが今もだった。
「奈良市にもあまり行ってないの」
「奈良県ってそんなに違うのね」
同じ県内でもだとだ、鈴蘭も裕香の話を聞いて言った。
「京都でも京都市や宇治市と舞鶴市は違うけれど」
「同じ京都府でもね」
「そもそも昔は違う国だったから」
「京都市は山城で舞鶴は越前よ」
かつての国の地域割りではそうなっていたのだ、舞鶴はそうした意味では京都と言えないところがあるのだ。
「雨も多くてじめじめしてるっていうし」
「雪も多いのよ」
冬にはだ。
「あそこはね」
「横須賀とまた違うんだな」
薊も横で聞いて言う。
「あそこも海軍の街だけれど」
「そう、寒いし」
「横須賀はそこそこ暖かいけれどな、冬でも」
「そうなのよ」
それで、と話してだ。そしてだった。
鈴蘭はあらためてだ、薊達に言った。
「じゃあまずはね」
「ああ、京都をな」
「楽しんでいきましょう」
「そうだな、楽しくやるか」
微笑んでだ、薊は鈴蘭のその言葉に応えた。そしてだった。
青空の下の銀閣寺を観てだ、こうしたことも言ったのだった。
「銀閣寺でも銀色じゃないんだな」
「そうよ」
黒蘭が薊のその言葉に応える。
「金閣寺とは違ってね」
「確かお金がなくて出来なかったんだよな」
銀箔を貼ることが、とだ。薊は言った。
「銀閣寺っていっても」
「そうした説もあるわ」
「幕府の力がなくなってて」
「そうも言われているわ、けれどね」
「他にも説があるんだな」
「建てさせた足利義政公の趣味で」
応仁の乱の元凶となってしまった室町幕府八代将軍だ。政治には関心がなく芸術に没頭したと言われている。
「最初からね」
「銀箔貼らなかったのか」
「そうも言われているわ」
「だから銀閣寺でもか」
「銀色ではないのよ」
「成程な」
薊は黒蘭の説明を聞いて頷きそれからまた銀閣寺を観た。銀色ではないがそこには確かな美があり薊はその美を堪能した。
第三十七話 完
2014・10・28
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