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少年と女神の物語

作者:biwanosin
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第百七話

「さて、とりあえず情報をまとめるか」
「はい」

 兄妹(姉弟)でテーブルを囲み、それははじまった。とりあえず直接手合わせをした俺とアテが相手の権能がどのようなものなのかの推測をし、崎姉がその会話の内容をまとめる。直接見ていた立夏は何か話の途中で霊視ができたならその情報も伝える、と言う形で役割分担している。役割のないメンバーは、とりあえずまとまるまでは口出しをしない、と言う形で。

「まず、アテに対して使ってきたのはどんなのがあった?」
「そう、ですね・・・」

 アテは顎に手を当てて上を向き、少し思い出すようにした後に・・・

「まず最初に使ってきたのは、殻でしょうか?」
「殻?」
「ええ。こう、体の表面にすっごく固い鎧を纏うような・・・言霊から考えて殻でいいはずです」
「それって、昆虫とかの外骨格みたいな感じ?」
「あれが全身に有るのなら・・・はい、そんな感じです」

 アテが肯定したところで、崎姉が『権能その一 強固な防御膜。外骨格の様な形で体の表面に』と書き込む。

「次に使ってきたのは、それを受けたわけじゃないから推測なのですが・・・治癒不可能な傷を与える、ですかね」
「治癒不可能?」
「はい。だとすれば、中々の脅威ですよ、あれ」

 確かに、それは辛い。どれだけ小さな傷であってもだんだんと血が流れ続けるんだから、時間がたてばそれだけ弱ってしまう。
 ・・・あれ?普段の俺って戦闘中は治癒不可能がデフォルトになってなかったっけ?

「ほ、他には?」

 その権能がすごいものであるのは間違いないはずなのにそう思えなくなってきていた俺は、そう言って次を促す。

「私に対して使ってきたのはそれくらいですね。気付かない間に腐敗か酸化か、そんな感じの権能を使ってきていたかもしれませんけど」
「腐敗、ねぇ・・・」

 応用が効きそうな権能に嫌気がさしてきたけど、それについては人のことを言えないので黙っていることにする。
 それについては見た目からも分かる可能性があるようだ。何でも、その力を使っている間相手の髪が緑色になっていたんだとか。

「・・・あ、それともう一つ。持っていた剣も権能だと思います。魔剣の類でしょう」
「魔剣?アテちゃん、それってどんな?」
「はい。持ち主を、世界を、関わる全てを壊してしまおう、その生涯を狂わせてしまおうというような意思を感じました」

 そして、言霊の中に『願い』という単語があったそうだ。つまり、何かを対価に持ち主の願いをかなえるとか、そんな感じのものなのだろうか?
 魔剣である以上、その対価は決して安いものではないだろう。

「それで、武双君にはどんな権能を使ってきたの?」
「そう、だな・・・まず一つ目に、神速の権能。俺の攻撃を避ける時と、逃げる時に使ってた」
「神速・・・武双君って、それだけは持ってないのよね?」

 まあ、バリエーション豊かと言っても全てがあるわけではないしな。でも・・・

「それを使って逃げにかかられたら手の出しようがないけど、神速を利用して攻撃してくる程度なら問題ないよ。心眼使えるし」
「そうだったわね。私も会得、試してみようかしら・・・」

 なんだかのんきにそんなことを言いながらも、しかしちゃんと書き込む崎姉。
 とても見やすく、分かりやすくまとめられているのでかなり助かるな。

「・・・それと、最後にもう一つ。あいつは月齢を気にしていた」
「月齢?それって、月の満ち欠けの?」
「そう、それ。だからもしかすると、月神かそれに準する神から権能を簒奪したのかもしれない。・・・それも、切り札級のが」

 そう考えると、今度の二十三日は満月だ。ちょうど梅先輩と出かける約束をした日になるわけなんだけど・・・そこで何か仕掛けてくるかもしれない。
 あいつの言い方だと、次は俺に直接来るだろうから・・・梅先輩に事情を話して、協力してもらうのも一つの手か。
 せめて、家族からは離れておいた方がいいだろう。少なくとも、アテからは。

「翠刃と紅刃の双剣よ。戦の女神が振るいしイガリマとシュルシャガナの双剣よ。今、我が親族にその力を貸し与えよ」

 ひと段落ついたところで言霊を唱えてイガリマとシュルシャガナの双剣を呼び出し、それを左手でまとめて持ってから右手を開き、言霊を唱える。

(いかずち)よ、我が手に集え。集いし雷よ、ここに束ねよ。汝らを束ね、我は武具を作り出す。我が親族の振るいし武具を作り出す。顕現せよ、ウコンバサラ」

 唱え終わるのと同時に右手の中にずっしりとした重みが生まれる。雷鎚ウコンバサラ。

「とりあえず、三人にはこれを預けておく」
「出しっぱなしにしていて大丈夫なのデスか?」
「権能使いっぱなしになるし、辛いんじゃ・・・」
「武器を出すだけならそこまで負担ないから、気にしなくていいぞ。武器の権能はどちらかと言うと使う時の消費が激しいし」

 そう言いながら二人に向けて双剣を突き出すと、ようやく受け取ってくれた。
 ちなみに、その辺りのことを既に知っていたナーシャは何も言わずに受け取っている。
 ついでに他の全員の武器も即席工場(インスタント・ファクトリー)で新調して配ってから、話が再開される。

「じゃあ、えっと・・・その人が所持していると思われる権能はこの五つ、と言う事なのかな?」
「いや、まだ使ってない権能がある可能性もあるだろう。いつカンピオーネになったのかが分からないんだから」
「本人の談では、まだなって二ヶ月だそうですよ。どこまで本当なのか分からないですけど」

 まあ、わざわざバカ正直に言う必要はないよな。そう言ったところから既に戦いが始まってるようなものなんだから。

「それにしても、少なくとも五柱、か・・・俺が言えたことじゃないけど、結構殺してるな」
「いや、そうとは限らないだろう。草薙護堂のようなケースもあるのだから、何柱殺したのかはまだ何とも言えない」

 そういやそうだった。その神が化身でも持ってる奴でそれを簒奪したのだとしたら、殺した神が少なくても使える権能は多い、みたいな感じになるのか。

「はぁ・・・これまでは相手の情報がある程度分かってる状態でカンピと戦ってたから、ここまで情報がないのはやりづらいな」
「普段一切相手のことが分からないのに神様をバンバン殺してるんだし、説得力無いよ!」
「ビ、ビアンカちゃん・・・」

 ビアンカの無邪気な一言がぐさっときた。そして、桜の一言に少しばかり救われた。

「だとしても、カンピオーネは持ってる権能に統一性がないからな。何が飛び出してくるのやら、って感じなんだよ」
「えっと・・・ヒルコみたいな感じ、ですか?」
「そうそう、狐鳥の言うとおり」

 あれはもう、何が来るのかわからなさ過ぎてどうしていいのか分からなくなってくるレベルだ。まだ見せてないものとかありそうで怖いもんだ。

「・・・それで、立夏は何か視えたか?」
「うーん、これは・・・水車?」

 水車?

「宮殿。人浚い。奴隷。供物。加護を与えるもの・・・」
「おっかしいなー、軽くカオスだぁ・・・」

 ヒルコほどではないにしても、中々に難しい神格ではあるのだろう。
 嫌な予感がする・・・
 
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