| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

僕の周りには変わり種が多い

作者:黒昼白夜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

横浜騒乱編
  第27話 可能性

しばらくは、ヘリの中で達也が味わう苦痛や、深雪がそのことに心を痛めているのを感じ取った沈黙が続くかと思われたが、美月が発した「あっ!?」っという叫びにたいして、深雪は沈黙を破らせようとしているかのように

「美月、どうしたの?」

「えっと、ベイヒルズタワーの辺りで、野獣のようなオーラが観えた気がして」

幹比古が呪符で確認して「敵襲!?」と驚愕の声をあげたり、エリカと千代田先輩が幹比古に問いかけたりしたなか

「少人数による背後からの奇襲です。恐ろしい呪力を感じます。戻りましょう。協会が危ない」

僕は美月が声を出したのでプシオンのサーチをしていたが

「このオーラの感じなら、一番強いのがリユウカンフウだと思います。ただし、サイオン量がはねあがっているから、鋼気功専用の武具を身に着けているんじゃないかと思います」

「リユウカンフウ!?」

「エリカ、知っているのか?」

「強敵よ」

「へぇ」

「この前の火曜日なら、2人だけでも勝てたと思うけど、多分もう少し人数が必要だと思うよ」

暗に僕も混ぜろと言っているのだが、なんとか、僕自身の神経的な恐怖感を振り払ったと思う。エリカとレオと僕の発言を聞いていた渡辺先輩には頭痛が発生しているようだ。

その間に七草先輩へ、前方の副操縦士から

「真由美お嬢様。魔法協会より十師族共通回線へ緊急通信が入っています」

「貸してください」

七草先輩がレシーバを耳に当てて状況を聞いたようで、

「名倉さん、協会にヘリを向けて!」

ここで、名倉という苗字で『魂眼』の名倉あかりを思い出したが、彼女は裏賀茂の術でプシオンをごまかしているのと、年齢差から関係あるとしても祖父にあたるのなら、プシオンの特徴を確認しても、類似性を見つけるのは困難だろうと思い、プシオンの特徴を記憶するのはやめた。

ヘリは協会へ向かい、ヘリポートについたところで、深雪が敵に向かってCADを操作しようとしたのを止められたが、僕はシルバー・ホーンを遠方の敵に向けながら

「とりあえず、リユウカンフウだけでも足止めしてもかまいませんか?」

「なにをする気だ?」

「灼熱地獄『ムスペルスヘイム』を……」

「それこそ、危険じゃないの!」

続く言葉は「小規模にしてリユウカンフウだけに」だったので、多少の不満はあったが従うことにした。



七草先輩からは、協会支部に移動しながら続く方針として、協会支部を護るチームとしては深雪、桐原先輩、壬生先輩、美月で、五十里先輩、千代田先輩、幹比古にはリユウカンフウ以外を相手にしてもらい、リユウカンフウには七草先輩、渡辺先輩、レオ、エリカに僕があたることになった。

それで、リユウカンフウを相手するチームにまわったのはいいのだが、問題は僕と他のメンバーとの相性だ。『纏衣』系の幻術をつかうと、まわりのメンバーに僕本人の位置がわからなくて、攻撃をされてしまうか、邪魔をされてしまう可能性がある。
かといって、護身用の懐剣(かいけん)を使うと、リユウカンフウが鋼気功用の武具をきこんでいる以上、相手のサイオンを燃やしきるのに10秒以上かかりそうで、そのあいだに、味方に火が移ると、味方のサイオンを消し去って、先に死んでしまいそうなぐらい、外部にまとっているサイオン量が違いすぎるのだ。
その上さらに

「陸名くん。今度は一人でつっこんでいくのは無しだからね」

七草先輩から、小悪魔的な笑顔でプレッシャーをかけてくるし。このチームでなくて、幹比古と一緒のチームの方がよかったかなぁ、と思い始めたところだ。なにせ、九重先生のところの忍術使いもいるようだから。

結局は、魔法協会にある戦闘スーツやセラミック剣にセラミック製の小剣をそれぞれ一振り借りることにした。プロテクターはサイオンでの防御強化には役にたつが、気功とかプシオンでは役立たずというか、邪魔なので借りなかった。協会の人からは不思議そうにされたが、そこは無視だ。



リユウカンフウを待ち構えているのは渡辺先輩で、僕はその斜め後ろ15m。僕の後ろにはバリケードかわりの車体があって、その後ろに七草先輩が、射撃の準備をしている。渡辺先輩の左右斜め前に、レオとエリカが潜んでいる。この布陣の場合、相手が武人なら、僕をねらってくるだろうし、軍人なら左右にも気を配るだろうというところだが、七草先輩が調べたところや、エリカが知っているのは武人らしい。エリカの兄がリユウカンフウとよく比較されるので、耳にタコができるくらい聞かされているとか。

ちょっと、協会支部の地下は気にはかかるが、美月と深雪には人払いの結界に似た広域の精神干渉系魔法がかかっていることも、伝えてあるからだいじょうぶだろう。

リユウカンフウが僕らの前のバリケードを破壊してきたら、渡辺先輩と僕をみて、逡巡ぐらいするかと思ったが、まっすぐ僕にむかってきた。ある意味エリカの情報は正しくて、渡辺先輩を意識をしながらも、こっちにつっこんできた。そこに、エリカがリユウカンフウより素早く、1.8mの大刀をリユウカンフウにたたきつけようとした直前に、避けてみせた。

エサが渡辺先輩――リユウカンフウと一戦をまじえていたそうだ――と僕の2人というのは、逆にリユウカンフウの猜疑心をよんでしまった結果のようだ。

しかし、避けたはずのエリカの太刀は地面にあたらずに、そのまま刃を返して切り上げる燕返しの技術で、こちらは当たったが、鋼気功の前では力がたりずに表面をすべるにとどまり、リユウの纏絲勁(てんしけい)の魔法を使った突きで、エリカは返り討ちにされたが、なんらかの魔法ガードが間にあったみたいで、骨は折れていないようだ。

その間に、レオも突撃していたが、レオの速度であの薄い刃、収束形魔法だからレオが得意な硬化魔法だろうが、水平切りにしようとしたところで、リユウはその上を飛んで蹴りを入れようとしている。そこへ七草先輩の第一射。大量の小粒な弾丸がリユウにあたって、リユウの起動をそらした。リユウの着地の瞬間にレオは切りかかったが、身体の速度差もあってレオは剣の内側に入り込まれ、今度は虎形拳のもろ手突きで飛ばされている。

その隙にというわけではないが、渡辺先輩が薬品入りのシリンダー容器を投げた。それは手首のスナップを利かせながらの魔法を使い、リユウのいたところで破裂をしたが、その時にリユウは、すでに斜め前方へ移動。僕から見ると渡辺先輩が間に入る位置だ。

七草先輩の第2射は入ったみたいだが、そのままつき速度をほとんど落とさずに進んでいるのは、プシオンや幽体でわかるのから、縮地の2連で渡辺先輩の直前でリユウを受け止めた。もちろん剣をつかってだが、行なったのは、身体には単なる気功で、剣には鋼気功を使っている。

協会で他のメンバーに見せたときには驚いていたようだが、はっきり言って対鋼気功用の武具じゃないので分が悪い。こちらの剣は、相手の服と皮膚までは届くが、そこまでだ。力技でこられると、ほとんどは避けるか、受け流すようにしか剣を使えない。弧を描くように動いてみせるが、隙をついての突きを放つも避けられる。

渡辺先輩は三節刀に『圧斬り(へしきぎり)』の術をだしているようだが、知覚速度はあってもそれに対応する身体の反射速度が足りなさそうなので、そこから離れるように誘導しながら、互いに細かく動き回っているので、七草先輩も渡辺先輩も手が出せない。ここで行なったのは『纏衣の逃げ水』で、それまでは避けるのを中心にしてリユウには、本体と幻術を重ねてみせていた。そして、実際にその瞬間に行なったのは、一瞬、剣から放して懐に入っての『寸勁波』。鋼気功を使ったときには、外部の感覚が鈍くなるから、拳を軽くあててからできる体術で、これができれば円明流合気術最高段位6段の体術。

肉体のリミッターを意識してはずし、拳を先に握り込む。そこに自分自身の拳へ振動魔法をかける。物理的に振動を相手へと伝えるためには、ある程度の面積が必要なので拳をしっかり握りこむ必要がある。鋼気功の専用武具ということで、全身がまさしく鋼で覆われている。しかし魔法的な振動は完全に封じ込めるが、それは逆に物理的な振動は肉体との接触面をつたわって、複雑な振動として脳を揺らしてしまい、そこで意識が遠のかせる。そうなれば鋼気功や硬気功はとけ、その直後に地面を土台として体内に勁を通していたのを拳にとどかせ、さらに3cmばかり拳を押し込む体術。

これだけ無茶をすると、当然のことながら拳から上腕にかけての筋肉は細かく切断される部分がでてくるのと、全身の筋肉は一時的な硬直状態となって自由に動けない。ここからは再度魔法で、この瞬間のためにあらかじめ、自分自身のサイオン情報体をフルコピーしてサイオン次元に待機させておいたサイオン情報体を自分にもどし、筋肉の細かい切断を戻し、と肉の硬直状態を短時間とさせる。そして、後ろにある『纏衣の逃げ水』の幻術と隠れた本体と一致させて後退しながら、自身の幻覚を消す。

サイオン情報体のフルコピーは『纏衣の人形』を行なうための準備に必要なものだ。『纏衣の逃げ水』でのこしておいた幻術に、フルコピーしたサイオン情報体を結んで、本物のように動かすのが『纏衣の人形』の正体。

そして、ほんの少し後ろ向きに倒れようとしているリユウにかけたのは、再度肉体のリミッター解き放ち、技のおこりを見せない技法である無拍子からの腕をとった関節投げだが、通常と異なるのはこの投げの時点で腕を折ってしまう。そこから頭を真下にたたきつけるように落としつつ、軸足とは反対で硬気功をつかった蹴りを顔面にいれながら、手を手前に引くという殺し業の『落雷』。

宮本武蔵が生涯で一度、勝てなかった――引き分けであるという伝承も残ってはいるが、その相手が使っていた技。そういう技を円明流合気術の前身である円明流剣術の無手を中心とする古式魔法師が、磨き上げつつ、他の流派の技と組み合わせしなおしたものだ。

これを魔法無しでできれば6段なんだけど、できないから魔法でおぎなっているんだよなぁ。



これを見ていた七草先輩と渡辺先輩だが、渡辺先輩からは

「どうやったのかはわからなかったが、今倒れそうに見えていた。ここまでする必要はあったのか?」

「戦場では死んだふりをするのがいるんですよね? 桐原先輩や五十里先輩の時のようなことになるのは嫌ですから」

「……そうだな」

重そうな雰囲気をきりかえるために、

「それと、協会の地下に入り込んだ敵は、深雪さんが阻止したようですね」

「えー?」

「気が付いていなかったんですか?」

『マルチスコープ』を使って協会の地下を見たらしい七草先輩はほっとしていた。

それに幹比古たちのチームも全員無事にきていて、倒れていたレオや、チームとして勝ったことよりも、自分が負けたことを悔やんで言ったエリカなんてものはあったが、協会支部にもどった僕らが受けたのは、敵が撤退したという情報だった。



11月5日の土曜日の朝。
論文コンペの会場で襲撃が終わってから、初めての土曜日で、久々に九重寺の朝稽古で乱取りを終わらせたところだ。

「今日は、やけにきびしい技をつかっていたねぇ」

「この前の日曜日。協会で覗き見だけで、手助けしてくれなかったのは九重先生のお弟子さんたちでしょう?」

「まあ、僕らは『忍び』だから、前面には出ないよ」

「しかたがないですね」

「ところで、今の技を達也くんに行なうのかな?」

「そのつもりですけど、全力で」

「あの連続の回転けりからの金的への蹴りや、金的へのけりから頭への蹴りを全力で行なうのかい?」

「相手は達也だし、生きたゾンビみたいなものだから、大丈夫でしょう」

一応師匠から、ここで九重先生を交えて話すぐらいなら大丈夫と確認はしている。なので、お弟子さんには半日ほど眠ってもらうぐらいの威力で、気絶してもらっている。

「確かに似ているかもしれないがねー」

「ちなみに今の話しは達也にはともかく、深雪さんには内緒でお願いしますね」

「……賢明な判断だと思うよ」

九重先生の額にうっすらと汗が浮かんだように見えるのは、気のせいではないだろう。

「まあ、僕の方も円明流合気術の方の『纏衣』で、分身に相手させることを明言しますので、達也が了承してくれたら、来週からは九重先生の一般のお弟子さんからは、見られない場所でできるとうれしいんですけど」

「ここは、僕の寺なんだけどね」

「師匠からは、月曜日に大穴をあけた魔法師をスターズが調査しだしていて、達也と深雪さんがその候補にはいっている。この情報の価値は高いと思いませんか? だそうです」

忍術使いは情報を集めるのが仕事だから、この前の日曜日に協会で手出ししないのは、仕方が無いとして、この情報を九重先生がすでにつかんでいるかどうか次第だろう。ちなみに僕も低い順位ながらその候補に入っているらしいが、九重先生に言わない方が良いとのことだ。

翌日の日曜日に、達也は、四葉家の当主である四葉真夜と同じような話を聞かされるのだが、それはこの場にいる2人とも知らない話であった。

「達也くんなら、2回目には対応するよ」

OKをもらえたということだ。3月生まれの僕としては、15歳になってようやく肉体の強化に取り組めている。その効果がようやくではじめてきたところで、自分の限界はまだわからない。

「けれど、円明流にさっきの金的蹴りから、反対の足からの頭への蹴りは無かったと思うが」

「あれ? 僕の母親の実家の空手道場の闇稽古の内容までは知りませんでしたか?」

「入ったときには使っていなかったんだろうね」

「そうでしたか。まあ、入れたのは風間さん1人だけですよね?」

「僕の弟子たちにも良い教訓だろう」

「どうせ田舎の空手道場ぐらい簡単に入れると思っているのでしょう。毅波(きば)の空手はケンカ空手ですから、魔法があるとわかったらそれも取り入れていきましたからねぇ」

そのあと、九重先生からの反応はなかったが、今度の方法での訓練には、達也も了承するだろう。
なんといってあのシスコン達也は、妹を護れない可能性を無くそうとしているみたいだからな。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧