ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories
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ALO編 Running through in Alfheim
Chapter-12 妖精の世界へ
Story12-5 出発前の一悶着
Story12-5 出発前の一悶着
第3者side
次の日、キリトはALOにログインし、昨日泊まった宿屋の1階にいた。
ちょうどリーファも店に入ってきたようだ。
「やあ、リーファ。早いね」
「ううん、さっき来たとこ。ちょっと買い物してたの」
「あ、そうか。俺も色々準備しないとな」
「じゃあ、武器と防具を見に行こう。
そのままじゃ頼りないでしょ?
ところでキリト君、お金持ってる?なければ貸しておくけど」
「えーと……」
キリトが左手を振ってウインドウを出し、ちらりと眺めると、顔を引きつらせた。
「いや、ある。結構ある」
「そう? なら行こっか」
キリトは胸ポケットで寝ているユイに呼びかける。
「……ユイ、起きろ。行くぞ」
するとそれぞれのの胸ポケットからユイがちょこんと顔を出し、大きなあくびをした。
リーファの行きつけの武具店でキリトの武器と防具一式を買い終わった頃には、街はすっかり朝の光に包まれていた。
防御属性強化されている服の上下にロングコート、防具で買ったのはそれだけだ。
キリトが迷ったのは剣の方で、重い剣を好むキリトは店主に『もっと重いの』と言い続けた結果、キリトの身長とあまり変わらないほどの大剣で妥協したのだった。
「そんな剣、振れるのぉー?」
リーファの言葉に、キリトは涼しい顔で頷いた。
「問題ない」
よっこらしょ、と言ってキリトは背中に大剣を吊るが……その姿はどう見ても剣士の真似事をしている子供にしか見えず、リーファは笑いをこらえるのに必死だった。
それから、二人は歩き出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
歩き出すこと数分。
二人の眼前には翡翠に輝く優美な塔が現れた。
キリトは、自分が衝突した辺りの壁を嫌そうな目で見ていた。
「出発前にブレーキングの練習でもしとく?」
「……いや、いい。今度は安全運転でいく」
キリトが苦笑し、リーファに問い掛けた。
「それはそうと……なんで塔に? 用事でもあるのか?」
「長距離を飛ぶときは塔の天辺から出発するのよ。高度を稼ぐためにね」
「ははあ、なるほどね」
頷くキリトとリーファが歩き出す。
「さ、行こ!夜までに森は抜けておきたいしね」
「俺はまったく地理がわからないからなあ。案内よろしく」
「任せなさい!」
そこで、リーファは視線を塔の奥へと移す。
そこには、シルフ領主館の壮麗なシルエットが朝焼けに浮かんでいた。
だが、その建物の中心に屹立する細いポールにはシルフの紋章旗が揚がっていない。
基本は滅多にあることではないが、領主は今日一日留守ということだ。
――挨拶に行こうと思ってたんだけどなぁ……
「どうかした?」
首を傾げるキリトに、リーファは何でもないと首を横に振った。
気を取り直し、風の塔の正面扉をくぐって内部へと進んだ。
一階はロビーになっており、周囲をぐるりと様々なショップの類が取り囲んでいる。
ロビーの中央には魔法力で動くエレベータが2基設置され、定期的にプレイヤーを吸い込んでは吐き出している。
アルヴヘイム時間では夜が明けたばかりだが、リアルでは夕方に差し掛かる頃だろう。
もうそろそろ行き交う人の数が増え始めるはずだ。
リーファに手を引かれて、ちょうど降りてきた右側のエレベーターに駆け込もうとした。
その時だった。
傍から数人のプレイヤーが現れ、行く手を塞ぐ。
激突する寸前で、リーファは踏みとどまった。
シルフにしてはずば抜けた背丈、荒削りだが整っている顔。
体をやや厚めの銀のアーマーに包み、腰には大振りのロングソード。
額に幅広の銀のバンドを巻き、波打つ濃緑の髪を肩の下まで垂らしている。
そう、シグルドだ。
「ちょっと危ないじゃない!」
反射的に文句を言うリーファは、眼の前に立つシグルドに気づいたようだ。
レコンもいるのかと見渡していたが、彼の姿はなかったようで、彼女は視線をシグルドへと戻す。
リーファの前にずしりと両足を広げて立つシグルドの口許は、彼の最大限の傲慢さを発揮させる時特有の角度できつく結ばれていた。
――面倒なことになるかも
リーファはゆっくりと口を開いた。
「こんにちは、シグルド」
リーファが笑みを浮かべながら挨拶したのだが、シグルドはそれに答える心境ではないらしい。
唸り声を交えながらいきなり要件を切り出した。
「パーティーから抜ける気なのか、リーファ」
かなりご機嫌斜めのようだ。
リーファはシグルドの問いに一瞬考え、こくりと頷いた。
「うん……まあね。
貯金もだいぶできたし、しばらくのんびりしようと思って」
「勝手だな。残りのメンバーが迷惑するとは思わないのか」
「ちょっ……勝手……!?
ちょっと待ってよ!
デュエルイベントの時、はっきり言ったはずよ!
『パーティー行動に参加するのは都合のつく時だけ。抜けたくなったらいつでも抜ける』
束縛されるのは御免だって!」
「リーファ。お前はオレのパーティーの一員として既に名が通っている。
そのお前が理由もなく抜けて他のパーティーに入ったりすれば、こちらの顔に泥を塗られることになる」
「…………」
リーファは言葉を失ってしまった。
シグルドは、リーファを戦力としてスカウトしたのではなく、自分のパーティーのブランドを高める付加価値として欲したのだ。
さらに言えば、自分に勝ったリーファを仲間ーーいや、恐らく配下としてアピールすることで勇名の失墜を防いだつもりなのだろう。
そこで今まで黙っていたキリトが口を開いた。
「仲間はアイテムじゃないぜ」
「え…………?」
言い淀むリーファの肩をポンポンと叩き、俺に任せろと言った表情でリーファを見た。
リーファも眼を見開き、此方を見たのと同時に、シグルドが唸り声をあげる。
「……なんだと……?」
キリトは一歩踏み出すと、リーファとシグルドの間に割って入り、自分よりも頭1つ分背の高い男に向き合った。
「他のプレイヤーを、あんたの大事な剣や鎧みたいに、装備欄にロックしておくことはできないって言ったのさ」
「きッ……貴様ッ……!!」
キリトの真っ直ぐな言葉に、シグルドの顔が瞬時に赤く染まる。
肩から下がった長いマントをばさりと巻き上げ、剣の柄に手を掛けた。
「屑漁りのスプリガン風情がつけあがるな!
リーファ、お前もこんな奴らの相手をしてるんじゃない!どうせこのスプリガンも領地を追放されたレネゲイトだろうが!」
「そんなこと言わないで! キリト君は私の新しいパートナーよ!」
「…………リーファ、領地を捨てるのか…………?」
リーファはその言葉にハッとする。
自分が今から行う行為は、脱領者になることを示すからだ。
ALOのプレイヤーには、大きく分けて2つのパターンがある。
片方は、種族の発展に努めるプレイヤー。もう片方は、異種族間でパーティーを組んで攻略するプレイヤー。
後者の方は、種族に対して貢献度や仲間意識が低いため
に脱領者として蔑視されている。
「そうね。結果的にはそうなるかもね」
「…………なら、外ではせいぜい逃げ隠れることだな。
……リーファ。今度戻りたくなった時のために土下座の練習でもしておくんだな」
「…………」
シグルドは剣を抜かずに後ろを向くと、部下と共にどこかへ行ってしまった。
「…………とにかく、行こうか」
キリトたちは野次馬の輪を擦り抜け、ちょうど降りてきたエレベーターに飛び乗る。
最上階のボタンを押すと、半透明のガラスでできたチューブの底を作る円盤状の石が、ぼんやりと緑色に光り始めた。
そして次の瞬間にはもの凄い勢いで上昇し、数十秒後エレベーターが停止すると壁面のガラスが音もなく開く。
白い朝陽と心地よい風が同時に流れ込んできた。
Story12-5 END
後書き
まさかまさかの記念すべき100話目がキリトの回……シャオンドンマイ。
シャオン「いや……まぁ、キリトは原作主人公だからOKでしょ」
ああ、そう。ならいいや。
シャオン「反省せんのかい!」
バコーン
グヘェッ! シャオンやめろ!
シャオン「あんたが悪い。
次回は、ちゃんと俺の方だからな。
次回も、俺たちの冒険に! ひとっ走り……付き合えよな♪」
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