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戦国異伝

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第百九十六話 二匹の虎その二

「織田、武田と比べるとな」
「あまりにも小そうございます故に」
「わし自身も大きくはない」
 信長や信玄と比べると、というのだ。
「そのことがよくわかったわ」
「この戦において」
「この上なく強くな」
 そうなったというのだ。
「だからわしは多くを望まぬ」
「当家が生き残れればですか」
「それでよい」
 これが家康の考えである。
「御主達と共にいられればな」
「勿体無いお言葉にございます」
「その通りのことを言ったまでじゃ、では我等もじゃ」
「今もですな」
「うむ、戦うぞ」
 そうするというのだ。
「鉄砲を放ちそしてな」
「弓矢と槍も使い」
「武田を中に入れぬ」
 柵のその中にというのだ。
「そうするぞ、よいな」
「では」
「うむ、戦おうぞ」
 こう言ってだった、家康もまた陣頭に立ちだった。
 そのうえで戦う、そして。
 夜は過ぎていった、その間戦は続く。織田も武田も全く退くことなくあくまで戦い抜いていた。
 夜の飯も食いそのうえでだった。真夜中になっても月の下で戦いだ。
 山中は上を見上げてだ、会心の笑みを浮かべて言った。
「これはよい」
「三日月ですな」
「だからですな」
「三日月はわしの守り神じゃ」
 だからだというのだ。
「三日月がある限りわしは負けぬ」
「その三日月の下にいて」
「敗れる筈がありませぬな」
「そうじゃ、だからじゃ」
 それでというのだ。
「負けぬぞ、勝ってじゃ」
「そして、ですな」
「この戦を終えまするな」
「敵は確かに強い」
 彼から見てもだ、武田の強さは本物だ。それで言うのだ。
「しかしじゃ」
「それでもですな」
「三日月が空にある限りは」
「負けぬ、必ずな」
「ではこのまま」
「守り続けますか」
「槍を出すのじゃ」
 その長槍をというのだ、織田家のそれを。
「そうして柵に近寄らせるな」
「ですな、このまま槍を出し」
「武田を近寄せずに」
「そのうえで、ですな」
「勝つのですな」
「そうじゃ、このままな」
 守り、というのだ。
「織田は勝つぞ」
「では山中殿これを」
 尼子十人衆の者達、山中を筆頭した尼子家の家臣達がだった。山中に対してあるものを差し出してきた。それはというと。
「お茶ですか」
「茶か」
「茶を飲むと目が覚めますな」
「うむ、確かにな」
「ですから」
「夜は深いそれでじゃな」
「茶をお飲み下さい」
 それで差し出したというのだ。
「是非。喉を潤すと共に」
「かたじけない、それではな」
 山中も彼等の言葉に頷きだ、そうしてだった。
 その茶を飲む、そのうえで目を覚まして戦うのだった。
 信長も茶を飲んでいる、そしてこう言うのだった。
「茶はよいのう」
「ですな、喉が潤うだけでなく」
「目が冴えます」
「こうした時には一番ですな」
「実によいものです」
 家臣達も信長と共に茶を飲みながら言うのだった。 
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