美しき異形達
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第三十七話 川の中での戦いその四
「沢山の善良な人達が迷惑するから」
「怪人は悪かっていうとね」
ここで鈴蘭が言って来た。
「それはね」
「そうでもないわ」
そうだとだ、菖蒲も鈴蘭に言葉を返した。
「実際のところね」
「私達を狙って倒そうとしてくるけれど」
「彼等が悪かというと」
「そうとも言えないわよね」
「敵ではあるわ」
このことは間違いなかった、薊達の命を狙い何処にでも現れ戦いを挑んで来る。敵以外の何者でもないことは明らかだ。
だが、だ。彼等が悪かというとだ。
「けれど悪ではないわ」
「そうなのよね、善悪とはまた別の」
「敵よ」
「私達が善だったらね」
向日葵も考える顔で述べる。
「怪人は悪の組織の何とやらだけれど」
「そうではないわね」
「怪人の背後関係もはっきりしないし」
「わかっていないと言っていいわね」
黒蘭はその向日葵にこう言った。
「あらゆることが」
「結局そうなるのよね」
「そう、怪人達のこともだけれど」
「私達のこともね」
「自分が何者なのか」
いささかだ、黒蘭の口調はいささか深刻なものにもなっていた。
「それがわかっていないわ」
「辛いというか苦しい気持ちね」
向日葵は自分達の感情を少し戸惑いながらも言葉として出した。
「正直なところ」
「そうですね、しかし怪人達のことは」
桜が言うことはというと。
「善か悪かというと」
「どちらでもないわ」
菖蒲はまた言った。
「そうしたものとは別よ」
「正直なところね」
「そうなるわね」
こうしたことを話すのだった、そしてだった。
一行はそうした話もしつつ薊達の戦いを見守っていた。薊は七節棍を今は一つの棒にしたうえで両手に持って怪人と戦っていた、その薊に対して。
熊の怪人は両手の爪で以て攻撃を繰り返していた、薊は棒での突き、払いを浴びせながらその攻撃をかわしていた。
その中でだ、薊は怪人に対して言った。
「中々な」
「中々か」
「あんたやるな」
「熊を馬鹿にしているのか?わしを」
「まさか、熊は強いよ」
その巨大な手の一撃もかわしつつだ、薊は言った。頭のところに来たがそれを受ければ薊の頭はそれこそだった。
「今のだって受けていればね」
「終わりだったな」
「あたしの頭はぐしゃぐしゃになってたよ」
完全に潰されていたというのだ。
「頭蓋骨ごと脳味噌潰されてな」
「その通りだ、わしの一撃を受ければな」
熊のそれをだ。
「貴様は死ぬ」
「確実にな」
「熊の力を侮るな」
「侮ってないさ、最初から」
これが薊の返事だった、ここで突きをその腹に入れるが。
棒の方が弾き返された、薊はその棒の衝撃を両手で持って何とか抑えてからそのうえで怪人にまた言った。
「今の一撃だってな」
「結構なものだった」
「みぞおちを狙ったんだよ」
急所のそこをだ、生物の。
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