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雲は遠くて

作者:いっぺい
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69章 信也の妹の利奈、早瀬田大学に合格する

69章 信也の妹の利奈、早瀬田大学に合格する

 2月7日の土曜日の昼下がり。外は最高気温で10度ほどの、曇り空である。

 川口信也と大沢詩織のふたりは、去年の12月に、新しく借りたマンションの、
あたたかいリビングのベッドの布団の中で、 心地もよく、眠っている。

 そのマンション、ハイム代沢(だいざわ)は、1つの部屋とキッチンと、
バスルームに洗面所、南側にはベランダの、1Kの間取りである。

 駐車場はないが、現在も信也と妹の美結とで暮らしているマンションの、レスト下北沢から、
歩いて2分という距離にあるマンションなので、駐車場は新たに必要ではなかった。

 信也が、いまも美結と住んでいるレスト下北沢のほかに、
もう1つのこのマンション、ハイム代沢(だいざわ)を借りているのには理由があった。
 
 去年の11月29日、山梨から、信也の両親や末っ子の利奈が、信也に相談があって、
やって来たのであった。

 その相談とは、利奈が、信也の母校でもある早瀬田大学を受験するという話であった。

 利奈は、健康栄養学部・管理栄養学科を勉強したいという。
信也の両親は、利奈が早瀬田大学の入試試験に合格した際には、
信也のマンションから、利奈を通学させてやって欲しいというのであった。

 もちろん、信也や美結は、利奈と一緒に、3人で暮らす生活には、大歓迎であった。

 しかし、また、ある意味では、信也と詩織にとっては、なにかと不便なわけでもある。

 去年の4月も終わるころ、信也のマンションに、妹の美結が山梨からやって来てからは、
信也と詩織は、ホテルで、ふたりだけの時間を楽しんだりしていた。

 しかし、そんなホテルなどでのデートには、信也も詩織も、飽きてきていた。
 
 ふと思い立った信也は、去年の12月ころの、利奈の受験の合否も決まらないうちから、
詩織との、ふたりのための、マンションを探し始めたのである。

 今年の1月の初めころ、いま住んでいるマンションから歩いて2分という近い場所に、
1Kという間取りの、生活には、ちょっと狭いが、
ふたりの愛のくらしには十分というマンション、ハイム代沢(だいざわ)が見つかったのであった。

 ハイム代沢のマンションは、日当たりのいい2階の角の部屋で、下北沢駅まで歩いて6分であった。
信也が借りている、ハイム代沢とレスト下北沢は、どちらも、閑静な住宅も並ぶ、代沢2丁目にある。

 信也と詩織は、ベッドの中で手をつなぎながら、さっきまでの、熱いふれあいの、
その高揚や陶酔から自然とわきおこる、至福のような浅い眠りにひたっている。

 枕元にある、信也のスマホの着信音が鳴った。その電話は、妹の利奈からであった。

「しんちゃん、わたし、大学入試に合格しちゃったわよ!」

 ちょっと、ふるえる声の、しかし、元気な利奈の声であった。

「そうか、利奈ちゃん!おめでとう!利奈ちゃんなら、合格すると思ってたから、
おれは何も心配してなかったけれど。そうかぁ、いやぁ、よかった、よかった、
おめでとう!」

 何かの夢の中にいた信也は、これって現実なのかと、ふと思ったけど、
利奈の受験の合格の知らせを、自分のことのように歓んだ。

「詩織ちゃん、利奈が、おれたちの早瀬田に、無事に受かったんだってさ!よかったよ!」

「そうなんだ。よかったわよね。わたしも、すごっく、うれしいわ!しんちゃん、おめでとう!」

 すやすやと気持ちよさそうに眠っていた詩織は、目覚めると、そういって、信也の胸に顔をうずめた。

≪つづく≫ --- 69章 おわり ---
 
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