ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories
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SAO編 Start my engine in Aincrad
Chapter-8 74層攻略
Story8-1 久々の集合
第3者side
ここは最前線の第74層迷宮区。
男二人組が迷宮区のマッピングを行っており、ボスの部屋が存在する地点を特定できる段階までしていた。
そして今、曲がりくねった一本の白い道を歩き、モンスターと遭遇して剣を交えていた。
二人の前に立ち塞がるのは、リザードマンロード。
頭と胸部には防具を装着し、右手には剣先が湾曲した曲刀、左手にはバックラーを装備していた。
「ふっ!」
ある一人に眼前に迫った曲刀の先端が胸に迫るが、黒衣の体防具ブラックウィルム・コートをなびかせつつ、回避。
右手に持つのは、要求筋力値の高さゆえに手に入れてから長いこと日の光を浴びなかった魔剣クラスの性能を持つエリュシデータ。
漆黒の剣とリザードマンロードが放ったお互いのソードスキルが衝突し、両者に隙が出来る。
「スイッチ!」
キリトが叫ぶと、彼の後ろからもう一つの蒼い影が割り込んできた。
身に纏うのは、彼女から送られた素材で作ったSEEDスキル専用体防具、シンフォニックギアコート。
蒼色と藍色をした革製防具をはためかせながら、シャオンはソードスキルを発動した。
「はあっ!」
1層で入手したアニールブレイドを根気よく強化し続け、魔剣クラスの性能を持つ片手用直剣、エターナリィアクセルが放つ、神速剣スキル13連撃技〔ドライブレード・フルスロットル〕
シャオンはリザードマン・ロードに13撃目を叩き込むと同時に背面へ回り込み、技後硬直を課せられた。
大ダメージを喰らったリザードマンロードはしぶとく生存する。
時計周りに反転し、シャオン目掛けて上段から曲刀を振り下ろした。
「せやあっ!」
シャオンの反対側で待機していたキリトはガラ空きになったリザードマンロードの背中に向け、片手剣スキル3連撃技〔シャープネイル〕でHPを削りにかかる。
背中に獣の爪痕を刻みつけると、リザードマンロードが淡く光り、その場で消滅エフェクトを散らすと、データの塊はポリゴン片に細分化され、跡形もなく消え去った。
「ふ〜……」
緊張の一戦を終え、ホッと一息。二人は剣を背中の鞘に納めた。
「なんか良いのドロップしたか?」
「ないよ、何も」
「もう少し先までマッピングするか。そろそろボス部屋も発見できるだろ」
「そうだな」
マッピングデータを見ながら、キリトが喋る。
それに同意するシャオン。
彼らが所有するデータで埋まっていないのは、迷宮区の中でも最奥部だけとなっていた。運が良ければこのまま発見し、明日には偵察隊の派遣も可能だと考える。
赤字で特殊な紋様が描かれている岩の間を抜け、安全エリアに辿り着くと、その先には大きな扉。
「多分……だろうな」
「うん、間違いない。
Boss部屋だ」
「さて、帰るか?」
「まずはエギルの店に行こうぜ」
「歩いて帰るか」
「異議なーし」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
シャオンside
森の中を歩いていた。
突然、キリトの表情が変わる。
キリトは俺の方に顔を向けニヤリと笑う。
キリトの見る方向には一匹のモンスターがいた。
名前はラグーラビット。
S級食材と言われる超レアなアイテムで売っぱらって金に変えるもよし、食べても味はS級というSAOプレイヤーなら一度は憧れるものだ。
「あれ、倒していい?」
すると親友は苦笑気味にこう返す。
「……任せた」
キリトは金にするか迷ってる風に顔を変えていた。
俺はこっそりSEEDを発動。
神速剣スキル広範囲技〔フェザースコール〕
八方向に剣撃波を飛ばす技。
逃げられる前に一発をお見舞いする。
ウサギのHPはなくなった。
そして、お目当てのものをゲットした俺たちはキリトの提案で顔馴染みに会いに行くことにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
迷宮区の探索から帰還した俺たちが向かった先は、50層主街区アルゲードの一画。
雑多な道を迷うことなく突き進んだ先には、通い慣れたエギル雑貨店がある。
俺らは店の店主・エギルとカウンター越しに対面し、獲得したアイテムを売り払っていた。
「毎度。また頼むぜ」
エギルと値段交渉は双方合意の上で成立し、アイテムストレージが少しだけ軽くなった。
けど……
「エギル、まさか他の奴に対してもこんな感じなのか?」
「『安く仕入れて安く提供する』が、うちのモットーだからな」
「前者は度が過ぎる、後者は嘘200%だ。
そのモットーは別のに書き換えとけよ」
「お得意様なんだから、たまには優遇してくれよ」
「常連はなにもお前達だけじゃないからな。二人だけ特別扱いしたら、他の常連客に示しがつかねえだろ?」
半ば強引に押し切られたとはいえ、俺達は合意したのだから、交渉はエギルの中で既に終了しているらしい。
「そうか……じゃあしょうがない。キリト、例の物を」
「了解」
呼ばれたキリトがストレージに格納されている、とあるアイテムをエギルに見せた。
一体何かと不思議そうな顔でエギルが覗き込むと、表情が一変。驚愕の顔でアイテム名を読み上げ、指差した。
「ラグー・ラビットの肉だと……すげえ、まさかS級食材をこの目で拝める日がくるとは……」
料理をする際に必要な食材には、それぞれの持つ味・入手難度・調理難度を総合し、それに見合ったランクがつけられている。
このランクが高ければ高いほど美味といわれ、ラグー・ラビットの肉はS級食材と呼ばれる超レアアイテムなのだ。
「しっかしなぁ……料理できねぇんだよな、俺」
「シェフ、いないかな」
俺らは料理スキルは上げてないため、料理に困る。
すると、いつの間にか来店していた少女たちが、俺たちの肩に軽くタッチして呼び掛ける。
「キリト君」
「シャオン君?」
この場に似合わない澄んだ声で名を呼ばれ、俺らは振り返る。
そこには騎士団の制服を着た三人のプレイヤーと一人の別のプレイヤーが立っており、そのうちの二人はよく見知った人物、アスナとフローラだった。
「二人とも奇遇だな。こんなゴミ溜めに来るなんて」
「次のボス戦が近いし、二人の顔を見にきたのよ」
「てか、ゴミ溜め気に入ってこの町に住んでんの、どこのどいつだよ」
エギルはこのセリフを聞いてしまったが、アスナとフローラの「エギルさんお久しぶりです!」のセリフでだらしなーく顔を緩ませた。
「ところで、何をしてるの?」
「アイテム売却の値段交渉をしてるんだ。ラグー・ラビットの肉を換金しようと……」
「「ラグー・ラビット!!」」
突如、アスナとフローラの顔がキリトの眼前に迫る。
不用意にS級食材の話を漏らせば、大抵の人は似たような反応が返ってくる。それは本人もわかっていた筈なのだが、うっかり口が滑ってしまった。
「何やっとんだお前は」
キリトに厳しいツッコミを入れ、フローラの方に目を向けると……
「シャオン君」
フローラは俺の両手をとって包み込んだ。胸の高さまで持ち上げると、至近距離から俺の瞳を真っ直ぐ見つめる。
「お願い。私達にも食べさせて」
「……」
「一緒に料理が食べたいの」
その瞳で見つめられて俺の精神がもつはずもなく、俺はあっけなーく降参。
先天的なものには男は勝てません…………
「しょうがないなー…………俺ら料理スキル上げてないし、お願いするしかないか」
「本当!? やったあ!!
シャオン君大好き!!」
了承を得た途端に手を離し、両手を広げて満面の笑みで俺に抱きつく。思わぬ行動に俺は赤面するが、内心ガッツポーズ。
その様子をキリトは先ほどの俺同様、目を細めて睨んでいた。
嬉しさのあまり、衝動で抱きついたフローラも我に返った。
俺と同じように頬を朱色に染め、慌てて離れることで距離をとる。人前でくっついたりするのは恥ずかしいようだ。
「ア、アスナ。交渉成立したよ!」
「やったね!」
振り返ったフローラはアスナの元へ駆け寄り、二人は両手でハイタッチを交わす。交わした掌をそのまま合わせ、二人とも笑顔を浮かべながら小さく跳びはねた。
ひとしきり喜んだ後、アスナは一つの提案を出す。
「よかったら私の家に行きましょう。一通りの調理器具は揃っているから、不自由はない筈よ」
「お待ち下さい、アスナ様」
入口付近で沈黙して立っていた男が待ったをかける。
長い髪を後ろで束ねた長身で痩せ型のプレイヤーは、俺やキリトにとって初見のプレイヤーだった。アスナ同様、騎士団の制服を着用しているため、彼も血盟騎士団の一員なのだろう。
てか……様って崇拝にも程あるぞコイツ…………
「このような連中をご自宅に招き入れるのは、賛同しかねます。今一度お考え直して下さい」
「あら、私の家に誰を招待するかは私の勝手よ?」
「ですが、このような素性のわからない者達は……」
「彼らは私たちの友人で、よく知った仲です。
あなたは知らないだろうけど、二人は素性も実力も確かよ? クラディール」
アスナは少々ウンザリした様子で、護衛の男・クラディールの意見を切り伏せる。
クラディールはフロアボス戦の経験があまりないようだ。なら、必然的に俺らと顔を合わせる機会も少ない。
彼にしてみれば、確かに素性がわからない怪しい二人組に映るだろう。
「この話はもうおわり。今日の護衛任務はもう結構です。お疲れ様でした。
行こっ、みんな」
アスナが強引に話を終わらせると、そそくさとクラディールの横を通って外に出る。
俺たちは彼女の後ろを追いかけ、エギル雑貨店を立ち去って行った。
Story8-1 END
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