エクシリアmore -過ちを犯したからこそ足掻くRPG-
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第四十七話 「守りたい」と「守るべき」
待ち合わせはニ・アケリア霊山の入口、マクスウェルの祠。
ここにいるのは私とフェイと、そしてイバル。まだ他の連中は来ていない。
「イバル、本当によかったのか?」
一番に祠にいたイバルは、登って来た私たちにいつもの「遅い!」も言わず、瞑想するように地面にあぐらを掻いて腕組みをしていた。一瞬、間違えて秘境の仙人でも訪ねてしまったかと思ったぞ。
「咎めは後でいくらでも受ける。俺はただ、ミラ様をお止めするだけだ」
……全く。若者ばかりあっというまに大人になるな。アルヴィン、君の気持ちが理解できたよ。
「ヴィクトル! フェイ!」
エリーゼ。それに、続いて登って来たのは、アルヴィンとジランド。そういえばエリーゼはシャン・ドゥに行っていたんだったな。同道してもおかしくない。
エリーゼがティポを抱いたまま胸に飛び込んだので、抱き返して頭を撫でた。
……この恒例行事も今日で最後か。
「ユースティアは一緒じゃないのか」
「ああ。あいつなら……」
ジランドの言葉を継ぐように、祠一帯に影が差した。仰げば、一頭のワイバーン。
「フェイ! ヴィクトルさん!」
ワイバーンに乗っているのは、クレインとローエン。手綱をユースティアが持って3人乗り。
なるほど、クレインとローエンの迎えに出したのか。小柄なユースティアでないとあの乗り方はできなかっただろう。
ワイバーンが着陸するや、フェイが小走りに前に出た。
ちょうどさっきエリーゼが私にしたように、降りたクレインにフェイが飛び付く。ローエンはその光景を微笑ましげに見守っている。
……落ち着け、私。フェイにとってもこれが最後なんだ。
「来てくれてありがとう、クレインさま。ローエンも」
「僕らのほうこそ礼を言うよ。こんな大事な局面で頼りにしてくれて」
フェイとの再会を堪能したからか、クレインは私のほうに来た。
「呼んでくれてありがとうございます。ヴィクトルさん」
クレインが差し出した手を、握り返した。
「来てくれて心強く思うよ」
ローエンも手を差し出したから、ローエンとも握手する。
「必ずや力になってみせましょう」
「期待している、〈指揮者〉」
その間にユースティアはアルヴィンとジランドのそばに音もなく戻った。
――今となっては、ユースティアの存在が有難い。私やフェイがどうしてもできないことを、ユースティアならば成せるから。
「これで全員揃ったわけ?」
「ああ。――ジランド、セルシウスは」
「いるぜ。こん中。後で呼び出す」
――ようやくここまで来た。
これだけいればミラとミュゼが相手でも負けはしないだろうが、まだ勝ちが確定したわけじゃない。
実力者の人数でミラが戦わずして負けを認めてくれればという希望的観測もないわけじゃない。
だが、戦うことになるだろう。あれは「ミラ」で「ミュゼ」だから。
フェイが私の前まで戻って来た。
見上げる瞳に、迷いは、ない。瞳に映る私自身にもないのだから、フェイにあるわけもないか。
ヘリオトロープの色の両目。この目にラルを見て、「エル」を見た。
今は、フェイしか、見えない。
「行こう」
「うん」
山頂に登りつくまで、誰も口を利かなかった。穏やかに近況報告していられる状況ではないし、私としては、語るべきは語ったと思っている。何かを言うとしたら、それはミラとミュゼの件を片付けてからだ。
後ろの皆も、心の整理はついたからここに来た。そのはずだ。
山頂に着いた時、前に世精ノ途に通じていた次元の裂け目は消えていた。
やはりな。持って来ておいて正解だった。
担いでいた物を下ろして布を剥ぎ取る。ミラが譲渡した〈マクスウェルの次元刀〉だ。これでもう一度、世精ノ途への道を開く。
〈次元刀〉を振り被り、振り下ろした。
空間に縦の線が走り、裂け目が開いた。裂け目の向こう側には世精ノ途が見える。
「パパ」
声をかけられたかと思うと、フェイに手を繋がれた。手袋越しにも分かる。
冷たい。
緊張しているのか?
「大丈夫だ。……」
ああ。消滅を前にして達観したと思ったのに、とんだ思い違いだ。たった一言を言おうとするだけで拍動が速くなるなんて。
「パパが、付いてる」
フェイは目を瞠ってから、泣きそうな顔で笑った。
世精ノ途から青い惑星儀の大地に降りた時、ミラとミュゼは逃げも隠れもせずそこにいた。まるであの日の続きからリプレイしたかのようでさえあった。
「やはり来たか」
修羅場慣れしている私でさえ気圧されそうだ。それだけ今のミラとミュゼには呵責がない。
ミラの手には、私が持つ物と同じ剣が握られている。迂闊だった。ミュゼの力で再生成したのか。
「一度だけ聞く。降伏してはくれないか」
「それこそ私たちがするはずがないだろう」
「ミラ様!」
イバルが叫んだ。
「どうしても、どうしても戦わねばならないのですか!? 世界を守るという意思は、貴女方と俺たちで違いなどないはずなのに」
「ああ、違わない」
ミラは〈次元刀〉を胸の前まで持ち上げ、垂直に立てた。
「違うのは、何を『世界』と見なすか。私にとっては『人と精霊が共存できる天地』で、お前にとっては『リーゼ・マクシアとエレンピオス』だった。不幸なことにな」
「滅びない道なら拓かれたはずです! 源霊匣という道が!」
「イバル。それは道とは呼ばない。当てどない道など砂漠と同じだ」
イバルが詰まった。
ミラにそう思われるのも仕方がない。源霊匣の普及を、今この時点で心から信じられるのは、実際に源霊匣で暮らしていた私とフェイくらいだろう。
「滅びないためだけの世界で生きる民が、本当に幸せだと思うのですか?」
イバルを見かねたのか、クレインが口を開いた。
「貴女方の望む世界の在り方は、籠の中の鳥を美しいまま飾っておこうとしているようです」
ローエンもクレインに加勢する。
ミラとミュゼは視線を交わし、また私たちに向き直った。
「ただ存在し続けるだけの世界。それは貴方たちには無意味に思えるでしょう」
「だが、意味がなくても、使命がなくても、理由がなくても、己の心一つで生きていけるのが人間だ」
ミラを囲んで地水火風の四大精霊が顕現した。今さらだが、ミラがこうなっても四大精霊はミラの味方というわけか。20年もかけて大事に育てた娘が相手なら、まあ、当然か。
「使命がなくても生きていけるなら、ミラもミュゼもそうしていいんですよ!?」『もーヒドイことしないで仲直りしよーよー!』
「それは無理よ。私もミラも、人間じゃないもの」
「人と精霊の共存を望むくせに、精霊であることを逃げの理由にすんのかい? お二人さん」
言いながら、すでにアルヴィンは大剣と銃を出して臨戦態勢。
「異邦の民よ。そちらの世の行く末を託します。どうか佳い未来へ進まれますよう」
「いけ好かねえ顔しやがって」
ジランドが源霊匣を取り出してスイッチを入れた。秘色の立体球形陣の中からセルシウスが舞い下りる。
「『それ』は見捨てる側がする目だ」
『私たちは貴女たちの行いを認めない』
ミラがついに〈次元刀〉を構えた。構え方がガイアスと同じなのは、どんな歴史の因果か。
「もはや語る言葉はない。力で押し通せ。お前たちの意思を」
ああ。結局はそれが一番手っ取り早い。お望み通りねじ伏せてやろう。いびつな姉妹よ。
後書き
全員ちゃんとしゃべりましたよね? 漏れないですよね?(( ;゚Д゚))ガクガクブルブル
てかこれ総勢何人? いち、にー……10人!? 10対2て。もはやいじめ(←自分で書いておきながら)
最後だから勢ぞろいさせたかったんです!
個人的にはヴィクトルとクレインの握手シーンが「やったー!」でした。過去の昼ドラ展開克服してお互い認め合いましたよ。色々あった(ていうかさせた)けどよかったね(T_T)
ページ上へ戻る