エクシリアmore -過ちを犯したからこそ足掻くRPG-
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第四十六話 決戦前のコンマゼロ(後)
/Alvin
俺と母さんの隠れ家から、俺とジランド、さらにセルシウスの棲み処になった家に、足を踏み入れる。
部屋ん中にいたのはジランドだけ。セルシウスは源霊匣の中で休眠中らしい。
んで? 何をしてらっしゃいますかね、我が叔父貴は。この平和な室内に似合わないゴテゴテした機械に囲まれて。
「ああ、一旦切るぞ。――何だ、アルフレド」
「別に。てかここ元々俺んち。帰って来て何か悪いかよ。そういうそっちこそ、どう調達したんだよ、それ」
「潜伏してるアルクノアの連中から掻き集めた。電波はよくねえが、ヘリオボーグのバランと連絡取る分にゃ充分だ」
いくらミラもミュゼも世精ノ途にいるからって、そこまで盛大に黒匣を使うあんたには畏敬の念さえ覚えるぜ。ったく。
「まだ異界炉計画、諦めてないのか?」
「諦めるわけねえだろ。あのマクスウェル姉妹をやれなかった時の保険は必要だ」
決めた。本気で俺、ミラたち倒そう。んで絶っっ対! 断界殻、開かせてやろう。
「ユティは? あんたといると思ったんだけど」
「そういやいねえな。さっきまでそこにいたと思ったんだが」
気配消していつのまにかいなくなるのはユースティアの得意技だ。いつものこと――の、はずなのに。
踵を返す。玄関のドアノブに手をかけて、外へ出た。
シャン・ドゥの街を歩く。あいつを探して。イスラんとこにもユルゲンスんとこにもいなかった。となると――
俺は空中闘技場へ向かう小舟に乗った。
闘技場のフィールドに出ると――いた。ユースティア。新しいミスリルクローク姿の背中。風になびく短い金茶の髪。
「あ、アル」
全部言い切る前に駆け寄って、ぶつかるみたいに抱き締めた。
「いなくなったかと思った」
正直、俺もユースティアの全てを知ってるわけじゃない。ユースティアのほうも全て話した相手なんてジランドくらいなもんだろう。
俺が知ってるユースティアは、未来人で、戦い方やら人の騙し方を教えた未来の『俺』をすごく慕ってるってことくらいだ。あとは創世の賢者クルスニクの末裔の特権で、骸殻とかいう特殊能力があるってのもあったか。
細い両腕が背中に回る感触があった。
「いなくならないわ、ワタシ。まだやること、残ってるもの」
それじゃその「やること」が終わったら消えちまうみたいじゃねえか。
俺が異性として見てるのは今でもプレザだけだ。ユースティアは……かなりハズい話だが、俺にとってもう一人の『母さん』みたいなもんなんだ。どうしてそう思うかは分かんねえけど。
思い出すのはジルニトラで戦った時のこと。こいつの上半身、木炭みたいに真っ黒だった。負債だと、こいつは言った。
母さんみたいに失くしたくない。もう二度と。
ミラたちとの戦いで、ユースティアがいなくなったら。
「アルフレドは決めた? ミラとミュゼんとこ、行くか、行かないか」
「お前は行くんだろ?」
「行く」
「なら俺が行かないわけないって知ってるだろ?」
「――うれしい」
背中に回った両腕の力が強くなった。少なくともハグしても拒まれないくらいには、ユースティアは俺に心許してくれてるってことだから。
「ボスは?」
「バランと連携取るために連絡会議中」
「さすが、ボス」
やっぱユースティアん中じゃ俺<ジランドなんだな。軽く腹立つ。俺、マザコンみたいだわ。
/Elise
わたしはティポといっしょに、わたしが小さい頃に住んでた家の前にいた。
しゃがんで、プリンセシアの花に触れる。花言葉は「かけがえのない宝物」……だっけ。
お父さんとお母さんは、どんなことを思ってこの花を植えたのかな。
ティポを抱いてぼーっとしてると、後ろで霜の降りた地面を踏む音がした。
『ダレだー!?』「あっ」
立ってたのは、ジャオさんだった。ちょっと困った顔をしてる。
「あのアルクノアの男に聞いての。おぬしがここにおると」
「アルヴィン、に……」
それからわたしは、ジャオさんとちょっと歩くことになった。
聞きたいこと、知りたいことはいっぱいある。戻ってくるつもりなら心残りはカイショーしなさいってヴィクトルは言ったから。
『ねーねーおじさん。エリーゼのお父さんとお母さんはどんな人だったの?』
う。やっぱりティポのほうがわたしより先に反応しちゃう。
「娘っ子の親か――善い人たちだった。本当に。山賊だったワシが転がり込んで怯えさせてしもうたのに、徐々に暖かく接してくれるようになっての。それが心地よく、三度の火場を過ぎてもその家を離れられんかった」
「お父さんとお母さん、優しかった、ですか」
「うむ。ホレ、ワシはこの図体じゃろう? 部族の者もワシを恐れていた。じゃが親御どのは決してこの身を悪く言わんかった。水汲みや薪割りをしたらきちんと礼を言ってくれた。礼など初めてじゃから驚いたのう。娘っ子を肩に載せた時は、さすがに落とさぬよう注意してくれと頼まれたがな、それさえ心地よかった――」
なんとなく分かる、気がする。やっちゃいけないことをちゃんと教えてくれるのも愛情だって、今はわたしも知ってるから。
「――たし、も」
「ん?」
一度立ち止まって、ジャオさんの正面に回り込んで、ジャオさんを見上げた。
「わたし、も、ジャオさんがどんなにおっきい人でも、こわくないです。だってジャオさん、優しい、から」
ハ・ミルにいた時は、いつも一緒にはいてくれなかったけど。思い出したから。
お父さんとお母さんのために、あの日泣いてくれたジャオさん。
小さなわたしといっぱい遊んでくれたジャオさん。
優しくないわけがない。
「エリーゼは親御どのによう似て、善い子だのう」
うれしそうで、かなしそうな、笑顔。なんだか、見てるわたしのほうがさびしくなっちゃう。
「エリーゼ。やはりあの連中と行くのか?」
シャン・ドゥに帰り着いてから、ジャオさんがわたしに聞いてきた。
「はい。行きます」
自分で意識したわけじゃないけど、するっと言葉が出た。
なんだ。わたし、もうとっくに心の中でどうするか決めてたんだ。
『ヴィクトルもフェイもアルヴィンもイバルも、みーんな大事な友達だもん』
「そうか……」
ジャオさんはしゃがんで、おっきい両手でわたしの両肩を包んだ。
「ワシは四象刃として陛下のおそばを離れられん。だからお前たちに全てを託すしかできん。力になれず、すまぬ。こんなことを言ってはならぬのだろうが――どうか、お前だけは無事に帰って来てくれ、エリーゼ。世界の運命がどうなろうと。ワシが望むのはそれだけだ」
ジャオさん……世界よりも、わたしを、選んでくれるんですね。
『帰ってくるよ。ヴィクトルたちとみーんないっしょに』「待っててくださいね」
ジャオさんは今度、優しく笑ってくれた。胸がぽかぽかした。
/Ivar
久しぶりにここへ来た。ここ――ミラ様の、マクスウェルの祠の前に。
この祠から「俺」は始まった。俺の原点、母胎といってもいい場所。「巫子イバル」としてのほとんどの思い出がここでの出来事だ。いいも悪いも、喜びも怒りも。
ミラ様。貴女がリーゼ・マクシアを守ろうとなさっているのは、このイバル、痛いほど理解しました。
ですが貴女と姉上様のやり方では、今度こそエレンピオスを切り捨ててしまう。
たかだか巫子でしかない俺に、主人であるミラ様の在り様を断じる権利などありはすまい。
それでも、ここでお諫めできなくば、ミラ様から最後の誇りをも失わせてしまう。
俺はそんなこと許せない。許せないのです。
――ならばマクスウェルの巫子イバルよ。そのためにミラ様に剣を向けられるか?
「ああ」
二刀を抜いて、構え。そして、空を斬った。
散っていた枯葉が、全て2枚に裂けて地に落ちた。
「俺はミラ様の巫子だ」
ミラ様。このイバル、ミラ様のために、今より貴女様の敵となります。
後書き
はい、続いてアルヴィン、エリーゼ、イバルと来ました。
それぞれの動機で、彼らはミラに挑みます。イバルでさえ、ミラのために、ミラと戦おうと決めました。
ラストまであと少し。自分も頑張りたいと思います。
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